昭和30年代から羊肉+野菜となったのだ

 はい、始めます。いまはジンギスカンといえば、羊肉だけでなく必ず何か野菜も焼く。北大ジンパの定番はモヤシだよね。いやもう野菜どころかシメと称して、深い周環の鍋でうどんだのラーメンの麺を煮るのが道民のジンギスカンだと唱える人々がいて、テレビのなんとか県民ショーでその実演を見ました。
 まあ、これが絶対に正しい作り方だというような料理じゃないから、お好きなように、としかいいようがないけど、ジンギスカンのレシピを遡ってみていくと、野菜なしで肉しか焼かないジンギスカンになるということは、戦前のレシピで話しました。
 英文学者市川三喜夫人の市川晴子は、昭和8年以前らしいのですが、夫婦での世界旅行で中国に寄りジンギスカンを食べ「文芸春秋」に「食べ物春秋」を書いてます。「北支の『ジンギスンン鍋』は豪快なな食物だ。降るやうな星空のもと、野天に牛糞の烈火を起して、上に高く鐵格子を渡す。人々はそれを囲んで、片足を焚火の廻りの横木にムヅと踏みかけて長い箸でソースに漬けた羊肉をジリ/\と焼いては、只もう専らそれ許りを食べる。蒙古放牧民の、粗野剛健な、線の太い料理である。(1)」。ただもう肉ばっかり、ジンギスカンが沙漠の露営で食べたという俗説の通りだったとしてもだ、椎茸だのエリンギだのあるわけない。はっはっは。
 冬休み前に、かつて日本人がジンギスカン料理の本家扱いした北京・正陽楼の写真を見せる講義を予定していますが、それでは野菜は薬味の葱とセリ、つまみのニンニクだけです。大正8年に正陽楼で食べた地理学者の那波利貞は「漿液中には我が芹に似たる疏菜を切り込みあり(2)」と書いているから、このセリはコリアンダーでしょうね。
 このコリアンダーが日本では手に入れにくかった。一戸伊勢子の「羊肉の網焼き」は、好みによっては漬け込み汁にセロリを入れるでしたが、糧友会レシピでは水にさらした微塵切りの葱を盃1杯となり、このレシピが主流として戦後まで続いた。山田喜平は昭和12年から糧友会のタレに果汁を加えたタレを広め始めました。
 でも、かつてはお父さん、おじさんたちの酒の肴だったジンギスカンがね、敗戦で大日本帝国憲法が日本国憲法に変わったように、飯のおかずとしても食べられるようになったことを示すのが、こきょうの講義の狙いです。
 いまいったように日本が連合国に無条件降伏をした翌年、昭和21年に「汝臣民、飢えて死ね」というプラカード事件で知られる食糧メーデーがあったし、22年には九州の方で裁判所の判事が闇米を買わず栄養失調で死んだがくらいで、料理どころではなかったと思いますが、想像だけでものを言っちゃあいかん。国会図書館サーチで当たってみました。
 「料理」という名詞を含み昭和20年に発行された書誌は10件だが、8月15日以降は雑誌2件と新聞記事1件。「婦人之友」8・9月合併号は沢崎梅子の「さつま芋料理」であり「婦人倶楽部」8月号は筒井政行の「おいしくて消化しやすい大豆、たうもろこしの節米料理 」で検出されたと思うが、筒井の「どんぐりの榮養と頂き方――どんぐりを盛んに食べませう」と小林完の「冬にそなへて乾燥野菜、野草の作り方、貯へ方、頂き方」も載ってます。新聞記事は20年8月23日付秋田魁朝刊2面の「芸妓屋、料理店食堂など開店」でした。
 翌21年になると、少しは余裕が出たか増えて38件です。レシピが載っていそうな単行本は北川敬三著「新しい西洋料理の作方百三十種」、料理研究社編「野草のおいしいたべ方」、沢崎梅子著「家庭料理基礎篇」の3冊で、 ほとんど雑誌でした。月別に雑誌名と料理と食生活関係とみられる記事のタイトルを表にまとめたのが資料その1。キーワードが料理だけだから、例えば「芋食と芋辨當の作り方」は入らず、レシピでない随想が入っているかも知れません。

資料その1

【1月】
★婦人倶楽部 我が家の新年料理
       座談會 食生活はどうなる

【3月】
★婦人倶楽部 燒物揚物炒物の仕方
       中華風料理十種
       パン食の榮養的な頂き方
★主婦と生活 野草料理の祕訣
       電氣パン燒器の作り方

【4月】
★婦人倶楽部 山菜のク土料理二十種
       主食になる粉食料理
       カロリー計算の仕方

【7月】
★婦人倶楽部 山菜のク土料理二十種
       主食になる粉食料理
       カロリー計算の仕方
       榮養失調の原因と手當法
★主婦と生活 主食としての小麥粉と馬鈴薯の完全な食べ方
       野草料理の祕訣
       電氣パン燒器の作り方

【8月】
★食生活   未利用資源の食品化
       パンの蒸し方・焼き方
       食糧不足と近代醫學
       馬鈴薯とトーモロコシの料理
       手廻製粉器と電氣炊飯器
★それいゆ  お菓子と料理

【9月】
★婦人倶楽部 配給罐詰類のお料理
       パン食の科學と新榮養補給法
       たうもろこしの頂き方

【10月】
★座右宝   南佛の精進料理
★婦人文庫  おいしい甘藷料理二十五種

【11月】
★主婦と生活 料理風土記
       榮養たつぷりな鯨料理
       お客様料理いろいろ
★婦人之友  結婚式のお祝ひ料理
★婦人文庫  變り御飯とランチ料理
       米と甘藷の榮養價

【12月】
★主婦と生活 白菜と大根の食べ方
       わしが國さの自慢料理
       十二月の惣菜料理
       十二月の惣菜料理 //66〜68
★生活科学  暖まる料理
       輸入食糧の使ひ方
       貯藏南瓜の新加工法
★食生活(11月・12月合併)
       温い榮養鍋料理
       輸入食糧の食べ方
★婦人之友  北平の白菜料理
       電氣炊飯器の實驗
★婦人文庫  温い鍋料理いろいろ
       榮養知識の調査を見て
★それいゆ  夢のやうなお料理

 昭和22年は118件、23年は199件、24年は236件と増えてます。22年には短編「じんぎすかん料理」を含む「久保田万太郎全集」の14巻、随想「正陽楼の成吉斯干料理」を含む大河内正敏著「味覚」が出版されてます。いずれも忘れていたジンギスカンを思い出させたり、羊肉はこういう食べ方があると教える本ですね。
 満鉄調査部長駒井徳三がジンギスカン料理と命名したという誤った命名説を発表した札幌の味覚研究家、日吉良一は「第二次大戦後、北海道知事田中敏文氏の肝入りで札幌の精養軒が二十二年の夏はじめたのが第一号ということになつているが、実はそれより以前の昭和十年ころ狸小路にあつた『横綱』という飲食店ではじめていたとの説もある。(3) 」とタウン誌「札幌百点」に書いているので、昭和22年の北海道新聞と夕刊北海タイムスを読んだけど見付かりませんでした。
 昭和22年の夏という日吉説の根拠はわかっていませんが、この年の4月、北海道知事選挙があり全道庁職組合委員長だった田中敏文が北大名誉教授の有馬英二を抑えて初代知事(4)になりましたが、当選したばかりで精養軒のジンギスカンの面倒を見る余裕があったとは考えにくい。さらに7月からは「飲食營業緊急措置令の運用に関する件 経済安定本部訓令第8号」として、この年の7月から年末まで「闇米根絶の一策として外食券食堂・旅館等をのぞき,全国料飲店営業を禁止(5)」させられたのです。違反すると3年以下の懲役か5万円以下の罰金(6)でした。このため飲食店は、米をはじめ闇市場で食材を仕入れて闇營業をするか、氷水などを売ったり休業したりして解禁まで食いつなぐしかなくなったのです。
 この措置令は何度も延長されて昭和24年まで続いたことは、資料その2(1)の記事からわかりますね。でも精養軒はホテルですから「旅館等」に該当しますよね。それで私は精養軒は「特別食堂」として申請して「主要食糧を原料としない料理にかぎり内部が通路からみえる設備」をして許可を得たのではないかと考えます。羊肉の公定価格は昭和21年8月20日から100匁25円(7)と決められ、形だけだったかも知れませんが、23年10月8日の廃止(8)まで維持されたのです。
 こうした情勢を読んだか、精養軒は飲食物を持ってきた客に場所だけ提供することにすれば飲食營業緊急措置令の違反にはならない、また煮炊きするなら特別食堂の設備でやってもらえばいいと考えたと思うのです。昭和23年暮れの北海タイムスに資料その2(2)の広告が載っています。右上端の小さい字で「持込歓迎」という1行を入れて積極營業に乗り出したとみられるのです。
 この広告を見付けて、すぐ住所が変わっているのに気付きましたね。私は以前の講義で、達本外喜治という随筆家が達木久門というペンネームと合わせ、少なくとも4冊の本に、ジンギスカンは「昭和十年ごろ、当時大通りの五丁目にあった精養軒ホテルで始めていた。(9)」と書き、5冊目から「西四丁目」と変えて3冊に書いたと指摘したことがあったからです。広告の「南一西三(仲通り)」は、いまのパルコの後ろ辺りですよね。
 調べたら精養軒ホテルは昭和19年に火事で焼け、すぐ移転したのか、そのまま休業して戦後再建したのか、新聞記事からではわかりません。達本は後に「札幌で流行しだしたのは昭和十年ごろ。畜産試験場のキモいりで、狸小路の「横綱」という店で試食会をはじめたのが発端とか。私は同じ時代に、当時大通りの西四丁目にあった精養軒ホテルで食べた記憶がある。(10)」と精養軒元祖説をあいまいにしましたが、こういうホテルですから、火災関連記事を資料その2に加えました。火事の記事とコラム「望楼」はくっついており、精養軒の火事を意識して書いたと思われます。なにしろ、創成川の橋10個所を壊し、鉄筋を取り出して供出するという記事が(11)載っている戦時中です。非常時といってましたが、その非常事に火事を起こすなんて、とんでもないことだったのです。
 精養軒の火事が載っている3面の裏の4面には、日本銀行札幌支店、北海道紙芝居協会、坂野太泉堂、井上病院など9件の謝近火御見舞の広告が載っています。また精養軒はどうしたのかと見ていったら18日に候文の大きなお詫び広告を出していました。
 ああ、それから新聞記事と広告の掲載日付けと掲載面は、すぐわかるように参考文献に入れず、それぞれの末尾に付けました。

資料その2

(1)
料飲店閉閉鎖  更に明年
        四月まで
   五月からそば屋・國民酒場新設

【共同】料飲店の閉鎖期間は四月
末日で切れるので政府はその後の
措置について二十六日の閣議で飲
食營業緊急措置法案を決定近く国
会に提出する法案の内容は従来禁
止されていた料飲店などはそのま
ゝとし新たにそば屋、特別食堂、
国民酒場などを許可する方針で期
間は來る五月一日から二十四年四
月三十日までの一年間とされてる
 新たに許可されるそば屋は六大
 都市に限り外食券使用を条件に
 許可し特別食堂は学生、勤労者
 など特殊の地域にかぎり主要食
 糧を原料としない料理にかぎり
 内部が通路からみえる設備をさ
 せてヤミ料理の提供を防ぐ一方
 国民酒場は設備は特別食堂と同
 じ条件で非配給食糧をつまみも
 のとして出すことができ価格は
 自由販売特別価格に利潤を加算
 されることになつている
(昭和23年3月29日付<夕刊紙>北海タイムス1面=マイクロフィルム、)


(2)

       
(昭和23年12月23日付<夕刊紙>北海タイムス2面=マイクロフィルム、)


(3)
札幌精養軒の火事

十五日午後三時十分頃札幌市南大
通西四丁目精養軒ホテル(青木チ
セ方)二階天井裏から発火二階及
三階客室百五十坪を焼いて午後四
時二十分鎮火した、損害約二万圓
(昭和19年1月16日付北海道新聞朝刊3面=マイクロフィルム、)
 

(4)
3面コラム[望楼]

全道警察署警防主任
会議で提示された昨
年一箇年の全道の火
災統計によれば件数
六百五十件、焼失戸数八百六十
戸、損害一千五百万圓といふ厖
大なものである▼その火災の原
因についてみれば悉くが不注意
から発生していることで関係當
局も腐心してゐる▼いま国民は
決戦を勝ち抜くために凡ゆる
苦難に堪へ、生産の増強や貯
蓄強化に総力をあげてゐる一方
に不注意からこのやうな莫大な
財物を一片の煙に化し戦力を阻
害してゐる事実に一般が注目を
払ふ必要がある▼空襲火災に対
する態度は幾度かの訓練で大体
判つたといふものだが隣組もこ
の辺でお互が”火の元用心”を
もつと真剣に考慮したいものだ
(昭和19年1月16日付北海道新聞朝刊3面=マイクロフィルム、)
 

(5)   御詫
此の度の失火に際し多大なる御
迷惑を相掛け誠に恐縮に存じ候
早速御馳付の上御儘力を賜り候
段有難き極みに存候一々御拝眉
の上御礼申上ぐべき處混雑の為
致し兼ね候へば乍失礼紙上を以
て御詫を兼ね厚く御礼申上候
  昭和十九年一月十八日
    札幌市南大通西四丁目
      精養軒ホテル
(昭和19年1月18日付北海道新聞朝刊3面=マイクロフィルム、)

 「持込歓迎」広告を見てかどうかわかりませんが、道庁の畜産関係者が精養軒の貸席に目をつけ、初ジンパを試みたらしい。だいぶ後から店主の青木チイさんに話を聴いて書いた記事が毎日新聞と朝日新聞にあるので、そこを抽出しました。資料その2(3)の火事の記事でオーナーは青木チセですが、このように毎日、朝日とも青木チイという人がオーナーになっているので、チセは誤りかも知れません。
 資料その3(1)の毎日の記事は鋤焼きのようなものかと見ていたら、ストーブのロストルみたいな鍋から煙もうもうで仰天した様子、同(2)の朝日からはフライパンや鋤焼き鍋などで焼いたことが察せられます。朝日の記事には青木さんの名前がないけど、本多記者の「この本は『次の方々の御協力を得てできた』として挙げた人名リストに入っています。
 一方、東京では日本緬羊協会と一心同体の日本緬羊株式会社が、ジンギスカン普及の乗り出したのです。それが同(3)です。広い東京ですから何軒か満洲引揚げ者などがジンギスカン店を開いていたかも知れませんが、天下の日比谷公園でジュッ、ジーと焼いて食べさせたら抜群の宣伝になりますよね。
 一方、精養軒ホテルも昭和25年春「当店独特」とジンギスカン鍋を売り出した。同(4)が北海タイムスに掲載されたその広告です。この前後の道新も見ましたが、道新は広告料金が高かったようで、こうした札幌の飲食店の広告は少なく、精養軒の広告は見つかりません。これが戦後の道内で初めてのジンギスカン鍋という料理の広告といえるでしょう。資料その2(2)の広告は「精養軒ホテル」なのに、これは単に「精養軒」と変わっている。このころ、つまり昭和25年ごろ青木さんはホテル経営から飲食店へ業態換転をしたのですね。
 煙で部屋は煤けてもジンギスカンはよそにはない精養軒の目玉料理として売れるとみたと思います。この「当店独特」は札幌市内ではうちにしかない料理だという意味であり、この後、精養軒は「幌都唯一」札幌では精養軒だけだと広告でうたうようになります。
 戦後のレシビの変わり様を取り上げて講義するためには当然のことだが、準備しなきゃならん。だが、ジンギスカンの場合、研究者がいないも同然で、例えば札幌ではいつごろから鍋が買えたかなんて細かいことを調べた報告はない。だから私がマイクロフィルムの新聞を読んで調べるしかない。精養軒のこの広告を載せた北海タイムスは、いつジンギスカンのレシピを載せたのかと読み続けましたね。
 そして9月分を読んでいたところ資料その3(5)の広告を見付けたのです。瀬戸物屋が土鍋ではないけど鍋の類いだと仕入れたのか、滝川市郷土館にあるすき焼き鍋のような陶製鍋だったかも知れませんが、昭和25年には南2西3にあった満る実陶器店で鍋を売っていたことがわかったのです。
 精養軒は南1西3ですから満る実陶器店は隣みたいなもんだ。ジンギスカン鍋という鍋はないかと尋ねてくる人がいるので、満る実の主人が思い切って鉄鍋を仕入れたのか、とにかく陶器店なんだからね。札幌で最大の金物店、池内金物店ではなかったのは意外だ。それで池内はどうしたとレシピはさておき、25年9月からの北海タイムスのジン鍋広告を探しました。その結果、1年後の26年11月からとわかったんだが、きょうはレシピの講義なんだから、タイムス初登場のレシピと一緒に話します。

資料その3

(1)毎日新聞「北の食物誌」
 この店の.ジンギスカンなべも、道庁畜産課職員らの強い勧めでお目見えした。「そんなもの始めても売れるかしら」――女主人、青木チイさん(六七)(現在、札幌市在住)は 初め半信半疑だった。脂のきつい羊肉がロストルの上でジュージューと猛煙を噴き上げた瞬間「やめてください! お座敷が台なしになります」と、思わず悲鴨を発したものだ。


(2)朝日新聞「きたぐにの動物たち」
 敗戦直後ホクレン(北海道の農協の連合組織)や道庁畜産課の人たちが、「ヒツジの肉をなんとかうまく食おうじゃないか」と話し合い、いろいろ研究した結果、中国でやっているジンギスカン料理ってのはどうだろうと、札幌市の中華料理店「精養軒」で試食してみた。専門のナベがなかったから、それに似たようなものを薄いのや厚いのや持ちよって焼いたら、なかなかイケる。精養軒ではとにかく献立に加え、その後もとくにタレの研究を重ねた。これが大当たりだった。


(3)
 日緬會社
    ジンギスカン料理
    宣傳に乗出す

 肉羊處理は既に緬羊飼育経濟上焦
眉の問題として関係各方面でいろい
ろ研究がすゝめられているが、日緬
會社でもその設立當初からこれを一
大事業として採り上げることになつ
て居り鋭意準備中の處、愈々ジンギ
スカン料理の宣傳に積極的に乗り出
すことになり、先づ十一月十七日か
ら二十三月迄開かれる東京都産業振
興共進會の日比谷會場で「味覚の王
者ジンギスカン料理」と銘打つて一
般に廣く試食的に即売することにな
つた。それは面積三坪のニワカ料理
屋だがお銚子も立てゝジンギスカン
の芳香を日比谷公園一杯に漲らせ東
京都民の人氣を攫ほうという企畫で
あつて、この試の成否によつて肉羊
の生きる一つの途である處の都會人
士と羊肉の關係が窺える訳で、同社
でもこれにより更に肉羊の生産集荷
を大々的に事業化すると意氣込んで
いる。


(4)
      
(昭和25年3月10日付北海タイムス朝刊2面=マイクロフィルム、)


(5)
    
(昭和25年9月16日付北海タイムス夕刊2面=マイクロフィルム、)

  

参考文献
上記(1)の出典は文芸春秋社編「文芸春秋」17巻3号152ページ、市河晴子「食べ物春秋」より、昭和14年2月、文芸春秋社=館内限定デジ本、 (2)は史学地理学同巧會編「歴史と地理」10巻4号52ページ、大正11年10月、史学地理学同巧會=原本、 (3)は札幌百点社編「札幌百点」4巻5号25ページ、昭和37年6月、札幌百点社=原本、 (4)は北海タイムス社編「戦後の北海道 道政編」26ページ、昭和57年4月、北海タイムス社=原本、 (5)と(6)は山岡節男編「食品衛生関係法令集」105ページ、昭和23年8月、公衆衛生社=国会図書館インターネット本、 (7)は昭和21年8月16日付読売新聞朝刊2面=ヨミダス歴史館、 (8)は日本緬羊協会編「緬羊」9号5ページ、昭和23年10月20日発行、日本緬羊協会=原本、 (9)は辰木久門著「北海道の味覚」56ページ、昭和40年6月、札幌鉄道管理局=原本、 (10)は達本外喜治著「ほっかいどう 味の風土記」158ページ、昭和59年1月、北海道新聞社=原本、 (11)は昭和19年1月日付北海道新聞忠夕刊面=マイクロフィルム、 資料その3(1)は毎日新聞北海道報道部編「北の食物誌」118ページ、昭和52年7月15日<国会図書館の収納印による>、毎日新聞社=原本、 同(2)は本多勝一著「本多勝一全集」7巻51ページ、「きたぐにの動物たち」より、平成6年8月、朝日新聞社、同、 同(3)は日本緬羊協会編「緬羊」22号8ページ、昭和24年11月20日発行、日本緬羊協会、同、

 昭和23年当時、道内には全国の綿羊の6割を占める15万頭が道内で飼育されていました。もっと増やすため飼育の在り方を研究しようと、北海道緬羊技術連盟が結成され会報「緬羊とその技術」を発刊した。私の見るところ、その創刊号の「成吉思汗鍋のこと」が、戦後公表された最初のレシピですね。
 資料その4(1)がそれですが、昭和14年の「緬羊彙報」に山田マサが書いた「羊肉料理」のレシピ(12)とそっくり。違うところはパセリを芹に変え、酒の分量の書き方ぐらいです。種羊場関係者はたいてい鍋を持っていて、山田喜平か奥さんのマサのレシピをもとにして、ちょくちょくジンギスカンを食べていたと思われます。
 その次は資料その4(2)にしたのは富山青年師範学校教授の森乙松が「畜産の研究」に書いた料理法です。これは塩辛く味付けして煮た羊肉の細片を空き缶か広口瓶に詰め込み、脂肪分たっぷりの煮汁も入れ、脂肪が冷えて表面に蠟みたいな厚い層を作ることで密封する独自の保存法(13)の伝授に力を入れた報告です。写真のようになり、1年ぐらい保存できる。もし瓶内の脂肪層の表面にカビが生えたら削って捨てるとよいそうです。
 ジンギスカンの方は「糧食研究」という雑誌によるとしていますが、これは昭和12年の成吉思荘に聞いたレシピで、講義録「戦前の料理書に現れたジンギスカンの料理法」の資料その11に原文があります。それでは鍋の掛け方が「普通の鍋のかけ方とは反対に底を上になした方法で火にかけ」だったのを「底を上にした山形具合に火にかけ」と変えている。山形案配とか山形塩梅という言い方はありそうな気がするが、私は山形具合は初めてだね。
 同(3)は大島はま子による「回々料理」6種の中にあるジンギスカンです。大島は「回々料理は日本では餘り知られて居りませんが回々教徒の羊肉料理です。回々教は豚を食す事を禁じて居り其代りに羊肉を常食に使用しますので羊肉料理が殊に研究され山羊の肉及内臓の臭味を酒、にんにく、滷蝦油(ルーシヤユ)でぬきますと軽く美味しく頂けます。」といい「滷蝦油(ルーシヤユ)は海老を塩辛漬にした汁」だから「日本ではあみの塩辛の汁(14)」で代用するとよいと書いています。だからレシピの塩辛汁はイカの塩辛の汁ではないのです。
 同(4)は大島はま子と野村万千代による「中華菜」からです。料理実習でこの本を使ったとき書き込みができるよう囲みの中の空白が大きいのが特徴です。見開きになったページの左半分に上の囲みと栄養計算、右半分に下の囲みになっているのを再現したつもりだが、ブラウザーによってはカオヤンロウの行が半角ずれる。
 中国料理の種類の「回々料理」で「回々教徒の羊肉料理で、回々教徒は豚は用いず、肉類は凡て羊肉を食する。成吉思汗料理はこの料理である。(15)」と説明しています。、分量は「家庭のお総菜としては5人位が適当と思います。尚一皿料理の場合は、三人前になります。(16)」とあるので、3人前とみます。
 また昭和25年には読売新聞に新聞としては初めてのレシピが載りました。同(5)にしましたが、記事データベースのヨミダス歴史館を検索してわかったもので、肉150グラムは1人前らしいが、明記してません。栄研は国立栄養研究所の略称です。昭和20年から25年迄に出版された本や雑誌は少ないと思いますが、もしもジンギスカンのレシピを見付けたら、ぜひ私に知らせるなり、レポートに書いて下さい。次年度の講義に取り入れ、この講義録を通じて後世に伝えます。

資料その4

(1)

