その日、『シト』がやってきた。
15年ぶりだな、と、ある場所で初老の男が言った。
それに答えるように、サングラスの男がああ、と言った。
二人の少年が無人の街を走りぬけていた。
第3新東京市に、『使徒』がやってきた。



 

 

 

 

夏の翼

 

第一話
天使と出逢った日



 

 

 

 

 

 

 

タッタッタッタッ。
足音も軽やかに、一人の少年が壊れた道路を走り抜ける。
髪は空色、瞳は深紅。整った顔立ちの少年。
いつもは人形のような無表情に、今はほんの少しあせりが浮かんでいる。
「本日、12時30分、東海地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が
発令されました。住民の方々は、すみやかに指定のシェルターへ避難してください。
繰り返しお伝えいたします」
機械的なアナウンス。
少年は視界の端に映る『使徒』と呼ばれる怪物を見た。
ビルをなぎ倒して我が物顔で街を歩く使徒に、嫌悪感を覚える。
――ヘンなの。
これが少年の使徒に対する素直な感想だった。
どうやら使徒は、少年の美意識に反する容姿らしかった。
どこがヘンなんだ?と聞けば、少年は間違いなく、
・・・ヘンじゃないところなんてあるの?と聞き返してくるだろう。
人は、己の美意識に反するものを、無意識に嫌悪する傾向がある。
少年もその例に漏れず、見るのも嫌そうに、使徒から顔をそむけた。
その少年の容姿は、間違いなく『絶世の』がつく、
美少年だった。
綾波レイ。
それが少年の名前だ。
彼は、一年中夏である第3新東京市において日焼けもせず、まるで紙のように
白い肌を持つ。
まるで体温がないのではないかと錯覚を起こさせるほどの、青白い肌。
その容姿から、アルピノであることが推測されるが、極端に紫外線に弱いアルピノとは
違って、どうやらレイは平気らしい。
半袖の学生服から出た腕に、紫外線対策をしている様子は無い。
すらりとした身体は男にしては華奢で、中性的だ。
レイは使徒を見ず、ところどころ落ちている瓦礫をよけながら思案した。
考え事をしながらも、走る速度は緩めず、障害物はしっかり避けて通る。
レイは、なかなか器用だった。
使徒・・・シト。
人類を滅ぼすもの。
人類のテキ。
「僕達が倒さなくてはいけない生き物・・・・・・」
ポツリとレイはつぶやく。
深紅の瞳は感情を映していない。
――ヘンなのは排除。
どうやら、レイのなかで使徒に対する結論が出たらしい。
嫌そうに、でももう一度使徒を見るべく視線を動かしたレイは、道路の向こうに
一人の少女を見た。
やわらかい視線。
あたたかい瞳。
それはきっと、一瞬の幻だったのだろう。
風に舞うように流れる、つややかな黒髪。
それと同じ色の瞳。
その瞳は、優しく、どこまでも澄んでいた。
アノ人によく似た瞳――
レイを気遣う、慈愛に満ちた瞳。
レイは目をそらせない。
真っ白のワンピースを着た少女。彼女が、そこにいた。
少女は、とてもレイに似ていた。
レイよりも低い身長に、少女らしい華奢な身体。
よく似た顔立ちながら、レイとはかなり雰囲気が異なる。
少女は、自分を見つめるレイに微笑む。
使徒のことを指すのではなく、天使が本当にいるのであれば、
今まさにレイの目の前にいるのは間違いなく天使であろう。
少女の幼い顔に、綺麗な――本当に綺麗な笑顔。
思わず、レイは魅せられる。
彼女はレイに・・・否、碇ユイという女性によく似ていた。
レイにとっては『母』というべき存在。
レイは、少女に見覚えがあった。
数日前に、『父』から見せられた『姉』の写真。
(――レイ、この子がおまえの『姉』だ――)
レイは彼女を小さく呼んだ。
「碇さん・・・・・・?」



 

 

爆音とともに、レイは羽音を聞いたように感じた。









 

 

 

 





