あの時をもう一度
第五話 「ええ!…りっちゃん!?」
ケージ付近のとある部屋に彼らはいた。
彼らの周りには所狭しとコンピュータがあった。
ここに来た理由といえば…誰にも何も言われず作業できるからだ。
第一発令所で大々的に作業を行えばいろいろ不都合がある。
―――と、その前に…カヲル君?
―――なんだい?
―――アイの所に移ってくれない?
―――シ、シンジ君…僕が嫌いになったのかい……
―――ち、違うよカヲル君。アイじゃMAGI動かせないから
―――そうか…そう言うことかシンジ君
―――じゃお願い
―――それじゃあまたねシンジ君
シンジの中での会話が終わったと同時にカヲルの魂はシンジの中から消えていた。
「碇君……せめて私に言ってからそういうことしてくれる」
突如アイの身の内に沸いたカヲルの魂。
何の了承もなくいきなりカヲルが自分の中に入ってきたことにアイは少々怒っている。
カヲルが移るのはしかたのないことだとしてもせめて自分に一言いってからにして欲しかったのだ。
「う…ごめん……アイ」
間違い無く自分に非があるので素直に謝るシンジ。
「まあ、いいわ…碇君、それでどうすれば良いの?」
「とりあえず、アイとカヲル君はここでMAGI動かしていて。僕ケージに行って直接初号機にアクセスするから」
「そう…」
「じゃあね、また後で……忘れてた…」
そう言いシンジは近くにあるコンピュータを弄る。
「これでよし、じゃ今度こそ」
言いながらシンジは部屋を出て行く。
シンジがケージまでの道のりを一人歩いていると向こうから人が歩いてきた。
先の部屋がケージに近いからといっても少々距離がある。
ケージのすぐ傍にあるというわけではないのだ。
向こうから歩いてきた人はシンジを見止めると走り出した。
逃げたわけじゃなく近づいてきたのだ。
「ちょっと、シンジ君。何処行ってたの!」
若作りしているのか同年代のリツコより妙に若く見える葛城ミサトだ。
先ほどからシンジを探していたが見つからずかなり頭にきていたようだ、その顔は怒っているようにも見える。
「父さんの所ですけど、それがどうかしましたか?」
なぜミサトが怒っているのか全く解らないシンジはのほほんと答える。
「父さん…司令の所?…まあ良いわ、そんな事より…」
「そんな事より?…なんですか?」
「シンジ君、貴方どういうつもりなの!!」
「何が…ですか?」
「私の指示も待たずに勝手に行動して!何考えてんのよあんたは!」
「何の事ですか?」
「っ!!ふざけないで、エヴァの事よ!!」
「はて?知りませんよそんなこと…記録に残ってますか?…」
MAGIのレコーダに残っているかと聞いているのだ。
戦闘のデータ収集のため通常なら戦闘中の全てのデータは残っている。
「何いってんのよ!当たり前じゃない!」
「そうなんですか?MAGI調べました?」
「調べなくても解るわよ。私はそこにいたのよ」
「調べてないんですか、じゃあ調べてからもう一度来てください。そんな記録があるんなら否定はしませんよ」
「なっ、何言ってるの…」
そのシンジの言い分に腹を立てながらもミサトは自分の携帯を取り出す。
MAGIの第一人者であり友人でもあるリツコへ聞くためだ。
「あ、リツコ?」
(…何…ミサト、今忙しいのよ。後にしてくれる)
音量が大きく設定されているのリツコの声がシンジにも届いてくる。
「なんかね、シンジ君が変なこと言ってるのよ。シンジ君、戦闘中私の命令も待たずに行動したわよね」
(シンジ君そこにいるの?ちょっと代わってくれない?)
「何でよ、先に私の質問に答えてよ」
(いいから代わりなさい!さもないと頭割って解剖するわよ)
これほど恐ろしい脅しもないだろう。
特に長年友人やっているミサトにとっては『リツコは言ったとこは実際にやる』ことを十分知っている。
「(うぅ…リツコならやるわね…絶対)…わかったわよ…はい、シンジ君…リツコよ」
そんな事を考えながら渋々リツコのいうことを聞きシンジに携帯を手渡す。
「あ、どうも…」
シンジは感謝しながら手渡された携帯の音量を下げながら耳にあてる。
「なにか用ですか?赤木リツコ博士」
(碇ユイさんのサルベージするんでしょ?見に行って良いかしら?)
