「・・・・・・・・・・・」

僕達には、嗜好というものは無い。

必要無かったから。

全てを破壊するためだけに生まれてきた僕達。

殺戮人形に感情などいらない。

だから、僕は山積みになった服の中で、ほんの少し途方にくれた。

なぜ途方にくれたのか。

答えはいたって単純。

何を着ればいいのか、わからなかったのだ。









オワラナイ夏




第二話 始まり









頬から流れ落ちる水滴を、僕はぼんやりと見つめた。

少し熱めのお湯。

汗をかき、冷えた身体には、この位が気持ちいい。

結局、僕は普通に着るには一番差異の無い制服を着ることにした。

白い開襟シャツと、ズボン。

アンダーシャツは、黄色。

僕が着ていたパジャマが黄色だったから、なんとなくその色を僕は選んだ。

特別、何を考えるでもなく。

ただ、無造作に。

湯気に、鏡が曇る。

手のひらでそれをぬぐい、僕は、僕の顔をそれに映す。

銀色の髪。

血の色の瞳。

無表情の顔つき。

同じ顔を持つ『人形』が、僕のほかに、8人。

オリジナルの『渚カヲル』を除いての、数。

渚カヲルは死んだ。

だから、僕達はここにいる。

濡れた髪からは、LCLの匂い。

血の、匂い。

それに対する、ほんの少しの不快感。

なぜだろう。

感情の無いはずの僕が、不快感を覚えるなんて。

棚にあったシャンプーを使い、僕は無造作に髪を洗う。

ほのかないい香りに、LCLの匂いが消えていくのを感じる。

ほっと息をつき、その時初めて、LCLの匂いに不快感ではなく、嫌悪感を感じていたことに気付く。

なぜなのだろう・・・・・・それは本当に、感情という物にそっくりで、

確かに僕の中に存在している。

先ほどの少年、彼に出会った時の感覚。

それも、感情という物によく似ていた。

イヤナカンジはしない。

知っているような気がしたのはなぜだったのか・・・・・・

ふいに、視界が歪む。

「・・・・・・?」

ぼやける視界に、違和感。

目元に手をやると、僕は、泣いていたことに気付いた。

僕は、生まれて初めて、『涙』を流していた。

どうしてなのだろう。

知らないはずの涙。

それなのに、どこか懐かしい。

きらきらに光る透明の雫。

それに黒髪の、さっきの少年が重なった。

悲しみに満ちた瞳。

僕と同じ血色の瞳。

なぜ、彼のことがこんなにも気になるのだろう。

泣きそうに歪んだ顔。

どこかで見たような気がする。

でも、僕はどうしても思い出すことができなかった。














着替えをすませ、彼のところに向かうと、そこには他のみんなが集まっていた。

僕と同じ顔を持つ、『人形』達が。

彼は僕の姿を認めると、一瞬、複雑な表情を浮かべた。

やはりそれも一瞬のことで、彼は笑い、僕の座る席を指し示した。

「あの・・・」

僕が座ると同時に、ナンバー『1』が声を上げた。

彼に向かって。

「・・・・・・なに?」

僕達に背を向けている彼。

お椀に何かをよそっているようだ。

「・・・あなたは、誰ですか?」

至極当然な質問。

他のみんなを見まわしてみると、彼らも彼のことを知らない様子で、事の成り行きを見守っている。

彼はほんの少し、息を詰めた。

「・・・僕の名前はシンジ。碇シンジ。」

碇シンジ。

研究室の中では、聞き覚えの無い名前。

「SEELEの研究員ですか?」

ナンバー『3』が聞いた。

「・・・違うよ。」

「それでは、あなたは誰?」

ナンバー『8』が聞く。

SEELEの研究員で無いとすれば・・・彼は、いったい誰?