  成吉思汗鍋のこと

成吉思汗鍋は味では世界に誇る支那料理中の粹たるもので、本名
鍋羊肉(カオヤンロー)と謂ふ。野天に烈火を起して鐵格子を渡し、之で羊肉を
「ジリ/\」焼いて食べると言ふ。料理としては素気ないが粗野剛
健で羊肉料理の秘訣である強火で短時間に料理すると言ふ原則に
當はまり、味は上々栄養價値は滿々而も長く後口に餘韻を残す處
に魅惑がある。此の成吉思汗鍋は西歴一一四〇年代の中葉蒙古の
一大英雄成吉思汗が白馬に鞭ち大軍を叱咤し中央アジヤを席捲し
欧洲の中原を風靡した時、部下の将兵と共に行く先々で羊を屠り
盾を焼き、その肉を焙り、高梁酒を傾けながら今日の勝を誇り、
明日の策を練つたことに由来して居り名も何時しか「ジンギスカ
ン鍋」と稱へられる至つた。
   料理法
 (一)材料 羊肉(肩、股肉)三百匁、醤油一合、リンゴ汁三勺、
蜜柑汁、生姜汁、芹、七味唐辛子、味の素、砂糖少々、胡麻油少
々、酒少々
 (二) 羊肉はスキ焼切より稍厚目に切つておく、各種の搾り
汁に醤油一合、酒三勺の汁を作り混ぜ合せ、味の素少々に砂糖茶
匙一杯を入れ、七味唐辛子を少しふり味を調べる。芹や葱は微塵
切りとし前記汁と合せ、その中え羊肉を二、三十分漬けておく。
一方七輪え炭火を起し、火が落ち付ついたら成吉思汗鍋をかけて
肉が焦げつかぬやうに胡麻油等を塗つて、汁より取り上げた羊肉
を鍋に載せて焼きながら食する。
 註 肉を度々裏返して焼くと肉汁が火の中え落ちて味が悪くな
るから、肉は七分通り火が通つた處で裏返しさつとあぶる、此の
程度が一番美味しい。
(北海道緬羊技術連盟編「緬羊とその技術」創刊号26ページ、昭和23年8月、北 海道緬羊技術連盟=原本、)


(2)
   羊肉料理法
sibousou
 羊肉の料理法  羊肉料理
の代表は,何んといつても成
吉思汗鍋であろう。之は成吉
思汗が大軍をひきいて満蒙か
ら北欧を征服した際に将士の
労をねぎらう為に羊を屠つて
かぶとを火にかざして肉を焙
つて食べた野戦料理をまねたもので,分厚い鉄かぶと状
の鍋に数條に穴をあけた特製焼鍋で,普通の鍋のかけ方
とは反対に,底を上にした山形具合に火にかけ,その上
に油をひいてスキ焼の肉のように切つた肉をのせて焙り
(特製の鍋のないときは線太の魚焼網で代用する)多様
の薬味を混ぜた汁につけて食べる。料理法を示せは次の
ようである。(糧食研究 No.131p.48参照)
(材料) 羊肉(腿、肩肉)300匁(1kg位)
(五人前) 汁,醤油1合,林檎汁1個分,酒五勺,蜜
柑汁3個分,砂糖,味の素少量
(薬味) パセリー,生葱一本,生姜皮付10匁,ユズ
の皮,以上をきれいにみじん切りする。
(方法) 汁を合せてこれに薬味を混ぜ,その中にスキ
焼のように切つた肉を十分程度浸しておき,鍋を熱くし
てその上に胡麻油又は豚脂を塗り,用意の肉を広げ裏返
して大抵焼けた所を薬味の入つた汁につけて食べる。
(養賢堂編「畜産の研究」4巻4号35ページ、高森乙松「緬羊肉の簡単な自家貯蔵法と料理法」より、昭和25年4月、養賢堂=原本、)


(3)

4、烤羊肉(カオヤンロー)(直火焼)成吉思汗(ジンギスカン)料理

 材料 羊肉薄切り二百匁、酒中さじ二杯、醤油中さじ三杯、塩辛
汁小匙二杯、にんにく一片
 羊肉は薄く大きく切ります。にんにくはおろし金でおろし、酒、
醤油、塩辛汁にて付汁を作り羊肉を付汁に漬け、直火に金網を載せ
金網に油を少し引いて羊肉を焼きます。初めに金網に油を引いて置
きますと肉が網につかずきれいに焼けます。此料理は肉の脂肪やつ
け汁が火に滴れて煙が出ますので屋外で頂きます。焼加減は各自の
好きな様に焼きます。中華民国の方は強火で焙る位を好まれます。
余りおいしいので一人で百匁以上頂けます。代用品には鯨肉も美味
しいものです。
(栄養と料理社編「栄養と料理」14巻11号19ページ、大島はま子「回々料 理」、昭和23年11月、栄養と料理社=栄養と料理デジタルアーカイブス)


(4)

左┌────────┬────┬──────────┐
頁│ 料 理 名  │材 料 │   分  量   │
 ├────────┼────┼──────────┤
 │烤 羊 肉    │山羊肉 │375g(100匁)│
 │カオ ヤン ロウ    │醤油  │大匙       5│
 │(成吉思汗料理)│酒   │大匙       5│
 │        │にんにく│       1かけ│
 │        │生姜  │       1かけ│
 │        │滷蝦油 │茶匙       1│
 └────────┴────┴──────────┘

 材料  分量   蛋白質   熱量
 山羊肉 375g 77.9g 447.0cal
 酒    40         42.4
────────────────────────
       計  77.9  489.4
       ━━━━━━━━━━━━━━━

 ┌──────────────────┬──────────┐右
 │     方    法       │   備  考   │頁
 ├──────────────────┼──────────┤
 │1.山羊肉は、羊肉の如く大きく切 │a.この時の火は桜の│
 │ る。               │ 薪を燃やし、その上│
 │2.左記の分量の醤油・酒・卸したに │ に鉄板をのせるのが│
 │ んにく・卸した生姜・油蝦油を混じ │ ほんとうである。 │
 │ た液に、約10−20分間1.をつけて │b.滷蝦油な入れると│
 │ おく。              │ 羊の肉の臭みを消 │
 │3.火に鉄板をのせ2.の肉の両面を │ す。       │
 │ 一寸焼いて食する。        │c.この時も小餅を食│
 │                  │ する。      │
 │                  │  ……◇……   │
 │                  │〔評〕       │
 │                  │          │
 │                  │          │
 └──────────────────┴──────────┘
(大島はま子、野村万千代著「中華菜」236ページ、昭和25年9月、至誠堂=館内限定デジ本、)


(5)

馬鹿にならぬ豆腐
 お料理にも工夫が大切です

<略>では厳冬期にはどんな栄
養が必要か―栄研の岩尾、森本
両技官にきいてみました

<栄養素の解説略>
▽羊肉ジンギスカン=材料、モモ
 羊肉一五〇c、生ショウガ一〇
 c、ネギ二〇c、しよう油五勺
 酒一勺、七味唐がらし少々、生
 青果汁(りんご、みかん等)四分
 の一個、羊肉はスキヤキ用より
 少し厚めに切り、ネギはみじん
 切り、生ショウガはセン切りに
 します、しよう油、酒、七味唐
 がらし、果実汁、調味液にネ
 ギのみじん切りとセン切リの生
 ショウガ、生青果汁を加えてこ
 の中に羊肉を浸し、これを焼き
 ながら温かいうちに食べます
(昭和25年11月26日付読売新聞夕刊2面=ヨミダス歴史館、)

 全国最多の綿羊が飼われていた北海道なんですから、当然、道新にもこのころ野菜なしジンギスカンのレシピが載っていると思うが、道新のデータベースは昭和63年からの記事に限られ、それ以前の記事は縮刷版とマイクロフィルムで探さすことになる。ほかの新聞も似たようなもので、日本経済新聞のデータベースは昭和50年から、中日新聞は昭和62年からです。毎日新聞は明治5年からのデータベースがあるのですが、キーワードで検索できるのは戦後のしかも近年の記事だけなのです。
 どうして、さっさと全記事が検索できるデータベースにしないのかと思うでしょうが、 要するに新聞社も商売、もうからない記事データベース整備に金を掛けておれんのです。明治大正の記事がデータに入っていないのは、新聞製作にコンピューターを使っていなかったからです。そんなら古い記事を入力したらいいだろうと思うのは素人の浅ましさ、その入力作業はただではできないことを忘れちゃいかん。
 皆さんは使ったことはないだろから、多くはいわないが、私が道新のデータベース代を払って、ジンパという単語はいつごろ出現したかと検索してみたら、石油ショックでトイレットペーパー不足が起きて、バージンパルプがどうのこうのとか、車のエンジンパワーの記事ばっかりで、がっくりきたもんだ。その後精度が改善されてね、平成30年5月現在、ジンパできっちり8件出る。でもうち3件は私が深く関係するジン鍋博物館のジンパだからちょっとね。うっふっふ。
 記事データベースのありがたさは、何10年分もマイクロフィルムのね、どこにあるのかどんな見出しなのかもわからない記事探しをしてみて、初めてわかるんですなあ。しみじみとね。
 レシピの有無はさておき、国会図書館サーチを使って、ジンギスカンを取り上げた書誌のざっとした傾向を調べてみたのか資料その5です。縦軸が出版年、横軸はジンギスカンを平仮名と片仮名と漢字で書き、かつ料理か鍋を組み合わせて6通りの書き方になるので、それぞれが本の題名か目次にあれば1件として数えてくれます。
 平仮名書きと片仮名書きが同件数ということは、どっちで書いても同じということですね。昭和43年の平仮名と片仮名の件数が違うのは、ある県立図書館の「じんぎすかん料理」を含む「久保田万太郎全集」の書き方が他図書館とちょっと違うために生じたもので、1件が正しい。合計すると料理43件、鍋34件で本などでは料理と書かれる方が多いことがわかる。またこの件数から37年あたりにピークがあり、昭和50年ごろからぱったり途絶えて平成17年からリバイバルしたといえますね。

資料その5

     ジ じ 成 ジ じ 成
     ン ん 吉 ン ん 吉
     ギ ぎ 思 ギ ぎ 思
     ス す 汗 ス す 汗  出
     カ か 料 カ か 鍋  版
     ン ん 理 ン ん    件
     料 料   鍋 鍋    数
     理 理          計
――――――――――――――――――――
昭和22  1  1        1  3
   24  1  1          2
   26  2  2          4
   30        1  1    2
   32  1  1          2
   33        1  1  1  3
   34      1  1  1    3
   35  1  1    3  3    8
   36  1  1          2
   37  1  1    2  2    6
   38  1  1    1  1    4
   39  1  1          2
   40  1  1          2
   41        2  2  1  5
   42        1  1    2
   43  1  2          3
   44  1  1          2
   47        1  1    2
   48        1      1
   49        1      1
   50  1  1          2
   52      1        1
平成17  2  2          4
   18            1  1
   19        1      1
   21      2      1  3
   23      1        1
   25  1  1          2
   26      2        2
   27      1        1
計    17 18  8  16 13 5

(平成30年4月現在)

 昭和26年に三笠宮殿下ご夫妻が來道され、滝川の道種羊場を視察された。資料その6(1)はその際に自慢のジンギスカン料理を差し上げ、大層喜ばれたという話と種羊場でもっぱら使われていたレシピです。筆者なんばは目次によると本名は難波繁太郎。「成吉思汗が年四十四才で白馬に跨り」は、ジンギスカンの伝記から計算したんでしょう。例えば大田蒼溟著「成吉思汗」(17)に依ると、西暦1206年はテムジンが大帝の位に就き、ジンギスカンと名乗った年であり、それから生まれた年とされる1162年にを引くと44、難波さんはこういう計算で44歳で白馬に乗ったことにしたらしい。
 でも料理名の鍋羊肉はわが日本の糧友会が昭和2年から使い始めた料理名であり「炭火の中に松葉を時々投じその煙で肉を燻して頂く」のも糧友会のレシピ丸出し。鍋羊肉と書いてコウヤンロウと読み、しかも「成吉思汗料理の本名」なんてことは蒙古でも中国でもあり得ないのです。さすがに鍋羊肉と書く人はいなくなったが、ジンギスカンが将兵と共に食べた野戦料理という俗説は生き残っている。本気で信じてはいないと思いますが、大抵のホームページやブログはそう書いていますね。
 このころは啓蒙時代というか、料理をする主婦に臭味消しの前処理をしっかり会得してもらおうと説明が長いけれど、羊肉の臭味を気にしていた当時の雰囲気を映しているので、26年分からまずこれを切り出しました。
 特に注目すべき点は、同じ「緬羊とその技術」からのレシピなのに、漬け込み汁で味を付けて焼いて食べる昭和23年型とは違い、果汁抜きの漬け込み汁に漬けて焼いたうえ、さらにタレを付けて食べるという食べ方に変わっていることです。
 山田喜平のレシピの「肉の両面を焼き尚ほ新しい漬け汁をつけ乍ら食べる。(18)」は、漬け込み用の汁を取り分けて生肉と接触していない漬け汁を「つけ乍ら食べる」と解釈されますが、その「つけ乍ら」用に合う、つまり漬け込み汁と味付け用のタレは初めから別に作るように変わった。
 23年型の醤油、酒、果汁をまぜた漬け込み汁ですが、26年型では漬け込み汁は割り下主体に変え、たれと呼ぶ果汁、砂糖の入った甘味のある付け汁を付けて美味しく食べられるよう綿羊関係者によって改良されたとみられます。
 「浸漬しないで直接焼いて『たれ』につけても美味しく食べられる。」と付け加えてあるのは、このころからマトンの臭味がいいという生肉派が増え始めたからではないでしょうか。

資料その6

(1)
   宮さまと鍋羊肉(コウヤンロウ)

             −なんばしるす−

 成吉思汗鍋は世界でも味を誇る支那料理中の粹なるもので鍋羊肉と言うのが本名で羊肉を味わんとするにはまづ成吉思汗からと申し上る程珍らしくも叉美味でしかも極めて簡單に出來る料理であり、この料理が成吉思汗鍋と稱されだしたのは十二世紀の末蒙古の英雄成吉思汗が年四十四才で白馬に跨り蒙古の大軍を牽いて滿蒙の荒野を馳驅し或は中央亜細亜の諸國を席捲し歐州の中原を風靡したときは沙漠や高原の露營で士氣を鼓舞するために部下の將兵とともに松樹の薪火にあたり彼の高梁酒を傾けながら羊の肉を焼いてこれを賞味したと言うのがその名の出た所であり中國北京城門前に名物料理となつていたようである。要するにこの料理法は非常に原始的な風情を持ち野外でも十数人よつて食するに適しており成吉思汗の古事を偲び今日炭火の中に松葉を時々投じその煙で肉を燻して頂くには絶好のものである。札幌の街から遠く離れたこの牧場でははるばる訪ねてくれる珍客接待に鍋羊肉(成吉思汗料理の本名)を唯一の最高のものとして用いて來たのでこのたび三笠宮同妃兩殿下の御來場の際にも季節的に或は時間的關係で多少考慮を要する面もあつたが結局コウヤンロウと決められた譯である。
 初め室外という意見もあつたが雨天その他の場合考慮して場所は會議室ということになり、卓上に用いるコンロも高すぎるので卓の中央をくり拔いて鍋の面を卓上から十糎位になるよう圓卓を試作して見る材料肉として二才閹羊の屠肉は問題ないとしてもコーヤンロウのコツは肉片を浸漬するたれ及藥味にあるので前日から試作して比較研究を試みて、この試食に佐々木畜産課長の來場を約束してあつたのに都合でお出ならなかつたのは殘念であつた、料理は米川技官、本多事務補、齋藤公務補が腕によりをかけてそれぞれ擔當する。
 果汁には果實のかん詰の汁を用いた。
 肉の切り方を薄目に大きくしたのは焼き易く体裁も良いが却つて食べづらいという意見も出る。
 コンロの火は瓦斯(一酸化炭素)の出ないように前もつて赤く焼いておいて適當に加減をする。
 兎に角色々と研究もしたんねんに作り上げたのであるが、殿下には今迄召し上られたコーヤンローのうちで一番よく出來て美味しかつたと仰言られたので關係者一同面目をほどこした次第である。
 三笠の宮様は御幼年の頃から童謡の宮様として等しく尊敬申上て來たのであるし、又妃殿下にはこの度御渡道の際「エゾの山いま眼のあたり舟涼し」とゆかりと言う俳名で御發表になつて居られる。私共はこの文化人として御教養の高いお二方が態々瀧川種羊場を御視察になり、しかも名物の鍋羊肉に對しお賞めの折紙をつけて戴いた事は光榮この上にないことゝ存ずる次第である。そしてこの事柄が將來毛肉兼用種としてコリデール種の持つ特性を遺憾なく利用する意味で羊肉の利用指導の上にも明るい話題として永く記憶に止めたいと思う。
 次にこの機會に初めて鍋羊肉を試みられる人のために若干述べて見たいと思う。
一、羊肉の性質 羊肉を牛や豚の肉に比較すると、羊肉はその肉の組織が締つていないから柔かい。それに水分が少いから熱の通りが早い、たとえば同じ大きさの羊、牛、豚肉を蒸し焼きにしてその時間を比較して見ると牛肉は羊の二倍半豚肉は羊の三倍を要する。これは一面燃料の經濟にもなる、又肉が柔かいから消化も早くその上肉の寄生蟲もなく高尚な味を持つているので歐米諸國では肉類中最高級に位するものとされている。正餐の献立とすることは勿論のこと惣菜としては老人、小児にも適し殊に他の肉のように刺戟性の香料分が少いから病人用のスープとしては誂え向である。しかし羊肉にも特有の臭があつてそのまま料理したのでは萬人向とはならない。勿論牛や豚肉などもそれぞれ固有の臭があるが己に長い間食べ慣れて別に氣にしないが羊肉はそれと比べてまたその歴史も淺く一般に親しみもうすい譯であるがこれも調理法によつて至極簡單にその臭を消して持前の高尚な眞味を遺憾なく賞味することができるのである。
二、羊肉の取扱い方 羊肉の性質は前に述べた通りであるが實際に調理するにあたつてこれに適應した取扱方を更に詳しく述べると
(1) なるべく腹部の赤身を帯びた皮下や厚い脂肪の外側をとり除くこと、羊肉の臭は主として外部が強くまたその脂肪は一寸冷めてもすぐに硬く凝固して(ステアリン)「蠟質」を含むことが多量でオレインを含むことが少なく僅かに三%の少量に過ぎないため食味を低下する。
(2) 手早く高い熱で調理すること。生魚は焼くことによつて生臭いくさみが失せ特有の香氣がでるように羊肉もまた炭火で焼くかフライ鍋で狐色に炒るとか、油で鳶色に揚げるとかすればその固有の臭を消すことができるばかりでなく、その臭を轉化して食慾を唆る香味を附することができる。以上は焼きものか揚げものとする場合であるが又煮物とする場合でも油で炒めてから煮ると合理的である。
(3) 揚げ油は豚脂や牛脂よりも香氣ある胡麻油等がよい。
(4) とり合せの野菜固有の香りで羊肉の臭を抹殺する方法。たとえば葱、芹、みつば、うど、ごぼう等香氣ある野菜をとり合わして汁物にすることか又は煮物あえ物等に仕上げるとよい。
 又調味料の中でも味噌や酢などを使えば羊肉の臭を感ずることなく香辛料として胡椒、蜜柑の皮、七味唐ガラシ、山椒等は直接に羊肉の臭を消すのに効果がある。
三、鍋羊肉(コウヤンロウ) (一名成吉思汗料理)
次は羊肉一人前百匁四人分の材料である。
(1) 肉の浸漬液(夏は三〇分冬は一〜二時間浸漬)すき焼割下(醤油八勺味リン六勺日本酒或は水二勺砂糖五〇瓦)一合六勺右にしようが約三〇瓦(八匁)玉葱三〇瓦七味唐からし若干。
(2) たれ
 醤油五勺(九〇瓦)日本酒二・五勺リンゴ搾汁二・五勺蜜柑搾汁二ケ分味の素若干砂糖コーヒ匙一杯(約五瓦)
(3) 藥味
 葱一本柚皮一ケ分にんにく半箇しようが一〇匁嗜好材料の都合によつて適當に變えてもよく、又は浸漬には材料が相當要るから浸漬しないで直接焼いて「たれ」につけても美味しく食べられる。
(北海道緬羊技術連盟編「緬羊とその技術」3号54ページ、昭和26年3月、北海道緬羊技術連盟=館内限定デジ本、)

 資料その7は昭和26年分の続きです。この高津レシピは、醤油などを混ぜただけのと火を通すのと2通りの漬け込み汁を書いている。煮立てた調味料を使うレシピは、これが初めてではなく昭和12年の函館新聞に載っていますが、高津レシピが戦後では初めてで、この後の出た釣谷レシピもやはり煮立てたタレです。高津は滝川、釣谷は月寒の種羊場にいた人なので、火を通す漬け込み汁、タレを使うレシピは種羊場タイプと呼ぶことにしました。そうすると、混ぜるだけのタイプの名前も入り用なので、こっちは昭和2年の鍋羊肉以来の作り方だから糧友会タイプとしました。
 煮汁の葱を漉し取ってから果汁酒などを加えて中に肉を2時間漬け、砂糖と酒と醤油を足して、もう30分漬けるなど高津レシピの種羊場型は凝った作り方です。後の方法の「肉を漬けるのは二時間位浸漬する。その間二三時間攪拌する。」は「二三回攪拌する。」の誤りですね。材料の分量は「各料理の大要」として「大体一品五人前」とあるので5人分です。
 それからね、同(1)の由来は昭和14年に道立種羊場長山田喜平さんの奥さん、山田マサさんが「緬羊彙報綿」第15号に書いた「成吉思汗鍋(19)」によく似ています。
 ちょっと脱線だが、2つの文章がどれぐらい似ているかを計る1つの方法としてNグラムがあります。2字ずつ区切って同じ文字列の個数で計るバイグラム、3字区切りで数えるトリグラム(20)と呼ぶのですが、パイソンというプログラミング言語を勉強するため、クジラ飛行机著「Pythonによるスクレイピング&機械学習」に載っているNグラムのプログラムを使って計算させたら面白い結果になりましたよ。
 山田マサさんの先頭から「茲に家庭的の料理法を記します。」まで句読点込みで405字、なんばさんの先頭から「食べるには絶好のものである。」まで321字は、バイグラム、トリグラムとも同一文で計ったのと同じ%になっちゃった。つまり同じ文とみていいということになる。いいですが、このプログラムでコピペの程度がわかるんですなあ。ジンパ学のレポートを書くときは真面目に取り組みなさいよ。はっはっは。
 鍋羊肉といいながら鍋のことは何も触れていない資料その6と違って「成吉思汗鍋」なんだから鍋を使うのは当然というように、ロストル型のシンボルみたいな鍋と焜炉の略画を付け、東京の日本緬羊株式会社、略称日緬がそれを売っていると親切に教えているところが真面目でいいねえ。
 それでね、北羊会という道内の綿羊飼育のプロのグループが、鍋を買うなら東京の日緬へ注文せよと教えたのは、昭和26年の道内では鍋は売っていなかった有力な証拠だと思ったんだが、池内金物店の広告があっさり否定してくれた。仲間向けの本で日緬には飼育器具だけでなく鍋もあるよと教えたと見るべきだったのですね。
 日緬は同(2)にした簡単過ぎるレシピ付きの広告の鍋を売っていたけれど、高津のいう鍋がこれかどうかは、ちょっと疑問があります。というのはだね、緬羊協会の機関紙「緬羊」の昭和24年12月号に「日緬のジンギスカン鍋/三〇〇円 送料別」という2行広告があり、翌25年1月号は題字下に断尾器などの広告の隣に同文の広告があります。さらな9月号と11月号最終面に「ヂンギスカン鍋 一個三〇〇円 送料一個 七〇円/日緬K・K自製品、ヂンギスカン料理の作り方進呈」とあるからです。当時はインフレ時代だったから1年後に550円になっていたかも知れないが、写真がないので25年から売っていた鍋はこれだぞと断言はできないのです。
 鍋の上のスタンプは山形大学付属図書館のそれです。このころの「緬羊」は北大にも月寒にもなくてね、山形まで出掛けて読んだ。ジンパ学は年金生活者のやるべき研究じゃないよね。はっはっは。

資料その7

(1)
   1.成吉思汗鍋(ジンギスカンナベ)