「は?」
まさかいきなりこんなことを聞かれると思わずシンジは絶句する。
(だから、サルベージよサルベージ。良いでしょ?)
「ま、まあ良いですけど。…父さんから全部聞いたんですか?」
『碇ユイちゃんをコアから引張りだしちゃいましょう計画(綾波アイ命名)』
を知らされているならゲンドウが何か言ったに違いないと思いリツコに聞く。
(まあ、大体はね…もの凄く興味深かったわ、後で話聞かせてね(はぁと)聞かせてくれたら解剖は諦めるわ)
「は…はい……」
リツコの(はぁと)にシンジは身震いしながら答えた。
「そうだ、赤城リツコ博士、今ですね葛城ミサトさんがですね…」
(どうかした?)
「僕が命令も聞かず行動したって言うんですよ。」
(確かにその通りね)
リツコの声はミサトには届いていない。
シンジはミサトにリツコの声が聞こえないようにするために音量を下げたのだ。
リツコの言い分にシンジはリツコの声が聞こえないかのように続けた。
「僕はそんなこと知らないって言ったんですけど、ミサトさんが『僕が勝手にやった』って言うんです
ねえリツコさん、僕そんなことやってないですよね?」
(なに言っているのシンジ君)
「そうですよね。MAGIにも記録残ってないですよね、僕命令違反なんてしてないよね」
(MAGI?…ちょっと待って………………戦闘記録が書きかえられてる…これは何……初号機が暴走ですって?)
シンジがさっきの部屋でコンピュータを弄っていたのはこのためだ。
全て消去すれば間違い無く疑われるため、
シンジが前回サキエルと戦った時の記録をそのままデータをMAGIに送りこんだのだ。
「聡明なリツコ博士ならわかってくれると思ってたんだ」
(………そういうこと…ゼーレから貴方の本質を隠すためなのね)
「そうです。じゃあミサトさんに変わりますよ…ああそうだ、先に行っててください。後で行きますから」
(サルベージのこと?解ったわ…ミサトの事は私にまかせて)
「感謝します」
シンジは音量を元に戻しつつ携帯をミサトへ渡した。
「リツコ…どういうこと?」
(シンジ君の言う通りよ…貴方つかれてるんじゃないの?)
「何言ってるの、あんただってあそこにいたでしょ?」
(そんな事言っても事実は事実よ。過去は変えられないのよ。それじゃあミサト、私今から忙しいから切るわね)
「ちょ、ちょっとリツコ!……どういうこと」
「それじゃあ、僕も行きますね。リツコさんに呼ばれてしまいましたから」
目の前で呆然としているミサトを置いてシンジはさっさとケージに向かった。
「どういうことなの…」
後に残ったのはミサトの呟きだけだった。
「碇シンジ技術部顧問、お待ちしておりました」
シンジがケージについたときリツコがいた。
どれだけ急いでもケージの近くにいたシンジより早く着くわけないのだが、なぜかいた。
リツコは初号機に半分だけ入れてあるエントリープラグによしかかっていたがそこから離れシンジの前に移動した。
普通なら外しているエントリープラグが入れてあるのは事前にシンジが頼んだから。
「リ、リツコさん早いですね…」
「科学者の根性をなめてはこまります、碇シンジ技術部顧問」
「こ、根性ですか…まあ、いいですけど…」
一体どんな根性かと疑問に思いながらもシンジは納得した。
「リツコさんその『碇シンジ技術部顧問』っていう堅苦しい呼び方は止めてくれませんか?」
「そうですか…では…シンちゃんでどう?」
「シ、シンちゃん…………」
まさかあの赤木リツコ博士が自分のことを『シンちゃん』と呼ぶとはシンジには思いもつかなかった。
「だめ?」
「出来れば別の呼び方で…」
「じゃあ、シンジ君」
「それで良いです」
「それじゃあ、その変わり私のことは『りっちゃん』って呼んでね」
「ぐはっ…」
シンジは50ポイントの精神的ダメージを受けた。
「やっぱりだめ?」
