岩手 鉛温泉と台温泉


鉛温泉

鉛温泉藤三旅館に着いたのは夕刻であった。花巻の駅からバスで40分ほど、 車窓の雪景色をぼんやり眺めながら‥‥うとうとしているうちに到着。バス停から案内に従い、藤三旅館まで滑りやすい雪道を少し下る。雪のほとんどない街中からバスに乗り、まだ雪には慣れていないので、足元が多少危うい。しかし真っ白な道、足裏の心許ない感覚もまた新鮮だ。

雪の中に静かに藤三旅館は建っていた。 私が玄関に近づくとすぐ中から迎えの人が出てきた。 あまりの素早さにちょっと驚く。すぐに部屋に通される。15番。一方が川に面した6畳間だ。到着が遅れた私のために温めていてくれた部屋は、のぼせそうに暖かい。 きっと表が寒ければ寒いほど温度を上げるのだろう。

鉛温泉

藤三旅館

豊川沢沿いに建つ


冷えた体を風呂でほぐそう。日本一深い岩風呂「白猿(しろざる)の湯」、案内に従い廊下を進む。しばらくゆくと、右側のガラス窓に湯気のような‥‥。これはっ! ちょっと覗いてみる。誰もいないがそれは確かに浴室だ。しかも一階分下がったところにある。 三階まで吹き抜けのようになっていて、天井までは何メートルあるだろう? 向い側にはちょうど向こうの廊下が見える。そして向こう側とこちら側に、それぞれ入口と階段がある。ガタガタと引き戸を開け浴室に入り、階段を下る。その先は脱衣場だが、脱衣場といっても籠のある棚とちょっとした衝立があるだけ。混浴だが女性にはちょっと抵抗があるかもしれない。

窓に湯気?

浴室だ!

階段を下+り脱衣場へ

浴室は天井の湯気抜きがよく効いていて、熱気がこもったりはしていない。冷えた外気が取り込まれるので、白く霞んではいるが。とにかく湯へ‥‥。 はじめかけ湯して、手足がじんと痺れるように感じた。熱い湯だ。しかしそれは錯覚であるとすぐにわかった。寒い外界で芯まで冷えていたのだろう。じきに慣れてくると実に程よい湯加減。い〜湯だ! そんな言葉が自然と口をついで出る。その湯が湯舟の低い縁から静かに溢れている。湯舟の中には一段二段ふたつの段があり、もう一歩下りると湯は立っていても胸の上ほどの高さに。1.3メートル程あろうか。「立って入る風呂」は本当だった。湯になじんでくると、私は湯舟の散策を始めた。 この風呂には湯口がない。どこから湯が入ってくるのだろう? ぐるり一周してみたが側面にはそれらしきものはない。湯底の石の下から小さな泡が‥‥。 足を近づけるとその辺りがやや熱い。ここから湯が湧いてるのだ。 他にもやや温めの湯が湧いているところがある。 白猿の湯にはふたつの源泉が注がれており、 ひとつの温度はやや高く、もうひとつは外で温度を下げ、温度調節に用いているのだとか。 湯は無色透明でかすかに硫黄の香り‥‥。湯舟の縁に頭をのせ、体の力を抜く。ちょうどいい加減の湯に体がふわふわと弛んでいく。天井から降りてくる少し冷えた空気が髪を撫でる。長湯したくなるいい風呂だ。

縁から静かに湯が溢れる

天井の湯気抜き

小さなコタツの上いっぱいに用意された夕食、豚肉の豆乳しゃぶしゃぶなど工夫された品々が膳を埋める。この山の中、これ程の食事は期待していなかったのだが。これで一泊二食6000円は安いよなぁ。青紫色にライトアップされた川向こうの雪景色を肴に酒をやる。十分満足! あとは寝る前にもうひと風呂‥‥。

コタツの上に並べられた夕食

豆乳しゃぶしゃぶ

ライトアップ


はぁ〜、やっぱり畳はに布団はいいなぁ、ぐっすり寝て明日また温泉!

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