「平家女護島(へいけにょごのしま)」近松門左衛門作。
享保四(1719)年八月、人形浄瑠璃で初演。翌年歌舞伎化された。

して、そのあらすじは……

平家にあらざれば人にあらず、というほどの栄華の一時代を築いた平清盛を、色と欲の暴君に設定したお芝居で、女護島(たくさんの美女の住む伝説の島)の名の通り、何人もの個性的な女性が物語にかかわっている。
このうち、「俊寛」は、打倒清盛のクーデターに失敗した一行が島流しとなった、南海の孤島・鬼界ヶ島での始終を描いたくだりで、島の海女・千鳥も登場する。
俊寛僧都は、高僧の地位をふり捨てて、この反乱の先頭に立った男で、京都に残してきた最愛の妻・あづまやとの再会を夢見て、苦しい流罪生活に耐えている。
しかし、あづまやは清盛の無体な求愛を拒んだために、すでに世を去っていた。
絶望した俊寛は、本土へ帰る船には乗らず、仲間と別れて島に残るのだった。







俊寛が肴 仕ろう

身も心も疲れ果てた俊寛。枯れ木の杖や採ってきた海藻を手にして浜辺を歩く何一つ悦びのない日々をおくっていた。
そこへ「流罪仲間のひとり・成経が、千鳥という島の若い娘と結ばれた」との知らせがあり、久々の明るい話題に笑顔を取り戻し、都で自分を待つ最愛の妻・あづまやへの思いを募らせる。
そして衰弱しきった身を奮い立たせて、ふたりの門出を祝うひとさしの舞をみせるのだった。

おぉ……さては帰参の船かい ヤイ……!

ふと沖を見ると、平家の紋が帆に印された一隻の船。
ところがいざ船が到着すると、俊寛だけが帰参リストからもれている。
「なぜ……?」
しかし俊寛の名は、別の書状にちゃんと記されていた。
ここでの俊寛は、この歓喜→絶望→再びの歓喜を克明に演じている。
ところが一難去ってまた一難。今度は千鳥が定員オーバーで乗船を拒否されてしまう。
代わりにおこと乗ってたべ

悲痛な展開はつづく。
愛しいあづまやが、すでに清盛に殺されていたのである。
憎々しげにそれを告げる瀬尾。命に代えて操を貫いた妻……胸は張り裂けんばかりの俊寛。
もう都へと帰る意味がなくなった俊寛は、自分の代わりに千鳥を船に乗せる決心をする。
わからずやの瀬尾を斬り殺し、その科で改めて流罪者となり、ひとり島に残るのだった。
髭に手を添えた見得、
「瀬尾、受け取ぉれぇ!」
の決意の一刀は、全編の急所である。
さらば……

みんなを乗せた船が、どんどん小さくなっていく。
「おぉぉいぃぃ……」
声を限りに叫び続ける俊寛。荒波と、こののち永久に続く孤独が、渾然一体となっておしよせる。
岬の上に呆然と、幕切れの俊寛。
遥か遠くをいつまでもいつまでも、じっと見据えている。


おつぎは「勧進帳」

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