「………ことわったら『シンちゃん』になるんですよね」
「そうね」
「それならそれで良いです…」
「ありがとう…これで私の野望が一つ達成できたわ…それじゃあ初めてくれる?」
「はい…ここにコンピュータあります?」
「当然あるわよ」
「どこにですか?」
「ここ」
そう言ってリツコは自分の持っていたノートパソコンをシンジに手渡した。
「通信ケーブルあります?」
「あるわよ」
「そうなんですか…それじゃあ」
細い一本の線を何処からともなく取り出したリツコはそれをシンジに渡した。
それを受け取ったシンジは一方の先端をパソコンに、
もう一方を半分までLCLの入っているエントリープラグ内に入れた。
「な、なんでそんな所に入れるの?」
「だってLCLだし」
全く意味をなさないシンジの答えにリツコは戸惑っていた。
次の瞬間、シンジの手が動き出した。
「えっ?」
リツコの驚きの声があたりに響いた。
「み、見えない…」
シンジの手の動きが赤木リツコ博士をもってしても見えないのだ。
速いという言葉がまるで遅い事を意味しているように思えてくるほどシンジのタイピングは早かった。
まさに神速。
その神速の状態が十秒くらい続いただろうか。
シンジは手を止め一息つく。
「ふう……これで準備よし。……あれ?リツコさんどうかしたんですか?」
リツコはシンジが技術部顧問になるのだからある程度は凄いと思っていた。
が、しかしシンジの実力は予想を遥かに超えていた。
「な、なんなの…」
「何がですか?」
「シンジ君…そのタイピングの速さはなんなの…」
「へ?速い?…??」
「どうかした?」
「僕が速い?…あはははは、嘘でしょ、僕なんかカヲル君の足元にも及ばないよ」
「???????????????????」
リツコの頭の中に『?』の大群が押し寄せてきた。
「リツコさんもあったでしょ?カヲル君」
「ええ、まあ」
その時、パソコンの画面上に一つのウィンドウが開いた。
「シンジ君、こっちもO.K.だよ」
そのウィンドウに出てきたのはアイ顔をしたカヲルだった。
なぜこんな手に持てるようなパソコンから声が出るのか。
それは…
「う〜ん感度良好」
シンジが今通信プログラムを組んだのだ。
「シンジ君、腕あげたね」
「そうかな」
ひとりかやの外に出ていたリツコが外から中に入ってきた。
「アイ…なの?」
「今は渚カヲルですよ、赤城リツコ博士」
「何がおこっているの…さっきはシンジ君が…」
「それはまた後でということで…それじゃカヲル君ボディの方はお願いするね」
このままだと話が終わらないような気がしてシンジは声を掛けた。
「わかったよ、あの通りでいいのかい?」
「うん、じゃあ魂の方はまかせておいて」
突如パソコンの画面に数字の羅列が表示されてきた。
カヲルが打ちこんだデータがシンジの持っているパソコンに送られていているのだ。
「それじゃ、これを初号機に向けて、と」
シンジはそのデータを今度は初号機に送り出した。
直接カヲルの所から送れば良いのだが、さすがにLCLには回線は繋がっていない。
液体にどうやって情報を送っているかは「ひ・み・つ」だそうだ。
ついでにLCLがどうやって情報を理解しているかも「ひ・み・つ」だそうだ。
「これでよし」
データが送りこまれはじめたと同時にLCLが泡立ちはじめた。
何事かと思いリツコはエントリープラグ内を覗きこむ。
「え!!」
今日何回目かの驚きがリツコを襲う。
「足?」
その通りだった、確かにLCLの中に足が存在していた。
「成功」
いつのまにかリツコと一緒にエントリープラグ内を覗いていたシンジが言った。
「どういうこと?」
「母さんは今眠っているからね、それに戻る意志が無い。
自力で体を構成することはできないんだ。
だから僕らが作ってるんだ…この液体はLCLだからね、材料は十分あるよ」