 成吉思汗鍋は世界でも味で誇る支那料理中の粋たるもので、
鍋羊肉(コウヤンロウ)と謂い、羊肉を味はんとするには、先づ成吉思汗からと
云う程珍らしく亦美味で、併も極めて簡単に出來る料理であ
る。抑々此の成吉思汗鍋は十二世紀の末蒙古の一大英雄成吉思
汗が大軍を率いて、満蒙の荒野を馳駆して居た時、或は中央ア
ジヤの諸國を席捲し、欧洲の中原を風靡した時に、砂漠や高原
の露営にて士氣を鼓舞する爲に、部下の將兵と共に、高梁酒を
傾けながら、羊肉を焼いて、之を賞味したと云うのが、其の名
の出た所である。
 要するに此の料理法は非常に原始的な風惰を有し、野外で十
数人が寄って食するに適して居り、今日では炭火の中に青松葉
を時々投じ、其の煙で肉をいぶして食べるには絶好のものであ
る。
材料 羊肉(肩又は股肉、背肉)三百匁(約1.100瓩)、醤油一
 合(180cc)、リンゴ搾り汁三勺(54cc)、密柑搾り汁少々(又
 は玉葱の汁)、生姜搾り汁少々、七味唐辛子、胡椒、砂糖、
 味の素少々、胡麻油少々。
方法 羊肉はスキ焼切りより稍厚目に切つておく。最初にリン
 ゴの汁、蜜柑の汁、生姜の汁を混ぜ併せて、その中に羊肉を
 2時間漬ける。後に酒の中に砂糖を溶し、醤油を併せて足し
 又30分漬けておく。其時に七味唐辛子、胡椒等を入れて味を
 調える。急ぐ場合は前者と後者を同時に行い、其の中に羊肉
 を20〜30分漬けておく。一方七輪へ炭火をおこし、食卓に載
 せ火が落せ火が落ち付いて來たら成吉思汗鍋をかけて、すつ
 かり熱くなつてから肉が焦げつかぬ様に其の上に胡麻油(又
 は羊の内臓の脂肪を使う)を塗つて肉を漬け汁より取り上げ
 て鍋にのせて焼く。(鍋は東京都文京区湯島天神町1ノ50緬羊
 會館内日本緬羊株式会社内で販売して居る)
 又「たれ」を漬け乍ら焼いて食べる方法もある。
方法 先づ醤油に日本葱(五本位)を微塵切にして入れ、とろ
 火にかけ五分位でこして砂糖を加へよく醤油に調和させる。
 一且冷してリンゴ汁、密柑汁、生姜汁、日本酒、香料を入れ
 味を見ながら加減する。出來上つた液を少々「たれ」用とし
 て残し、豫め用意した容器に入れ肉を漬ける。30分位で液が
 肉の上にあがつてくるからそれを少々とつて先にとつた「た
 れ」用の液に加へ混ぜる。肉を漬けるのは二時間位浸漬す
 る。その間二三時間攪拌する。「たれ」は前述ので充分である
 が、更に砂糖を入れ、味の素を入れると風味を増す。藥味と
 しては長葱を微塵に切り又は大根おろし、パセリーの細目に
 切つたもの、密柑の皮を細切したもの等を適宜配す。肉を焼
 いて「たれ」をつけて食べる。之れは日本風で日本酒によく
 調和する。
注意 成吉思汗料理の味覚を決定するのは浸漬液と浸漬時間と
 浸漬中の攪拌、炭火の温度、肉片の切り方である。肉は七分
 通り火が透つたところで裏返へし、ざつと炙る、此の程度が
 一番美味しい。焦がしたり焼きすぎたりすると、味が低下す
 る。食事の場合、宴會の場合、野外、日本間、洋間と云つた
 具合にその會合の雰囲氣によりそれぞれ味付けの上に工夫を
 しなければならぬ。酒は強い酒(ウヰスキー、焼酎)があう
 ようである。

     
(高津定雄編「緬羊生産物と其の加工法」73ページ、昭和26年3月、北羊会(非売品)=原本、)


(2)

        

    日緬のジンギスカン鍋
       価格 一枚550円
       送料 100円<以上3行は横組み>

ジンギスカン料理とは?
肉をこの鍋で焙り焼きにし好みのタレで
召上がる風変りな御料理です。
羊肉、牛、豚、鶏、兎肉等々……

 焼き方
○強い炭火でよく鍋を焼き油を引いて肉、葱等を焼
 いて下さい。
 タレと薬味
○醤油五、酒(味リン)一、生果実汁(リンゴ、ミ
 カン)味ノ素で味は適宜に、薬味はお好み(葱、
 にんにく、唐がらし、生姜、ゆず等)

製造販売元 日本緬羊株式会社
東京都文京区湯島天神町1の50
振替口座東京50046番<以上3行は横組み>
(日本緬羊協会編「緬羊」45・46合併号16ページ、昭和26年12月、日本緬羊協会=原本、)

 資料その8も全部昭和26年の続きです。同(1)から同(3)まで名前のある森本喜代は国立栄養研究所技官で、どれも羊肉についての解説付きなのは、初めて羊肉を食べる人々を想定していたからでしょう。
 同(1)は森本が本職の研究所報告に書いたレシピです。何人分と書いていないが、同(2)の羊肉が5人分に563gだから1人ならその5分の1の113gとなるから、これは1人分ですね。とすれば調味液はそれなりに少なくてもよさそうなものだか、酒が半分のほかは同じなのは、あまり長く漬け込まないという前提でしょう。
 同(2)と同(3)は別々のページに書いてあるので分けましたが、ジンギスカンなどで臭味を消す工夫をして、もっと羊肉を食べようと勧めていることはわかりますね。
 同(4)は大正15年に「素人に出来る支那料理」を書き、ジンギスカンを「羊烤肉」として紹介した山田政平が戦後初めて執筆した料理本からです。北川敬三との共著になっているけど、北川は洋食の専門家なので、レシピと解説は山田が書いたに違いないのです。
 「酒と醤油と半々にまぜ、僅かにニンニクのみじん切を加えたもの」が第一の汁、「酒、醤油、酢をほぼ等分に混ぜ」たものが第二の汁と明記していないので、突然「第二の汁をつけて食べる」といわれても、まごつきますよね。ふっふっふ。

資料その8

(1)
 55 緬羊肉の調理法    森本喜代
 
 従来我が国では、緬羊肉は余り食用に供されなかつたが、学校給食向、一般家庭向にはどんな調理法をすれば最も美味に食べられるかを研究した。
 10数種の調理をした結果牛・豚・鯨肉と何等変ることなく、緬羊肉特有の肉質により美味な食用として利用出来る。
 但し骨スープは臭強く、食用としては利用出来ない。
 その献立の一二種をあげれば
(1)羊肉変りカツレツ<略>
(2)羊肉のつけ物あえ<略>
(3)羊肉のジンギスカン(家庭向)
 材料 羊肉(モモ肉)   150g
    生姜         10g
    ねぎ         20g
    醤油          5勺
    酒           1勺
    七味唐がらし      少々
    果実汁
    (りんご・みかん等)1/4個
    味の素         少々
 
 調理法  羊肉はスキヤキ用よりも少々厚目に切る。日
     本ネギはみじん切り、生姜はセン切りにする。
      醤油・酒・七味唐がらし・果実汁・味の素の
     調味液にネギのみじん切り、セン切り生姜と生
     青果実汁を加えてこの中へ羊肉を漫す。これを
     焼きながら温いうちにいたゞく。
  別法  羊肉を焼きこの調味液をつけながら食べても
     よい。
(国立栄養研究所編「国立栄養研究所研究報告(S25)」60ページ、森本喜代「緬羊肉の調理法」より、昭和26年7月、国立栄養研究所=館内限定デジ本、)


(2)
 めんよう肉のジンギスカン(五人分)
              (蛋)瓦 カロリー
 めんよう肉(モモ肉)
       五六三瓦(約一五〇匁)
 ねぎ    二〇瓦
 しようが  一〇〃(一かけら)
 醤油    五勺
 酒     二勺
 七味とうがらし 少々
 味の素     少々
      一人分蛋白質 二二・九瓦 一八三カロリー
  調理法 めんよう肉は四〇瓦(一〇匁位)の大きさに
切ります。ねぎはみじん切りにし、しようがもせん切りに
します。醤油・酒を合せて、七味とうがらし・味の素・ね
ぎ・しようがなどの藥昧を入れた調味液を作り、めんよう
肉を一昼夜つけておきます。
 本來ならば特にジンギスカン鍋がありますが、炭火の上
に金網をかけて、その上で焼きながらでも結構です。又調
味液にしたさずに焼き上げた肉を調昧液につけながらでも
よろしい。これは特に温いのを賞味するのであります。
(鈴木慎次郎、森本喜代著「実用料理献立 主婦の栄養メモ」122ページ、昭和26年9月、第一出版=館内限定近デジ本、)


(3)
   めんよう(緬羊)肉の知識

 我国ではめんよう肉は牛・豚肉に較べて嗜食の歴史が
新らしいので、一般の親しみも薄いのであります。
 めんよう肉は肉組織がしまつていて、繊維が細かく柔
かいので熱の通りも早く消化もよく、肉類の中でも最高
級のものとされております。英国などでは畜肉の王とさ
れて珍重され、正餐のお献立にも往々入れられる位であ
ります。ただめんよう肉は臭いと云つて嫌らわれますが、
牛・豚肉などにもそれぞれの臭みがありますが、私達は
長い間の食習慣によつて、これには氣にならぬようであ
ります。
 一般に内地産のめんよう肉は輸入したものよりも飼育
方法に手が届いておりますためか、殆んど臭みはありま
せん。
 1 欧米でも羊の臭みを毛臭、と呼んでおりますよう
に、羊肉の臭みは主に羊毛に接近している外部が強いの
でありますから、厚い脂肪の外側を取除くことです。
 2 手早く高い熱で調理すること。生臭い魚を焼いて
香氣をつけると同様に、羊肉も又炭火でやくとか、フラ
イパンで狐色にいためるとか、油でトビ色に揚げるとか
してその固有の臭みを消すことです。
 使用する油は何でも結構です。
 3 取合せる野菜固有の香りで臭みを消すこと。例え
 ば、せり・みつば・しゆんぎく・ごぼう・ねぎ・うど・
しいたけなどのように、香氣のあるものと取合せて、汁
物・煮物・あえものなどに仕上げます。
 4 調昧料の中でも、酢・昧噌などを使えば、羊肉の
臭み消しとなります。
 5 香辛料として、粉さんしよう・ちんぴ・みかんの
皮・七味とうがらし・こしよう・ニンニク・げつけいじ
ゆの葉・さらしねぎなどは、直接羊肉の臭み消しに効果
があります。
 6 大体豚肉・鯨肉などと同じ料理方法をすればよろ
しいのであります。
 最後に経済の点から申しますと、豚肉の半値でありま
すから、広く国産めんよう肉を使うようにおすすめした
いと思います。
(鈴木慎次郎、森本喜代著「実用料理献立 主婦の栄養メモ」126ページ、昭和26年9月、第一出版=館内限定近デジ本、)


(4)
   六八、烤羊肉(カオヤンロー) (羊肉の直火焼、一名成吉思汗(ジンギスカン)鍋)

 材料 羊肉四〇〇瓦(約一一〇匁)、酒、醤油、酢、ニンニク。
 下拵え 肉はスキ焼肉のように切り、酒と醤油と半々にまぜ、僅かにニンニクのみじん切を加えたものに、料理の十五―二十分間くらい前に浸ける。酒、醤油、酢をほぼ等分に混ぜておく。
 拵え方 炭火(熱原は何でもよいが、汁が垂れるからそれを考慮に入れておく。)を用い、上に金網を渡し、各自が自分の箸で生肉を焼き、焼けたら第二の汁をつけて食べる。極めて原始的な感じのする美味な料理である。肉は焼き過ぎないように片面だけを焼くがよい。家の中よりは、縁先か庭でやるがよい。
 注意―都会の料理店では、物々しい特殊な鍋を使用するが、本來はごく素樸な料理である。ヤギでもよいが、味は緬羊がよい。牛肉でも豚肉で応用して美味いが、むしろ鯨肉、馬肉などに応用した方が一層効果的である。
 名称解説 成吉思汗鍋或いは成吉思汗料理は邦人が命名したもので、中國人には通じない。鍋といつても鍋でないことは本文通り、料理店で鍋のような形をした網代りのものを使うからである。
(山田政平、北川敬三著「中国料理とお弁当おやつ300種」70ページ、昭和26年8月、ハンドブック社=館内限定デジ本、)

  

参考文献
 上記(12)と(19)の出典は北海道庁種羊場編「緬羊彙報」第15号18ページ、山田マサ「成吉思汗鍋」、昭和14年12月、北海道庁種羊場=原本、 (13)は養賢堂編「畜産の研究」4巻4号35ページ、高森乙松「緬羊肉の簡単な自家貯蔵法と料理法」より、昭和25年4月、養賢堂、同、 (14)は栄養と料理社編「栄養と料理」14巻11号19ページ、大島はま子「回々料 理」、昭和23年11月、栄養と料理社=栄養と料理デジタルアーカイブス、 (15)は大島はま子、野村万千代著「中華菜」14ページ、昭和25年9月、至誠堂=館内限定デジ本、 (16)は同15ページ、同、 (17)は太田三郎著「成吉思汗」47ページ、明治34年6月、博文館=国会図書館インターネット本、 (18)は山田喜平著「緬羊と其飼ひ方」8版361ページ、昭和16年8月、子安農園出版部=原本、 (20)はクジラ飛行机著「Pythonによるスクレイピング&機械学習」296ページ、平成28年12月、ソシム、同、

 ここで昭和26年の札幌池内金物店のジンギスカン鍋発売に触れたいのですが、平成30年のレシピまで話すために鍋発売は別の講義に回し、資料その9の昭和27年のレシピから続けます。同(1)は山羊用だけど綿羊にも使える。高津レシピのタレを付けながら食べる方に似ていますね。ただ葱20本のうち5本は漬け汁で使い、残り15本は微塵に刻んでタレに入れるには多すぎないのか疑問です。
 同(2)から同(4)までは皆、漬け込み時間は違うけれど、材料を混ぜるだけの漬け込み汁とタレを使う糧友会型の作り方です。同(5)は資料その7(2)と同じような広告なのでほとんど同じですね。
 同(6)は、北海タイムスに初めて、いや道内の新聞で初めて掲載されたジンギスカンのレシピなので、ちょっと詳しく説明しましょう。昭和27年12月11日からタイムス夕刊は「ナベ料理のいろいろ」のタイトルでレシピの連載を始め、初回は唐揚げポテトを煮る「馬鈴薯鍋」でした。おでん、牡蠣ちり、鶏の水炊き、牛の鋤焼き、鶏の鋤焼き、吸い鍋と続き、12月19日の8回目にジンギスカン鍋が登場したのです。それもただの囲み記事ではなく「おいしい鍋料理 こうして戴きましよう」という解説と、I金物店での調べとしてジン鍋など4種の鍋を写真付きで紹介する記事と組み合わせた、ジャジャーンと伴奏が鳴っていそうな豪華版なんです。
 その割には焼くのは鯨とはね。多分札幌など都市部では、羊肉が買いにくかったからでないかと考えます。葱5本を斜め切りしたほか、みじん切りの葱大匙2杯とあるので、タレを入れた小皿に「ちょっとつける」葱は斜切りの方でしょう。ここらから葱も焼いて食べ始めたのでしょう。
 同(7)は女性向け雑誌では初めてと思われる随想的レシピです。東京では450円でまともなジン鍋が買えたこと、栄養に配慮してか人によっては野菜も焼いていたこともわかります。野菜入りは(6)だけでなかったことを示すレシピです。

資料その9

(1)
  北海道と山羊(続)
         釣谷猛

<略> 日本人は肉料理というとすぐす
き焼であるが、山羊肉や緬羊肉を
すき焼にしても美味でない。羊肉
はなんと言つても焼肉かハムかソ
ーセージまたは缶詰である。山羊
肉の成吉思汗焼も結構うまく、月
寒や滝川の種羊場で緬羊の成吉思
汗とばかり信じて山羊肉の成吉思
汗に舌鼓をうつた名士が相当いる
はずなんだから農村でも利用して
貰いたい。羊頭をかかげ狗犬を食
わせるよりはるかに良心的で、余
程の通でない限り味分けは困難で
ある。
  簡単な成吉思汗の作リ方
 たれ(肉を浸ける液および焼い
た肉をつける液)は一貫目の肉に
対し、材料
 醤油      四合
 砂糖      四〇匁
 酒又は     一合
 サントリー小瓶 一本
 生姜      五〇匁
 葱       二〇本
 林檎      二個
 ミカン     三個
 夏ミカンなら  一個
 唐辛子     少量
 まず醤油に砂糖を入れ長葱五本
を微塵に切つて放ち、とろ火で五
分攪拌し葱をすくい上げ、生姜と
林檎のオロした液および酒を入
れ、唐辛子粉を辛味を試しながら
入れ、最後にミカン汁を入れると
出来上る。この液に二時間肉を浸
けてから上げ、金網の上にのせ強
火で焼きながら食べる。食べると
き浸漬液を二合くらい予めとつて
おき、長葱の残りをやはり微塵に
切つて、それを液に適量に入れ、
焼いた肉をつけて食べる。肉は筋
の走る方向に対し直角に切らねば
味が甚しく落ちる。また屠殺剥皮
に際し皮を握つた手で肉に触れる
と山羊の臭気が肉につき風昧が落
ちるので、必ずいつたん洗つた手
で触れるようにする。
(北海道新聞社編「農業北海道」4巻2号33ページ、昭和27年2月、北海道新聞社=原本、)


(2)
  八七九、羊肉の直火焼(烤羊肉(カオヤンヨー)
羊肉(百匁)。葱(一本)。生姜。醤油。ニンニク(各少量)。〔三人前〕
 拵え方
 羊肉は薄く斜に切つておきます。
 葱はみぢん切にして、生姜、ニンニクもみぢん切にして、これに醤油を加えてよく混ぜて、この中に羊肉を二時間程漬けておきます。
 炭火をおこして、金網を上で、羊肉を焼きます。
 粉山椒か七味唐辛子で頂きます。(一名成吉思汗焼とも云います)
(宮部窕著「すぐに役立つお料理百科大辞典」407ページ、昭和27年3月、鷺ノ宮書房=原本、)


(3)
 三、ジンギスカン料理法 まず最初に羊肉
の浸漬液を造ります。四人分(肉は一人當り
三百七、八十グラムとして)の材料として醤油
八勺、味淋六勺、日本酒二勺、砂糖五十グラ
ムの混合液に、ショウガ三十グラム、七味ト
ウガラシ若干を入れます。
 この浸漬液に肉を夏は一時間ぐらい、冬は
二〜三時間浸しておき、つぎにコンロの上に
鉄の格子状になつた鍋をおいて、よく熱して
からその上に肉を並べ、焼きながら、別に造
つてあるタレにしたして食べるのです。
 タレは醤油五勺、日本酒二・五勺、リンゴ
の搾り汁二・五勺、蜜柑の搾り汁二個分、味
の素若干、砂糖コーヒー匙に一杯の液とし、
藥昧として葱一本、ユズは一個分、ニンニク
半個分、ショウガ四十グラムを適當に入れま
す。
(惣津律士著「緬羊の飼い方」4版105ページ、昭和31年3月、朝倉書店=館内限定デジ本、初版は昭和27年7月発行、)


(4)
  伊藤安「羊肉を上手に利用するには」<再録>

(一)網焼(五人分)
肩又は股肉 約百五十匁
醤油 五勺
食塩 少量
酒 二勺
晒し葱 盃一杯
七味唐辛子 少量
胡麻油

準備 丼のなかに醤油、七味唐辛子および葉葱(小口切りにして布巾に包んでよく揉み、そのまま水で晒らし、さらにその水を絞つたもの)を入れて薬味を作り、そのなかにスキ焼肉のように薄く切つた羊肉をしばらく浸しておきます。
方法 肉を浸している間に一方では七輪に炭火をおこして食卓にのせ、火が落ちついてきたら金網をあげて肉が焦げつかぬようにその上に胡麻油を塗つて箸で肉を拡げながら金網にのせ、肉の縁辺の色があせてきたら裏を返えし、肉の上に汁がふいてきたらそのまま熱いうちに喰べます。
注意 焼き肉を何度も裏返しすると味の好い汁がおちて不味くなります。附け焼きのように度々汁をかけることも禁物です。浸け汁が甘いようなら食塩で加減します。また浸け汁のなかに味醂や砂糖をいれるとかえつて味がくどくなるので使わない方が上策です。
 この料理法は本式には烤羊肉(カオヤンロー)、日本では成吉思汗(ジンギスカン)鍋と呼ばれるもので、炭火に生枝または青松葉などをさし入れて燻すと一段と風味を増します。
(北海道農業改良普及協会編「北海道農家の友」4巻10号14ページ、昭和27年10月、北海道農業改良普及協会=原本、)


(5)
ジンギスカン料理とは?
肉を焙り焼きにしてお好みのタレで召上る風
変りな御料理……寒さと共に恋しくなります

○焼き方   強い炭火でよく鍋を焼き油をひいて
       肉や葱などを焼いていただきます。
○タレと薬味 醤油五、酒又は味淋一、それに生果
       実汁(リンゴ、ミカン)、味の素を
       使つて味は適宜に、又薬昧は葱、に
       んにく、唐がらし、生姜、ゆず等お
       好みによります。

製造販売元 日本緬羊株式会社
東京都文京区湯島天神町1の50
振替口座東京50046番
(日本緬羊協会編「緬羊」58号16ページ、「日緬のジンギスカン鍋」広告より、昭和27年11月、日本緬羊協会=原本、)


(6)

 鯨の肉で
   ジンギスカン鍋

ジンギスカン鍋で鯨肉をおいしく頂く方法をお知らせしましようか…
材料 鯨肉を百匁か二百匁と、ネギ五本、醤油、酒、ニンニク一粒、生ショウガ少々、ネギのみじん切り大匙二杯、油
作り方 は鯨の肉は出来るだけ薄く大きく切り、ネギはハス切りにします、ニンニクはみじんにきざんでおき生ショウガをすりおろし、ネギのみじん切りと醤油大匙五杯、酒大匙五杯をまぜ合せてタレを作ります、ジンギスカン鍋(なければ厚手の鉄鍋)を用意し各自が小皿にタレを入れその中に肉やネギをちよっとつけておきます、鍋を火にかけて熱し油を塗つて焼きながら戴くのです
(昭和27年12月19日付北海タイムス夕刊4面=マイクロフィルム、)


(7)

   成吉思汗鍋(じんぎすかんなべ)
       日本女子大学教授  上田柳子

 鍋ならば成吉思汗。四百五十円で本式の鍋を準備しまして
ね。寒くなると家中がこの鍋を恋しがります。あれは羊の肉
がほんとうなんですが、私は豚でするのが好き。肉を薄く広
く切ったのと、あとはねぎやじゃがいもの薄切りを茹でたの
や、キャベツのせん切り。
 まるみをもって頂点が高くなっている鍋ですからいちばん
上に肉をのせると、その油が下に流れ落ちて、野菜もたいへ
ん味がよくなる。
 つぎつぎと自分でのっけてはいいかげんに焼いて、昆布だ
し一、酢一、ソース○・五、醤油〇・五ぐらいの割に混ぜたお
汁に玉ねぎやパセリのみじん切りを入れて、つけていただく
のです。温まりもすると、お味もよくて、いい鍋を買ったもの
だと思います。
(主婦と生活社編「主婦と生活」7巻12号321ページ、「私の好きな鍋料理」より、昭和27年12月、主婦と生活社=館内限定デジ本、)

 国会図書館サーチで「鍋料理」をキーワードにして検索すると、平成30年8月現在、587件あり、うち60件は昭和20年8月以前の本です。よって527件は戦後の本となるのですが、この中には鍋料理という章のあるハーマン・メルビルの「白鯨」の訳本上下2冊がいくつかの出版社から何度も出たり、鍋料理でヒントを得て発明できたという記事が載った雑誌などが含まれておる。
 ではジンギスカンと組み合わせて検索したらと思うでしょうが、国会図書館サーチは目次の題名になければ駄目。グーグルのブックスと違って、例えば「温かい鍋料理」という特集の中の1項目としてあるレシピは示してくれないのです。よって極力見逃しを減らそうとすれば、何年までと区切って総当たりして探すしかないのです。
 昭和28年は資料その10(1)の「料理(秋冬の巻)」のレシピがありました。東京でもう出回っていた「特別のお鍋」を使い、しかも裏返しての蒸し焼きに使えるものであり、それが「近頃はこの鍋も大分出廻つて」おるというのですから、この鍋は脂落としの隙間のないジンギス印の鍋であり、それが昭和27年の特許出願と同時ぐらいに、もう市販されていたことが考えられます。
 道内のレシピとしては、札幌「天政」内山義雄氏に聞いたというレシピ同(2)が北海タイムスに掲載されましたが、昭和27年のそれと同じく鯨肉を「厚手の鉄鍋またはすき焼鍋」で焼くやり方で、ジン鍋普及の遅れを感じます。

