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食物アレルギ
2000.03.21

目次

わが常識に自信が無い

食物アレルギーが出るまでの道筋:

01なんで免疫系が必要なのか:
02免疫系を担当する細胞と器官などは何ですか:
03アレルギーとは:
04食物に含まれる抗原(アレルゲン):
05アレルゲンに対応する免疫グロブリン(IgE)の生成:
06免疫グロブリン(IgE)が肥満細胞へ結合して、準備完了:
07抗原・抗体反応の結果、化学伝達物質(chemical mediator)の放出:
08アレルギー症状:
09どうしたら抑制できるの:
10参考資料


わが常識に自信が無い


病原菌などから自分の肉体を護るために、我々には免疫系が備わっている。

したがって、「第T方程式:免疫系を強くすれば、病気を少なくして、長生きができる」という医学的教示(化学的教示ではない!)を受けてきた。そして、この程度の教えで、よくは分からないが、なんとなく、分かったような爽快な気分にもなっていた。

また、「免疫系を強くするためには、栄養分豊かな食物を十分に摂取することが大切である」ことが指摘され、それに素直にしたがって、蛋白質を多く含む肉や魚などを、鼻歌なぞを発しながら、一生懸命食べるように心掛けてきた。なにしろ、蛋白質を多く含むもんは、旨いからしょうがない。

確かに、日本人の平均寿命は世界一となった。だが、しかしである。

ここで注目すべきことは、厚生省の1991年保健福祉動向調査によると、アレルギー疾患はこの20年間で5倍に増えたという。即ち、「平均寿命も少しはのびたが、アレルギー疾患は劇的に増加した」という統計結果が出ている。

すなわち、「第U方程式:免疫系を強くすれば、病気を劇的に増やして、長生きができる」が、機械的に誘導される。

「いつものことながら、くだらんことをいう奴だ!」
と、一蹴する方も多いと思う。また、そのように言ってもらわなければ、話しの都合上、張り合いが無くなってしまう。

私も、はじめは、皆さんと同じように、そのように”直感”した。しかし、私の子供時代の食糧難のときには、アレルギー患者の話しなんか聞いたことはなかった。また、マラリヤや寄生虫は、栄養状態の悪い人の方が罹り難いそうである。さらに、ウィルスによる感染症に対しては、栄養失調の方が強いという。栄養失調バンザイッ・バンザイッ・・・。

こんな事実を考えると、

「くだらん!」
と、一蹴するには、ためらいが出てきても仕方が無いではないか。

そのような訳で、少なくとも「わが常識に自信が無い」に気付き始め、そして、遅まきながら、第U方程式を素直に受け入れるべきか、否かを真剣に考える段階に至った。

さて、生活環境の変化に応じて方程式の中身が変わるとなると、第U方程式も永遠不滅ではないであろう。やがては第V、第Wへと進化し、以下に示すような、最終方程式の時代が到来するかも知れない。一度たがが外れてしまえば、後は破滅まで一直線である。


「最終方程式:免疫系の自己破壊により、すべての人が異常となり、人類は異生物へと進化する」


これは、「我々の”子孫”が、得体も知れぬ怪物から、”おらんの身内”として”おゴミ見”に招待される」ことを意味し、誠に喜ばしい事かも知れない。しかし願わくば、あと数十年間(自分のことしか考えない)は、第U方程式か、せいぜい第V方程式の入口の段階で止まっていて欲しいものである。

それにしても、自分の肉体工場の”免疫装置”を、あまりにも知らな過ぎたようだ。

「よくは分からないが、なんとなく、分かったような気分」では済まされない、そんな時代に生きているような気がする。また、免疫系を”強くする”とか、”丈夫にする”とか、”高める”とかの、曖昧模糊とした表現には、アナフィラキシー状態に陥りそうだ。


食物アレルギーが出るまでの道筋:

01
.なんで免疫系が必要なのか:

われわれが”自分”でいられるためには、体内での細胞分裂が正常に行われている必要がある。すなわち新しくできる細胞も、古い細胞と同じ遺伝子配列を持っていることが絶対に必要である。もしも遺伝子の複製過程で失敗してしまうと、極言すれば、自分でないものができてしまう。こんなことになったら、前述の「最終方程式」も笑い話ではなくなってしまう。

しかし、遺伝子が複製されるときに、100万回に1回ぐらいの割合で失敗するらしいのである。体内の細胞数のオーダーは10の14乗個程度であり、これが常に更新されているので、相当数の”自分でない”細胞ができているはずである。

不思議なことに、私は私でとどまっている。なぜなのか。

すなわち”自己”と”非自己”とを区別し、非自己を排除したり破壊する機構が備わっているのである。これが免疫の基本概念であり、生存するうえに必要不可欠の最重要な生命維持機構なのである。

非自己を排除したり破壊する機構には、抗体が関与する体液性免疫反応と、リンパ球などによる細胞性免疫反応がある。しかし、細胞性免疫も体液性免疫も独立して存在するものではなく、お互いに関連しあっている。また、相手かまわずに”非自己”を攻撃する非特異的機構と、特別の相手だけに反応する特異的機構の2段構えになっている。前者を先天性免疫、そして後者を獲得免疫(acquired immutity)と呼んでいる。複雑な化学反応系に興味を持つ小生としては、後者の反応機構が圧倒的に面白い。幸か不幸か、アレルギー機構も後者に属する。


免疫系とは、私たちとって”保護者”のような有り難い存在なのであるが、どんな風向きのためか、悪さをすることがある。本稿のメインテーマである”食物アレルギー”がそれであり、獲得免疫と呼ばれる範疇で、かつ抗体が関与する体液性免疫反応に分類されている。


特殊なケースとして、たとえばB細胞が形質細胞(plasma cell)へ変化する際の、免疫抗体の生産プロセスがある。すなわちB細胞は、種々な刺激と段階を経て、分化成熟して形質細胞(plasma cell)になるのであるが、この過程においては、遺伝子の再編成(gene rearrangement)が起きるのである。この結果、理論的には100億種以上もの性質の異なる抗原に対して、免疫機構を発揮しうる免疫抗体がつくられる。このような免疫抗体の多様性は、遺伝子の再編過程において、抗体分子の可変域(L鎖とH鎖)のアミノ酸配列が変わりうることに起因する。
この現象の発見者は利根川進氏であり、その功績により1987年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。

体液性免疫反応では、抗体が細胞外病原体を認識して結合し破壊するが、細胞内のウィルスには無力である。一方、リンパ球(T細胞)が関与する細胞性免疫反応では、細胞の溶解などによって細胞内病原体の処理が可能となる。


02.免疫系を担当する細胞と器官などは何ですか:

(1)細胞

免疫系に関与する細胞には、リンパ系と骨髄系がある。何れも骨髄中に存在する幹細胞を起源とする。

リンパ系の経路からは、リンパ球(T細胞とB細胞)がつくられ、免疫の主役を演じる。寿命は骨髄系細胞のそれより遥かに長く、数年間は生き続け、記憶細胞として機能する。

骨髄系の経路からは、単球(器官や組織に移動したものはマクロファージとなる)、マスト細胞(肥満細胞ともいう)、好中球、好塩基球、好酸球などがつくられる。これらの細胞中には、微生物に対して殺傷作用のある物質や、化学伝達物質などを含む顆粒が存在するので、顆粒球とも呼ばれる。また、これらの細胞(マスト細胞を除く)は、血液中の白血球として知られている。

骨髄系細胞の特徴を以下に記す:

単球は血液中を移動し、器官や組織に移動してから、免疫機構に大きく関与するマクロファージとなる。単球とマクロファージは単核食細胞と呼ばれる。食細胞は、ひだのある細胞膜をもち、微生物を殺すことの出来る酵素や分子を含む。