「君達と同じ、仕組まれた子供さ」

彼は自嘲するように笑った。

優しげな顔立ちの彼には、ひどく似合わない表情。

「元NERVのエヴァンゲリオン初号機パイロット、サードチルドレン、碇シンジ」

エヴァンゲリオン初号機。

それは確か・・・・・・・・・・

狂ったような絶叫と、冷たい槍の穂先で突き刺した記憶。

黄金の羽根がまばゆく、禍禍しく視界を染めた。

濃厚な血の匂いが漂い・・・・・・僕達は狂っていた。

壊れていた。

他のみんなを見てみるが、何の表情も浮かんではいない。

まったくの無表情。

多分、僕もそうであろう。

その言葉に何らかのショックを受けるほどの、『感情』というものは備わっていない。

「NERVのパイロットが、なぜ、僕達を・・・・・・?」

続く言葉を、どう表現していいのかわからない。

僕達は、助かったのか?

彼が助けてくれたのか?

助けとは、そもそもどういうことを指すのだろう。

僕達は、今生きている。

ということは、SEELEの求めるサードインパクトは起きなかったというわけだ。

死は怖くなかった。

生ける人形だった僕達に許された、たった一つの自由。

利用され続けて生きるよりは、かなりマシな生きかただろう。

それすらも、利用されているという事実であっても。

だが、僕達は生きている。

これからも、利用され続けて生きることになるのだろうか。

望んだことではないとはいえ、『人類補完計画』に携わった者として、一生監禁・・・あるいは始末されることになるのだろうか。

「俺達は、始末されるのか?」

ナンバー『2』が、それがまるでどうでもいい事のように聞いた。

そう、どうでもいいことなのだ。

生きていようが、死んでいようが。

最初から何も無かったのだから、今更何を失おうと怖くない。

たとえそれが、自分の命であっても。

コトリと、彼、碇シンジが僕達の目の前に、熱く湯気を立てている物を置いた。

「卵がゆだよ・・・・・・熱いから、気をつけてね」

微笑む彼に、『2』は焦れたように、再度声を上げた。

「質問に答えてくれ。NERVの・・・・・・元パイロットであるあなたは、俺達をどうするつもりなんだ?敵である俺達を生かすほど、NERVは寛容でも、酔狂でも無いはずだ。何を、たくらんでいる?」

「何も」

そう答える彼の瞳は、どこか虚ろで・・・・・・

何の感情も読み取ることはできない。

「何も?・・・何もたくらんでいないというのか?」

『2』が複雑そうに顔を歪める。

どう反応していいのかわからないようだ。

「そう。僕は君達に何かを求めるわけでも、利用するわけでもない。僕のことは、使用人かなんかとでも思ってくれればいい。NERVとは、関係無いよ。君達は自由。ここに住んでいるのも良し、ここを出ていくも良し。君達を縛る物は何も無い。自由なんだ。」

淡々とした口調に、戸惑った。

みんなも良く理解できないようで、顔を見合わせている。

「自由・・・・・・・・・?」

「どこに行きたいか、何をしたいか、それは後から見つけていけばいい。まずはそのおかゆ、かたずけようね。はやく食べないと冷めちゃうから」

そう言うと、彼は僕達をせかした。

なんだか、うやむやにされたような気もするが、彼の言葉に従い、僕達はぎくしゃくと慣れぬ手つきでスプーンを持った。

僕の隣に、彼が座る。

「いただきます」

手を合わせた彼を習って、自然、僕達も手を合わせた。

「いただきます」



















つづく


何とか、第二話ができました。

それほど話が進まない・・・・・・・・・(泣)

なぜなのだろう、うむむ。

このままでは、どんどん話だけは増えていくような・・・・・・(汗)

困った困った。

カヲル君が9人。名前つけるのが大変だなぁ。

まさか全員『渚カヲル』という名前にするわけにもいかないし。

次回までには、名前を決めなきゃな〜

一応、主人公のナンバー『9』は名前決まってるんだけどね。主人公だもん、決まってなきゃヤバイよね〜(笑)

今回、ナンバー『2』の口調が、カヲル君らしくないのに気付いた?

『僕』じゃなく『俺』って言ってるよね♪

こういう口調のカヲル君も新鮮かなぁ〜なんて(爆)

まだまだこの話は続く。おかしいなぁ、最初の予定ではさっさか終わるはずだったのに。

とりあえずファイト!


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