資料その10

(1)
   ジンギス鍋

 肉や魚介、野菜類を、ジンギス鍋で焼いて、焼けたの
から、つけ汁をつけ/\いたヾく、風変りな鍋料理です
が、それ/\゛の材料の持味が引立つて、それはおいしゆ
うございます。
 たヾ考えさせられる点は、特別のお鍋を使うことです
が、近頃はこの鍋も大分出廻つておりますから、新家庭
の方にもおすゝめできると思います。
材料 肉類は羊、豚、牛、鶏、鯨、いるかなど何でも
おいしく、いのしゝは特に美昧です。
 魚は、身の軟かいものはくずれやすいですから、なる
べく身のしまつたものを選ふ方がよろしいです。
 貝顛では、柱、青柳など特によく、いかもなか/\お
いしゆうございます。
 野菜でぜひほしいのは葱で、玉葱でも長葱でも結構で
す。その他季節によつて、松茸、生椎茸、キャベツ、白
菜、ピーマン、茄子など、それ/\゛肉の脂と調和して、
それはくおいしくいたヾけます。
 分量は何がとれだけというぎまりはありませんから、
お好きなようになさつてよろしいですが、大体若い方に
はお肉を多く、お年寄には野菜を多くする方が喜ばれま
しよう。同じ肉でもすき焼よりずつと味が淡泊なので、
思わず量をすごしますから、そのつもりでたつぷり用意
なさいませ。
つけ汁 四〜五人分として、昆布だし五勺、醤油三勺、
ウスターソース三勺、酢三勺、柚子か橙、レモンなど
の汁二勺、塩小さじ半杯、砂糖小さじ一杯の割によく混
ぜ合せます。たヾし味はそれ/\゛お好みがありましよう
から、お口に合うように加減してお合せください。これ
を深い汁入れにつぎ、人数分の小鉢を添えて食卓に出し
ます。
 薬味 味を引立たせるために、次のような薬昧を用意
します。
 葱、パセリ、柚子かレモンの皮(なければ橙やネーブ
ルなどもよい)を、全部みじん切にして混ぜ合せます。
 作り方 肉はなるへく脂の多いとごろかよく、すき焼
より少し厚めに切ります。脂の少い肉でしたら、買うと
き脂身を別に添えてもらうとよろしいです。
 魚はぶつ切でよく、いかは、胴を一枚に開いて皮をむ
き、一口に食へられるくらいに切り、貝頬は笊に入れ、
塩水でふり洗いして、<以下10字は再確認中>
 玉葱は五_厚さ、長葱はなるべく太いのを五a長さに
切り揃えます。
 その他の野菜は適宜に切り、全部を大皿に恰好よく盛
リ合せて食卓に出します。
 用意ができましたら、焜炉を食卓に据え、鍋をかけ、
充分熱くなつたところで鍋の中心に肉の脂をのせ、脂が
じり/\と溶けて鍋全体にしみ渡りましたら、野菜を並
べ、野菜か軟かくなり始めたら、鍋の縁の方へ移して、
肉を焼き始めます。肉をのせましたら、食塩を肉の上だ
けぱらつとふりかけます。
 焼きすぎると固くなつて味か落ちますから、火の通る
のを待つて召上つてください。
食べ方 つけ汁を各々の小鉢につぎ、薬味を入れ、胡椒
もふり込んで、鍋から好みのものを取つて、つけ汁をつ
けていたヾきます。
一つ取つたら、すくその後へ材料をのせ、次々と食べ
られるように気をくばりましよう。
   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
▲ジンギス鍋を裏返しに、つまり凹んた方を上に向け
て焜炉にかけ、充分に熱くして魚を入れ、蓋をして蒸
焼にするのも大そうおいしいです。(深水まこと夫人)
(主婦之友社編「料理(秋冬の巻)」361ページ、昭和28年11月、主婦之友社=原本、)


(2)

  鯨肉のジン    材料=鯨
  ギスカン鍋    肉(牛、
           豚でもよ
い)百匁−二百匁、葱五本、正油
酒、にんにく一粒、しようが少々
葱のみじん切大匙二杯、油
作り方=@鯨肉は出來るだけ薄く
大きく切り、葱は斜切にします
Aにんにくはみじんにきざみ、し
ようがはすりおろし、葱のみじん
切り正油大匙五杯、酒大匙五杯を
まぜてタレを作ります
B厚手の鉄鍋またはすき焼鍋を用
意し各自が小皿にタレを入れ、
その中に肉や葱を一寸つけておき
ます
C鍋を火にかけて熱し、油大匙一
杯ほど入れて煮立て、そこへ前の
肉や葱を食べるだけずつ入れて、
焼きながら頂きます
 肉や葱を、タレにつけずに、い
 きなり鍋で焼き、タレをつけて
 食べでもおいしいです、このタ
 レを用いると鯨肉の臭味が消え
 ておいしく食べられます、鯨肉
 は冷凍の固いものを求めると薄
 く上手に切れて味がよいです
(昭和28年11月21日付北海タイムス夕刊4面=マイクロフィルム、)

 昭和29年の本が資料その11です。同(1)は日本交通公社、いまのJTBが出した入沢文明編「たべもの東西南北」です。これには北海道から札幌の精養軒と月寒学院と藻南公園にあった山本売店の3店と、埼玉県飯能町の雨だれ荘という旅館をジンギスカン店として紹介しています。私が注目したのは、札幌の食べ方に「野菜は鍋のツバの所に肉をやいた油がたまるから、その油でいためて食べる。(21)」と書いていることです。3店とも野菜を出していたかどうか不明だが、専門店でもこのころから野菜を出していたのですね。
 、交通公社の本ですから雨だれ荘のジンギスカンはレシピより交通案内を詳しく書いています。同(2)は道立種羊場が出した「羊肉の調理・加工法 附 緬羊の淘汰と屠殺」からです。果汁主体の漬け汁に肉を漬け込み、一方醤油などは一煮立ちさせて漬け汁に混ぜてタレにする。「肉を汁から取り出し乍ら焼いて食べる」のだが、取り分けたタレをつけて食べれば「一層美味である。」と付け足してあるんだから、肉に味は付いているけれど、お勧めしたい食べ方はこっちと受け取りますよね。ふっふっふ。
 この本は道立図書館にしかないレア本でね、ほかに「ローストマツトン、マトンチヤツプ、羊肉の水煮、羊肉カツレツ、羊肉の素焼、羊肉の鍋焼、羊肉の黄金焼、羊肉のゴマ焼、羊肉の田楽、羊肉のスキ焼、羊肉のよせ鍋、羊肉の八幡巻き、炒羊肉、窩焼羊肉、芽菜   色、紅扣肉、羊肉のよせ揚、羊肉の竜眼揚、羊肉のコロツケ、葱間揚、羊肉の五目飯、刷羊肉、清草羊、マトン・シチウ(其の一)、マトン・シチウ(其の二)、羊肉の甘煮、羊肉の佃煮、羊肉とウドの煮付、羊肉のサツマ汁、羊肉のおろしあえ、腎ゾウの煮込、腎ゾウのテリ焼、羊の脳のフライ、脳の味噌煮、横隔膜のキヤベツ巻、肝ゾウのカツレツ、肝ゾウのバター焼、肝ゾウのコロツケ、心ゾウのテンプラ、羊舌のサツマ汁、羊骨肉のスープ、羊肉田麩」以上42種、ジンギスカンを合わせると43種のレシピか載っています。
 さらに37ページから39ページにかけて附録として小規模缶詰製造用機械、庖丁など調理加工危惧、貯蔵壜、香料の値段が書いてあり、最後に成吉思汗鍋があり値段は1枚550円、売っているのは札幌市南5条西4丁目、日本緬羊株式会社札幌出張所でした。これは資料その6(2)のジンギスカン鍋の広告にあるハンドル付き直径24センチの普通型、小の価格550円と同じだから、29年にはまだロストル型の鍋が買えたかも知れません。
 同(3)は辻徳光著「料理全集」からです。国会図書館に初版があるけど傷みが激しくて貴重書扱い、コピーなんてとんでもない。口絵写真参照とあるはずの写真が失われて入っていません。それでね、札幌市中央図書館のリファレンス経由で宇都宮大学図書館にコピーをお願いしました。初版は昭和27年で29年は第3版、34年に改訂6版を出していますが、仮名遣いなどを改めた程度で内容は同じでした。
 口絵写真の鍋はどう見ても肉と葱の間の焼き面に脂落としの隙間が見えない。鍋にしてき、頂天からの傾斜がきつすぎる感じなので、辻さんは本当に中華鍋を逆さにして七厘に掛ければ、この通りちゃんと肉が焼けるよと、柄は隠れるようにして撮影したのでしょう。針金のものでないと燃えてしまうが、目笊を被せて焼くなんて、面白いアイデアマンとお見受けしました。
 なお辻さんは戦前にも「家庭と料理」という雑誌に「成吉斯汗鍋」として「成吉斯汗鍋と云つても鍋を用ひる訳ではなく、本當は羊烤肉といふ回々料理です。この料理の特徴は屋外でたべることです。箱火鉢か鍋の様なものに火を起し、それに金あみ若しくは鐵の棒を渡し羊肉をあぶり乍ら、支那醤油をつけて食べます。火を起すにも薪をもやして作り、寒い冬の夜、燃へたぎる焔を眺めてたべる料理の味は格別でヂンギス汗鍋と云ふ(82)」と書いていますが、一口知識みたいなので戦前のレシビには入れていません。
 同(4)は北海タイムスの3度目、やっと羊肉のレシピが出ました。
以前の「本や雑誌にジンギスカン料理はこう書かれた」の講義で写真付きで紹介したレシピです。玉葱は絞り汁にしてしまい、まだ焼いて食べていなかったらしいということで、再利用しました。初版は昭和27年で29年は第3版、34年に改訂6版を出していますが、仮名遣いなどを改めた程度で内容は同じでした。同(4)は北海タイムスの3度目、やっと羊肉のレシピが出ました。

資料その11

(1)
        
(入沢文明編「たべもの東西南北」1ページ、昭和29年1月、日本交通公社=原本、)

  成吉思汗料理     〔由来〕蒙古の偉人成吉思汗
      飯能町    が欧洲を席捲し、その遠征軍
             が緬羊群をひきつれてその肉
を常食にしたため、将兵の気力旺盛となり、遂に大勝を博
したとつたえられて、陣中でカブトの上でやいたのが、現
在の料理法の起りだといわれている。(口写真参照)
〔造り方と特長〕緬羊の肉は百匁、醤油五勺、日本酒二、
三勺、リンゴ搾汁二、三勺、ミカン搾汁二勺、ボン酢ごく
少々、日本葱一本、しょうが一〇匁、柚子皮少々、ニンニ
ク少々、パセリ少々、 これらをなるべく細かくみじん切り
にしてダシとする。尚、好みによって唐辛子か胡椒を少々
入れると風味が一層出る。
〔自慢の旅館〕雨だれ荘(電話飯能二六五、六一四番)、埼玉
県入間郡飯能町西方名栗川端。
〔最寄駅〕西武鉄道飯能駅下車、徒歩五分、ハイヤー有。
〔値段〕一人前二五〇円から各種。
〔駅売りの有無〕なし
〔備考〕 尚、雨だれ荘は西武鉄道とタイアツプし乗車券と中食食券の付い
たものを一名五百円で発売している。一泊もできる(この場合は一〇〇〇円)。
この料理は本来野宴の美味で、かつてのジンギスカン料理は野で火をたき、
酒をのみながら多くたべる趣向のもので、おとなしく座敷など瞭でたべるもの
ではなかつた。元来が兵食から転化したものであるから、余り飾り立てると
かえつて味をそこねる。ここでは又川魚料理として鯉・鮎なども種々料理でき
る。飯能を訪れた人は一度はよつてみるとよい。
(入沢文明編「たべもの東西南北」57ページ、昭和29年1月、日本交通公社=原本、)


(2)   Y   羊肉の調理法

 調理上の注意

 成緬羊の肉をマトン、仔羊肉(大体1年未満)をラムと云い、通常ラムは肉質柔軟で直ちに食用に供せられるが、マトンは数日放置し熱成されたものを用いた方が美味である。羊肉の料理に当つて馴れない人は特有の香気を嫌う傾向があるので、これを除く様に料理することが大切である。羊肉の香りは体表面が比較的強いから表面の組織、筋膜、脂肪等をなるべく丁寧に除く。又羊肉の匂は揮発性脂脂肪酸によるものと云はれているので、之を除く爲熱湯に入れさつと煮ると匂は薄くなるので酢又はレモン汁の中に漬けておいたり、之を入れて煮ると匂が薄くなる。煮た羊肉に酸の強いソースやレモン汁をかけて食べるのもよい。羊脂は硬いので冷えると味は落ちるからなるべく温いうちに食べ、スープ等は一旦冷却して表面に浮んで固化した脂肪を掬い取つてから利用するとよい。羊肉は組織が粗いので他の肉類にくらべると熱の通りが早い。從つて強火で短時間に調理することが出来味や栄養の損失も少くてすむ。又料理の種類によつては幾分焦がす方が香気を増し歯当りが良くなる。
 調味料として砂糖を用いるのは余り好ましくない。又香気の強い野菜や調味料を用いる事も必要であるが余り度を越すとかえつて不自然になる。生姜、葱などは最も適し、芹、くわい、三葉、牛旁等の香の高い野菜を取り合せて汁物、和え物にするのも一つの方法である。揚げものに使用する油は動物性の油よりも胡麻油とか、落花生油の様な植物性の油の方が適している。

     成吉思汗(鍋羊肉)

材料(5人分)
 羊肉 500匁、りんご 4個、みかん 3個、玉葱 2個、(いずれも中玉)長葱 100匁、生姜(親指大)1個。
 砂糖 15匁、醤油 1.5〜2合、清酒 5勺、七味唐辛子、胡椒、味の素少量。
調理法:羊肉は脂肪や腱を取り除き繊維に直角に薄く大きく切る。(約3mm)、りんご、みかん、玉ねぎ、生姜は卸金で卸して木綿布で搾り、此の果汁の中に羊肉と2〜3cmに切つた長ねぎを加へ、よく混和し約2時間浸漬する。
 次に小鍋に醤油、酒、砂糖を入れ火にかけて沸騰させる。然る後冷却して予め果汁に浸漬した肉に加える。更に胡椒、唐辛子、味の素等で味を調へる。此のたれをかけてから30分位後が美味である。一方七輪に炭火を起し鍋をかけ、鍋が熱くなつたならば羊脂(出来れば胡麻油)を塗り、肉を汁から取り出し乍ら焼いて食べる。肉は7分通り火が通つたところで裏返しさつとあぶる程度が最も美味である。
 尚たれを全部肉にかけてしまはずにその約1/3を残し、之を各人の小丼にとり之に卸大根、卸生姜、ニンニク等を適量入れて混合し、焼いた肉をこのたれにつけて食べると一層美味である。
(北海道立種羊場編「羊肉の調理・加工法 附 緬羊の淘汰と屠殺」13ページ、奥付はないが昭和29年発行、北海道立種羊場=原本、)


(3)
(カオ)(ツアイ)(炙り焼き)

 中国でも北方方面が多く、日本人にも親しみある料理ですが、一名成吉斯汗鍋、成吉斯汗料理と云われるのは勝手に名前をつけたに過ぎません。鍋を使用するのは簡易な方法で、直火で羊肉を炙り焼きするのが本式です。特に屋内で食べるよりも、屋外で食べる味覚は野趣的でではありますが、中々味わいあるものです。方法は、薪、又は炭火を燃やし、上部に金網又は鉄棒を数本渡して吊したその上にのせて焼くのです。今日ではフライパンを利用したり、羊肉の変りに牛肉、豚肉など利用されています。次に家庭向きのものを申し上げます。

        
 烤羊肉(カオヤンロー)(焼いた羊肉)(口絵写真参照)
 材料 羊肉二百匁(代用として豚肉)、酒五勺、醤油二合、にんにく一かたまり、生姜、酢
 作り方 豚肉は薄平たく大切りにして、酒と醤油を合してにくにくのみじん切りを加えた中に二三十分浸けて、一方七輪に金網又は目ざる(目の荒い方がよろしい)をかぶせて、今の浸けてある肉をその上にのせて焼きつゝ其のまゝ頂くか、或は酢、醤油に生姜の卸したものを加へた汁をつけながら戴きます。然し、たれが火の中に落ちて来ますから家内では不向きかも知れません。肉は其他の牛肉、兎肉、鯨肉等を利用されても結構です。其他焼く器物は中華鍋をさかさにして七輪にのせ其の上で焼くかフライパンを応用されるもよろしいでしよう。
(辻徳光著「料理全集」1064ページ、昭和29年4月、日本割烹料理学校出版部=原本、)


(4) 手軽でおいしい羊の料理と
     ジンギスカン料理の作り方
  
 古来羊の肉は高級料理として、
高貴な人々の供膳用又はお祝い
の特別料理とされていました
 日本では今まで羊の数も少く、
一般の親しみも薄かつたのですが
消化は肉の中で一番よいし、味も
甘味があつて食べ易く、滋養は牛
豚の二、三倍、価絡は処によりま
すが二割以上安く家庭的経済的栄
養源で、最近は市中にたくさん出
回つています
 成吉思汗鍋は蒙古の英雄成吉思
汗(テムチン)が欧州遠征の折、
陣中、鉄カブトをナベにし、生木
をたいて兵と共に食べたのが始り
とされ、とてもたやすく出来る野
戦料理です
 次その作り方と、簡単に出来
る羊料理をご紹介します(五人分)
    
  成吉思汗鍋   (焼羊肉)
          材料=羊肉
(ロース・モモ)百匁、酒または
味りん一勺、正油又は味噌タマリ
二勺、果汁(リンゴ、ミカン、オ
レンジ等)三勺、塩少量、生しよ
うが、七味、ニンニク、粉山シヨ、
少量、香菜(ネギ、ニラ、セリ、
セロリ、三ツ葉、春菊、松たけな
ど)野菜(白菜、ホーレン草など
季節のもの)
作り方=果汁、酒、正油、塩、七
味、コシヨウ、おろしニンニク、
ミジンパセリなどで適宜つけ汁を
作り、羊肉を一分厚みに切つて取
分けたつけ汁に十分程度浸して置
き、強く焼いた鍋か鉄板で両面を
手早く焼きつけ汁をつけて食べる
その際香菜、野菜を好きなだけい
ためて食べるとよい
 これを焼く際、松葉か松笠など
を火の間におき、多少この煙の出
る処で焼けば、一層野趣たつぷり
な香りがついて、おいしく食べら
れます、つけ汁は各人好みによつ
て銘々が作り各人が焼いて食べ
ます
(昭和29年12月19日付北海タイムス朝刊4面=マイクロフィルム、)

 昭和30年には主婦の友社が「料理全書」を発刊しており、その中のジンギスカンのレシピが資料その12(1)です。末尾に橋口とあるので、執筆者リストから佳以料理研究所の橋口倉子が書いたとみられます。野菜はこてこて入れず、葱と茹で菠薐草だけです。グラピアページに「あれば便利な家庭調理器具」と題して、調理に使った器具の写真を載せていてね、その中にジンギス鍋があるんです。主婦の友社代理部はそれらの器具を売っており、広告ページにその値段が書いてある。同(2)が鍋の写真と価格です。
 ジンギスカン鍋でなくジンギス鍋という名前なのは、当時最も多く出回ったとみられるジンギス印の星型鍋を使う料理だからという理由が考えられます。鍋の形としては、このころから鍋の縁に波を打つような緩い凹凸をつけていたことがわかります。いまは直径30センチ以上の鍋の売り物は少ないが、このころは大家族もいて、10人用もそれなりの需要が見込めたんですね。ジン鍋博物館の溝口館長制定の大きさによる分類に従えば、直径が32〜50センチは特大、6〜15人用となります。
 同(3)の筆者は資料その10(2)の「羊肉の調理・加工法」を出した道立種羊場長の吉田稔ですから同じレシピになるのは当然。(4)はそれを道内農家向けの雑誌で紹介した事例です。

資料その12

(1)
   ジンギス鍋

 本当は羊の肉でするのだが、こゝでは豚
肉で試みました。
 五人前で、豚肉は中肉でもバラ肉でも結
構だが、百五十匁ほどを用意し、葱とさつ
と茹でたほうれん草を取り合せる。
 ジンギス鍋を熱し、中心に脂身をおいて
全体に油を引き、合せ醤油にくゞらせた肉
を上の方におき、下の方には、野菜をその
まゝ並べて焼くが、肉から出た脂で、とて
もおいしく野菜が頂ける。
 これは、合せ醤油にたつぷりの大根おろ
しと、おろし生姜、味の素少々入れたつけ
汁をつけながら、熱く焼けたのを召上つて
ください。
  *合せ醤油 カップで一杯の醤油、半杯の酒、
  1/3の酢、味の素とみじん切にんにくを、ほんの
  少量よく混ぜ合せたもの。(橋口)
(主婦の友社編「料理全書」642ページ、昭和30年4月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)


(2)

   
(主婦の友社編「料理全書」252ページ、昭和30年4月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)


成吉思(ジンギス)鍋 大(約十人前用直径34糎)七五〇円●運賃着払 中(約五人前用直径27糎)五〇〇円●送料一〇〇円
(主婦の友社編「料理全書」広告、ページ番号なし、昭和30年4月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)


(3)

 一  成吉思汗(ジンギスカン)
△材料(五人分)=羊肉五〇〇匁、りんご四コ、みかん三コ、玉ねぎ二コ(いずれも中玉)長葱一〇〇匁、生姜一コ、砂糖一五匁、醤油一・五〜二合、清酒五勺、七味唐辛子、胡椒、味の素少量。

△調理法=羊肉は繊維に直角に薄
 く大きく切る。りんご、みかん、
 玉ねぎ、生姜はオロシガネでオ
 ロして木綿布で搾り、この果汁
 の中に羊肉と二〜三糎に切つた
 長葱を入れよく混和して約二時
 間浸漬する。つぎに小鍋に醤
 油、酒、砂糖を入れ火にかけて
 よく溶かす。これを冷やし果汁
 に漬けた肉に加える。さらに胡
 椒、唐辛子、味の素などで味を
 調える。食べる時は鍋が熱くな
 つたならば羊脂を鍋に塗り、肉
 を汁から取り出しながら焼き七
 分通り火が通つたころ裏返し、
 さつとあぶる程度が美味しい。
  なお、タレを全部肉にかけて
 しまわずに、その三分の一を
 残し、これを各人の小丼にとり
 オロシ大根、オロシ生姜、ニン
 ニクなど入れ焼いた肉をこの
 タレにつけながら食べると一層
 美味である。
 以上のように肉を果汁に漬ける
方法はラムでもマトンでもよう方
法であり、特に老羊は肉の風味が
落ちるのでこの方法がよいが、ラ
ムやイヤリングの場合は肉の風味
が良いので肉を果汁に浸漬しない
で生のまま焼き、タレをつけて食
べた方が羊肉の真の風味を賞する
ことができる。タレには上記の調
 味料の他に味醂やソースその他
 種々の香料を用いると一層美味
である。
(北海道新聞社編「農業北海道」7巻10号32ページ、吉田稔「羊肉」より、昭和30年10月、北海道新聞社=館内限定デジ本、)


(4)

七戸理三郎「老廃緬羊の利用」<再録>

ジンギスカン焼

 羊肉料理の第一はジンギスカンと言われている程の流行ツ児で、色々と方法がありますが、ここでは道立種羊場式のものを述べますと、まず五人分の材料として、脂肪や腱を除いて、繊維に直角に大きく切つた羊肉五百匁と、いずれも中等大のりんご五コ、みかん四コ、玉ねぎ三コと親指大のしようが一コをおろし金ですりおろし、これを木綿布でこして、この中に切つた羊肉と百匁の長ねぎを一寸くらいに切つたものをまぜ、約二時間漬けておきます。
 一方小鍋に醤油二合、酒五勺、砂糖十五匁を入れ煮え立つたら、これを冷却し、さらにこしよう、唐がらし、味の素若干を加えてその三分の二を羊肉を漬けた果汁の中に入れ、今一回羊肉を混和しますが、この後三〇分くらいが一番美味しい時です。
 これを七輪などにかけたジンギスカン鍋(なければふつうの金あみでも結構です)に掛け、七分通り焼けたら裏返して焼き、先にのこしたタレの中に大根、しようが、ニンニクなどをおろして混ぜ、これに焼けた肉をつけて食べます。若い人なら二百匁くらいの肉を楽に食べます。
(北海道農業改良普及協会編「北海道農家の友」7巻12号52ぺージ、昭和30年12月、北海道農業改良普及員協会=原本)

 昭和30年代に入ると、醤油にいろいろ混ぜるだけのタレの糧友会型と混合してから一煮立ちさせる種羊場型、さらに焼く材料は肉だけ派と野菜も派と掛け合わせた4通りの作り方がはっきりし始めます。それで血液型みたいにね、糧友会型の漬け込み汁に漬けた肉だけ焼くレシピはA型、漬け込み方は同じでも野菜も焼くレシピはB型、種羊場型の漬け込み汁に漬けた肉だけ派をC型、種羊場型の漬け込み肉と野菜もというレシピをD型と呼ぶことにします。
 さらに肉の前処理に羊肉を漬け汁に漬けるまたは漬け込まない、漬け込むとしても漬け込み時間の長短がありますから、もう2つ枝別れする。漬ける派をα、使わない派をβとする。つまりタレをどう作ろうと、肉の漬け込みをしなければβになります。
 もし漬け込みをするなら30分迄をショートのS、31分以上を長いのLとし、タレを振り掛けるとかまぶす、20分乃至40分という書き方の場合は短い方の20分としてSにします。資料その13(1)はこれらの組み合わせ一覧です。
 同(2)は昭和30年の資料その12までのレシピは23件だが、資料その7(1)の高津レシピは実質2件なので、混ぜるだけの漬け汁を7(1混)、煮る方を7(1煮)として合計24件とみて、この基準で分類した結果です。肉だけ焼くA型、C型合わせて19件なのに対し、野菜も焼くB、D型はわずか5件。酒の肴でも何でもいいから、羊肉を食べる習慣づくりを図って昭和2年、糧友会が発表した野菜抜きジンギスカンがほぼ30年、主流だったことは明らかです。
 あ、それからね、資料その7(1)の高津レシピの2通りはAαLとCαLに分けました。焼いた肉にタレで味を付けるかどうか、そのタレも取り置いた漬け込み汁のままと別に作るとかね、より細かく分けて考察できるが、残る95件のレシピを一通り見てからにします。