マスト細胞(肥満細胞)は、組織や粘膜に存在し、その表面には、免疫グロブリン(IgE)に対して親和性のある部分(リセプターと呼ぶ)が存在し、また内部には化学伝達物質(chemical mediater)を含んでいる。この物質の放出が、後述するアレルギー症状の原因となる。

好中球、好塩基球及び好酸球も食細胞であるが、多形核白血球と呼ぶ。

白血球の約60%が好中球であり、顆粒球としては最も多く存在し、微生物殺傷作用のある成分を含んでいる。また、好中球は、血管内を循環したり、時と場合によっては、血管から組織の中へ入り込むことのできる唯一の細胞である。例えば、何処かの部位に傷などができると、血管から組織の中へ入り込み、傷害のある部位まで走って行って細菌などを殺す。傷害部位の細胞から生ずる物質、走化性因子(chemotactic factor)、が好中球や単核食細胞(単球やマクロファージ)を引きつける。

白血球の数%が好酸球であり、濃度は低いが、寄生虫を殺す能力を持つ。

好塩基球は白血球の0.7%以下であり、上記のマスト細胞と同じ性質をもつ。

(2)器官

免疫応答は2次リンパ器官で起きる。2次リンパ器官んは、リンパ節、脾臓、扁桃、腸のパイエル板がある。食物アレルギーには腸のパイエル板が関与する。

(3)など

など
の一つに、免疫反応において、大事な役割を果たすサイトカインと総称される重要な物質群がある。すなわち、細胞内の反応あるいは細胞間の反応において、細胞の活性化・成長・分化などのタイミングを制御する役割を担う物質である。リンパ球によってつくられるものはリンホカインと呼ぶ。B細胞の活性化に関与するリンホカインには、インターロイキン−4、−5、−6などがあり、T細胞に対してはンターロイキン−1、−2などがある。


インターロイキン−1:生産細胞はマクロファージと上皮細胞、効果はTとB細胞活性化と発熱。
インターロイキン−2:生産細胞はT細胞、効果はT細胞活性化。

インターロイキン−4:生産細胞はT細胞、効果はB細胞の活性化と増殖。その他の機能として、マクロファージ活性化の阻害、マスト細胞の増殖、T細胞増殖。

インターロイキン−5:生産細胞はT細胞。効果はB細胞の活性化。その他の機能として、好酸球の増殖と発生。
インターロイキン−6:生産細胞はT細胞、効果はB細胞の増殖。


03.
アレルギーとは:

アレルギー(allergy)とは、人体に備わっている免疫反応によって起きる”病的反応”であり、じん麻疹、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、鼻炎、アナフィラキシー・ショックなど、きわめてネガティブな症状を引き起こす。例えば、そばアレルギーによるショック死も報告されているようである。

アレルギー反応は、TからWまでの4種のタイプに分類されているが、食物アレルギーは、抗原(アレルゲン)・B細胞・T細胞・肥満細胞、が関与するT型に属している。また、T型アレルギーは、アナフィラキシー型アレルギーとも呼ばれている。


さて、上記の”人体に備わっている免疫反応”とは何であろうか。アレルギー疾患の急増時代において、これを理解することは、貴方の自己防衛システムをより強固にすると思うが如何であろうか。

食物を摂取した後、どのような順番(プロセス)で、不快なアレルギー症状(悪い免疫反応)が起きるのかを、04以降にまとめてみた。


アナフィラキシー・ショック(anaphylactic shock):普通の英和辞典や国語辞典には見当たらない言葉である。次のような状態に対して使われる。モルモットに、抗原(アレルギー症状を起こす物質)を、日にちを変えて、2度に分けて注射したとする。生れてはじめて受けた1度目の注射では、何事も起きない。しかし2度目には呼吸が苦しくなったり、痙攣を起こして死んでしまう。すなわち、「気管や気管支の極端な収縮作用によって呼吸が困難になる状態」に対して使われる。

