僕とアスカちゃんと加持さんはロビーに座っていた

「ちょっとここで待ってて」

レイはそう言い残して十数分・・・まだレイは戻ってこない


心の隙間                                                        

第四話 復活する記憶2


「・・・レイ、どこに行ったのかしら?」

しばらくたってアスカちゃんは腕時計を見てそう呟いた。僕もそれにつられて自分の時計を見てみる

僕の時計は腕時計ではない。懐中時計だ

・・・どうでもいいけどね・・・

そんなことより、レイはもう30分ぐらい僕たちを置き去りにしている。一体どうしているんだろうか?

僕は加持さんを見た。煙草を口にくわえている

加持さんはこっちを見た。僕が見ていることに気づいたようだ

「どうした?」

「・・・加持さんはレイが僕らをどこに連れて行こうとしているのか・・・分かっているんですか?」

加持さんは首を横に振って

「全然。見当もつかないよ」

と、ちょっとおどけたような感じで答えた

・・・そういえば・・・この人の記憶では僕は誰なんだろうか?

「加持さんの記憶の中では、僕は誰でした?『碇カヲル』でしたか?それとも、別の名前の人でしたか?」

「う〜ん・・・」

頭をかきながら、加持さんは答えた

「失礼な話かもしれないが・・・俺は君のことを知らないんだ」

「・・・僕は・・・存在していなかった・・・ということですか?」

ちょっとブルーになりかける

「さあ?」

「さあって・・・」

「公式記録では、使徒は十六体・・・だったな?」

「ええ」

僕たちはそれを死にものぐるいで倒してきたんだ

「だが、俺は使徒は十四体しか知らない。十四体目が来て、十五体目が来る前に死んでしまったからな」

「・・・・・」

「だから君が俺が死んだ後に来たチルドレンなら、君は存在していたことになる。まあ、多分そうだろうな。レイちゃんが君のことをフィフスと呼んでいたから」

「・・・僕は五番目か・・・四番目は誰か知っていますか?」

「・・・鈴原トウジ君だ。フォースチルドレンは」

「鈴原君が!?」

僕は驚いた。ケンスケ君ならともかく、トウジ君がフォースとは・・・

「だが、彼が搭乗したEVA参号機には、第十三使徒が憑いていた」

「十三使徒が!?」

「碇司令は使徒を殲滅しろと、各パイロットに指示。そのせいで彼は左足を失った。そして、チルドレンから外れた」

「・・・トウジ君が左足を失った・・・」

「まあ、この世界ではそういうことが無いんだろうがな・・・」

僕と加持さんの会話はそこで途切れた

「・・・レイ・・・遅いわね・・・」

アスカちゃんがつぶやいた。確かに、もうそろそろ40分になる

その時、前方から人が歩いてくるのが見えた。蒼い髪・・・レイだ

「お待たせ・・・さあ、行きましょう」

「・・・ねえ、レイ・・・どこに行くの?」

アスカちゃんがレイに問いかけた。それは僕も聞きたいことだし、加持さんも聞きたいことだろう

「・・・ターミナルドグマ・・・」

「タ−ミナルドグマ!?」

レイの答えは僕らを驚かせるに値した

「・・・レイ・・・どうしてもそこに行かなければならないのかい?」

正直言って・・・僕はあそこにはあんまり行きたくない

それが何故なのかは分からない。でも・・・いい気分じゃないんだ・・・

「・・・行きましょう・・・」

「だが、ターミナルドグマに用もなく進入したら、無条件で発砲されるぞ」

「・・・碇司令の許可は取りました・・・時間はかかりましたが・・・」

それで・・・僕らはなるほどと納得した。道理で時間がかかるわけだ

 

僕らはエレベーターに乗る。そして、隠しの扉を開けて、そこにカードを通す。これで、地下のターミナルドグマまで直行だ

ターミナルドグマ・・・リリスが十字架に張り付けられている場所・・・リリスをどうするかはまだ、ネルフでは決めかねている

ゆえに、まだリリスは張り付けにされたままだ

・・・地下にエレベーターが進むたびに、体温が下がっていくような気がする・・・

・・・気分が悪くなっていく・・・

そんな事を考えている僕をよそにエレベーターはターミナルドグマに着いた

レイはどんどん進んでいく・・・

そして、僕らはヘブンズドアーの前に来た。レイがスリットにIDカードを通す

ここのセキュリティは普段僕らが使っているIDでは駄目なはずだから・・・父さんに借りてきたんだろうな・・・

ヘブンズドアーが開く。それと同時に、十字架に張り付けられたリリスが見える

僕は寒気を感じた・・・ここはあの時以来、来ていない・・・

あの時?あの時っていつだ?