資料その13

(1)
 
レシピの基本分類
 AαS=糧友会型漬け汁で肉だけで漬け込み短時間
 AαL=糧友会型漬け汁で肉だけで漬け込み長時間
 Aβ =糧友会型漬け汁で肉だけで漬け込まない

 BαS=糧友会型漬け汁で野菜入りで漬け込み短時間
 BαL=糧友会型漬け汁で野菜入りで漬け込み長時間
 Bβ =糧友会型漬け汁で野菜入りで漬け込まない
 
 CαS=種羊場型漬け汁で肉だけで漬け込み短時間
 CαL=種羊場型漬け汁で肉だけで漬け込み長時間
 Cβ =種羊場型漬け汁で肉だけで漬け込まない

 DαS=種羊場型漬け汁で野菜いりで漬け込み短時間
 DαL=種羊場型漬け汁で野菜いりで漬け込み長時間
 Dβ =種羊場型漬け汁で野菜いりで漬け込まない


(2)
 AαS=4(1)、同(2)、同(3)、同(4)、同(5)、6(1)、8(4)、9(4)、11(3)計9
 AαL=7(1混)、8(2)、9(2)、同(3)、12(3)、同(4)計6
 Aβ=7(2)、9(5)、11(1)計3

 BαS=9(6)、10(2)、11(4)計3
 Bβ=9(7)、10(1)、12(1)計3

 CαS=11(2)計1
 CαL=7(1煮)、9(1)計2

 続けて基本分類を使ってみましょう。資料その14(1)は料理本のレシピとして最短じゃないかな。それでか何人分とも書いてません。Aβですね。同(2)は牛肉を使い、玉葱、馬鈴薯、甘藷なども焼くとあるからBβ。同(3)は30分から1時間漬け込むとしているからAαLのレシピとなります。同(4)は道立種羊場長を務めた吉田稔も筆を執り、釣谷猛は資料その13に入れた昭和27年の山羊肉ジンギスカンで種羊場型のタレを書いているのだから当然Cだ。タレを少し取り分け、大根卸しなどを加え「焼いた肉をこのタレにつけながら食べる」という食べ方も書いているので、これをもう1つの枝別れとみることもできるが、ややこしくなるので吉田・釣谷本のレシピはCαLとします。なにか血液型みたいだが、ジンバ学が発展途上の学問なので、私はリンネじゃないが、こういう決め方はどうしても必要なんです。はっはっは。
 同(5)は道新に初めて載ったとみられるレシピです。マイクロフィルムに残る道新の紙面の変遷を見て思うのだが、全国広告で多いうえに、札樽どころか帯広の映画館案内まで詰め込むため、地元の広告を載せるスペースが非常に狭い。ページ数を増やして、このころ4分の1の家庭欄が半ページに拡がったけど、料理のレシピより服の型紙を優遇しておるんですなあ。
 これ以前にジンギスカンのレシピがあっても、何コマかを並べる「生活メモ」とか「料理メモ」という形だったため私が見落としたかも知れないので、初めて載ったとみられる―といわざるを得ないのです。
 大抵の読者はもう作り方は知っていることだし、まあ、タイムスが3度も載せたんだから、うちも写真を付けて載せておくかという感じがするDβですね。

資料その14

(1)     カオツアイ
   第10章 烤菜  kao tsai
 
 烤菜とは直火焼料理のことである。
                   コウルウ
 烤とは物を直火で焼くことである。また掛炉というのは烤の意味である。
                   kua lu
                         ルウチウ
中国には直火で焼く料理は比較的少く,しかもその多くは乳猪(仔豚)の丸
                 ヂオンチチスハヌ
焼きとか,概して大きい料理が多い。成吉斯汗(じんぎすかん)料理は近来非常に
                   カオヤンロウ   ヤン
世間で流行している料理であるが,本名は烤羊肉または羊烤肉という。大規模の献立にはたいてい一つ位の烤菜が供せられる。魚類はほとんどない位である。
 以上に述べたように,烤菜はほとんど大掛りなものばかりであるため,実行は困難である。

カオヤンロウ
烤羊肉………いわゆるジンギスカン料理である。
kao yang jou

 〔材料〕羊の肉 500匁  醤油 5合  酒 1合  にんにく 小1コ
 〔作り方〕醤油と酒な混ぜ,にんにくはミジン切りとして入れ,濃度をつけ肉は強火で片面焼いて(肉汁を逃がさぬように)タレをつけて食す。タレは焼く時につける人,焼いてからつける人,ふたたびつける人などがあるが自由である。なるべく両面を焼かないほうがおいしい。近頃料理店では持別な鍋を用いているが,日本の炭火ならば直接七輪に金網をおいて焼いたのがおいしい。戸外で食べる野趣多い料埋である。
(吉村ミカ、小川安子著「中国料理」152ページ、昭和31年1月、光生館=原本、)


(2)
   戸外炉を囲んで ジンギス焼の昼食
            今田政子

 早春のある日、朝から親戚のものが、多
勢で遊びに来た。
 さてお昼ということになつたが、例によ
つて、戸外炉を使つて……と相談をかける
と、断然ジンギス焼と衆議一決。
 これなら、材料と、つけ汁さえ用意すれ
ば、あとは炉を囲んで焼きながら頂くだけ
なので、主婦が立つたり坐つたりしないで
すむばかりか、主人も得意気に世話係にな
つてくれる。
 お客様までが、子供たちと一緒に、とた
んにはだしで芝生に飛び出し、炉の掃除を
したり、炭をおこしたりの協力ぶり。
 ジンギス焼は、蒙古での唯一の御馳走
で、干した羊の糞を燃料に、たつぷり羊肉
を焼いて、野外で食べるのが本式だそうだ
が、これは日本の家庭向きにしたもの。

   
(主婦の友社編「春の家庭料理」の「春の行事料理とおもてなし料理」の口絵より、写真説明は「*ジンギス焼の材料は、牛腿肉、レバー、生椎茸、葱、馬鈴薯など。(本文一四九頁)」、昭和31年2月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)

 材料には牛の腿肉と、レバーの薄切とた
つぷりの野菜。出盛りの生椎茸は軸だけと
つて丸のまゝ、玉葱、馬鈴薯、甘藷などは
約一センチ厚みの輪切に、葱は七〜八セン
チ長さの、やゝ斜切に、それ/\゛適宜用意
し、大皿に盛つて出せば準備完了。
 炉にかけ並べた、厚い平たい鉄棒を初め
よく熱し、薄く油を引いて材料を並べ、と
きどき返して、焼けたそばからめい/\と
つて、小鉢にとり分けたつけ汁をつけなが
ら頂く。
 焼けるのに芋類はちよつと時間がかゝり
ますが、ほかのものはどん/\焼けますか
ら遠慮は無用。
 つけ汁は、わが家独特のもので、醤油三、
赤葡萄酒一、玉葱とにんにくをおろして合
せたもの一の割合に、混ぜ合せたものです
が、好みで加減なさつて結構です。
 ほかに薬味として、七味唐辛子は辛党の
方に喜ばれる。甘藷用には、黒胡麻を用意
し、焼き上り際にぱらつとふると、胡麻の
香ばしさが甘い甘藷によく合つて、これは
御婦人やお子さん方に大受け。
 食べる合間には、焼焦を返しべらでこそ
げとることゝ、油を引くことをどうぞお忘
れなく。
 ▲晩秋から冬にかけて、猪肉が手に入つたときは、こ
 れでなさると、体が温まるしなか/\珍味です。
(主婦の友社編「春の家庭料理」149ページ、昭和31年2月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)




(3)
   羊肉お料理あれこれ@
    森本喜代
      ―国立栄養研究所技官―
  はしがき
 近頃でこそ都市では一部の階級の人々
にジンギスカン鍋といつて数々の香辛料
を入れた「みりん醤油」にめん羊肉をつ
けて、特殊の鍋で焼肉として食べるのが
流行となりましたが、その嗜食の歴史が
割合に新らしいので一般の親しみも大変
うすいようであります。殊に農村ではめ
ん羊の毛はずいぶん広く家庭工業として
利用されているようですが、肉は余り利
用されていないように聞いております。
国民栄養調査で現に御存知のように、農
村の人達は動物性蛋白質の摂り方が大変
少いのでありますから、牛、豚肉と同じ
栄養価をもつているこのめん羊肉をこそ
手近な動物性蛋白質として摂取されるよ
うにおすすめしたいと思います。
<略>
 1.一家みんなで楽しめる
      めん羊肉のジンギスカン
 材料
 (五人分)めん羊もも肉  二五〇匁
      赤とうがらし  一本
      ニンニク    一から
      しようがの絞り汁大匙一杯
      葱       半本
      醤油      五勺
      酒       二勺
      みりん     二勺
      ごま油     大匙一杯
      味の素     少々
      七味とうがらし 少々
 作り方 めん羊肉は五匁位の大き
さに切ります。
 葱はみじん切り、ニンニクはたたきつ
ぶして細かく切ります。赤とうがらしも
種子をぬいてみじん切りにします。
 醤油、酒、みりん・ゴマ油を混ぜ合せ
た中にしようがのしぼり汁と前に用意し
た香辛料を入れてよくかきまぜます。こ
の中へめん羊肉を三〇分〜一時間つけて
香りと味をしみ込ませます。
 ジンギスカン鍋でやくか又は炭火に金
網をかけてその上で焼さながら頂きます
が、焼き上げた上に七味とうがらしを振
りかけて食べると一層風味がよろしい。
 又ゴマ油と酒の中に薬味を入れた中に
めん羊肉をつけておいて、焼き上げてか
ら、みりん、酒、醤油、味の素で作つた
調味液をつけながら食べてもよろしい。
 特にこれは温いのを賞味します。
(日本緬羊協会編「緬羊」97号12ページ、昭和31年7月、日本緬羊協会=原本、)


(4)
   成吉思汗鍋(ジンギスカンナベ)

 ▽材料(五人分)=羊肉五〇〇匁、りんご四個、みかん三個、玉ねぎ二個(いずれも中玉)長ねぎ一〇〇匁、生姜一個、砂糖一五匁、醤油一・五〜二合、清酒五勺、七味唐辛子、胡椒、味の素少量
 ▽調理法=羊肉は繊維に直角に薄く大きく切る。りんご、みかん、玉ねぎ、生姜はオロシガネでオロして木綿布で搾り、この果汁の中に羊肉と二〜三センチに切つた長ねぎを入れ、よく混和して約二時間浸漬する。つぎに小鍋に醤油、酒、砂糖を入れ火にかけてよく溶かす。これを冷やし果汁に漬けた肉に加える。さらに胡椒、唐辛子、味の素などで味を調える。食べる時は鍋が熱くなつたら羊脂を鍋に塗り、肉を汁から取りだしながら焼き、七分どおり火がとおつたころ裏返し、さつとあぶる程度が美味しい。
 なおタレを全部肉にかけてしまわずに、その三分の一を残し、これを各人の小丼にとリオロシ大根、オロシ生姜、ニンニクなどを入れ、焼いた肉をこのタレにつけながら食べると一層美味しい。
 以上のように肉を果汁に漬ける方法はラムでもマトンでもよい方法であり、とくに老羊は肉の風味が落ちるのでこの方法がよいが、ラムやイヤリングの場合は肉の風味が良いので、肉を果汁に浸漬しないで生のまま焼き、タレをつけて食べた方が羊肉の真の風味を賞することができる。タレには上記の調味料のほかに味醂やソースその他種々の香料を用いると一層美味しい。
(吉田稔、釣谷猛編「北海道の緬羊」191ページ、昭和31年9月、北海道新聞社=館内限定デジ本、)


(5)
   ジンギスカンナベ

△材料 五人分=羊肉五百匁、ネ
ギ十本、白菜中株一個、つけ汁。
△作り方 羊肉はすき焼風に、ネ
ギは大きめにハス切り、白菜は四
センチくらいに切る。まずジン
ギスカンナベを火にかけ、羊の
あぶらでよくふき、煙が出てあ
つくなったら羊肉をのせて食べる
だけ焼く。あぶら汁が流れてナベ
のふちにたまってきたら回りにネ
ギ、白菜など季節の野菜を入れて
焼き、つけ汁をつけてあついうち
に食べる。つけ汁はリンゴまたは
オレンジのしぼり汁三五l、しょ
うゆ五〇l、酒一〇l、ブドウ酒
と化学調味料五lの割でまぜたも
のを一度煮たてニンニクやショウ
ガのしぼり汁をおとしてつくる。

     
(昭和31年9月28日付北海道新聞朝刊4面=マイクロフィルム、)

 昭和32年の酪農雑誌「デーリィマン」1月号に2つのレシビ、資料その15(1)が載っています。筆者は沢光枝さん、元道畜産課長で道酪農協会役員だった沢潤一氏の奥さんです。その長さは資料その5(1)の「宮様と鍋羊肉」といい勝負です。羊肉の臭い消しにも触れていることから、新年号でページを増やすから長くなってもいいと原稿を頼むとき編集部員がいったでしよう。
 写真が6枚も付いていて@肉を切っているところA果汁絞り器に蜜柑らしい果物を押し付けて果汁を絞っているBショウガを微塵切りにしているC切った肉片と長ネギのぶつ切りを入れたバットが写っているD鍋で肉を焼いている構図で「焼きながら熱いところを食べる」E肉、野菜、調味料などを並べ「材料 ジンギスカンを美味しく作るコツはタレにある 香辛料は羊肉特有の臭いを消してくれる―とそれぞれ説明が付いています。
 前にあるレシピは漬け込み「30分前後」は30分とみて短時間のSになり、葱を焼くからBαSに分類されます。
 もう1つの「月寒畜産部でのやり方」は当然タレはα、2時間以上の漬け込みだからL、葱10本のうち5本はみじん切りでタレに入れちゃうが、残り5本はどうすると書いていないけど肉と一緒に焼くとみて、合わせて分類はDαLですな。
 同(2)で、このころからコンニャクを入れる人がいたことがわかる。私は初めて見たときマトンの脂身かと思いましたね。野菜が入るが、肉は漬け込まないから、Bβになります。同(3)は「ご指導いただいた先生」10人の名前が11ページにあるけど、誰が書いたかはわからん。漬け込まない方を先にしているので分類はBβだね。

資料その15

(1)
   家庭で手軽にできる羊肉料理
       ジンギスカン鍋
               沢光枝

 羊肉は栄養に富み、美味しく、諸外国では一般に食膳に上つていますが、日本ではまだ牛、豚肉に較べてその歴史が新しく、一般に親しみも薄いようです。羊肉は繊維管が細く組織が粗になつていますから肉が柔かく、従つて消化がよいので子供や老人にもよい食物です。また煮ても焼いても他の肉類より早くできるので、多忙な農村にもふさわしいものです。
 獣肉にはそれぞれ特有な香りがあるように、羊肉にもまた羊肉特有の香りがあり、そのまま料理したのでは嗜好に適しないので、次のような方法で香りを消し調理しますと、誰でも簡単に美味しくいただけます。
 @羊肉の特有の香りは体表部の方が比較的強いから、なるべく皮下筋や厚い脂肪の外側をとりのぞくこと、脂肪は冷めると凝固して食味を低下させますから、料理したものは温いうちに食べることです。
 A高熱で手早く調理する必要があります。直接炭火にかざし、または天火を使用するとか或は油で揚げるとかして香りを消します。そうすれば割合短時問に処理されるので、味と栄養上の損耗は少なく、その上幾分こがすことによつてて香ばしく、焼くことによつて気持のよい歯当りを与えます。また煮物にする場合は一度軽く油で炒めてから料理します。
 B野菜や香辛料を使つて香りを消すことも必要です。この場合はショウガと葱が最も適しています。その他セリ、ウド、ゴボウなど季節の野菜をとり合せて汁物、和え物にすることもあります。また調味料として粉サンショ、七味トウガラシ、日本辛子、コショウなどを使用して肉の香りを消す方法もあります。
 一般家庭にむく料理としてジンギスカン鍋があります。ジンギスカン鍋は世界でも味を誇る中華料理中の粋といわれるもので鍋羊肉〈コオヤンロオ〉といい、珍らしくまた美味で、しかもきわめて簡単にできる料理です。
 このジンギスカン鍋は、蒙古の英雄成吉思汗が大軍を率いて満蒙の荒野を馳駆していたときて沙漠や高原の露営で士気を鼓舞するために、部下の将兵とともに松のたき火にあたり、楯で羊肉を焼いてコウリャン酒を傾けたというのがその名の出所といわれています。この料理法は非常に原始的な風情を持ち、野外で十数人が寄つて食べるのに適しています。家庭では窓を開け煙のこもらたいようにして焼きます。次に簡単にその方法を紹介しましよう。

☆ジンギスカン鍋 材料〈5人分〉
羊肉(肩または股肉)500匁〈1人当60〜100匁〉、醤油1合7勺、酒5勺、林檎1個〈しぼり汁5勺〉、ミカン中2個、ショウガ10匁、パセリ15本、ニンニク1片、砂糖大匙1杯、七味トウガラシと味の素少々、長葱5本、セロリ適宜。

☆作り方(写真下参照)@羊肉はすじや腱を除き、スキ焼よりやや厚目に大きく切つておく。繊維に直角に切ることが大切である。
A蜜柑は皮のまま二つに切り、レモン搾り器で汁を搾る。ショウガは皮をむき、林檎は皮つきのまま卸し金で卸してガーゼでこしておく。
B蜜柑の皮とパセリはミジン切りにする。
Cバットに醤油と酒を入れ、搾り汁とミジン切りの材料を加え、ニンニク1片をすり卸して混ぜ合せる。砂糖と味の素を入れ、七味トウガラシを少々ふり落して味を調える。羊肉をこのタレの中に30分前後漬けておく。
 コンロに炭火をおこし、食卓にのせ、ジンギスカン鍋をかけてよく熱しておく。鍋に羊の脂か食油を塗り、肉を漬け汁から上げて皿にとり、鍋にのせて焼きながら食べる。肉は七分通り火が通ったところで裏返し、ざつとあぶる程度が一番美味しい。長葱はぶつ切りにして鍋のふちにのせて焼き、セロリは生のまま塩を添えてとり合せにつけ、肉料理に不足する野菜を補う。

 ジンギスカン鍋にはもう一つ違つたやり方があります。豊平町月寒畜産部でのやり方を次に紹介しましよう。

☆材料 羊肉500匁、醤油2.5合、砂糖30匁、酒5勺、長葱大10本、ニンニク小1個、ショウガ大1個、林檎2個、ゆず(蜜柑、夏蜜柑、オレンジ〉トウガラシ、味の素各少々。
 作り方 醤油を鍋に入れて弱火にかけ、砂糖と長葱5本のミジン切りを中に入れ醤油が温まつたら〈煮立てないこと〉鍋を下し、葱をすくいあげてガーゼで搾る。次に林檎とショウガ、ニンニクを卸して汁を搾り入れ、柚子の搾り汁、酒、味の素を加え、トウガラシを加える。このタレの半分に羊肉を2〜3時間浸しておく。砂糖の代りにミリンや果汁を入れ焼酎少々入れることもある。タレには長葱、パセリ、蜜柑の皮のミジン切りを薬味として加え肉を焼きながらつけて食べる。なお羊の肝、心、舌を肉と一緒にタレに浸し焼いて食べるのもよい。(北海道酪農協会常任理事沢潤一氏夫人)
(DAIRYMAN編「DAIRYMAN」7巻1号41ページ、昭和32年1月、北海道協同組合通信社=原本、)


(2)
   ジンギスカン鍋
    (烤羊肉(カオヤンロウ)

 成吉思汗が戦場で、鉄のかぶとで羊の肉
を焼いて食べたところから、この名がある
といゝ伝えられる料理です。
 羊の肉を直火で焼きながら、中華らしい
たれをつけて頂く、野趣豊かなもの、羊肉
の代りには、牛肉、豚肉、間鴨なども用い
られます。
作り方 肉は三〜四ミリほどのやゝ厚め
に短冊かそぎ切、野菜類は葱、ほうれん草、
白菜、椎茸、ピーマン、こんにやくなど季
節のものを適宜にとりそろえればよい。
 葱は五センチほどの長さにぶつ切、ほう
れん草も同じ長さに切りそろえ、その他の
野菜は肉に合せて短冊に切る。
 この場合に用いる鉄製の鍋は、鍋を反対
に伏せたような半円形のものですが、代用
には、厚手の鉄板か、家庭なら、鉄のすき
焼鍋を利用なさつてもよいでしよう。
 鉄網は火にかざしてよく焼き、脂身を網
の頂上にのせておくと、自然に油が流れて
網になじんでくる。そこで肉を上の方に、
下の方には野菜を並べて焼くとよい。
 焼けたらすぐ、たれをつけて頂く。
 ▲たれ 醤油カップ半杯、酒大さじ二杯、酢大さ
じ二杯、にんにくのみじん切小さじ二杯、葱のみじん
切大さじ二杯、生姜のみじん切大さじ一杯、胡麻油小
さじ二杯、味の素少々などを全部混ぜ合せ、そのまゝ
つけて頂くところが珍味。
(主婦の友社編「料理文庫 中華料理の基礎」83ページ、昭和32年2月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)


(3)
   じんぎすかん鍋

 材料(5人前)
羊肉…………………………1`
まつたけ……………………50c
玉ねぎ………………………中3個

つけ汁
しようゆ……………………1カップ
みりん………………………大さじ4.5
酒……………………………大さじ4
アップルワイン……………1/2カップ

おろししょうが……………30c
おろし玉ねぎ………………90c
おろしにんにく……………12c
おろしセロリ………………適当
おろしりんご………………1/2個
七味とうがらし
こしょう
化学調味料

作り方
1 羊肉(小羊の柔らかいものを用いる)ま
たは豚肉を適当な厚さに切り、まつたけは厚
めに包丁し、玉ねぎは八つ割りにして用い、
以上を器に盛ります。
2 鍋を火にかけ、焼けてきたら、野菜など
をのせて焼き、つけ汁につけていただきます。
またこのつけ汁に、材料をあらかじめつけ込
んでおいて焼くのもよいでしょう。
(雄鶏社編「日本料理」158ページ、「鍋料理のコツ」より、昭和32年2月、雄鶏社=館内限定デジ本、)

 資料その16も昭和32年のレシピです。同(1)は極めて簡単に書いてありますが、一度食べたことがあれば、これで十分わかるのでしょう。滷蝦油は旧満洲の特産品と話したことがありますよね。肉だけ漬け込みなしのAβです。
 (2)に置いた黒田初子のレシピは糧友会の鍋羊肉みたいな簡素なレシビでAαLですね。私は国会図書館でこの本を見たんだが、奥付に発行年月日がない。国会図書館サーチは昭和31年発行としており、道立図書館なども31年にしているが、国会図書館の納本の検印は昭和32年6月6日であり、記事の招待状の例文に昭和32年4月23日とあるので、私は昭和32年の本、AαLとみなしました。
 昭和12年、ジンギスカンの記事を載せ、同時にジン鍋の通信販売を始めた料理の友社の月刊誌「料理の友」は太平洋戦争中は休刊し、その後の巻号から逆算すると戦後は昭和22年に29巻1号から再発行したことになります。
 いまでこそ、国会図書館で昭和26年の33巻から36年の43巻までフイルムで読めますが、私が調べたときは、それがなくてね、奈良女子大まで行きました。そのときキャンパスに鹿がいたので流石奈良は違うと感心したという話はしたことがあったかな。私が1年目のとき、鹿じゃなくて正門脇の芝生で兎を捕まえたことがあります。どうやって喰うか、いや実験で悪い菌を注射された奴かも知れんぞなんて仲間と相談しているうちに、その兎が脱兎の如く、いや脱兎そのものだ、ぱーっと職員集会所の床下に逃げ込んじゃった。はっはっは。いま南門の近くでリスを見かけるが、知ってますか。
 おっと脱線はそこまで。「料理の友」が戦後初めてジンギスカンを載せたのは昭和32年10月号で「特集 温まる日華鍋料理」の中でようやく見つけました。それが資料その16(3)で味噌も入れたタレを使うが、漬け込みなしのAβですね。
 同(4)はキーワード「鍋料理」で見付かったレシピでBβです。