ここで、2度目というところに免疫化学的な意味があるのである。生れてはじめて、体内に入り込んだ第1の抗原投与が引き金となって、アレルギー反応の発生に関わりを持ついろいろな細胞群が活動を開始する。そして、アレルギー症状の原因物質を含む肥満細胞の臨戦態勢が整うまでには時間が掛かるのである。すなわち、第2の抗原投与があれば、即座に、肥満細胞中の化学物質を放出できる状態にセットされる。この状態を「感作(sensitization)が成立した」という。また、1度目の注射(食物でもよい)を感作投与(sensitizing doze)と呼び、激甚な反応の出る2度目をショック投与(shocking doze)という。



04.食物に含まれる抗原(アレルゲン):

病原菌などの異物から自分の肉体を護るために、我々の体内には免疫系が備わっている。この免疫系に作用する異物を抗原という。

“抗原”には、免疫原、アレルゲン、寛容原、ワクチンがあり、アレルギー症状の原因となる抗原を“アレルゲン”と呼ぶ。アレルゲンを含む物として、花粉、ハウスダスト(ダニ、動物の毛など)、鶏卵の卵白部分、牛乳、大豆、米、そば、こんにゃく、ピーナッツ、コーヒー豆、エビ・・・が知られている。

食物アレルゲンは巨大分子の蛋白質であり、分子構造を確定するのは非常に難しい。このため、アレルギーを起こす食物のすべてについて、アレルゲンの分子構造は明らかにされていないが、鶏卵の卵白(オボムコイド、オバルブミン、リゾチーム)、牛乳(カゼイン、β・ラクトグロブリン)、大豆(7Sグロブリン)については知られている。

抗原(アレルゲン)分子の大きさは、通常、分子量5,000以上とされている。蛋白質の構成要素であるアミノ酸の分子量は、これより小さいので、アレルギーの原因物質にはならない。したがって栄養補給物質として、体内に直接注入することができるのである。

アレルゲンが腸管を通して取込まれると、”複雑な反応”を経由して、アレルゲンに対応(特異的)する抗体(免疫グロブリン、IgE)がつくられる。アレルギー体質の方は、そうでない人よりも多く作られる。


抗体も免疫グロブリンも 同じ意味。免疫グロブリンには5つのクラス(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)がある。正常な血清中の濃度は、13、2.2(分泌型は痕跡)、1、0.03、0.00025mg/ml。分子量は、145,000 、 162,000(分泌型は405,000)、900,000、 184,000、188,000。


ここで、”複雑な反応”とは、T型アレルギー反応特有のB細胞(Bリンパ球)が関与する反応であるが、後述する。

なお、アレルゲンは、「腸管を無条件に透過する」のではない、のでご安心下さい。

食物中の蛋白質は、蛋白質分解酵素(胃ではペプシン、、腸でではトリプシンやキモトリプシン)によって、低分子化(ペプチド)され、最終的にはアミノ酸にまで分解される。アレルゲンは、低分子化された段階で活性はなくなる。

アレルゲンの関所は、蛋白質分解酵素だけではないので、更に安心して下さい。腸管には”良い”腸管免疫システムが備わっています。その役割は、免疫グロブリンA(IgA)をつくることです。これは、腸管の粘膜上に存在して、細菌やアレルゲンなどの侵入を阻止します。


05.アレルゲンに特異的な免疫グロブリン(IgE)の生成:

”複雑な反応”を経由してつくられる抗体は、免疫グロブリン(immuno globulin)と呼ばれる蛋白質分子であり、記号Igで表わされる。

免疫グロブリンには、5種類のクラス(IgA,IgD,IgE,IgG,及び IgM)があるが、食物アレルゲンに対しては、クラスIgEの免疫グロブリンがつくられる。また、数百億種の抗原に対して、その各々の抗原に対してのみ反応することのできる、構造的特異性をもつIgEがつくられることが、理論的に証明されている。たとえば、分子中のCOOHの位置(オルト、メタ、パラ)、酸性基の種類(COOH,SOH)、結合位置の違い(α−グリコシドとβ−グリコシド)、微細な構造変化、立体異性、光学異性などの違いを識別できるのである。抗体の持つこのような分子認識力の”凄さ”は、複雑分子の選択的でかつ高感度(1000億分の1グラム)の検出(イムノアッセイ)などに用いられている。