・・・ああ・・・最後のゼーレ侵攻の時だ・・・そんな最近のことを忘れるなんて・・・ぼけてるのかな?

けど・・・ゼーレ侵攻の時・・・僕は本当に来ただろうか?・・・何のために来た?・・・何のために?

・・・そういえば・・・ここは・・・EVAから流れ込んできたイメージにあったな・・・ここで、僕は握りつぶされた、というのか?

「フィフス・・・どう?なにか、思い出さない?」

思考の海に沈んでいる僕を、レイの声が現実に引き上げた

「・・・何も思い出さないよ・・・それより、フィフスって言うの、やめてくれないか?」

「そうね・・・それじゃあ、本当の名前で呼ぶわ。渚カヲル君」

渚?

「渚って言うのは?」

「あなたの本当の名前・・・私もあなたも、本当は碇司令の子供じゃないわ」

「・・・それじゃあ、僕の親は?」

レイが少し、アスカちゃんの方を見たような気がする

「・・・言えないわ・・・どっちにしろ、記憶が戻れば自分の事は全て分かる・・・」

「・・・ところで、ここが僕の記憶が戻る場所なのかい?」

「そうよ・・・あなたの名前は渚カヲル。マルドゥック機関の選んだ、フィフスチルドレン・・・私が言えるのはこれだけ・・・」

渚カヲル・・・フィフスチルドレン・・・

頭に手を当て、目を閉じ、考える・・・だめだ・・・何も思い出せない

「・・・多分、ここがあなたと碇くんとの一番思い出深い場所・・・」

「・・・思い出深い場所・・・ここで何かあったんだね?」

「あったわ・・・何があったかは言わないけど・・・」

またアスカちゃんをちらっと見た

「さあ・・・記憶が戻るまでここに居て良いわ・・・私は弐号機パイロットを連れて行くから・・・」

「ちょ、ちょっと!私はここには関係なかったの!?」

アスカちゃんが叫ぶ。そりゃそうだろう。40分も待たされて、自分には何も関係なかったんだから・・・怒るのも無理はない

「・・・ごめんなさい・・・あなたとは一対一で話したかったの・・・」

「それじゃあ、俺は行けないな・・・じゃ、俺もここにいて良いかい?」

加持さんがレイに聞いた

「・・・別に構いません・・・弐号機パイロット・・・行くわよ・・・」

レイがゆっくりと歩き出す

「・・・ったくも〜・・・何だって言うのよ!?」

アスカちゃんもそれに続いてゆっくりと歩き出した

僕はそれを見届けて、リリスを見上げた

リリスには仮面が付いている。仮面には七つの目が書いてあって、地は紫色だ

・・・リリスはこうまじまじと見たことがなかったな・・・

そういえば・・・

「・・・加持さん・・・」

「なんだい?」

「僕らの中に流れ込んできたのは真の記憶といいましたね?」

「・・・そうだが・・・」

「だったら、僕は使徒って事ですか?」

そう・・・EVAに流れ込んできイメージが本当なら・・・僕はA.Tフィールドを使えることになる。だったら、僕は使徒だ

「う〜ん・・・君の場合は一概にそうとは言えないかもしれない」

「?どういうことですか?」

「君は全く記憶にない出来事が流れ込んできたんだろ?過去の出来事が少し変えられた形で流れ込んできた、アスカやレイちゃんとは違うんだ」

そうか・・・それもそうだな・・・状況が違うんだ

「それに君は今、A.Tフィールドを出せるのかい?試してみるか?」

「・・・そうですね・・・試してみますか・・・」

それは・・・僕が使徒か人間か・・・分かつ境界線・・・

「おい・・・どうした?顔が真っ青だぞ?」

加持さんが心配してくれる・・・

「だ、大丈夫です。僕にA.Tフィールドが張れるはずがない・・・」

そうだ・・・僕は人間なんだ・・・A.Tフィールドなんて張れるはずがない・・・

僕は張れるはず無いと願って、叫んだ

「A.Tフィールド、展開!!!」

その、言い慣れたような感じのした言葉は、ターミナルドグマによく響いた

僕はいつの間にか目をつぶっていた

おそるおそる目を開ける。僕の目の前には・・・六角形の光りの壁は見えなかった

「・・・ふう・・・僕は使徒じゃないって言うことですよね?」

自分でも、嬉しそうな笑みをしていたと思う。僕は微笑んで加持さんの方を見た

・・・・後ろには誰もいなかった・・・

「・・・あれ?・・・加持さん、どこですか?」

「・・・ここだよ、カヲル君」

下の方から声がした。・・・下?・・・そういえば・・・周りの背景が動いているような・・・

そう・・・僕は浮かんでいたんだ

「・・・どうして・・・?」

誰に問いかけたのかは分からない。加持さんに聞いても分かるはずがない。強いて言うなら、自分に問いかけたんだろう

「もう一つ、面白いことがあるぞ」

加持さんは、懐から拳銃を出した。そして、僕に銃口を向けた

「な、なにを・・・」

「撃つんだよ」

 

