贈られたTeX組み版の講義録について

 まず、お断りしておきますが、これは講義ではありません。私のホームページ「現場主義のジンパ学」をね、TeX、テックとかテフと読みますが、テキストファイルを美しく印刷するためのフリーソフトを使って本にしたら、こんな感じで読めるという見本です。
 旧満洲の小学校の同窓会でお会いするたびに、このホームページを読んでいる大先輩から「尽波よ、いつまでも生きてると思うな。早く本にしろ、本を出せ」とハッパを掛けられます。でもねえ、まだ研究は思う半ばでしかなく、よしんば今出したところで、後の人に蓄積不足と酷評されること必定で、まだまだ本には仕立てられません。しかし、ある時点でまとめて本にしようと考えていることは事実です。
 そんな私の気持ちを見抜いたかのように、奇特な友人が「本に仕立てたら、こんな風に読めるよ」と、講義速記の一部をTeXで組み、PDFにして送ってくれたのです。ご本人は公開するとき「編集者から」と「あとがきにかえて」は削除してもよいといってきましたが、それがまた面白いのです。
 もし、その部分を削除するにしても、PDFファイルは鋏で紙をチョキチョキ切りるようなぐあいにはいかないのです。ソースの段階で削除して、改めてPDFに加工しなければなりません。それぐらい朝飯前でしょうと可不可君は私のIT技術を見込んでくれたとは思うのですが、TeXはすっかり忘れてしまった。それでいて縦組みして見せたいという欲も出てきたのです。
 そこで早速頂いたままのPDFを公開することにしたのです。ところが思いがけないバリアーに阻まれた。それは我がホームページ「ジンパ学」の置き場所を無料で提供しているジオシティーのファイルサイズだったのです。なにしろお金はもちろん、ないないづくしの見本みたいな文学部同窓会のやることです。
 ホームページを作るなら、無料のサーバーをお借りするしかない。書き手も作り手はただ働き。そこで私どもが乗りだして、URLが長くて覚えにくいが、50メガバイト借りられるジオシティーを選び、ホームページのアトラクション的読み物として、この「現場主義のジンパ学」の連載を始めた、という話は講義でやりましたっけね。
 今回友人が作ってくれた組み版見本のPDF、わかりますね、アクロバットリーダーで開いて読む電子文書です。そのPDFのサイズが14メガバイトだったのです。ジオシティーは、ファイル1本が5メガバイトを超えると受け付けないとは、知らなかった。そんな長い講義のページはありませんからね、送ってみて初めて知ったのです。ぜひPDFを皆さんに見せたいが、しかし、そっくりは入らない。どうすればよいか、悩みましたね。
 さて、私がどう対処したかを話す前に、そのTeX組み版をしてくれた人を紹介しましょう。作成者は、生涯学習を実践している中年大学生、パソコン通信時代からの古い友達です。皆さんは知らないだろうが、メーリングリストが出来る前は、電話回線を使ってメール、文書をやりとりするパソコン通信という仕組みを使ったのです。
 何百万という利用者がいる大手のパソコン通信ネットに対して、ごく少数の仲間でやっていたネットを草の根ネットと呼びましたが、そこで知り合った可不可君がTeX組み版の制作者なのです。あのころは電話の受話器にカプラーを付けて300ボーぐらいでに送り受けした。送られてくるメールがモニターでそのまま読めた。皆さんには信じられないでしょうな。
 可不可君はジンパ学の受講生ではないけれど、あるとき私と話したことから「現場主義のジンバ学」の講義速記を熟読して、私の旺盛なる探求心に感心したそうだ。それで、いずれ講義録を出版する際の参考にと、こういうすばらしいお年玉を作ってくれたのです。なんせ彼はベテランのプログラマーですからね。
 私は一読して可不可君の「編集者から」と「あとがきにかえて」が、とても気に入ったのです。彼は私の諧謔好みを知っているから、それに合わせた筋立て、文体は秀逸といってよろしい。レポートならこれだけで最高点を付けますね。
 皆さんにはわかるかどうか怪しいが「我ら少国民」世代にノスタルジアを覚えさせるべく、耳タコで聞いていた慣用句をちりばめたり、漢文の素養をちらつかせたり、その辺のエッセイストも真っ青、酸いも甘いも噛み分けた彼の年輪がくっきりと見えます。
 北大初のノーベル賞受賞者、化け学の鈴木先生は「誰もやっていないことをやれ」といわれておる。ジンバ学は、鈴木カップリングとはスケールがちと違い過ぎるけれど、筋糸入りの北大マンである私が不言実行して生まれた学問なのです。可不可君のPDFプレゼントも広い意味で誰もやらないことに入りますね。
 私としては、研究の成果を話してホームページで公開するだけでなく、未公開の分も加え、いずれは本にして世に問うつもりでおります。可不可君作成のこれは横組みではあるが、ジンパ学概論、いや総論にしたいな。未来のその本の雰囲気教えてくれるありがたいものでした。
 もしジンパ学を単行本にしたら、横書きなり縦書きなりで組み版したページを読むことになり、その印象は、今読んでいるホームページとかなり異なるはずです。尽波さんはこんなことを伝えようとしていたのかと初めてわかることがあるかも知れません。ともあれ文書の読みやすさについて諸君がいま知っておくことが将来役立つと思うので、可不可君の望むところではなかったかも知れないが、あえてここで公開するわけです。