さて、IgE生産の反応過程の概略を、2つのブロックに分けて説明する。

T: 抗原−マクロファージ(B7、抗原情報提示部MT)−(CD28、CD4、抗原情報受容部MT)T細胞→→活性化(増殖・分化)→→T細胞(CD40L、抗原情報受容部BT)

U: T細胞(CD40L、抗原情報受容部BT)−(CD40、抗原情報提示部BT)B細胞−抗原→→活性化(増殖・分化)→→形質細胞→IgE


T: リンパ節(腸管のパイエル板)に侵入した抗原(アレルゲン)は、マクロファージ(抗原提示細胞)に取込まれ、内部でいろいろな処理を受けた後、細胞表面上に抗原情報提示部MTとして現(提示される)れる。この抗原情報提示部MTに対して、T細胞上の特異的なリセプター(抗原情報受容部MTとCD4)が結合すると、サイトカインが分泌される。また、マクロファージ上のB7分子に、T細胞上のCD28が結合すると、異なるサイトカインが分泌される。ここで、マクロファージからはインターロイキン−1が、そしてT細胞からはインターロイキン−2というサイトカインがつくられる。これらは何れもT細胞活性化効果をもつサイトカインである。

またT細胞は、インターロイキン−4もつくり、これは反応過程UのB細胞の活性化に役立つ。


U:抗原(アレルゲン)がB細胞に結合すると、Tの場合とは異なるサイトカインが分泌され、またB細胞上のCD4に、Tで生じたT細胞が結合すると、また異なるサイトカインが分泌される。これら2種類のサイトカイン(インターロイキン−5と−6)と、反応過程Tでつくられたインターロイキン−4の作用によって、B細胞は活性化され、形質細胞に分化してIgEをつくりだす。


これらの反応で特徴的なことは、細胞の活性化(増殖・分化)プロセスは、単一のサイトカインで進むのではなく、「2種類以上のサイトカインが関与してはじめて為される」のであり、あらためて反応機構の堅実さを”凄いな”と思った。

また、「アレルギー症状の抑制には、反応過程TとUを円滑に進めなければよい」のであるとも思った次第である。


つぎに、免疫グロブリンの構造と性質を簡単に説明する。

ヒトもイヌもブタも、同様な免疫グロブリンを持ち、その形はY字型で、実に巧妙な仕掛けを持つ。

すなわち、2本の相同のH鎖(重鎖)と2本の相同のL鎖(軽鎖)の合計4本のポリペプチド鎖からなり、Y字型をしている。また、このY字型分子は、恒常領域と可変領域からなる蛋白質である。

Y字型構造のV字部分の上半分には、可変領域があり、この部分にアレルゲンは結合する。この可変領域では、いろいろなアミノ酸配列をとることができるので、この結果、特定のアレルゲンとのみ選択的に結合(抗原特異性という)できる、ほとんど無限ともいえる種類の抗体をつくりだすことができる。例えば、”ソバのアレルゲン”に対応してつくられた免疫グロブリンは、”ソバのアレルゲン”に対してのみ選択的(特異的)に結合する。

ここで、結合とは、”ソバ”の”かたまり”全体が免疫グロブリン(IgE)の抗原結合部位(パラトープともいう)にベッタリと結合するのではなく、”ソバ”に含まれる蛋白質(抗原分子)の特異的3次元構造をもつ抗原決定基(antigenic determinant)あるいはエピトープ(epitope)が、抗体のパラトープに結合するのである。この場合の結合は、エピトープとパラトープとの共有結合によるものではなく、クーロン力やファンデルワールス力によるものである。

アレルゲンである蛋白質は直線分子ではなく、複雑にねじれた3次元構造をしている。したがって、煮沸加熱などによって、分子の形状が変わればアレルゲン活性は弱まるか消滅する。また、発酵などにより分子が小さくなれば、当然の事ながらアレルゲン物質ではなくなる。これが食物アレルゲンに対処する一つの方法である。


