『白』

 

白いね。

もう何も見えないよ。

甘やかな夢も。

さびた鉄の匂いも。

もう、何も感じない。

真っ白な世界。

君はここにいないんだね。

僕は一人ぼっちなんだ。


 


 

 

 


羽根が落ちてくるよ。

真っ白なお空から。

くるくる、くるくる。

おどりながら、落ちてくるよ。

君の翼から、

もげた白い天使の羽根。



 

 

 

 

 


ねぇ、僕をつれていって。

僕の手を取って。

ここからつれだして。

どこでもいい。

ここではないどこか。

どこか遠くに。

僕をつれていって。

ここはとても寒いから。

凍えてしまいそうだから。

君がいない。


 

 

 


 


白くにごっている。

ここはとても寂しいね。

散った君のカケラ。

君はあの時泣いていたっけ?

もう、思い出せないよ。


 

 

 

 

 



一人が長すぎて、

もう君の姿も消えてしまった。

君は真っ白だったね?

確かにそう、だったはず。

おかしいね。

覚えているのは、もう君の声だけ。

ここはとても寒いね。

冷たい雪が僕を埋める。

このまま、深い深い白の中に、

ずっとずっと沈んでいけば、

しあわせになれるかな?


 

 

 



 

 

あれ?

おかしいな。

僕を呼ぶ君の声がするよ。

これはきっと空耳だね。

ここに君はいないもの。

君はばらばらになってしまったのだから。



 


 

 

 

 

雪が。

雪が僕を染めるよ。

ちらちらと、白い空から降ってきて、

醜い僕を埋めるよ。

誰かが、誰かを呼んでるね。

悲痛な声で、名前を呼んでいる。

でも、もう僕には関係ないこと。

僕は、僕の名前すら、もう思い出すことができない。



 


 

 

 

 

ああ、眠くなってきちゃった。

もう起きることはないだろう。

誰かが、誰かを呼んでいる。

でも、僕にはもう、関係ないこと。


 



 

 

 

 

そして僕は、

ただゆっくりと、

眠った。

「オヤスミナサイ」

白に溶けた。





 

 

 

 

 


モドル