乾いた銃声音がした

 

加持さんは確かに僕の方に弾丸を撃ったはずだった

 

しかし・・・僕と加持さんの間で弾丸は弾かれた。かん高い音と共に・・・

 

僕には見えた。弾丸が当たった場所に、一瞬、六角形の光りの壁が・・・

 

「どうやら、君を中心にしてA.Tフィールドが張られているようだな」

・・・頭が混乱している・・・僕は・・・使徒?

僕は気づかなかったが、いつの間にか上昇は止まっていた

呆然と見上げるとリリスの顔が見える・・・

・・・この角度・・・この位置で僕はリリスを見たような気がする・・・

「おお〜い、カヲル君。大丈夫か?」

「・・・・・」

加持さんの声に呼びかけられない・・・何も考えられない・・・

僕の頭の中には・・・

 

僕は使徒だった

 

僕は人間じゃなかった

 

その事実だけが僕の頭の中にはずっと渦巻いていたんだ

・・・そして・・・

・・・僕は気を失った・・・

「カヲル君!!」

 

カヲル君は糸の切れた人形みたいに落下してきた

俺は素早く落下地点に近づく・・・A.Tフィールドは無くなっていた。もし、あったら近づけないだろう

「くそ!!」

このままじゃ間に合わないと判断して、俺はダイビングキャッチでカヲル君を受け止めた

・・・間一髪・・・セーフだった・・・

「あの高さから落ちたらただじゃすまない・・・いや、もしかしたら使徒だから大丈夫かな?」

俺は先ほどまでカヲル君が浮かんでいたところに目を向けてそうつぶやいた

「・・・とりあえず、病院に行くか・・・」

俺はヘブンズドアーから、外に出た

 

カヲル君は穏やかな寝息を立てて眠っている

医者の話によると、何か精神的なショックを受けて、気を失ったという事だ

ちょっと意外だと思ったのは・・・失礼だろうか?

確かに・・・数時間前に初めて会ったばっかりだが・・・彼はどんなことでも笑って、乗り越えられるような感じがした・・・

・・・ちょっと買いかぶりすぎたか・・・

・・・俺は今カヲル君の寝ているベッドの側に椅子を持ってきて、それに座っている・・・

目が覚めて・・誰かが居なければならないと思う・・・特に、今は彼は不安定だ・・・

だから、俺は彼が目覚めるまで側にいよう

・・・そう心に決めた・・・

 

・・・夢を見ていた・・・

僕は空中に浮いていた・・・場所は・・・リリスの前

初号機が出てきた・・・僕が捕まれる・・・

そして・・・僕は握りつぶされた・・・

・・・EVAの中に居たとき・・・流れ込んできたイメージと全く一緒だ・・・

・・・その光景はひどく気持ち悪い物だった・・・だってそうだろ?・・・自分が死んで、自分の首が落ちていくシーンが見えるんだから・・・

・・・その光景が何回も何回も・・・見せつけられるんだ・・・

最初の方は目をそらしたり、目をつぶったり・・・色々してみたけど、どうやってもその光景は目に見えてくる・・・

・・・そして・・・何回も見ているうちに・・・僕はひどく冷静にその光景を見れるようになった。とどのつまり、慣れたってことだね

僕はその光景を冷静に観察していた・・・意識を集中すると、声が聞こえてきた

「アダム。我らの母たる存在。アダムに生まれし者は、アダムに還らなければならないのか?人を滅ぼしてまで」

そこで僕は顔をしかめる

「・・・違う!これはリリス!・・・そうか、そういうことか、リリン!」

・・・リリンって何だろうか?・・・分からない・・・

そして・・・ここで初号機が出てくる・・・僕は初号機の手に捕まれる

「ありがとう、シンジ君。弐号機はきみの止めてもらいたかったんだ。そうしなければ彼女と生き続けたかも知れないからね。」

「・・・・・・!?」

初号機の彼が何かしゃべっているような気がする・・・けど、聞こえない・・・

「僕が生き続けてることが、僕の運命だからね。結果、人が滅びても。」

「・・・・・!?」

くそ・・・聞こえない・・・

「だが、このまま死ぬこともできる。生と死は等価値なんだ。僕にとってはね。自らの死、それが唯一僕の絶対的自由なんだよ。」

「・・・み・・・を・・・わ・・・よ!!」

!少しだけ・・・少しだけ・・・聞こえた・・・

「遺言だよ」

「!!!」

ここから初号機の彼の顔が見えるわけではない。けど・・・何となく驚いているような感じがした

「さ、ぼくを消してくれ。そうしなければ、君らが消えることになる。滅びの時を間逃れ、未来を与えられる生命体はひとつしか選ばれないんだ。そして君は、死すべき存在ではない」