ヒト免疫グロブリンは5種類のクラス(G,M,A,D,E)と6種類のサブクラス(G1,G2,G3,G4,A1,A2)に分類される。クラスはイソタイプともいう。

抗体も免疫グロブリンも同じ意味。

IgG:2次免疫応答の主要抗体であり、血清中ばかりでなく、組織液中でも見られる。IgGは、サイズが小さいため血管外に浸出して、広く組織の中に分布する。

IgA:血清型IgAは単量体であるが、分泌型は、つねに二量体で存在しする。二量体はJ鎖によって結合され、抗体生産形質細胞によって生産される。唾液、涙、初乳などの分泌液中や呼吸器、胃腸管や尿生殖器の分泌物中に比較的多量に存在する。上気道、腸管などの分泌液中に含まれるIgAは、2つの分子が分泌片(secretory component)とJ鎖によって結合してダイマーの型で分泌される。この分泌片は、粘膜下組織の形質細胞によって生産された二量体を粘膜表面に輸送させるのに役立ち、また分泌されたIgA抗体を、蛋白質分解性の消化からも保護する。

IgM:IgMは5分子がJ鎖によって結合され、血中に5体で存在する。
免疫応答時に最初に生産される抗体である。

IgD:IgDの抗体活性は未知であるが、リンパ球の膜のリセプターの1つである可能性あり。


抗原提示細胞(antigen presenting cell):内部でいろいろな処理を受けた後、クラスU組織適合性抗原に結合して細胞表面上に現れ、T細胞に抗原情報を認識させる。これに、T細胞上の特異的なリセプター(抗原情報受容部MTとCD4)が結合すると、各種のサイトカインが分泌され、一連の反応が進む。抗原提示能力を有する細胞は、マクロファージ以外にもあるが、免疫応答に関与する細胞としては、B細胞とT細胞が重要である。



06.免疫グロブリン(IgE)が肥満細胞へ結合して、準備完了:

さて、”複雑な反応”を経由して作られた免疫グロブリン(IgE)は、肥満細胞(マスト細胞ともいう)に結合する。すなわち、免疫グロブリン(IgE)のY字型構造の底部が、肥満細胞(mast cell)の細胞膜に存在する免疫グロブリンE(IgE)受容体に結合するのである。そして、05..で述べたとおり、免疫グロブリン(IgE)の上部にある可変領域は、やがて入ってくるアレルゲンと選択的に結合することとなる。免疫グロブリン(IgE)は好塩基球にも結合するが、好塩基球は低濃度で血液中にのみ存在する。

この段階、すなわち、肥満細胞の表面(細胞膜)に、複数の免疫グロブリン(IgE)が結合することにより、何時でもアレルギー症状を起こすことが出来るようなったのである。これで準備完了であり、「アレルゲンへの感作が成立した」のである。

感作という、耳慣れない単語の意味が掴めない場合には、”公的資金の投入”を思い出して下さい。少なくとも、感作はされているはずですが・・・??・・・


免疫グロブリンIgEの大切な性質として、各種細胞との結合の親和性がある。すなわち、食物アレルゲンに対応して生じた免疫グロブリン(IgE)は、肥満細胞(mast cell)や好塩基球とは結合するが、大食細胞(macrophage )やリンパ球(lymphocyte)とは結合しない。肥満細胞は皮下の結合組織や、肺、子宮、血管壁などに特に多数存在しており、細胞内には500個ぐらいの顆粒が詰まっており、その中には化学的メディエーター(化学伝達物質ともいう)が存在する。


07.抗原・抗体反応の結果、化学伝達物質(chemical mediator)の放出

たとえば、ソバの「アレルゲンへの感作が成立した」状態で、ソバのアレルゲンが肥満細胞に接触し、肥満細胞上の複数のIgEに対して、ソバのアレルゲンが架橋するように結合(抗原抗体反応という)すると、肥満細胞から顆粒が放出される。アレルギー体質では、肥満細胞上のIgE分子がお互いに接近しているらしいので、架橋が起りやすいのである。アレルギー体質は遺伝的要素がかなり強く関係し、たとえば、両親がアレルギー体質の場合には、その子供の50%に遺伝するといわれている。

