設例6 繰延税金資産の回収可能性の判断
- A社は、X4年に貸付金1,000を全額回収不能として、貸倒償却した。これは貸付先が倒産したためであり、税務上も損金算入が認められた。A社は、当該貸倒処理を除けば、安定的に利益を計上している会社であり、過去2期間はそれぞれ10の税引前利益が計上されている。また、将来も6年間にわたって毎期10の税引前利益が計上されると予定されている。以上を要約すると、以下の通りである。
| 実績 | 予定 |
X2年 | X3年 | X4年 | X5年 | X6年 | X7年 | X8年 | X9年 | X10年 |
税引前利益(損失) | 10 | 10 | △990 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 |
法人税等 | 4 | 5 | △20 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
税引後利益 | 6 | 6 | △970 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 6 |
なお、税率は40%として、申告調整項目はないものとする。または、税務上の欠損金の繰戻期間はないものとする。
以上のようなケースにおいては、単に税務上の繰越欠損金990×40%=396を繰延税金資産に計上することはできない。なぜなら、税務上の繰越欠損金は翌期以降5年間に限り繰り越すことができるが、その期間内に当該繰延税金資産がすべて回収されるとは見込まれないためである。
仕訳
(X4年)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
繰延税金資産 | 20 | 法人税等調整額 | 20 |
@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 990−940(990−50)=50
(総額) (回収懸念額) 50×40%=20
B.繰延税金資産増加額 A−@=20
- B社はX2年に税務上の繰越欠損金が、400発生し、このうち60%が繰越期間に税金を増額される効果をもたらすものと予測されるため、繰延税金資産96(400×60%×40%)を計上する。なお、X1年以前において税務上の繰越欠損金はないものとする。税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、当該繰越欠損金のうち繰越期間に課税所得又は将来加算一時差異の解消によって、充当されることが確実に見込まれる金額に相当する額に限られる。
仕訳
(X1年)
なし
(X2年)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
繰延税金資産 | 96 | 法人税等調整額 | 96 |
@.期首繰延税金資産 0
A.期末繰延税金資産 400×60%×40%=96
B.繰延税金資産増加額 A−@=96
当該設例においては、B社の税務上の繰越欠損金400に関し将来の収益性の判断から、そのうちの60%について繰延税金資産を計上したが、翌年(X3年)になってX4年に土地を売却することになり、税務上の繰越欠損金をすべて相殺するだけの課税所得が発生することが確実となった。そのため、X3年において税務上の繰越欠損金の残りの部分についても繰延税金資産を計上することにした。なお、B社のX3年度に生じた課税所得は50であった。
| X2年 | X3年 |
| 期末 | 増減 | 期末 |
税務上の繰越欠損金 | 400 | (50) | 350 |
繰延税金資産 | 96 | @(20) | 140 |
A 64 |
|
@.X3年の課税所得に係る繰延税金資産の取崩し
(50×40%=20)
A.税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の追加計上
(400×40%×40%=64)
仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
繰延税金資産 | 44 | 法人税等調整額 | 44 |
繰延税金資産増加額 140−96=44
- 「設例1」の(1−4)において、A社はX2年に退職給与引当金損金算入限度超過額から生じた将来減算一時差異3,000に係る繰延税金資産1,200を計上していたが、同社の業績予測が急激に悪化してきたことから、将来の十分な課税所得の発生に疑問が生じ、検討の結果50%までしか繰延税金資産を計上できないことが判明した。したがって、退職給与引当金損金算入限度超過額から生じた将来減算一時差異のうち50%については繰延税金資産を計上しないこととした。
仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
法人税等調整額 | 600 | 繰延税金資産 | 600 |
@.期首繰延税金資産 3,000×40%=1,200
A.期末繰延税金資産 3,000×50%×40%=600
B.繰延税金資産減少額 A−@=−600