資料その16

(1)

烤羊肉(カオヤンロー)(羊肉の直火焼)
   kao yang jou
 
 ┌─────材      料──────┐
 │ 羊肉     400g(約100匁)│
 │                   │
 │  ┌にんにく(又は葱)1かけ(4g)│
 │  │生姜   1かけ(15g)   │
 │ a│醤油   大匙5        │
 │  │酒    大匙5        │
 │  └滷蝦油(又はアミ塩辛)茶匙1  │
 │   (30頁参照)         │
 ├───────────────────┤
 │ 総蛋白質    65.6g     │
 │ 総熱量    626.2cal   │
 └───────────────────┘
 〔調理法〕
1 羊肉は巾5〜6cm、
 長さ10cm位の極く薄
 いそぎ切とする。
2 にんにくと生姜は卸
 金でおろし、aの材料
 全部混ぜ合はせる。
3 1の肉を、2の調味
 品に10〜20分間浸けて
 おく。
4 火の上に鉄板をのせ、3の肉の両面を一寸焼き、
 熱いところを食する。
 〔備考〕
1 もと蒙古料理であったが現在は北京料理となり烤
 羊肉という。
2 この料理は元来、蒙古の創設者、成吉思汗が、雪
 中の曠野に、桜の生木を焚いて、羊の肉を焙り、軍
 勢の士気を鼓舞したのが始めと云われ、成吉思汗料
 理と称えられている。
3 蝦油を用いると羊肉の臭味が消される。蝦油の代
 りにアミの塩辛を少々用いてもよい。
4 現今、ヂンギスカン鍋と称し、市販されている器
 具を、コンロの上にのせて用いれば家内でも簡単に
 焼き乍ら食ベられる。
5 又厚目の鉄板を利用してもよい。
(野村万千代、田中道江著「これからの中国料理」253ページ、昭和32年5月、至誠堂=館内限定デジ本、)


(2)
   晩秋に蒙古を偲ぶ――
       ジンギスカン・パーティ

 星がさえてくる頃、庭に炭火を赤々とおこして、そのまわりに好きな仲聞を集めてジンギスカン焼を試み、放歌高吟するのも愉快です。鍋の用意のできるまで、セロリー冷菜でのんでいます。

   ジンギスカン焼

 これは蒙古料理ともいえるものですが、中国の北の方面では、盛んに親しまれています。あちらでは羊肉を用いますが、日本では羊肉は手に入りにくいので、牛肉や豚肉で作ります。軟らかい肉を用いて下さい。焼く金網は特別なものがありますが、魚焼の網の太いのでやけば結構です。初めによく網を熱しておいて、めいめいでやきながら食します。
  材料(五人分)
    牛又は豚肉  二百匁
    蒜又は葱    三本
    ニンニク    少々
    酒       二勺
    醤油      五勺
  作り方
 肉はできるだけうすく切ります。葱は小口切りにし、ニンニクはみじん切りにします。醤油と酒をまぜ、その中にニンニクと葱を加えます。大皿に肉を平に並べ、その上から右の汁をまんべんなくかけ平均に味がしみわたるようにして一時間程おきます。それからコンロに木炭火を思いきって強くおこしてジンギスカン鍋をのせ、これが非常に熱くなったら、肉をのせてやきます。ジンギスカン鍋はデパートで売っていますが、なければ蒙古人がやるように大きな石を焚火にくべ、十分やけたら火をかきわけ、その石の上に肉をのせてやくと、更に情緒をそえることでしよう。或はまた、厚手の鉄のスキ焼鍋をさかさに火にかけて、その底の裏でやいてたべてもよろしい。日本では牛肉を一枚々々ていねいにひろげてやきますが、北京では野菜ごと鍋の上でこねるようにしてやきます。その方が味がしみておいしいのです。
 この焼肉は中華風の蒸しパンを頂きながら食しますと一層結構です。尚飲物は焼酎の方が味があいます。
   (注意)
 肉から出る脂肪が木炭火の上にたれて、煙がモウモウとたち上ります。それで、この料理は屋外で召上る方が、却って野趣があって集う人々の心をたのしませます。
(黒田初子著「各種パーティの開き方」205ページ、奥付に発行日付なし、文陽社=館内限定デジ本)


(3)
   成吉思汗(ヂンギスカン)(羊肉の烙り焼鍋)

 凍る星月夜を仰ぎながら炭火のカンカ
ンと起きた火又子を囲んで羊内を焙つて
食べる成吉思汗鍋は……冬の北京に遊ん
だことのある人は誰しも其味を想い出さ
れましよう、美味、痛快、原始的料理で
す、之はテーブルを野外に持出して羊肉
を焼きながら食べる料理でありますが、
家庭的に手を加へて置きましたから、す
き焼の代リに座敷の中でお試し下さい、
必ず美味しいと云われること請合です。

 材料 (五人前)羊肉三百匁、柚子
     二個、パセリ少々、葱一本、
     生姜、スープ、酒、味噌、
     酢、醤油、味の素。
 調理法 (1)羊肉は薄く刺身の様に切
つて皿に盛つて置き柚子、パセリ葱は微
塵に茶匙二杯づゝ切ります。
 (2) 次ぎ、スープ、酢、醤油を同量づ
ゝ丼に合せ、其中へ酒盃一杯と柚子の搾
り汁を加へ味噌を入れよく混ぜ合せて微
塵切りを浮かべ小丼に注ぎ分けて置きます。
 (3) 次ぎ、肉と汁を食卓に運び、火の
用意をしてからフライ鍋又はすき焼鍋又は
餅焼網をかけ、熱くなつてから羊肉をヂ
リヂリ焼いて配られた汁をつけて頂きま
す。あまりよく焼くと硬くなります。
 応用 羊肉の間に合わぬ時は豚肉、牛
肉、鶏肉等が美味で鯨の赤身の部をこう
して食べれば何とも云へぬ美味しい食べ
方であります。
(大日本料理研究会編「料理の友」39巻12号62ページ、「温まる日華鍋料理」より、昭和32年12月、料理の社=マイクロフィルム、)


(4)
   4 じんぎすかん鍋

材料(五人前)
 豚肉百匁(約四〇〇グラム)
玉葱中二、三個 人参 一本 キャ
ベツ二、三枚 春菊一把 レモン
汁大さじ四杯 醤油大さじ四杯
生姜卸し適宜 パセリのみじん切
少々 レモン皮みじん切少々 大
根卸し少量

作り方
 豚肉はうす切りにし、玉葱はう
すく輪切りにします。
 人参もうすい短冊切り、又は輪
切りにします。
 キャベツはさっと湯通しして三
糎角に切り、春菊は葉先の軟かい
ところを用います。
 レモン汁と醤油を同量くらい割
ってたれとし、生姜卸し、パセリ
のみじん切り、レモン皮のみじん
切り、大根卸しなどを薬味に用い
ます。
 じんぎすかん鍋を充分熱し、油
をよく塗ってそこへ豚肉や野菜を
のせ、焼きながらたれをつけて頂
きます。
 火加減ははじめ充分鍋を熱し、
油を敷いて火を弱めて焼きます。
 又このような鍋は特殊ですから
フライパン又はすき焼鍋で、バタ
ーで焼き、合せ汁や薬味をつけて
頂きます。
 肉のみでなく、肝臓、腎臓など
もうすく切って一緒に頂きます。
(婦人生活社編「婦人生活」11巻12号163ページ、赤堀全子「温かい鍋料理特集」より、昭和32年12月、婦人生活社=館内限定デジ本、)

 昭和33年の本は3冊ですが、このほかに調理法毎にレシピをまとめてた王馬煕純著「中国料理」があります。「烤」の項では「直火焼きのことをいいます。焼き豚(叉豚)、烤羊肉(ジンギスカン料理等)、北京独特の有名な烤鴨子(あひるの丸焼き)が代表的な料理です。他の調理法ほど種類は多くありません。(22)」といい、烤鴨子と叉焼肉だけでジンギスカンはないからオミットしました。
 資料その17(1)は農林省岩手県種畜牧場のレシピの受け売りだが、資料その15(1)の沢夫人のレシピとそっくり、葱を焼くところもね。よってDαL。
 同(2)は糧友会型タレで肉だけ漬け込み1時間だからAαL、そうかと思えば「生肉をそのまま焼き、タレをつけて」とも書いているからAβ、さらに葱を焼く場合はBβとなるからややこしい。基本は「糧友会型浸出液に漬け込み30分以上」とみられるからBαL、同(3)は糧友会型で30分止まりだからAαSですね。

資料その17

(1)
   羊肉

<略> 「マットン・チョップ」は英国人の最も好む料理であるが、日本人には成吉思汗料理が一番適しているように思う。しかし私は成吉思汗料理のくわしいことは知らないので、その道の大家である農林省岩手種畜牧場長菊地宏君のお話しを紹介することにする。
 成吉思汗料理の起源はつまびらかでないが、 一説に蒙古の成吉思汗が戦陣の間、メン羊の肉をさき、冑を火の上に伏せて肉片を焼き、これを賞味したところから生れたといわれ、強い酒に良く合う料理である。
 この料理のコツは「たれ」の作り方にあって次のような材料(七人前)を要する。
 (1)ショウユ四合 (2)砂糖四〇―五〇匁(好みによって加減する)(3)長ネギ一〇〇匁 (4)夏ミカン及びリンゴ各二個 (5)ミリンまたは清酒一合 (6)唐辛子粉末大さじ三杯位 (7)玉ネギ三〇〇匁 (8)ニンニク少々 (9)味の素少々 (10)根ショウガ一個 (11)コショウ少々 (12)羊脂またはゴマ油少々
 作り方
 (イ)ショウユは半量をナベにとり砂糖は全量を入れてとろ火にかける。これに長ネギ二本を出來るだけ細かく刻んで入れ攪拌する。ショウユから湯気が上り始めたならば、ナベを火からおろす。この時ショウユの温度は摂氏三十度ぐらいがよく、ネギが煮えてしまわないように、次にガーゼまたはサラシでネギをこしとって浸出液を冷ましておく。
 (ロ)ショウユが冷めたら、リンゴと夏ミカンの果汁を入れ、ミリンまたは清酒を加え、さらに残りのショウユを注ぐ、それにあらかじめ火を通した唐辛子の粉末を投じ攪拌する。
 (ハ)次に玉ネギをおろしてその汁を加え、好みによってニンニク汁、コショウを入れ最後に味の素を加えて味を整える。
 (ニ)出来上った「たれ」はショウユ差し二本にとり、残りの「たれ」は羊肉の浸漬液にする。
 羊肉はなるベく大きく厚さ二分位にていねいに切って浸出液の中に入れ、約一時間後に大さらに肉片を拡げて盛りパセリ等を添える。別の小ざらに玉ネギ、ニンニク、夏ミカンの皮、根ショウガのおろしたものを分けてとり「たれ」の添料として用意する。
 以上準備が終ったら、成吉思汗ナベを火にかけ羊脂またはゴマ油をぬり、肉片をのせて八分焼きぐらいに焼いて「たれ」と添料を加えた小ざらにとってひたしながら食べる。肉と共に四つ割ぐらいにした玉ネギまたは長ネギの一寸ぐらいに切ったものを焼いて同様にして食べるとまた格別である。さらに肝臓・心臓などの内臓を同様に処理して食べれば栄養にもよい。
 以上でなおわかりがたいところや疑問があったら、直接菊地場長さんにおたずね下さい。紙上ながら菊地さん、御照会のあった節は何卒宜しくお願いします。
 羊の年だからといってメイ、メイ、メイわくなどと、おなきにならずに、なく方はあなたの周囲に可愛いのが沢山いるでしょう。
(鈴木重雄著「たべものの化学」21ページ、昭和33年6月、石崎書店=館内限定近デジ本、)


(2)
   (1)ジンギスカン料理
 普通、ジンギスカン料理といわれている料理には、焼肉の烤羊肉(コウヤンロウ)と水煮の羊肉(シーヤンロウ)とある。

 烤羊肉
 我が国で最も普及されているジンギスカン料理である。
 材料 羊肉(肩又はもも肉)八〇〇グラム(五人分)、肉の浸出液として醤油、酒、砂糖の混合したもの(○・三リットル)、ショウガ三〇グラム、七味とうがらし若干、玉葱三〇グラム、味の素適量。
 タレ用として醤油、酒、砂糖の混合したもの(○・一リットル)、ミカン又はダイダイの絞り汁大匙一杯、味の素適量。
 薬味用として長葱二〜三本、ニンニク半片、ユズ皮一個分、シヨウガ四〇グラム、パセリー一〇本。
 羊肉を三ミリ位の厚さに切り、浸出液中に食べる三〇分〜一時間前に潰けておく、次に強火の七輪にゴマ油をぬつた金網かジンギスカン鍋に、漬けておいた肉片をのせて焼きながら、タレに薬味を適当に入れ、つけて食べる。又、浸出液につけないで、生肉をそのまま焼き、タレをつけて温いうちに食しても風味がある。長葱は、五センチ位の長さに切り、鍋の縁において焼き、タレをつけて食する。
(海老成直著「肉緬羊とその飼い方」175ページ、昭和33年8月、興文社=館内限定デジ本、)


(3)

   成吉思汗(烤羊肉)

 成吉思汗料理といわれているもので野外料理です。本
当は戸外で焚火をしながら羊肉を焼いて食するものです
が家庭では炭火に金網をのせて焼きます。
材料と分量(五人分)

 羊の腿か 六〇〇g   | 酒   大匙六杯
  肩の肉塊 (一五〇匁) | 生姜汁 小匙二杯
 さらし葱 一本分    | 塩   小匙半杯
 醤油   大匙五杯   | 胡麻油

作り方  肉は薄く大きく切り、葱はさらし葱とし
     ます。器に醤油、酒、生姜汁、塩を合わ
せてさらし葱を加え、この中に肉をつけて二〇分か
三〇分くらい味をしみこませます。
七輪に炭をおこし、金網をのせ、肉が金網に焦つか
ないように胡麻油をぬり、肉を両面焼いて好みで七
味唐辛子又は大根おろしをつけていただきます。普
通は手に入りやすい豚肉を使います。
(林とし著「新しい料理 味覚と栄養」8版447ページ、昭和33年*月、光文書院=館内限定デジ本、)

 昭和34年1月の道新に札幌市中央保健所が羊肉料理教室を開いたという記事が載っています。「羊肉料理で普通に知られているのはジンギスカンなべだが、これは屋内向きではない。そこで、冬でもおいしく味わえるものをと、水たき、くしかつ、たつた揚げの三種が紹介された。(23)」とあります。もうこのころは羊肉料理ならジンギスカン鍋が道民の常識になっていたんだね。
 またレシピを書いた本も4冊ありました。資料その18(1)は焼き豆腐、油揚、貝柱を加え、焼きながら塩を振り掛け、さらにタレもつけるというから野菜入りで漬け込まないBβだね。
 同(2)は糧友会型タレで肉だけで1時間漬けるからAαLです。同(3)は赤堀全子が書いたレシピで肉の漬け込みなしだからBβ、黒田本からの同(4)は「食べる30分前」だから短時間とみてAαSですね。同(5)はジンギスカンと書いていないが、タレにトマトケチャップと酢を入れるところがちょっと変わっている以外、ジンギスカンですね。ケチャップは煮て作られるので悩ましい材料ですが、単なる調味料と見なすことにします。昭和12年に吉田誠一が書いたレシピに酢盃二杯があり、酢を入れるのはこれが初めではない。Bβですね。

資料その18

(1)
   ジンギスカン焼

 材料(十人前)
 羊肉(または牛ロース)四〇〇
c 豚バラ肉四〇〇c かき二〇
〇c 焼豆腐二丁 生揚二枚 餅
五切 生椎茸五枚 玉葱二個 葱
二本 ほうれん草五株 ピーマン
三個 豆もやし二〇〇c 薬味

 作り方
 羊肉と豚肉は共にすきやきより
やゝ厚めのマッチ箱大の長方形に
切り、かき(平貝柱、蛤)はうす
い塩水で洗い、ざるにあげて水を
きっておきます
 焼豆腐、生揚は共に形なりに四
五等分しておき、餅は二つに切り
生椎茸は大きく二つにそぎ切り
にし、玉葱はたて2つ割りとし、
伏せて1糎厚みの半月に切って、
楊子ををさしておきます。
 葱は中細のものを六糎くらいの
ぶつ切りにし、ほうれん草はよく
洗い、根元の土をおとして二つく
らいにさき、葉先を少し切りおと
します。
 ピーマンはたて四つ割りにして
種子をぬいておき、豆もやしはよ
くまとめて洗っておきます。
 以上の材料を色彩の配合よく大
皿に盛り合せます。
 たれは、酢半カップ、昆布煮出
汁半カップ、レモン酢一個分、醤
油大さじ四杯、ソース大さじ四杯
砂糖大さじ一杯、塩大さじ一杯、
胡椒少々をまぜ合せて作ります。
 薬味は、葱を小口から輪切りに
し、レモンの皮一個分(中身をし
ぼってたれに入れる)をみじん切
り、パセリも細かに切り、以上三
種を薬味皿にこんもりと色分けに
盛り合せます。
 焼き方 饅頭型のジンギスカン
鍋を食卓のコンロにのせ、あたた
まったころ、牛の脂肪のかたまり
をのせて、じく/\とけてきたら、
箸で鍋肌全体をぬらし、肉類をの
せて手まめに塩などふりかけ、両
面を焼きます。
 野菜その他の具ものせ、それぞ
れ熱いうちにたれに薬味を入れて
つけていただきます。
 これは、すきやきの甘ったるい
味とはまた変って、その独特の味
の淡白さは日本人の嗜好によく合
い忘れがたいものになっています
 山海の季節の珍味、洋野菜など
おりまぜた自然の持味のうまさは
捨てがたいものがあります。
 ジンギスカン鍋がなければ、す
きやき鍋、鉄板のお好みやき風の
ものを利用しても結構です。
        (似内芳重)

    

    エプロンを着ないと、脂がはねてお召し物が……<尽波>

(婦人生活社編「婦人生活」13巻2号320ページ、昭和34年2月、婦人生活社=館内限定近デジ本、)


(2)
  ジンギスカン料理

 脂肪を別にして置くがよい。できるだけ肉を薄切りにしておく。
肝臓・心臓等も同様取扱う。ただし、初めて食する人に取つては、肝臓は少し臭気が高いので、一緒にしない方がよい。
 別に、大根オロシで、玉葱・シヨウガ・ニンニク等を卸しておく。これらと、砂糖・しよう油等を用い浸漬液を作る。調合割合の一例を示すと次の様である。
 浸漬液の割合(羊肉四kgつき)

シヨウガ 玉ネギ  ニンニク トウガラシ 砂糖   味の素 しよう油
一二〇g 二〇〇g 三〇g  少量    三五〇g 少量  一リツトル

 右の浸漬液の中に薄切りした羊肉を浸しておき、一〜二時間位放置する。
 ジンギスカン鍋を用いて、この羊肉を焼いて食べる。臭気はなく、頗る美味であるので、今まで食べたことのない人達にも向く。戦時、蒙古の勇将ジンギスカンの大好物であった。
(江角清義著「これからの緬羊」275ページ、昭和34年3月、アヅミ書房=原本、)


(3)
   ジンギスカン鍋

材料(五人前) 豚肉又は羊肉四〇
 〇c 日本葱三〇〇c 生椎茸一
 〇〇c 醤油 酢又は橙汁 りん
 ご汁 生姜 にんにく七味唐辛子
 作り方 肉は、すき焼のようにうす
切りにします。
 葱は、太めのものを三、四a長さに
ぷつ切りにします。
 生椎茸も大きめに二つ切りにします
 火の上に鉄鍋(中央が山のように高
くなっているジンギスカン鍋を用いる
が、フライパンでもよい)をのせて熱
し、脂肉を中心にのせて全体に油をひ
き(普通のフラィパンのときは脂肉で
よくふく)肉を並べのせ、周囲に野菜
をのせます。
 肉から溶け出た脂で、野菜もおいし
く焼けてきますから、焼けたら返して
焼き上ったところを次のつけ汁をつけ
ながら頂きます。
 つけ汁は、醤油一カップ、酢又は橙
汁2/3カップ、りんご汁少々、生姜、
にんにく、七味唐辛子を好みで混ぜ合
わせて作ります。
(同志社婦人生活編集部編「家庭料理全書」213ページ、昭和34年6月、同志社=館内限定近デジ本、)


(4)
   成吉思汗焼を中心に
          黒田初子

 蒙古のバービキュー、成吉思汗焼き
を中心にしたガーデン・パーティの献
立です。
 成吉思汗は羊を使うのが本当ですが
牛肉を使っても結構です。肉の美味し
さを満喫させてくれるでしょう。特に
難しいこつはありません、ご家庭で気
軽にお試しください。
 ご婦人のためにフルーツポンチをつ
けましたが、お飲みになる方々には、
ビールでも、カクテルでもご自由に。

  お献立
  
前菜……雪山
ジンギスカン焼き
花捲児(主食として)
アスパラガスサラダ
銀杏串ざし
フルーツポンチ
花のあるケーキ

    ジンギスカン焼

材料(5人前)羊肉又は牛肉800グラ
ム  葱5本 ニンニク3片 醤油大匙
6杯 酒又は焼酎大匙2杯
作り方
 肉はなるべく薄く切り、葱は小口切
りにし、ニンニクは、みじん切にして
おきます。
 食べる30分前に酒と醤油を混ぜて、
肉とニンニクと葱を一緒にして和えて
おき、味が平均に行きわたる様に時々
箸で混ぜておきます。
 コンロに炭火をおこし鉄網をのせ熱
くなりましたら、各自が肉を焼きなが
ら頂きます。焼く時に葱を肉片の中に
もみ込むようにしますと美味しく頂け
ます。
 尚、お酒を飲みながら頂くと肉の味
が一層よくなりますが、花捲児(蒸し
パン)を食べながら肉を味うのもよろ
しいでしょう。
(雄鶏社編「野外料理 ピクニック料理とバービキュー 野山・海・お庭で」50ページ、昭和34年6月、雄鶏社=館内限定デジ本、)


(5)
   羊肉のバーベキューソース焼き
                榊叔子

 合わせソースをつけて焼きまかから、
羊肉のくさみか消えて、独特のおいし
さになります。

材料(6人前)
羊肉400グラム  ねぎ5本  春菊1束  生しいたけ
6枚  玉ねぎ大きいものなら1個  しょうゆ
ケチャップ  酢  化学調味料適量

作り方
@羊肉はなるべくよいところを薄切りにし
ます。ねぎは斜め切り、春菊は4センチくらいの
ざく切りにし、生しいたけは、ごみを落とし
てざっと洗い、そのまはか大きいものは2つ
切りにします。玉ねぎはわ切り。
Aすきやきなべまたは厚手のなべを熱して
油をしき、肉、野菜を焼きながらいただきま
す。
Bソースはしょうゆ大さじ2、ケチャップ
大さじ4、酢大さじ1の割で合わせ、洋がら
し、おろしにんにくなどをまぜます。
(学習研究社編「暮しの知恵」1巻5号14ページ、昭和34年6月、学習研究社=館内限定デジ本、)

 昭和35年のレシピは3件見付かりました。資料その22(1)は読売新聞からで執筆者は資料その4で紹介した栄養研究所の森本喜代。10年前はAαSだったが、ここでは見出しが大きくなり、タレは煮立てて生肉と「季節の野菜適量」に付けて食べるDβに変わっています。私がレシピの基本分類を使うのは、この森本レシピの変化のように、つまりジンギスカンで焼く材料が肉だけのA、B型から野菜も焼くC、D型への遷移を端的に示すためなんです。
 同(2)は毎日新聞の「ふるさとの味」からです。「ヒツジの肉は脂肪の油質が純良のため消化が非常によいうえ、ビタミンB1が豚肉などよりもずっと多く含まれており、甘味と芳香がよいため好まれ、食欲も大いにそそられるものです。」と羊肉を食べるジンギスカンが体に良いと認めているのですが、5人分のタレに見合う羊肉の量は書いていません。「一人で平均して一回に三百cは楽に食べられ、なかには一`以上も食べる人もあります」から、予算と食べるメンバーを考えて決めなさいということですね。
 同(3)は「さっぽろ文庫別冊 札幌生活文化史(戦後編)」からです。昭和62年2月に発行された本ですが、昭和35年4月から翌36年末までにNHKテレビで放映された「季節の料理」9ページの写真で読めるレシピです。放映日と講師はわかりませんが、ここに入れました。「中火でさっと一煮立ちさせる」漬け汁はDだけどタレとして使い、周環で葱を焼いて食べるから野菜入りのDβと判定されます。(3)がテキストの写真です。