顆粒内には、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン群、プロスタグランジン群などが含まれ、これらは化学伝達物質と呼ばれ、周囲の組織に作用して、いろいろなアレルギー症状を引き起こす。なお、化学伝達物質は、ビタミンやホルモンなどと同様な生理活性物質の一つである。

アレルギー反応は、TからWまでの4種のタイプに分類されているが、食物アレルギーは、抗原(アレルゲン)・B細胞・T細胞・肥満細胞、が関与するT型に属している。また、T型アレルギーは、アナフィラキシー型アレルギーとも呼ばれている。またこのタイプは、抗原で感作された状態で抗原が取込まれると、数分で症状(二次応答)が出ることから、即時型過敏症ともいわれている。

”感作”について簡単に説明しよう:
生れてはじめて、体内に入り込んだ第1の抗原投与が引き金となって、アレルギー反応の発生に関わりを持ついろいろな細胞群が活動を開始する。そして、アレルギー症状の原因物質を含む肥満細胞の臨戦態勢が整うまでには時間が掛かるのである。すなわち、第2の抗原投与があれば、即座に、肥満細胞中の化学物質を放出できる状態(一次応答)にセットされる。この状態を「感作(sensitization)が成立した」という。


08.アレルギー症状


ヒスタミン:血管の拡張、血管の透過性の亢進、平滑筋の収縮、神経作用など。

プロスタグランジン:血圧降下・上昇、気管支拡張・収縮、腸管運動亢進など。

ロイコトリエン:平滑筋(気管支などの筋肉)の収縮、粘膜分泌液の増加など。

キニン類:血管の拡張、血管の透過性の亢進、平滑筋の収縮、疼痛など。

これらの作用の結果、気管支喘息、呼吸困難、鼻アレルギー、粘膜アレルギー、消化管アレルギー、じん麻疹、皮膚の炎症、アナフラキーショックなどのアレルギー症状が起きる。ひどい場合には死にいたる。


09.どうしたら抑制できるのか


薬を飲む、アレルゲン除去食を利用する、体内に少量のアレルゲンを入れて過敏症を治す、心身を鍛える、などがあるが、”これ一発”といった、治療法はないのが現状であろう。

大切なことは、アレルギー反応のメカニズムを理解し、自分に適した食生活を構築することではなかろうか。ただ、幼児に関しては、まだ内蔵機能が十分に機能していないので、成人以上の細心の注意が必要となる。

アレルギー反応のメカニズムから考えて、以下の方法には合理的根拠があると思われている。

(1)遺伝体質を考える:

両親が共にアレルギー体質なら50%、片方なら30%、両方無いなら15%の確立で、アレルギーが発生すると言われている。

(2)幼児には細心の注意を:

2歳ぐらいまでは内蔵機能が未熟のため、成人以上の注意が必要。体質によっては、アレルゲンに対して感作をさせないようなアレルゲン除去食などを選ぶことも必要。

(3)アレルゲン分子の分解:

アレルゲンになり得る分子量は5000以上とされているので、小さく分解してしまえば良いのである。

消化酵素の役割:体内に摂取された食物は、胃や小腸で消化酵素によって分解されてから吸収されるが、十分に消化されないと、アレルゲン物質が残ったまま腸管に入る。「心身を鍛えてアレルギーに勝つ」という作戦は、「心身を鍛えれば消化酵素がバッチリと出てくる」と思うのではなかろうか。2歳以下の幼児に「心身を鍛えろ!」というのは無理な話しであろう。2歳以下の乳幼児に食物アレルギーが多いのは、腸管機能が未発達のためである。したがって、アレルギー体質の遺伝が考えられる場合は、あまり早くからの離乳食には問題があるとされている。2歳以下の乳幼児に対して、「心身を鍛えろ!」なんていう、精神主義を強制してはいけませんよ。

