『紅』
指と爪の間に、紅がこびりついている。
海が紅いよ。
むせ返るような、血の匂いがする。
足元に、君がいる。
流れでる血が、君を染める。
君は綺麗だったね。
汚したくて、たまらなかった。
壊したくて、たまらなかった。
その、素直な心を。
幼くて、未熟だった心を。
引き裂いてしまいたくて、たまらなかった。
その、形のいい桜色の唇から、
絶望の吐息がこぼれるのを、
僕は笑いながら見ていた。
ねぇ、海が紅いよ。
君が染めているんだ。
君から流れ出した血が、
海を染め、君を染める。
綺麗だよ。
汚したくて、たまらなかった。
冷たいんだね。
もう、体温が失われている。
虚ろな瞳に映るのは僕。
そう、僕だけを見つめて。
泣いていたの?
かわいた涙のあと。
もう、誰も見ないで。
僕がここにいるから。
頬にこびりついた血。
舐め取ることで落としていく。
甘やかな血の匂いに、狂ってしまいそうになる。
あるいはもう、狂っているのかな?
紅い世界に、君と二人。
永遠に、二人きり。
君はもう、誰も見ない。
指と爪の奥にこびりついた血。
君の血だよ。
君の身体に流れていた、命の証。
声を聞かせて。
僕の名を呼んで。
苦しくなるような笑顔で。
悲しくなるような笑顔で。
もう一度、僕の名を呼んで。
冷たいキス。
死の味がする。
もう、君はどこにもいない。
誰にも渡さないよ。
誰よりも、僕が君を愛してる。
もう、二度と離さない。
僕だけのもの。
僕が殺した。
君は永遠に、僕だけのもの。
紅い世界に君と二人。
ずっとずっと、二人きり。
ずっと。