不動湯温泉

この日の宿は不動湯温泉にした。土湯温泉のちょっと奥にある一軒宿である。標高1000mは涼しくて快適だったが、土湯のあたりまで下ってくると少し暑い。これでも下界に比べれば数℃は低いのだが‥‥。

「道が分からなかったら、土湯温泉の観光案内で聞いてください。」 不動湯の主人に言われたとおり、土湯温泉の観光案内に立ち寄った。 「‥‥××橋を渡ったら右側に注意して‥‥、‥‥右に入る道がありますから‥‥、△△温泉まで行ってしまったら行き過ぎですよ。ここからだと30分ぐらいかかりますかね。」親切丁寧に道を教えていただいた。しかしずいぶん遠いんだなぁ。まっ、とにかくGo!

橋を渡って右に注意しながら‥‥、車のスピードを少し落として‥‥、あれっ? △△温泉まで来てしまったな? どうやら見落としてしまったようだ。引き返しながら道を探す。しかし車で通れそうな道はひとつもない。えっ、もしかしてこれ? 不動湯温泉歩道入口と書かれた看板。えーっ、歩道じゃーん。我が愛車ではここは通れん! 観光案内で30分かかると言ってた訳がやっとわかった。徒歩で不動湯まで行くと勘違いされたのだ。こりゃ引き返して回り道を探すしかなさそうだ。

土湯温泉街

不動湯温泉歩道入口

数キロの遠回り、道半ばからは砂利道だ。しかし10分ほどで不動湯温泉に到着。沢沿いの斜面にへばりつくように、木造の宿が建っている。この鄙び具合、しびれるぅ! 通された和室は三間つづきの真ん中の部屋で、両隣りとは襖で仕切られている。もちろんドアなど無く、障子越しに廊下という造り。廊下を歩く軋み音が聞こえる。窓に映る楓の緑、ガラス窓を開ければ沢音が涼し気に響く。

不動湯温泉

和室

「お風呂は階段を降りてくださいね。」 そうだなぁ、夕食前にひと風呂浴びてくるか! 階段は‥‥大袈裟なほど急、しかも長い。階段の途中にはひと休みできるよう休み処が設けてある。この下で温泉が待ってると思うと走り出したくなる気分だが、さすがに急な階段ゆえ一歩一歩慎重に降りていく。

風呂は階段を降りて‥

大袈裟なほど急

階段を下りきると羽衣の湯という内風呂があるのだが、さらにサンダルに履き替えて屋外の階段を降りていく。沢まで下りきると、沢の脇に苔むした吾妻屋根が見えてくる。ここが脱衣場で、横にささやかな露天風呂があるのだ。二人も入れば目一杯の湯舟に、真っ白な湯が満たされている。静かに身を沈める‥‥。湯はイオウの香りで湯加減はちょうど良い。緑に包まれた渓流沿いの露天風呂、気持ちはいいのだが、羽虫が多いのがどうも気になる。湯底にたまったよごれも気になる。ここは早々に引き上げ、さっきの羽衣の湯につかろう!

ささやかな露天風呂

沢の脇、緑に包まれる

壁、床、湯舟も木造の羽衣の湯。湯舟には白い湯の華が舞う透明な湯が満たされていた。明らかにさっきの露天風呂とは違う湯だ。かすかなイオウの香り、肌触りがとてもいい。窓の外には当り前のようにある緑。私はいっぺんでこの風呂が好きになってしまった! よく見ればこの湯舟、実に工夫されたいい造り。湯舟は6:4に区切ってあり、大きい方から小さい方へ湯が自然に流れるようになっている。しかし湯の華は小さい方へは流れ込みにくく、湯温は自然に低めになるようになっている。いい湯そしていい湯舟だ! 

帰りの上り階段は長く辛い。ちなみに階段を上りきったところに、常盤の湯という風呂がある。こちらは単純炭酸鉄泉で、緑がかった茶褐色の湯は想像以上に濃い。

いい湯、そしていい湯舟

窓からは新緑

食事はまずまずといったところ。川魚の塩焼き、天ぷら、陶板焼きなど。特筆すべきはない。

夕食後、部屋でゴロンとしていると、襖をゴンゴンとやる音。開けてみると隣部屋から、テレビを観ないかとの誘い。三間続きの部屋で、テレビがあるのは隣ひと部屋だけである。しかしせっかくの誘いではあったが、丁寧にお断りした。俗世間を離れ一軒宿で過ごす夜、静かに窓外の虫の声、風の揺らぎを感じたい。


再び標高1000mの露天風呂へ!

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