発酵菌の役割:乳たとえば、酸菌はヨーグルト、チーズ、みそ、しょうゆ、漬物に利用される微生物である。発酵過程でアレルゲンは分解あるいは変質する。また、ビフィズス菌は腸管においてIgA生産を増強する。これはアレルゲンと結合して体内への侵入を抑制する。腸管の特徴に免疫グロブリンAの存在がある。IgAは食品抗原をはじめとする外来抗原が、腸壁からそのまま体内に侵入するのを防いでくれる。これは、遺伝的IgA欠損症の人には、食物アレルギー症が多いことからも分かる。

(4)食物とアレルゲン

鶏卵:
卵白は加熱処理によってアレルゲン活性が低下する。しかし、オボムコイドの失活は不完全。卵黄は卵白よりアレルゲン活性は弱い。

牛乳:
低アレルゲン化ミルクが市販されている。

大豆:
交配・育種によってアレルゲンをもたない品種が開発されている。
納豆、味噌、しょうゆなどの発酵製品にはアレルゲン無し

米:
玄米より高度精白米がよい。米の外皮にはアレルゲンが多い。

その他:そば、こんにゃく、ピーナッツ、コーヒー豆、エビ、ゼラチン・・・

(5)サイトカインの抑制

免疫反応において、サイトカインと総称される重要な物質群がある。しかし、アレルギー反応の元となる免疫グロブリンIgEの生成過程で、重要な役割を果たすのもサイトカインである。このサイトカインを上手にコントロールすることによって、免疫グロブリンIgE生成量の制御、肥満細胞からの顆粒放出の抑制、アレルギー症状の軽減などが可能となるであろう。また、我々が何気なく食べている食物の中に、サイトカインの抑制効果を持つものがあることに気付く必要がある。しその葉、魚、乳酸菌、緑茶、ウーロン茶、コーヒ・・・


感想:

昨今のグルメ指向の流れに悪乗りして、むやみやたらと、美味しいもんを食い漁るのは良くないことと思う。何故ならば、弥生人の末裔たる日本人にとり、西欧的”うまいもん”なんかに対して、肉体が対応できないのは当たり前。むしろ、昔の人が食べていた食品の中に、新たな価値を見出して欲しいものである。

免疫化学は”凄い”が故に、使い方を間違えると大変なこととなる。

かって、核物理学の政治・軍事的利用によって核兵器が開発され、我々だけが、その残虐性を身に沁みて体験した。また、その恐ろしさの残影は、我々民族の細胞の中に、遺伝子配列の特異性として、沈黙の刻印が為されているはずである。

免疫化学はどのような福音と影の部分をもたらすのであろうか。食を通じて、特異的・人種淘汰も可能とする学問領域である。「暴力支配的世界観や同戦略と合体したら恐ろしいな」と思うことがある。

最先端の遺伝子化学と免疫化学の複合化によって開発される有機兵器は、想像を絶するものがあり、すでに、その渦中で生活しているような気もするのである。


10.参考資料

免疫化学:大沢利昭編集、南江堂、1983年7月15日第1刷発行。
免疫学入門:狩野恭一著、東京大学出版会、1995年8月21日第3版第2刷発行。
免疫学概説:D.M.ワイア/J.スチュアート共著、共立出版株式会社、1999年4月15日初版第1刷発行。
サイトカインの秘密:山崎正利、PHP研究所、1999年7月5日第1版第1刷発行。
アレルギー性鼻炎と花粉症:斎藤洋三編、有斐閣、昭和59年12月25日初版第1刷発行。
食品アレルギー:上野川 修一、講談社、1992年9月20日、第1刷発行。
からだとアレルギーのしくみ:上野川 修一、日本実業出版社、1998年6月5日初版印刷。
食物アレルギーがわかる本:上田伸男編著、日本評論社、1999年4月15日第1版第1刷発行。