山陰温泉紀行島根編 −島根県中部をめぐる−
石見銀山
石見銀山はかつて幕府の財政を強く後押しした名銀山で、最盛期には石見周辺(温泉津を含む)で人口20万人を数えたという。銀を採掘する穴のことを間歩(まぶ)と呼ぶ。龍源寺間歩は石見銀山の中で唯一、一般公開している坑道である。間歩はほとんどが這わなければならないほど狭いものだが、龍源寺間歩は幅1m、高さ2mほどの坑道である。坑道の内部にはのみの跡が生々しく残っている。
龍源寺間歩入口
内部にはのみの跡が
龍源寺間歩の出口にある香屋。通り過ぎようとすると中から呼び止める声が‥‥。ここの御主人、ただ土産物売りではない。香木師の御主人自ら、香り袋などの実演販売をするかたわら、銀山の歴史など実に分かりやすく教えてくれるのである。「平日にここへ来られるとは、銀に相当ご興味をお持ちの方で‥‥。」 ‥‥そうでもないのだが、御主人の解説は次第に熱を帯びて‥‥。
香屋
香木師の御主人
御主人は実際の銀鉱石を使って「灰吹法(はいふきほう)」という銀の製錬方法を解説してくれた。その言葉は滑らかで大変分かりやすい。
まず銀鉱石に鉛を加えて熱し、銀と鉛と結びつかせて鉱石から分離する(これを素吹という)。次にこれを灰の上に置き、1,000度ぐらいまで熱すると、青く光ったかと思うと一瞬にして銀と鉛が分離する。すると表面張力の小さい鉛だけが灰に染み込み、表面張力の大きい銀が灰の上に残るのだという(灰吹)。
詳しく聞きたい方は、客の少ない平日に訪ねることをお勧めする。きっとじっくり解説していただけるであろう。
銀鉱石を使って解説
もちろん香木クロモジの加工実演もしている。香りを封じ込めたクロモジの木、槌で叩くと‥‥、ほぅ、いい香りを放ちはじめる。これを使った香り袋、ひとつお買い上げ!
城上(きがみ)神社 鳴き龍
石見銀山の手前に控える大森の町は、銀山の外郭町として代官所、武家や商家が集まり、行政そして通商的機能を持った町である。この大森の町並みのはずれに城上神社はある。香屋の御主人からここに鳴き龍がいると聞き、訪れることにしたのである。鳴き龍とは、天井に描かれた龍の下でかしわ手を打つと、天井と床の間で共鳴して龍がリーンと鳴くのである。
城上神社
拝観は自由である。まずは賽銭をして中に入る。御主人の言うとおり、拝殿の格子天井には極彩色の龍が描かれている。案内に従い、板の間の○印の場所に正座をする。「うまく鳴くかなぁ‥‥」 心を落ち着け、かしわ手を打ってみる。それはキーンと響いて、すぐにまたそれまでの静寂に戻った。他に邪魔な音もなく、見事な鳴きっぷりでございました!
鳴き龍
板の間に正座する