「体を作るの…」
「そうだよ、遺伝子配列、等など。その全てが数値化できれば可能だよ」
「まさかそんなことが…」
「できるよ…僕ならね、父さんに聞いたんでしょ。僕が単一にして群体であることを……それが僕だよ」
「だからといって、他人の遺伝子配列なんて…自分の物でさえ理解できないのに」
「なぜか…可能なんですよ………ほら、話してる間にもう出来た…さすがカヲル君」
「嘘よ、こんな短時間に人体を構成するなんて」
シンジの方に向けていた顔をエントリープラグに戻したとたんリツコは絶句した。
「…………」
そこにいたのは紛れも無い人。
だが魂が抜けているのかその表情は虚ろだった。
「さて、これからが僕の出番」
リツコがぼけっとしながらシンジの方をむいた時そこにシンジはいなかった。
「シンジ君…どこ?」
パシャ
リツコの問いに答えるかのようにLCLが跳ねた。
その音に反応しリツコはエントリープラグの中を覗いた。
「シ、シンジ君…何やってるの」
その中にいたのは魂のない人とシンジだった。
シンジはLCLの中で目を閉じていた。
(母さん……悪いけど勝手に連れて行ってしまうよ)
その思いと共に髪の色が変わった、黒かった髪が一瞬にして白銀へと。
そして開く瞳…赤く…そして紅い瞳がそこにあった。
「さあて」
掛け声と共に動かされるシンジの右手。
動かされた右手はエントリープラグの奥へ向けられた。
シンジの周りに漂う魂無き人をシンジは左手で捕まえ自分の方へ寄せた。
「A・T・フィールド展開………捕まえた」
シンジの右手から触手のように伸びたA・T・フィールドが何かを捕まえた。
何かを捕まえたA・T・フィールドは役目を終えたかのようにシンジの所に戻ってきた。
「展開終了」
触手のようなA・T・フィールドが捕まえた物右手の中に収めたシンジはそう言った。
シンジは左腕で抱いている魂無き人を抱いている手…左手を使ってその人物の口を開いた。
そして開いた口に右手に持っていた物を入れた。
「これで…この魂無き人は母さんになった……」
その魂無き人…碇ユイを片手で支えながらシンジはエントリープラグから出ようとした。
「おっと…」
何かを忘れたようにシンジは目を閉じた。
そして戻る髪の色…白銀から黒へと。
「これでよし」
目を開きながら声を出すシンジ。
その瞳は黒だった。
エントリープラグから出たシンジは近くにいたリツコがいないことが気になっていた。
「あれ?リツコさんは?」
右手にユイを抱えシンジは辺りをうろつく。
「シンジ君!」
気をきかせたのかリツコが病人を運ぶための移動ベットを持ってきた。
「あ、どうもありがとうございます。リツコさん」
「!!『りっちゃん』でしょ」
一瞬ピクッとなったリツコの顔をシンジは見てしまった。
「す、すみません、りっちゃん」
「うふ…りっちゃん…良い響き…ユイさんをこのベットに。医務室まで運ぶわ…運んでもらうわ」
「誰が?ですか」
「あれ」
そう言ってリツコが指差した先にはゲンドウと冬月がいた。
「ユ、ユイ!!」
「ユイ君」
「と言うわけだから、後は任せましょ」
「そうですね……それじゃあ僕は行きますんで…」
「まって、シンジ君…暮らす所どうするの?」
「あ、そうでしたね…どうしましょう?…出来れば3人が住めるスペースのある所が良いんですけど…」
「3人?」
「僕とアイとカヲル君です」
「なんですって…カヲル…彼は魂だけの存在じゃないの」
「さっきと同じ方法を使います」
「と、いうことは作るの?」
「はい、でも…少々問題が…」
「問題?…なにが問題なの?」
「その内…教えます…今は…疲れてるので…」
「そう、解ったわ。…でも暮らす所は私の所にしなさい。部屋なんていくらでもあるし、それにレイもいるわ」
「リ、リツコさんの所にですか!」
「『りっちゃん』」