資料その19

(1)
   ヒツジ肉のおいしい食べ方

 香料と薬味にコツ
   やわらかくて消化もよい

 最近、ヒツジ肉の需要がふえて品不足のところもあるといわれています。ヒツジ肉といえば、昨年からバーベキュー料理が流行してジンギスカン料理をメニューに加えたレストランもふえ、一般家庭でもブタ肉の値上がりからはじめてヒツジ肉を使ったという方も少なくなかったようです。ヒツジ肉は栄養価もウシやブタに劣らないし、脂肪が多い割にカロリーが低いのでアメリカでは婦人の美容食の一つとして愛用されているといわれます。デパートはじめヒツジ肉を取り扱う肉屋さんもふえてきたので国立栄養研究所・森本喜代さんにその栄養、特徴と、その代表的な料理法をいくつかあげていただきました。

中華風のジンギスカン焼き

 ヒツジ肉と新鮮な野菜を素焼きにし独特のタレをつけていただく野趣豊かな料理です。
【材料はいずれも五人分】ヒツジのモモ肉かロース一キロ・グラム、ネギ、ホウレンソウ、シュンギク、タマネギ、ハクサイ、シイタケなど季節の野菜適量。

タレと薬味

▽タレの割り合い=しょう油大サジ八杯、ミリンまたは酒同四杯、根ショウガのしぼり汁少々、ミカンかリンゴ半個分のしぼり汁、化学調味料。しょう油はさっと煮たててさましミリンその他のしぼり汁を入れてよくかきまぜます。これにコショウやゴマ油を入れると洋風の味になります。
▽薬味=ネギ、パセリ、ショウガ、ユズかレモンの皮、いずれもみじん切り。
 いただき方はジンギスカン・ナベがあれば理想的ですが、金アミやフライパンでもできます。フライパンの場合は油(サラダ油のような植物油)をひいて強めの火でナベを熱し、こげたり焼けすぎたりしないように肉の両面を軽くあぶってタレをつけ、暖かいうちにいただきます。野菜はナベの回りにならべておくと流れる肉汁や油でおいしく焼けますから肉と同じようにタレをつけていただきます。
(昭和35年1月15日付読売新聞朝刊9面「婦人」欄=マイクロフィルム、)


(2)
<略>ジンギスカン
ナべについて料理の指
導をしている横内幸司
さん=札幌市南七西
四グリル「ユカリ」経
営者=は、おいしく食
べる方法について、つ
ぎのように語っていま
す。
肉は発情期のものは体臭が強くて
おいしくありませんが、秋から冬
にかけてふとって脂肪ののったと
きが一番おいしく、臭みもほとん
どありません。一番おいしい肉
は、肉の間に脂肪が散っている
しもふり≠ナす。
おいしく食べるには、タレをじ
ょうずにつくることで、しかも
正式のつくり方というものはな
く、店々によって秘伝にまでな
っており、独特の味をつくって
います。家庭ではタレを好みに
合った味に調合すればよいでし
ょう。
基準になるつくり方は五人前で、
ショウユカップ約二はい、酒大サ
ジ十、酢大サジ十、ニンニクをみ
じんにして小サジ十、長ネギをみ
じんにして大サジ十、生ショウガ
をみじん切りにして大サジ五、ゴ
マ油小サジ十、化学調味料少々で
すが、このほかコンブの出し汁、
ダイダイ、レモン、ネーブルなど
のしぼり汁を少レ入れてよく混ぜ
合わせてつくります。
まず、ナベがあたたまったら肉の
アブラを全体によくぬってから、
肉が焦げない程度の火力で、しか
も肉汁が白く出ない程度にして、
焼きあがったものから順に食べて
いきます。
またナベのふちには長ネギ、玉ネ
ギ、ピーマン、ニンジン、ジャガ
イモなど季節の野菜や好みの野菜
を置くと肉の油がしみ込んでおい
しくやけるので、これもタレをつ
けて食べます。また、ニンニクの
においがあとに残っていやがる人
は、黒砂糖を食べるとほとんど臭
くなくなります。
(昭和35年3月12日付毎日新聞朝刊5面=マイクロフィルム、)


(3)

   成吉思汗鍋        講師 川勝 勝

☆成吉思汗鍋
(1) 羊肉は脂身共繊維に直角に薄切。
   ねぎは4センチ長さの筒切りにし大皿に盛る。
(2) つけ汁はAのしようが、りんご、玉ねぎを
   卸し、Aの調味料をまぜ、鍋に入れ中火でさつと
   一煮立した時、こしようを入れガーゼで漉す。
(3) 温たかみのあるうちにCを入れ、レモン薄切
   も入れ、広口瓶に詰め密ぺいし、2〜3日おく。
(4) 七輪によく火をおこし、この炭火の上に成吉思汗
   鍋をのせ、鍋の焼けた時、羊の脂身で油をきかせ、周りの
   みぞにねぎをのせ、鍋の上に肉をのせ、好みに焼き、
   つけ汁を小皿に注ぎ、これをつけて頂く。
   薬味に、にんにくを卸して用いてもよい。
(注)おにぎりのごま塩むすびや、梅漬のしその葉を
きざんで入れたおむすび等で頂くのも良い。

 材料(5人前)
羊肉   400g
ねぎ     7本
羊の脂   50g

A しようゆ    カツプ 1.5
  みりん(煮切) 大さじ 3
  砂糖      サジ  4
  古しようが       50g
  りんご     3/4〜1コ
  玉ねぎ     1/1コ
  化学調味料    少々

B こしよう     少々

C 七味唐辛子    少々
  ガーリツクパウダー 〃
D サンキストレモン 1/10コ
    1人前材料費 約125円
(NHK札幌中央放送局編「NHK-TV 北海道 季節の料理」9ページ、昭和35年*月、NHK札幌中央放送局=札幌市教育委員会編「さっぽろ文庫別冊 札幌生活文化史(戦後編)」25ページ、昭和62年2月、北海道新聞社=原本、)


(3)

     

 昭和36年は8件になりました。資料その20(1)はグラビア写真のページと料理ページと写真2枚付きなのですが、取っ手の形の違いだけでもわかるように鍋を変えた狙いがわからん。レシピはDβですね。同(2)はBβ。鍋を反対に伏せたようなというところをみると、榊女史はロストル型の鍋を持っていたらしい。(3)はAαL、辞典だから記事は短い。同(4)は北海道に長く住みジンギスカンを覚えたそうだから、昭和30年前後の家庭ジンパの1例でしょう。だんだん手抜きタレになっていたようでBβですね。
 鯨肉ですが、成吉思汗鍋を名乗っているので入れた同(5)はAαSです。同(6)は挿絵が行方不明で後回しにしていたのですが、忘れそうなので取り敢えず入れておきます。もう一度道立図書館に行ってどんな絵だったか確かめて、追加するかどうか決めます。葱、春菊、椎茸も焼くからこれまたBβ。
(7)の本の「お世話になったお店」に成吉思荘が入っており、写真の鍋も松井式ですから、商売用と同じではないにしてもレシピ作りに関係したかも知れません。臭味の強い羊肉は玉葱と生姜だけの漬け汁か生姜と醤油の漬け汁に20分漬けるとしても、レシピは漬け込まずに割り下のたれを付けるだけですからBβとしました。同(8)は野菜なしのAβです。
 このほか愛新覚羅浩著「食在宮廷」も出たのですが、21種の「肉の料理」は豚肉の圧勝。羊肉は焼羊肉(羊の香煮)、扒羊肉(羊肉の煮込み)、瀑三様(肉と肝と腎臓の炒め)、葱椒羊肉(葱と山椒で調味した羊肉の料理)の4種です。また「鍋料理」は10種のうち羊肉は羊肉鍋(羊肉の鍋料理)だけです。
 これを書いた愛新覚羅浩は、旧満洲国皇帝の弟の愛新覚羅溥傑と結婚して愛新覚羅浩となった嵯峨実勝侯爵の嵯峨浩という女性です。清朝につらなる満洲皇帝一家では、煙濛々で立ち食いのカオヤンローなぞ眼中になかったんでしょう。

資料その20

(1)
      
      
(婦人生活社編「婦人生活」15巻1号412ページ、「温かい鍋料理」より、昭和36年1月、婦人生活社=館内限定近デジ本、)

   ■成吉思汗鍋 

材料(5人前)
羊肉又は牛、豚、鶏など取り合
わせて   600〜800c
玉葱         3個
長葱         3本
生椎茸       10枚
ピーマン       5個
さつまいも      1本
れんこん       1節
ウースターソース 大さじ2杯
生姜汁        少々
七味唐辛子
パプリカ
ナツメッグ
粉山椒
ラード又はヘッド
たれ

作り方
 これは蒙古式料理で、本来は羊
肉を使います。最近は牛、豚、鶏
など好みのものを取り合わせ、季
節の野菜をたっぷりそえて頂きま
す。
 肉は七、八ミリ厚さで八〇c程度
に切つた切り身を用意します。
 玉葱は五ミリ厚さの輪切りにしま
す。
 長葱は5a長さのぶつ切りにし
ます。
 生椎茸は水洗いして軸をとり、
ピーマンは六つ割りにしてたねを
とり出します。
 さつま芋とれんこんは皮をむき
五ミリ厚さの輪切りにします。
 以上の材料を大皿にもって、パセ
リで飾ります。
 たれは醤油半カップ、みりん1/4カップ
ぶどう酒1/4カップ、ウースターソー
ス大さじ二杯を合わせて鍋に入れ
一割くらい煮つめて、生姜汁二、
三滴おとします。
 成吉思汗鍋にラードを二、三回
ぬり、よく熱して油がなじんでか
ら好みの肉や野菜を取り合わせて
焼き、熱いところを用意のたれを
つけて、好みの香辛料をふって頂
きます。   (小林弘)
(婦人生活社編「婦人生活」15巻1号412ページ、「温かい鍋料理」より、昭和36年1月、婦人生活社=館内限定近デジ本、)


(2)
   ジンギスカン鍋(烤羊肉(カオヤンロウ)

▽材料(六人前)
 羊肉 四〇〇グラム   椎茸     六枚
 ねぎ     三本   ピーマン   六個
ほうれん草   半把   こんにゃく  一枚
白菜  四〇〇グラム
 たれの分量
醤油 カップ  半杯   ねぎ(みじん切り)
酒    大さじ二杯       大さじ二杯
酢    大さじ二杯   生姜(みじん切り)
にんにく(みじん切り)      大さじ一杯
     小さじ二杯   胡麻油 小さじ二杯
             化学調味料
▽下ごしらえ
@ ねぎは五センチほどの長さのぶつ切り、ほうれん草も同
 じ長さに切りそろえ、そのほかの野菜は、肉に合せて短冊
 に切ります。
A この場合使う網は、鍋を反対に伏せたような形の網です
 が、なければ厚手の鉄板か、鉄のすきやき鍋を利用しても
 よいでしよう。
▽煮方
 鉄網は火にかざしてよく焼き、脂身を網の頂上にのせま
す。こうすると自然に油が流れてきますから、肉を上の方に
野菜を下の方にならべて焼くわけです。やけたものからすぐ
たれをつけていただきます。
 分量の調味料と材料を合せたたれをそのままつけて頂きま
すが、これがたいへん珍味なのです。
(榊叔子著「鍋料理のすべて」90ページ、昭和36年2月、文陽社=館内限定デジ本、)


(3)
   八七九、羊肉の直火焼(烤羊肉(カオヤンロー)

 羊肉(百匁)。葱(一本)。生姜。醤油。ニンニク(各少
量)。(三人前)
 拵え方
 羊肉は、薄く斜に切つておきます。
 葱はみぢん切にして、生姜、ニンニクもみぢん切にし
て、これに、醤油を加えてよく混ぜて、この中に羊肉を
二時間程漬けておきます。
 炭火をおこして、金網の上で、羊肉を焼きます。
 粉山椒か七味唐辛子で頂きます。(一名成吉思汗焼と
も云います)
(宮部窕著「お料理教室 四季の料理百科辞典」407ページ、昭和36年3月、集文館=館内限定近デジ本、)


(4)
   手軽にできる
     ジンギスカン料理 
            大島秋子

 札幌郊外月寒のジンギスカン料理は、北海
道を訪れた方の中にはご存知の方も多いと思
いますが、私どもは戦後十年近くを北海道で
すごす間に、このジンギスカン料理を習いお
ぼえました。たまに訪れる東京のお客様に供
すると、なかなか好評を博したものです。
 ジンギスカ
ン料理という
のは、鉄鍋の
上で羊肉を焼
き、たれにつ
けて、熱い中
にたべるの
で、羊肉のく
せやくさみも
感ぜず、一番
おいしい食べ
方のようで
す。
 羊肉は脂が
比較的強く、
焼くときに煙
ったり、はね
たりして室内
をよごすおそ
れがありますので、せまい庭でも、戸外でや
ればまた変っ趣ききもでて、ちょっとした来
客のもてなしにも好適でしょう。
 アパートなどでは夏の夜、屋上で涼みなが
ら鍋をかこむのもなかなか楽しいことと思い
ます。この料理は、北海道の月寒をはじめ、
東京の椿山荘、鎌倉妙々亭などと、有名なと
ころも多く、それぞれたれや薬味にちがいが
あるようですが、家庭でやるには、そうこら
なくても、たいそうおいしくいただけるもの
です。

 ●羊肉について

 都会では外人向けの肉屋に売っています
が、質は上等でも牛肉以上に値段が高く、し
いてそういうものを使わなくても、都内のデ
パートなどで売っている輸入羊肉で、結構お
いしくいただけます。これならば一〇〇g三
十五円前後ですから、どこのご家庭でもご利
用になれましょう。
 この羊肉は産地で骨からはずした肉を箱詰
めにし、冷凍にして送られてくるので、素人
がみたのては、どの部分かまったくわからな
いので、なるべく脂や筋の少ないところを求
めるのが無難です。
 なお、部位のはっきりわかる場合は、ジン
ギスカン用としては、やはりもも肉がよいと
思います。ロースは羊の体が小さいのであま
りとれないと、以前肉屋でききました。それ
にロースは脂が多すぎるようです。
 肉の切り方は好みにもよりますが、なるべ
く薄切りのほうが火も早く通るし、食べやす
いように思います。すき焼きに比べると、ぐ
や汁がないので、思わず肉をたくさん食べて
しまうものですから、一人分二〇〇g位、若
い人向きならその二〜三割増は用意したいも
のです。
 肉を前もってたれに漬けておくとよいとい
うことをきき、数回工夫してみたこともあり
ますが、それをしなくても余りあまりがない
ので、わが家では肉をそのまま焼くことにし
ています。

  

 ●焼き方

 鍋を炭火のコンロにかけ、よく熱してから
脂身をぬり、肉はよくひろげてのせます。薄
切りなので、焼けすぎぬ中にどんどん食べて
ゆきます。火が強すぎると焦げやすく、鍋に
肉がくっついて困るし、脂がはねて、衣服を
よごすこともあります。ビニールのふろしき
でひざをおおうとよいでしょう。鍋に大小が
ありますが、普通、五〜六人で一鍋囲むのが
適当です。
 肉の他に、玉ねぎ又は長ねぎ、りんご、ピ
ーマン、なすなど、香りや辛みのある季節の
野菜を鍋のへりにのせて、いっしょに焼いて
食べます。特にねぎ類は肉と合うので欠かせ
ません。
 生焼けの玉ねぎは、びりっとしてさっぱり
しますし、りんごを薄い輪切りにして焼く
と、羊の脂がしみて甘味も酢味もあり、よい
ものです。

 ●薬味とたれ

 焼けた肉につけて食べる薬味とたれは、別
にむつかしいことはありません。いろいろの
香辛料やみりん、酒類を加えるのも確かによ
いでしょうが、手間や費用がかり過ぎては、
かえってこういう料理の趣旨にそぐわぬもの
です。いつどこでも、すぐに手に入る材料を
用い、次のような方法で十分です。
・薬味 大根おろし、しょうがおろし、この
二つだけはたっぷりと用意します。他に酸味
の多いりんご、玉ねぎ、にんにくのおろした
ものを用いてもよいですが、だいこんとしょ
うががあれば、おいしくいただけます。だい
こんおろしをたくさんに食べるので、消化や
栄養の点からも非常によいわけです。
・たれ よくジンギスカン料理のたれの割合
は? などときかれますが、むつかしいこと
をいえばきりがないでしょう。しかしこって
みても好みに合わないこともありますし、手
軽にするには、酢としょう油だけで十分です。
それにみりんでもあればなおよく、酢をレモ
ン汁にしてもよいでしょう。
 これらのものを別々に出しておき、各自の
お皿に、薬味と共に好きなだけ混ぜ合わせ、
肉をつけていただきます。食べながら、薬味
もたれもめいめいが、自分のお皿の中で好き
なように加滅しながらいただきます。
 要するに、酢、しょう油、だいこん、しょ
うががあればよいのです。
 ●ご飯
 ご飯はおにぎりにしておきます。ごまやの
りをそえた簡単なおにぎりです。おにぎりに
しておくと、食器の準備もよそう手間もいら
ず、主婦も落着いて皆といっしょにいただけ
ます。肉の分量が多いので、おにぎりはふだ
んのご飯の量より少なめにしておきます。た
くわんや、ぬかづけをそえたいものです。
 お客さまのときには、そら豆、枝豆、セロ
り、赤かぶ、きゅうりなどを大皿に盛り合せ
ておけば、肉の料理にもあい、にぎやかにな
ります。また肉が焼けてくるまでの「おつま
み」にもなりましょう。

 材料・5人分
マトン(羊肉)…1〜1.5kg
玉ねぎ……………(中)3個
ピーマン…………………5〃
りんご……………………2〃
薬味
 だいこん………(中)1本
  (一人分100g以上)
 しょうが……………50g
 にんにく……………1かけ
たれ
 しょう油
 酢(レモン)
おむすび
 米………………………4カップ
 ごま……………………少々
 のり……………………〃
たくあん…………………半本
(国民栄養協会編「食生活」55巻7号14ページ、昭和36年7月、国民栄養協会=館内限定近デジ本、)


(5)
   かわり成吉思汗鍋

くじら…………………750g
ねぎ……………………1本
生姜……………………37g
七色唐辛子……………小さじ1杯
醤油……………………180cc
酒………………………大さじ5杯
砂糖……………………20g
味の素

調理 くじら肉は,すきやき肉の場合の倍の厚みに切ります。醤油の中へね
ぎのみじん切りと,生姜のおろした物を入れ,七色唐辛子と酒,砂糖,味の素
を入れ,30分間漬け込ん
でおきます。フライパンま
たは天板または金網の上で
くじら肉の両面に焦げ目が
つく程度に焼き,熱いうちにいただきます(肉にねぎ,生姜を多少つけたまま焼き上げた方がおいしくいただけます)。
(住江金之編「国際料理全書」125ページ、昭和36年7月、白桃書房=館内限定デジ本、)


(6)
   ジンギスカン鍋
  
材料(五人前)
 羊肉(または豚肉)五百グラム(約百三十匁)長葱三
本 春菊一把 生椎茸十枚 にんにく一かけ リンゴ一
個 生姜一かけ 橙 醤油 七味唐辛し
作り方 (一) 羊肉はデパートで手に入りますが、豚
     肉でも代用できます。すき焼き肉のように薄
切りにします。長葱は三センチ長さのぶつ切り、春菊は
固いところを除いて四センチ長さに切りそろえます。生
椎茸は軸を取ってよく水洗いし、 一枚を二つに斜切りに
しておきます。
 (二) つぎにつけ汁を準備します。生姜、にんにくを細
かくみぢん切りにし、醤油カップ一杯、橙のしぼり汁
(ポン酢)カップ三分の二、リンゴのしぼり汁カップ三
分の一と一緒に混ぜ合わせておきます。
 (三)コンロの上に特別のジンギスカン鍋(図のような
特別の鍋=中央が高くなって、細い切れ目がたくさんあ
る=を使いますが、家
庭ではフライパンでも
代用できます)をのせ
て、脂肉で全体に油を
引いてから、肉を一枚
ずつのせ、周囲の凹み
に野菜類を並べます。
肉から出た脂肪と肉汁
で、野菜もおいしく焼
けてきますから、あま
り焼けすぎないうちに、つけ汁をつけて召し上がって下
さい。
七味唐辛しを薬味として用います。
 ☆もうもうと煙が立ちますから、なるべく通風をよくして室
  内に煙がこもらないように致します。あまり寒くない季節
  に戸外で試みれば、野趣のあるものです。
(伊藤芳子著「秋冬料理」144ページ、昭和36年8月、鶴書房=原本、)


(7)
   羊肉料理(ひつじ)

<略>▽ 野外料理が盛んになって來た近頃、ジン
ギスカン焼を専門にしている店が、あちこち
に出来ましたが、昭和のはじめよりジンギス
カン焼だけ一すじにやっている店があると聞
きさっそく訪問して、家庭でもおいしく出来
る秘決を公開してもらいました。
▽ 羊肉は北海道、岩手、山形のものを使い、
肉の部分では、ロース、内もも、肩ロースが
シンギスカン焼に最適です。
▽ 羊肉は臭みが強いので一般の方にきらわ
れがちですが、新しい羊肉ならば臭みもそん
なに強くありません。
▽ 臭みが強い場合は臭味を抜く方法として
玉ねぎをみじんに切り、それを更にすりつぶ
したものとしょうがをまぜ合わせたつけ汁に[20]
分ほどつけてから焼くと美味しくいただけま
す。又、しょうが汁としょうゆをまぜたつけ
汁に[20]分ほどつけておきます。つけ汁はしょ
うゆ1[リットル]、卸ししょうが大さじ1杯の調合で
す。

ジンギスカン焼き

材料(5人前)羊肉500c、 ざく(玉ねぎ2個、
生しいたけ10個、ピーマン2個、春菊1/2わ、に
ら1わ、長ねぎ3本)、季節のものとして(なす
5個、まつたけ3本) 薬味 長ねぎきざんだ
もの大さじ3、パセリ2本、卸ししょうが小
さじ3、ゆず5切れ、卸しニンニク小さじ2、
七味唐辛子適当 割下 りんご汁1カップ、しょ
うゆ1/2カップ、みりん1/2カップ、ブドウ酒大さじ2
作り方
 ジンギス鍋があれば一番よいのですが、家
庭用の金網を利用してもよいでしょう。
 羊肉は薄切りにし、ざくの玉ねぎは薄い輪
切り、生しいたけは軸を取って傘のみ、ピー
マンはたて四つ切り、春菊はさっとゆでてそ
のまま、にらはよく洗って水気を切りておき、
長ねぎは3aくらいのぶつ切りにしておきま
す。季節のものとして、なすはよくジンギス
カン焼に合います。なすは縦四つ切り、まつ
たけは縦に適当な厚さに切ります。
 薬味の長ねぎはみじん切り、バセリは筋を
とって5aくらいに切り、古しょうが、にん
にくはすり卸し、ゆずは縦五つ切りにします。
 割下は分量の材料をよくまぜておきます。
 それぞれの材料の準備が出来ましたら、七
翰に炭を真っ赤に起し、その上に網をのせて
羊肉、ざくをのせて焼き、たれと好みの薬味
をつけていただきます。
(雄鶏社編「材料別による肉料理」167ページ、昭和36年9月、雄鶏社=館内限定近デジ本)


(8)
   ジンギスカン焼

【作り方】
 @ このジンギスカ
ン料理は蒙古から伝え
られたもので、もとも
と戦場で羊をほおって
馬糞の燃料でほんのり
と焼いたものだそうで
す。最近ではジンギス
カソ鍋が市販されてい
ます。
 A 羊の肉は薄切に
しておきます。
 B ジンギスカン鍋
を七りんにかけ、この
羊の薄切肉を焼きなが
らいただきます。
 C つけ汁は酢としょう油、みりん、砂
糖とウースターソースを分量だけまぜ合せ
 D さらしねぎ、パセリ、しょうが、レ
モンの皮のみじん切を加え、このつけ汁を
焼けた肉につけていただきます。
 応用 豚肉をジンギスカン鍋でこのよ
うに焼いていただくのも、おいしい食べ方
の一つです。
 鍋の代りにフライパンや、野外料理とし
て川原の石をよく洗って七輪にのせて焼く
のも野趣があってよいものです。

  材料(5人前)
羊肉……………………560g
酢………………………1/2カップ
しょう油………………大1杯
みりん…………………大1杯
砂糖……………………大1杯
ウースターソース……大2杯
ねぎ、バセリ…………少々
レモン、しょうが……〃
―――(1人前)―――
熱量     170カロリー
蛋白質    18グラム
(宇野九一ほか監修「家庭料理全書」70ページ、昭和36年9月、金園社=館内限定デジ本、)

 続く37年も4冊にレシピがありました。資料その21を見なさい。この(1)は分類基準の何かな、はい、よろしい。タレ作りに小鍋を使うので種羊場型かと思ったら煮立てないから糧友会型のBβだね。同(2)は資料その15にある主婦の友社が昭和30年に出した「料理全書」の改訂版で、Bβも同じです。材料の単位がグラムとかカップ何杯と変えてます。またジン鍋などの通信販売ページがないのは通販をやめたからでしょう。
 同(3)は男の料理ながらDαLだ。飼料関係の人だから湯島の緬羊会館で650円の鍋が買えると知っていたのでしょう。
 同(4)はジンギスカンは西洋料理ではないはずだが、井上幸作著「洋食教本」という教科書には書いてあるんですなあ。味噌とケチャップとウースターを入れると、洋風のタレになるとも思えんが、まあ、いいでしょう。ピーマン、爪楊枝で止めた玉葱なども焼くからDβ。同(5)は5人分にしてはタレが少ないような気がするけどBβとなります。