「君達には、未来が必要だ」

「・・・・・・・」

「ありがとう・・・君に遭えて、嬉しかったよ」

「・・・・・・」

そして・・・僕は死んだ・・・

いつの間にか・・・僕は目から涙を流していた

初号機の彼がどんなに苦しんでいるか分かったから。何故だか知らないけど、苦しんだ末に、僕を殺したって言うのが分かったから

「くそ!!」

これは僕の声

「神でも悪魔でも誰でもいい!!この彼に会いたい!会って一言謝りたい!!誰か・・・」

そこで一回言葉を句切る

「誰か・・・・僕に記憶を思い出させてくれえええええええ!!」

僕は天に向かって叫んだ。夢の中で天も地もあるのか分からないが、とにかく上の方に向かって叫んだ

その時・・・僕の体を何かが通り抜けていったような気がした・・・

強いて言うなら・・・電流がの様な物が・・・

そして・・・僕の頭の中には色んな言葉が流れ込んできた

その言葉は・・・ひどく懐かしく感じた

『ぼくも、シンジでいいよ』

『でも、ほんとはあまり帰りたくないんだ、この頃』

『好意?』

『別に・・・どうでも良かったんだと思う・・・ただ、父さんは嫌いだった』

『裏切ったな。ぼくの気持ちを裏切ったな。父さんと同じに裏切ったんだ!』

『カヲルくん!やめてよ!どうしてだよ!!』

『カヲルくん・・・君が何を言ってるのか、解らないよ!』

『カヲル君・・・』

『カヲル君!』

『カヲル君』

「・・・全て思い出したよ・・・シンジ君!!」

僕は全てを思い出した。シンジ君のことも・・・レイ・・・いや、レイちゃんのことも・・・

「そろそろ・・・夢から覚めないと・・・」

ふと、考える

僕はどうしてあんなに自分が使徒か使徒じゃないかで苦しんだんだろうか?

わずかに笑みを浮かべる

・・・人間は疎外をされることを嫌う・・・僕は思い出す前は人間だったということだ・・・

けど、そんなのはどうでもいい・・・今はシンジ君に会いたい・・・それだけだ・・・

・・・もし、神が・・・いる・・・のなら・・・

僕はそこで夢から覚めた

 

「うっ・・・」

カヲル君が身じろぎする。起きるのか?

カヲル君の深紅の瞳がゆっくりと開かれる

「おはよう」

今はそんな時間じゃない。けど、起きた人間にはこの言葉が一番のように思えた

「・・・・・加持さん・・?」

「大丈夫か?」

「ええ・・・大丈夫ですよ」

意識ははっきりしているようだ

「そうか・・・ちょっと医者を呼んでくるからな・・・少し、待ってろよ」

「加持さん」

病室から出ようとした俺をカヲル君が呼び止めた。なんだろうか?

「・・・もし、神がいるのなら、僕は神に感謝します・・・」

「・・・はっ?」

俺は馬鹿みたいな声を出して呆然とした。意味が読みとれない

しかし、次の言葉で俺は即座に理解した

「全てを思い出しました」


後書き

今回は最初の方はカヲル君の一人称。次は加持さんで、再びカヲル君で、また加持さんってな感じになりました

やっと、やっと、やっと、カヲル君が思い出せた〜!!琥珀さんもこれで・・・満足?

次はアスカに思い出させねば・・・もしかしたら、アスカの一人称になるかも・・・というか、その可能性大です。


琥珀のコメント

ありがとう〜シモンさん!!(感涙)

いやあ、なんだか自分で書かないカヲル君一人称はすごく新鮮ですわ。

ああ・・・・・・(うっとり)

>「誰か・・・・僕に記憶を思い出させてくれえええええええ!!」

この一文。

すごい切実なカヲル君の叫びです。切ないっす。

ふむ、『使徒』のカヲル君の心を描いた小説は結構読んだ事があるのですが、

『人間』のカヲル君の一人称を読んだのはすごい久しぶりです。

もう、もう、惚れなおしましたカヲル君!!って感じです。

ありがとうございますシモンさん、そしてこれからもよろしくですぅ〜


モドル   ツヅク