「うっ…りっちゃんの所にですか?」
「そうよ。それに貴方達だけ一緒にいたらレイが可哀想だわ」
「………それもそうですね………解りました。お世話になります」
「野望がまた一つ達成したわ…」
呟きの如きリツコの声。
聞えるはずないと思っていたがシンジには少々聞えたようだ。
「野望ってなんです?」
「き、気にしなくて良いのよシンジ君は…」
「そうですか?」
果てしなくやばそうな野望なんだろうと思いながらもシンジは顔色一つ変えずに返事をした。
「そ、そうよ。それじゃあ、私が後で迎えに行くから何処かで暇つぶしでもしてて」
「解りました。…あ、そうだ。綾波レイって何処にいるんですか?会っておこうかと思って」
「病院よ」
「ここらしいよ」
一緒に来たアイに声を掛けながらシンジは目の前にある扉を指差した。
「そう、ここにこの世界の私がいるのね…この世界の私も怪我したのね…可哀想」
ここは綾波レイの病室の前。
先ほどリツコから病室の番号を聞きここまで来たというわけだ。
「さあ、入ろうか」
「ええ」
扉を手であけ中に入っていく二人。
誰かが入ってきたことに気付いた綾波レイはその初めて見る顔にベットから上半身だけ起こして声をかけた。
「貴方達…誰」
「へ?」
「え?」
シンジ、アイ両名とも驚いた。
リツコがレイと暮らしているため彼らは以前の世界のレイ(アイ)よりまともだと思っていた。
だが、同じだった。
以前の『私が死んでも変わりはいるもの』と言っていた少女と同じだった…
「貴方…私…私は……誰……貴方…誰」
目の前にいる自分…アイを見てレイは困惑していた。
いるはずのない3人目がいる。
そんなことを考えていた。
「私はいらなくなったの……絆が……無くなったの…貴方……誰」
「私は…綾波アイ、貴方じゃないわ。私はレイのお姉さんよ」
さすが自分の事だけあって何故レイが困惑しているか良く理解している。
レイには変わりがいるといってもそれはレイ自身だった。
だが、変わりは自分だけではなくなった。
それがゲンドウとの絆を………壊す。
それは最も恐れていたこと。
「姉…同じ親から自分より先に生まれた女の人、私にはそんな人いない。
……私は人じゃない、私には親なんていないもの…」
その言葉からは恐れと怒りが感じられる…そしてその中には困惑も感じられた。
壊される絆への怒り、だがレイは初めて感じた感情に対処出来ずにいる。
「たとえ貴方が人じゃなくても私は貴方の姉。
貴方は姉妹という絆で結ばれた私の唯一の妹」
「絆……唯一…違うわ…私には代わりがいるもの」
絆…なんて甘美な言葉なんだろうか、一瞬レイはその言葉に酔いしれた。
だが、唯一と言う言葉を聞き心が変わる。
自分には代わりがいる。自分は唯一じゃない。
「代わりと言ってもそれは体でしかないんだろう?
人の…生命を持つ物の存在を表すのは体なんかじゃない。
魂…それが生命を表すもの。
作られた生命であっても魂はある。
そしてその魂…それは唯一の物だよ、代わりなんか無い…たとえ体の代わりがあったとしても
綾波レイ、彼女…アイは間違い無く君の姉だよ、何も君の存在を脅かすものじゃない。
甘えればいいよ…初めて得た姉妹という名の絆に…」
シンジの言葉がレイを求めていた夢の世界へ連れて行く。
誰かに言って欲しかった、自分が唯一の存在だということを。
そして代わりなんていないということを。
自分を…綾波レイを見てくれる…本当に夢のようだった。
だけど、その思いと違い言葉は別の事をいう。
「私は人じゃない………姉妹なんていない…………」
そのレイの言葉に何か言おうとしたアイをシンジは止めた。
「…人じゃないからどうしたっていうの?
君が自分を人ではない、というなら僕達の方が人じゃないよ」
「??…貴方は人よ…私は二人目…私は人じゃない」
「二人目ね……それがどうかしたの?