 諸君にとっても、これはまた一つの教訓でもあるんですよ。可不可君も書いているけれど、レポートはね、ただ長く書いてプリンターで打ち出して、締め切り日まで提出すればよいというものではない。常にだ、もう一ひねりする余地はないかと考えるサービス精神、文体にも凝る余裕を持ちたいものです。
 受け取る相手の手の内を調べ、それに合わせて書くという気持ちです。私の学生時代、試験ではなんでもフランス革命のことを書けば単位がもらえるという西洋史の先生がおられましたね。ありがたく書かせて頂きました。新聞記者だった旧友の自慢話ですが、わざと削られることを付けておくとか、ごくごく短くとか、その日のデスクの好みに合わせた原稿が書けたそうです。可不可君のこれは私に合わせたお手本、服に例えればオーダーメイドです。
 ちょっと繰り返しになるけれど今回、可不可君はメール送りする都合もあってファイルをPDFで送ってくれました。皆さんも知っての通りPDFは、アクロバットリーダーがないと開いて読めません。もしPDFでなく、GIFかJPGかPNGのどれかの画像なら、写真としてブラウザーでそのまま読めます。それでね、私は同じものをPNG画像にしてホームページに張り付け、講義速記と同じように読めるようにすることを思い付き、元日公開予定と目次に書き込んだ東京・成吉思荘の講義速記の手直しをストップしてだ、可不可君にソースも送ってもらい、泥縄ではありますが、TeX組み版の勉強を始めたのです。
 可不可君の「編集者から」を読んでもらえばわかるのですが、彼は縦書きをやりたかったが「ほんの一部をA4横組で作っております。でも、これだけで精魂付き果てました。」と告白している。彼でさえ縦組みは苦労したらしいが、私は教師としてだね、可不可君の横組みと同じところを、なんとか縦組みにしてPNGで比べて見せたくなったのです。いまいったばかりの、もう一ひねりする精神ですよ。
 私も昔TeXをかじりましてね、書棚を探したら平成6、7年ごろの参考書がぞろっと出てきた。かの奥村晴彦先生監修の「LaTeX入門 美文書作成のポイント」も出てきた。序をみると、パソコン通信でダウンロードしなくても「ディスク付き本やCD−ROM、ディスクサービス、雑誌付録などで簡単にTeX関連ソフトが入手できるようになりました。(1)」と書いてあります。それからざっと15年、もっと変わっています。
 ところが、それらは横書き主体の話であって、日本語の縦組みはあまり進んでいないらしい。パソコン本が充実していると定評ある某書店でさえ、縦組みは藤田真作著「PLaTeX2ε入門 縦横文書術」という10年前の本が1冊残っていただけでした。
 筆者の藤田さんが「和書としてのページレイアウトのほとんどがpLaTeX2εで実現できることが確かめられたことになる。(2)」というから、この本は縦組みのサンプル、本なんだから文字通り見本だよね。はっはっは。ともかく買って読んだら藤田さん、とっくに定年で大学にいない。大学改革で大学のサイト名が変わり、縦組みパッケージを置いておく予定と書いてある研究室のホームページがないんだなあ。検索して藤田さんの新サイトは見つけたましたがね。
 おっとっと、脱線だ。とにかくあまり遅くならないうちに、可不可君の資料を公開するには少なくとも3分割してジオシティーに送らねばなりません。ところが、いざやってみると、それすらエラー続出でできない。やっと受講呼びかけとオリエンテーションのところを切り離すことに成功したので、可不可君の趣旨説明も一緒にして横組みのまま公開することにしました。
 そのサイズは363キロバイトです。可不可君のPDFは全体で14メガバイトからみると3%足らず。いかにレトロ坂会館関係の鍋の写真がかさばるかわかりますね。すでにジオシティーの記憶容量は残りが26メガぐらいになっているので、レトロ坂のPDFは追加しますが、私が見せようとしている縦組み見本や新しいページが増え次第、減らさなきゃならんから、また見に来て出ているうちに見ておいて下さい。
 ジンパ学の場合、縦組みでも写真を入れたレイアウトの方が大事なのだが「縦横文書術」は顔写真を入れる空欄のある履歴書のレイアウトの例しかない書いていないのです。でも漢文、漢詩の組み方も取り上げているので、それを勉強して細川潤次郎がサンフランシスコでケプロンと会ったときの漢文の日記を取り替えましょう。あれはそう長くないけど、HTML語で縦書きで再現するのに苦心しましたからねえ。 
 私の泥縄的勉強で縦組みのページなどは出来上がったら追加します。下記の文字列をクリックすれば可不可君の講義速記録PDFの一部が読めます。 1枚目は表題で上半分が白いので読み損ねたと慌てないで下さい。またマシンによっては、筆者近影などとしている鍋の絵の色が出るのがちょっと遅くなることがあるでしょう。わかりますね。

  <現場主義のジンパ学(横組みPDF版その1)
  
  

参考文献
上記(1)の出典は奥村晴彦監修・室政和、深谷庄一、富樫秀昭、嶋岡宏明、姉崎章博、山本和義著「LaTeX入門 美文書作成のポイント」初版2刷Bページ、平成6年12月、技術評論社=原本、(2)は藤田真作著「pLaTeX2ε入門 縦横文書術」5ページ、平成12年4月、ピアソン・エデュケーシヨン=原本