返還祭の前夜

 小笠原返還40周年返還祭の前夜祭が始まった。 5年遅れて返還されたので、母島返還は35周年になる。 後ほど聞いたのだが、母島では毎年返還祭を行っていたようだが、父島ではそういうイベントは表だってはしていなかったのだそうだ。 そんなに行事はないのだろうから、母島にとっての返還祭は、自然に島民に溶け込んでいるように思えた。
 夕食をとって宿に戻って休んでいたら、同宿のダイビングで来ている人たちが帰ってきて、いいものを見たという話を聞いた。 アオウミガメが前浜に上がって産卵をしていたというのである。 自然に産卵しているのは見たことがなかったので感動したというのだ。 そして、産み終わったところで、もう一匹上がって穴を掘り始めている所だと話してくれた。 まだ掘り始めた所だから、あと3時間くらいはかかるというのだ。 見たい、と思った。 もしかしたら、一生そんな機会がないかもしれない。 これからもうんとあるかも知れないのだが。
 行ってみると、数人の人たちが堰堤の上から眺めていた。 子供たちもカメがいると大きな声を出していて、親がシーといってもなかなか言うことを聞かない。 フラッシュはカメを驚かすので、カメラの夜のモードをいろいろ切り替えながら遠くから撮して見つめていた。
 1時間くらいして、カメの動きが少なくなった。 産み始めたというので、そっと後ろから寄っていった。 カメの目にフラッシュの光が当たらないようにと、慣れた感じで撮影を始めた人がいたので、こちらも便乗して撮らせてもらった。 何枚か撮ったところで、またみんな離れていき、多くの人たちはそのまま帰ったが、海に行くまで見ていようとその場に残ることにした。
 掘るときと比べると、埋め戻す時間はすごく長く感じられた。 まわりに植物が沢山生えているので、なかなか砂がかけないのだ。 すこし砂をかけてはしばらく休み、を繰り返して1時間ほど経過し、ようやくゆっくりと海に向かって歩き始めた。 早寝早起きしかすることのない母島で、深夜1時を回っていた。 最後まで見届けていたのは2人だけだった。
 多くの人がいるうちに、あの卵は保護されるのか尋ねたら、父島ではレンジャーがすぐやってくるけど、母島は目印をつけておくだけみたいだとの答えだった。 それでは心配だったので、眠くても残っていたので、浜に流れ着いている木の枝で大げさに囲いを作った。 翌日、掘り返されているのを見て安心した。 同室の人が大学時代のサークル仲間が島レンジャーをしていて、その誘いで母島に来たという話を聞いており、その島レンジャーさんにも会っていたので、直接連絡したわけではないのだか、なんだかホッとしたのだ。 人が住んでいて、島でも一番騒がしいところに産卵するんだという事が、小笠原という所の魅力なんだと実感した出来事だった。

前夜祭の会場 出店が並ぶ
やきそば200円 子供たちに人気
かき氷どれでも100円 前浜にアオウミガメがあがってる
子供たちが見つめる中で... しーっ、静かにね...
どんどん掘ってる 動きが止まったかな?
砂をかけて 海に帰ります
草が絡んで動きづらい 疲れたのかな
海の方向は間違えてません 翌朝撮した雨の足取り

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