僕だって六人目だよ
アイに関して言えば四体目だよ。
もう一度聞くよ、ニ体目?それがどうかした?」
この世界に辿りつくまでシンジは都合四回別の世界によっている。
そこでも碇シンジはいた。
だが世界は違った、そして違うと解っていてシンジはその場所によったのだ。
ある理由のために。
「人じゃないの?……」
「元人間現在使徒かな…だが、それでも人間として生きていける。
綾波レイ、君だって人として生きていけるさ……」
「………私…望んでも良いの?…」
「他人には君の望みを妨害することはできないよ、たとえそれが神と呼ばれる存在だとしても…」
「貴方は…私に絆をくれる?」
「もちろん、それを君が望むならば…」
「私………それでも…それでも…人間として生まれたかった…」
レイの瞳からは涙が流れ出した。
初めての涙。
流すことはないと思っていた涙。
「これは…涙……私悲しいのね……」
(しかたないか…それが彼女の願いならば……自分の出来ることをするまでだ)
その涙を見て意を決したようにシンジはレイに向かった。
「レイ、君の願いはなんだい?人間になりたいのかい?」
「私は…人」
『間になりたい』と続くはずだったろう。
しかし、続く前にシンジの言葉にそれはかき消された。
「だが、その前に一つ言わせてもらうよ、今から言うことを良く考えて答えを出して。
僕は…君を『人』にすることができる。
それだけの力もある。
だが、人になれば恐らく父さんは君をファーストチルドレンの座から下すだろう。
人になればエヴァは動かせなくなるからね。
それは君の恐れていた父さんとの絆がなくなる事になる。
それでも人になりたいのなら…僕は君の願いをかなえるよ」
甘美なる誘い。
だがそれには存在している絆を失うことになる。
「わ、私は……」
悩み。
人間として当然存在するもの…
絆を選ぶか、人となることを選ぶか…
「今はまだ良いよ…考える時間はいくらでもあるからね……」
「わ、わ、わ…私…」
流れつづける涙。
その涙をシンジは指ですくいあげた。
「ほら、綺麗な顔が台無しだよ……笑って…
人になるにしてもそのままでいるにしても笑っていてよ…」
「め、命令ならそうするわ」
嗚咽を吐きながら、レイは今まで何度と言ってきた言葉をつむぐ。
「ふふ、レ〜イ。誰も命令なんてしないわよ。碇君のはお願いよ。
それは貴方が考えて貴方が良いと思ったらすれば良いのよ。
誰も教えてくれないわよ、それが良い事か悪いことかなんて、
自分で考えるのよ…人になるんでしょ?」
先ほどから黙っていたアイがレイに向かって言う。
「まあ、人間になるにしても、そのままでい続けるにしても…レイは私の妹よ。
それは変わらないわよ」
「ね…姉さん」
少し恥ずかしそうに俯きながらレイは言った。
「そうよ、レイ」
「アイ姉さん………私の姉さん…姉妹…新しい絆………」
そう言ったレイの顔は…
笑顔だった…
後書き
一ヶ月間(ま)が空いてしまいました。
そのお詫びといってはなんですが、いつもの3.3倍(当社比)はあります。
そのわりにあんまり話が進んでない気がしないでもないです。
レイとシンジ、アイの掛け合いが難しかった…ギャグにするわけにもいかなかったし
一応完成したけど変だなこりゃ………
SRA(シンジ、レイ、アイ)の掛け合いで質問があるようでしたら言ってください、無理やりごまかします。
さて…LRSで突き進むのも面白いかも(爆2)←(爆)ニ乗ということで…(注 Rはリツコさんの意味)
それではまた〜〜〜〜〜〜〜〜
琥珀のコメント
まあ、3.3倍!(当社比)落ちにくい汚れが良く落ちるわ〜(激しく違う)
まず、タイトルにやられてしまった人も多かったのでは?私がそう。
『りっちゃん』だって・・・ふふ。
野望は一体いくつあるんでしょう?さりげなく狙われてますね、シンジ君(さりげなくもないか)
今回は伏線がいっぱいちりばめられていたような気がしますね。
ろ、六人目??シンジ君、あなたいったい!!
・・・・・・ミサトさんやリツコさんじゃなくても言ってしまいそう。
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