「おーい!ちょっ、ちょっと待ってくれよっ!レイッ」
レイの後方50mほどの地点から掛けられた声。
レイは振り返った。
赤い髪。身長はレイとあまり変わらない。
レイと同じ学生服を着ている事から、少年であることがわかる。
ほんの少しの間だけその姿を視界にとどめていたが、
すぐに関心を無くしたみたいにレイはフイッと前を向いた。
少女は、もういない。
そのことを、レイは少し残念に思った。
熱風にもかかわらず、レイは汗一つかいていなかった。
そのまま無視して、一歩踏み出そうとしたその時、少年がレイに追いついた。
「ちょっ・・・ハァ・・・レェ〜イ!待てって・・・言ってるだろっ!!」
青い瞳の少年がとがめるようにレイを睨んだ。
走ったせいで、少年は肩で息をしている。
彼の名は、惣流・アスカ・ラングレー。
赤い髪に青い瞳。日独のクォーターだ。
通う中学での写真の人気は1,2を争うほどの美貌。
その座を争う人物、レイを追いかけながら、アスカは怒っていた。
「レイ!な〜んで先に行っちまうんだよっ。俺に一声かけるなり何なりしろよ!」
理由はなんてことはない。仲間と呼ぶべきレイが自分に何の合図もなしに、
さっさと本部に向かったことが、アスカは気に入らないのである。
「なぜ・・・・・・」
「なぜって・・・仲間だろ?俺達。だったら同じ場所に行くのには一緒に行った方が
いーんだよっ!」
「そう・・・わからない」
「とにかく、本部に行く時は、俺達は一緒に行くもんなんだよっ」
「・・・・・・命令ならそうする」
「命令じゃねーけどさー・・・あっホラ、俺達が一緒にいたほうがNERVも俺達と
連絡が取りやすいだろ?だから俺達は一緒にいたほうがいいんだよ」
アスカは思いつきで言った言葉に、内心満足していた。
NERVと連絡がつきやすい。
なかなかのメリットだ。
少なくとも、レイを納得させるには十分な理由。
だが、レイはアスカを冷ややかに見る。
「・・・適格者がそろっていると、他の組織に狙われる確率が上がる」
「ぐぅっ・・・・・・」
他に良い案は無いかとあせるアスカ。
考えているうちにレイはアスカに背を向けるとスタスタと歩き出した。
「ちょっ、レイッ!!」
おいて行かれないようにと、レイの背をアスカは追いかける。
その時、ふいにレイが立ち止まった。
いきなりの動作に、アスカが対応しきれるわけも無く、
アスカはレイの背中に思いっきり鼻をぶつけた。
「ふぎゅっ・・・何だよ。急に止まるなよーー」
ぎゃあぎゃあと、文句を言うアスカを無視し、レイは淡々とつぶやく。
「・・・・・・子供の泣き声がする」



 

 

 

 











「っ・・・だぁーーー!!!」
時を同じくして、第3新東京市をもののズバリ『爆走』する、青い車。
運転席の女性は、華麗と言うよりは、過激と言うほうがぴったりといった、
ドライビングテクニックを披露している。
もっとも、避難警告が出ているため、あたりには誰もいないのだが。
「んっ、もうっ・・・・・・どこ行っちゃたのよォ、あの二人はぁーーーーー」
すさまじいスピードで、カーブを曲がる。
ギャギュギュッといった、摩擦音が上がるのもお構いなしだ。
彼女の名は、葛城ミサト。
「綺麗なおねぃさんは好きですか?」(本人談)
の言葉に偽りなく、まさしく綺麗なおねぃさんを地で行く妙齢の女性。
彼女は今、その麗しい顔に青筋を立てている。
ハンドルを握る手も、ギリギリと音を立てている。
はたから見ると、すごく恐ろしい光景だ。
ミサトの頭の中には、非常事態なのに行方不明になっている生意気な赤い髪の少年と、
無愛想な空色の髪の少年のことでいっぱいだ。
保安部からは、ロストしたとの報告。
こんな時に見失うなんて、と、ミサトは苛立たしげに唇をかんだ。
二人に渡すはずだった携帯は、今ミサトが持っている。
前日に渡すのを、すっかり忘れていたのだ。
これでは連絡のとりようが無い。
完全なる、ミサトのヘマだ。
脳裏に浮かぶのは、冷たい親友の姿。
『無様ね』
『ぶざまね』
『ブザマね』
彼女の冷ややかな声が頭の中をリピートする。
「イヤ・・・改造されるのはイヤァァァァーーーーーー」
ミサトの親友、赤木リツコはマッドな科学者である。

使徒よりも、ある意味それが怖いミサトだった。







 

 

 

 

 

 











つづく

いいわけ
・・・なんでしょう、この小説は。
わけわかんないですね、書いてる作者にもわかりません(爆)
もう、設定めちゃくちゃいじってます。レイとアスカ、男だし(笑)
なんか、コメディーになっているかもわからん。
それに短いですね〜・・・・・・続くのか?
終わりかたも不自然だし。
イマイチ先行きが不安です。

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モドル