資料その21

(1)
   羊肉

 たまには羊肉を使って、みんなで食べる夕食
 にジンギスカンなべはいかがですか。

ジンギスカンなべ
材料      6人分
羊肉(または鯨肉)…600グラム
ネギ……………………3本
生シイタケ……………12枚
ダマネギ………………1個
ニンニク…………………少々
ユズ…………………………
油(または羊肉のあぶら身)
調味料/酒・しようゆ・ショウ
 ガ汁・七味トウガラシ
 たまには羊肉を使って、みんなで食べる夕食
 に、ジンギスカンなべはいかがですか。
作り方
@羊肉は薄く、大ぶりに切ります。鯨肉のば
 あいは薄切りにしてざるに並べ、しばらく
 おき、血抜きをします。
Aネギは斜めに大切り、生シイタケは水洗い
 して石づきをとり、2つほどに切ります。
Bタマネギは薄い輸切り、大きいものでした
 ら半月に切ります。
Cニンニクはすりおろします。
D小なべに酒大さじ4杯、しょうゆ大さじ6
 杯、すりおろしたニンニク、ユズのしぼり
 汁、ショウガ汁小さじ1杯を混ぜ、七味ト
 ウガラシを入れて、たれを作ります。
Eジンギスカンなべ、またはすき焼きなべを
 よく熱し、羊肉のあぶら身を十分に熱した
 ところで、肉、野菜などを入れ、暖かいと
 ころをたれにつけていただきます。
F薬味として、ニンニク、ネギ、シヨウガ、
 ユズの皮など、全部みじん切りにして添え
 ましょう。
▼野菜もこれにかぎらず、いろいろと手近な
 野菜を応用してください。
(間野百合子著「卵・魚・肉料理」137ページ、昭和37年5月、家の光協会=館内限定近デジ本、)


(2)
   ジンギスなべ

 ほんとうは羊の肉でするのだが、豚肉がど
なたの口にも合うでしょう。
 五人前で、豚肉は中肉でもバラ肉でも薄
切りにして、600gほどを用意し、ねぎとさっ
とゆでたほうれんそうをとり合せる。
 ジンギスなべを熟し、中心にあぶら身をお
いて全体に油をひき、合わせじょうゆにくぐ
らせた肉を上のほうにおき、下のほうには、
野菜をそのまま並べて焼くが、肉から出た油
で、とてもおいしく野菜がいただける。
 これは、合わせじょうゆにたっぷりの大根
おろしと、おろししょうが、化学調味料少々
入れたつけじるをつけながら、熱く焼けたの
を召し上がってください。
 ▼合わせじょうゆ 一カップのしょうゆと半カッ
  プの酒、1/3カップの酢、化学調味料とみじん
  切りにんにくをほんの少量、よくまぜ合わせた
  もの。(橋口)
(主婦の友社編「(新版)料理全書」642ページ、昭和37年5月、主婦の友社=館内限定近デジ本、)

(3)

【うで自慢】
    成吉思汗料理
              松山重
      (日本飼料保税工業会・専務理事)
由 来
 むかし、蒙古の成吉思汗将軍が戦勝のとき、野外の饗宴に供した
 る料理で、当時、蒙古の広野に放牧されていた緬羊の肉を用い、
 「タテ」を鍋にかえて使用したと伝わっています。
材 料
 1 緬羊 一人前四〇〇グラムないし八〇〇グラム(一〇〇匁
      〜二〇〇匁)

 2 焼鍋 成吉思汗鍋
     (文京区湯島天神一の五〇 日本緬羊協会 六五〇円
      あるいはデパートで販売しています)
 3 汁の材料
  ☆しょう油、味りん、砂糖、りんご、夏みかん、玉ねぎ、生しょう
   が、にんにくなど。
  ☆汁の製法
   「タレ」の製法は、その人の習慣、感覚、嗜好により、それぞれち
   がいます。私は多少経済観念をはなれて、うまい「タレ」をつくる
   ことに苦心、古い伝統を生かしてゆきたいと存じますので、ご諒
   承願います。
  ☆つくり方
    しょう油を鉄鍋にて煮て、味淋を加え(しょう油六、味淋四くら
   いの割台)、それにおろし金、またはジュサーで搾ったりんご、
   夏みかん、玉ねぎ、生しょうが、にんにくなどの汁を加えます。
    甘味の足りないとききは砂糖、味の足りないヒきはしょう曲をい
   れてつくります。多少からい方が食べるときにおいしいです。
    「タレ」一升をつくるときの一例(五〜六人分・漬汁も含む)は
   次のようです。
    しょう油  五合くらい
    味淋    二合くらい
    りんご   中位のもの三個
    夏みかん  普通のもの一個
    玉ねぎ   普通のもの四個
    にんにく  三根くらい
    生しょうが 三〇円くらい(多めに入れること)
   野菜汁は多く入れた方がおいしくいただけます。にんにくは味をぴ
   りっとさせるのによいのですが、嗜好により加減してください。
  ☆野菜
   肉とともに焼いてたべる野菜です。
   日本ねぎ、玉ねぎ、にら、しゅん菊、せり、その他の野菜を適当の
   大きさに切って調理します。
 4 緬羊の肉を焼く前に三〜四時間「タレ」に漬けた方がおいしくいただ
   けますので、実際には五、六人分(一人当り約一合)より多くして
   ください。
(日本飼料協会編「飼料」1巻3号48ページ、昭和37年8月、日本飼料協会=館内限定デジ本、)


(4)
   ジンギスカン鍋

材料(5人前)豚三枚肉(バラ肉)300
  g、ピーマン5個、玉葱3個、生
  椎茸15枚、茄子2個
   調味料(たれとくさみ)味淋、
  醤油、酢、トマト・ケチャップ、
  マヨネーズ、ウスター・ソース、
  サラダ・オイル、味噌、塩、胡椒、
  七味とうがらし、刻み玉ねぎ、刻
  みセロリー、刻みパセリ、おろし
  生姜
 一 味淋、醤油を1と1.5の割合にして煮
立ててます。
 二 白味噌と赤みそを6〜4の割に合わ
せ、煮出汁でドロッとした濃度にうすめ、
煮立てて味をたしかめます。
 三 @とAのたれと、ケチャップ、マヨ
ネーズやその他のくさみは好みの小さい器
に用意して、焼なべの周囲にしたくしま
す。
 四 ピーマンはたて4つに切って種子を
とります。
 五 小さい玉葱を6o位の輪切りにし
て、バラけるようなれば、ようじをつきさ
します。
 六 生椎茸を水洗いして軸をとります。
 七 茄子は粗ら皮をむいて水に放し、薄
切りにします。――以上が準備です。

 焼き方とすすめ方

 一 すき鍋かフライパンまたは鉄板を火
にかけ、油かバタを流レます。
 二 煙がたちかけると、肉と野菜類を焼
き始めます。両面を焼いて1つ1つを好み
の調味料(たれ)例えば味淋、醤油とかケ
ャップとソースというように、好みのも
のとくさみの玉ねぎとおろし生姜を添えて
食べるようにLます。
 材料は肉1品に限らず、海のものを加え
たり、また季節の野菜を即席で焼き上るよ
うに下拵えして追加することもよく、味つ
けにもニラ、おろし大根、おろし蕪等を加
えることは楽しみを一層大きくします。
 ジンギスカン鍋というのは、回教徒の羊
の料理である焼羊肉というのが、日本風に
工夫された名だといわれています。
(井上幸作著「洋食教本」315ページ、昭和37年11月、婦人画報社=館内限定デジ本、)

(5)
   4 じんぎすかん鍋

材料(五人前)
 豚肉百匁(約四〇〇グラム)
玉葱中二、三個 人参一本 キャ
ベツ二、三枚 春菊1把 レモン
汁大さじ四杯 醤油大さじ四杯
生姜卸し適宜 パセリのみじん切
少々 レモン皮みじん切少々 大
根卸し少々
作り方
 豚肉はうす切りにし、玉葱はう
すく輪切りにします。
 人参もうすい短冊切り、又は輪
切りにします。
 キャベツはさっと湯通しして三
糎角に切り、春菊は葉先の軟かい
ところを用います。
 レモン汁と醤油を同量くらい割
ってたれとし、生姜卸し、パセリ
のみじん切り、レモン皮のみじん
切り、大根卸しなどを薬味に用い
ます。
 じんぎすかん鍋を充分熱し、油
をよく塗ってそこへ豚肉や野菜を
のせ、焼きながらたれをつけて頂
きます。
 火加減ははじめ充分鍋を熱し、
油を敷いて日を弱めて焼きます。
 又このような鍋は特殊ですから
フライパン又はすき焼鍋で、バタ
ーで焼き、合せ汁や薬味をつけて
頂きます。
 肉のみでなく、肝臓、腎臓など
もうすく切って一緒に頂きます。
(婦人生活社編「婦人生活」11巻12号ページ番号なし、赤堀全子「鍋料理特集」より、昭和37年12月、婦人生活社=館内限定デジ本、)

 資料その22(1)は昭和38年に出た馬遅伯昌著「中国料理」からで(一)が色刷りページ、(二)がレシピと分かれて書かれています。成吉思荘を閉めてだいぶたってからですが、私が松井さんのお宅にこのカラー写真のコピーを持っていき、これは成吉思荘の鍋ですかと尋ねたら、すぐ奥さんが鍋はうちのだけど、野菜は先生の持ってこられたものですねといいました。私がどうしてかと聞く前に奥さんは「私どもは野菜はお皿に乗せて出しますから」といわれたことを思い出します。
 写真説明をそのまま付けたのでわかると思いますが、成吉思荘独特の鍋と焜炉とハンドルです。馬さんが自宅に鍋をつかむハンドルを備えていたとは考えにくいので、成吉思荘で撮影したのでしょう。野菜の写真も付けましたが、カラーの野菜と盛り付けが同じですね。よって下味つきの肉にタレをつけるからBαSとなりますね。
 (2)は「婦人生活」としては6回目のレシピで、この後も3回あるから、編集部に熱烈ファンがいたかも知れません。Bβですね。
 同(3)と(4)は羊肉料理を得意にしている料理研究家、荒井久子の「マトン料理350種」に載っていたレシピです。(3)は「マトンの和風料理」の「焼く」30種の中、(4)は「マトンの洋風料理」の「焼く」11種の中にあります。350種も料理を考えると名前に苦労するよね。(3)はジンギスカンという名詞が入っている炒め物なので難しいが、中国の老舗で客が少ないとき鍋を使わずコックが炒めて出すそうなので、これはBαSと認めます。(4)のレシピは普通のDαSね。
 「調味料などは、あまり分量にこだわらず、各自の好みの味を作り出してこそ我が家の味が生まれます。<略>料理の道だけは、学問より叩き上げた腕と味覚を尊びます。本書はその意味で、家庭向きにして、鍋やスプーンとともに書き上げましたので、専門的なことから離れていることを、改めておことわりいたします。(24)」という本です。
 同(5)の「毎日のお料理」は、執筆した料理研究家30人を「お世話になった先生方」として挙げており、このレシピの最後に(滝沢)とあるので滝沢清子でしょう。焼く前に肉に醤油などをまぶすからBαSに分類されます。

資料その22

(1)
   (一) 成吉斯汗烤羊肉(ツンジスハンカオヤンロー)
     (ジンギスカン焼き)

 羊肉に野菜をたっぷり矢あしらって、焼
きながらたれをつけて食べる、野趣豊か
なジンギスカン焼きは、羊肉の代表的な、
そして最も古い食べ方の一つです。
 遠い昔、北中国の遊牧民族が、一日一
頭の羊をほふり、野外で食べたころの遺
風といわれ、羊の残り物を沙漠に捨てた
そのあとに、数日後、すばらしくおいし
いきのこがはえた。という話が伝わって
います。
(馬遅伯昌著「中国料理」20ページ、昭和38年1月、主婦の友社=館内限定デジ本、)

  

   (二)
 ご存じジンギスカン焼きは、火を囲んで
焼きながら食べる、冬のだんらん料理。な
べは、写真でごらんのように、鉄製のもの
ですが、厚手の鉄板や金あみでもよい。本
來野外料理だが、コンロになべをかけて、
室内ても楽しめます。

@厚切りの羊肉をサラに入れ、酒、し
ょうゆ、りんご汁を等量に、ねぎのみ
じん切り少々をまぜ合せたたれをかけ
て、下味をつけておく。
A豚の背あぶらは、なべの引き油とし
て使う。10cmくらいに切って、くしに
刺しておくと便利。
B玉ねぎは1cmの輪切り。
 生じいたけは、塩水で洗って、軸を
とる。
 ほうれんそうは、10cm長さに切りそ
うえ、にらは、たけを二つに切る。
 野菜は、ザルに盛り合わせて用意す
る。
Cたれの材料は、それぞれ容器に入れ
て出し、めいめいの好みの味に合わせ
で、焼いた肉につけて食べるようにし
ましょう。
D食べ方 炭火を
おこした上に、ジ
ンギスカンなべを
かけて熱し、背あ
ぶらでこすってあ
ぶらをよくなじま
せてから、羊肉を
のせて焼き、好み
のかげんに合わせ
たたれをつけてい
ただきます。
 こげつかぬよう
あぶらを絶えず補
給すること。肉の
次に野菜を焼いて
食べ、最後に、ご
はん、スープ、つ
け物で食事を終わ
ります。
 ごはんのかわり
に、蒸しまんじゅう(中身なし)に焼い
た肉をはさんで食べてもいいのです。

――――――2人前――――――
羊肉(厚めに切る)………400g
豚の背あぶら………………100g
玉ねぎ………………………2個
生じいたけ…………………16個
ほうれんそう………………2わ
にら…………………………1わ
たれ
酒……………………………小どんぶり1
しょうゆ……………………小どんぶり1
りんご汁……………………小どんぶり1
ねぎ(みじん切り)………小どんぶり1
にんにく(すりおろす)…小さじ1
赤とうがらし粉……………小さじ1
しょうが汁…………………小さじ1

【写真説明】
ジンギスカン焼きのセット。上のなべだけでもよい
        

野菜をたっぷり添えて
       
(馬遅伯昌著「中国料理」130ページ、昭和38年1月、主婦の友社=館内限定デジ本、)


(2)
   じんぎすかん鍋

  材料(5人前)
羊肉……………………500c
生椎茸…………………6〜7個
葱………………………5本
京菜か春菊……………1把
りんご…………………1個
にんにく,だいだい…少々
調味料
醤油,酒,唐辛子粉

  下ごしらえ
(1) 葱は三aのぶつ切りにして、
生椎茸は足を取り、京菜または春
菊は四〜五aに切ります。以上と
肉を皿に盛り合わせます。具はこ
の他ピーマン、玉葱などもよい。
(2) りんごは皮をむいてすりおろ
し、にんにくもすりおろし、唐辛
子粉、葱のみじん切り大さじ一杯、
橙酢大さじ二杯、醤油大さじ五杯、ぶ
どう酒でつけ汁を作ります。
  いただき方
 鍋にサラダ油をたっぷりしき、
肉や野菜を焼いてつけ汁をつけて
いただきます。
(婦人生活社編「婦人生活」17巻2号274ページ、昭和38年2月、婦人生活社=館内限定デジ本、)

(3)
   鍋ジンギスカン

  〔材料〕
マトン      五百グラム
醤油       大匙 六杯
生姜汁      大匙 一杯
赤ブドウ酒    大匙 二杯
砂糖       大匙 一杯
みかん汁     大匙 一杯
塩        小匙 一杯
玉葱          一個
セロリー        一本
キャベツ        四枚
サラダ油     大匙 二杯
化学調味料       少々

作り方

@マトンの薄切りに、生姜汁、醤油、赤ぶど
う酒、砂糖、みかん汁、塩をふりかけ、二十
分ぐらいつけておきます。
A野菜類は全部ざく切りにします。
B鍋にサラダ油を熱し、マトンを炒め、野菜
類を炒め、マトンのつけ汁と、化学調味料を
一度に入れて、いりつけるように汁をからめ
ます。
(荒井久子著「マトン料理350種」52ページ、昭和38年11月、婦人画報社=館内限定デジ本、)


(4)
   ジンギスカン焼
     烤羊肉(カオヤンロー)
 
 〔材料〕
    マトン薄切り    五百グラム
    玉葱(または葱)   二個
    生椎茸        六個
    ピーマン       三個
    春菊         二把
    さつま芋       一本
    葱みじん切り  大匙 五杯
    おろし生姜   大匙 二杯
    おろしにんにく 大匙 一杯
    たれの分量
     醤油    カップ 一杯
     酒     カップ 1/2杯
     酢     カップ 1/2杯
     みりん   カップ 1/4杯
     ゴマ油    大匙 二杯
     化学調味料
 作り方
@大皿にマトンのうす切りを入れ、脂肪のか
たまりを箸にさしておきます。
A野菜は洗い上げ、玉葱は皮をむき、半月の
うす切り、椎茸は笠裏の砂を払い、軸を切り
ます。ピーマンは三つに切り種は捨て、さつま
芋は五ミリ厚さに切ります。季節により、茄
子、南瓜を薄切リにして用いてもよい。野菜
は野菜で別皿にもっておきます。
Bたれの調味料を合わせて一煮立てさせ、薬
味をそれぞれ少しずつ混ぜ、各人の受け皿に
取り分け、少しだけ残してマトンにかけてお
きます。以上用意が出来たら、ジンギスカン
鍋を火にかけ、熱したら脂肪を充分しき、マ
トンを焼きます。
C各人は受け皿にさらに好みの薬味を加え、
よく焼けたマトンにそのたれをつけて食べま
す。野菜も適当に焼きます。その時野菜は脂
肪がないから、箸にさした脂肪で、上からト
ントンたたき脂肪を補います。
 ジンギスカン焼は、蒙古の英雄ジンギス汗
が、遊牧の途次自分の鉄カブトを鍋の代りと
し、野外でマトンを焼いて食べた事から、今日
に残っていると言い伝えられているので、鍋
の形はあえてジンギンカン鍋でなくとも、す
き焼鍋或は鉄板でもよい。たれについては彼
地独特のブドー汁やブドー酒、五香などを用
いたと伝えられるので、それに近い味を出す
ため酢を用いず、果実汁を入れるのがよいと
されています。然し近年ジンギスカン焼の流
行にともなって、西洋風にトマトケチャッ
プ、洋風スパイスが上手に取り入れられるよ
うになり、各自好みのたれを調合する時代と
なりました。マトンのおいしい食べ方として
おすすめいたします。
(荒井久子著「マトン(羊肉)料理350種」170ページ、昭和38年11月、婦人画報社=館内限定近デジ本、)


(5)
   羊肉のじんぎすかん風

作り方
1 羊肉はバター焼き用の厚みのある
平切りにし、大皿か、バットに並
べ、酒大さじ二杯、醤油大さじ一杯、生姜
汁小さじ一杯をまぶして下味をつけてお
きます。
2 にらは洗って七〜八センチ長さに切り
揃え、椎茸は軸をとりピーマンは五〜
六センチ厚さの輪切りにして種子をぬき、
玉ねぎは一センチ幅の櫛型に切ります。
3 醤油と酒、砂糖と合わせて一煮立
てし、火から下ろしてからりんご汁と
レモン汁を加えてたれを用意します。
4 油を熱したフライパンで肉、にら、
玉ねぎ、椎茸、ピーマンをそれぞれ別
にさっ炒めて、きれいに盛り合わせ、
たれを添えてすすめます。
5 好みの薬味を、たれの中に自由に
入れてつけながらいたゞきます。
6 炒めた材料を一人前ずつお皿に盛
る方法ですが、じんぎすかん鍋や鉄板
焼きの方法でもいいのです。(滝沢)

―――材料(5人前)―――
羊肉ロース……………………500グラム
ピーマン………………………3〜4個
にら……………………………2把
生椎茸…………………………(中)10枚
玉ねぎ…………………………(大)1個
生姜汁…………………………小さじ1杯

調味料  酒  醤油
たれ(りんご汁、醤油、酒、各3/4
カップ、砂糖とレモン汁大さじ1杯)
薬味(みじん切りパセリ、みじん
切りねぎ、切りごま、卸し生姜、
にんにくなど)
(婦人生活編集部編「毎日のお料理 材料別おかずの事典」180ページ、昭和38年12月、婦人生活社=館内限定デジ本、)

 本に書かれたレシピは36、7年をピークに減り始めてね、昭和39年と40年合わせて3件しか見付らなかったので資料その23にまとめました。その(1)はどうみてもジンギスカンなので取り入れたが、漬け汁は糧友会型、添え汁と呼ぶタレは種羊場型ですが、いまは漬け込み汁の分類ですからBαSとします。(2)はBβですが、とてもジンギスカンとは思えない写真が付いています。同(3)はブイヨン入りの漬け込み汁を使いますが、ブイヨンは火に掛けて作るので種羊場型のCかDに分けます。漬け込み時間も書いていないので取り敢えずDαSにしておきました。
 レシピが減ったのは、戦後20年の間にレシピが親子間で伝承されるようになったことと、市販のタレが普及していちいち作らなくなったことによると考えます。時間がなくなってきたから駆け足で話を進めます。

資料その23

(1)
   マトン料理
        浅田綾子
        (立正学園短大教授)

 以前と比べるとマトンを食べる人が多くな
りましたが、わたくしの回りには、まだマト
ンを食べたことがないと言う人がかなりいま
す。理由はなんとなく気味が悪いから、にお
いそうだから、近所の肉屋で売っていないか
らの三つが主なものです。
 なんとなく気味が悪いというのは、昔の人
が牛肉や豚肉を食べなれなかったころの気持
と同じものでしょうし、においそうだからと
いうのは食べず嫌いと、臭みを消す手段を知
ろうとしない人だと思います。マトンでも食
べなれれば牛肉や豚肉と同じように、臭みが
香りとして感じられるようになるのですが、
それに至るまではやはり他の材料で芳香をそ
えたり、その香りでマトン特有のにおいを消
す工夫が必要です。
 市販されているマトンのほとんどは、冷凍
にして送られた輸入品ですから、凍ったまま
のものを買って来て、とけたらなるべく早目
に料理し、できたてを食べるということが第
一です。これはマトンだけでなく国産の冷凍
魚についても同しことが言えます。
 マトンにいちばんよく合う香料はハッカ
で、その香りのすがすがしさと共にさわやか
な味を持たせる意味で、本格的なマトン料理
にはつきものなのですが、日本人になじみ深
く最も好みに合う香りは、ねぎ、しょうが、
しょう油、みそ、ゆず、だいだい、ごま、に
んにくなどです。これらの中に漬け込んでお
くとか、煮込むときやゆでるときに加えると
か、食べるときの薬味に用いるなど、いろい
ろ工夫すれば、安価で栄養価も高いマトンを、
次第に食べなれることができるようになると
思います。

★鉄板焼

  材料(5人前)
マトン(薄切り)..............440〜500g
酒............................カップ1/3杯
にんにく.......................少々
ねぎ..........................5本
生椎茸........................240g
春菊..........................1〜2把
サラダ油.......................適宜

  添汁
みかん(りんご)のしぼり汁
     ......................カップ1/4杯
みりん..........................大さじ゛1.5杯
酒..............................カップ1/4杯
しょう油........................力ップ1/2杯
刻みパセリ(さらして)...........少々

(1)酒カップ1/3杯とにんにくのしぼり汁少々
を混ぜた中に、マトンを約30分つけ込みます。
(2)ねぎは5mm厚さの斜め切り、生椎茸は二
〜四つ切り、春菊は4cm長さに切り大皿に盛
り合わせます。
(3)鉄板は熱してサラダ油をしき、材料をの
せて適宜サラダ油をかけながら焼きます。
 焼立てのあつあうに添え汁をつけながらい
ただきます。
 添え汁はみりん、酒、しょう油を合わせて
一煮立ちさせ、さましてみかん汁かりんご
汁、さらしパセリを加えます。また、ポン酢
を加えるとなおよいでしょう。
(国民栄養協会編「食生活」58号134ページ、昭和39年2月、カザン=館内限定デジ本、)


(2)
   ジンギスカン鍋

   材料(4人前)
えび…………………………4尾
マトン………………………400c
生椎茸………………………8個
ねぎ…………………………3本
人参…………………………1本
白菜…………………………4枚
ほうれん草…………………少々
さつまいも…………………1個
りんご………………………1個
生姜汁………………………大さじ1杯
パセリ………………………少々
にんにく粉…………………少々
唐辛子粉……………………少々
ごま油………………………少々
酒、みりん、醤油

 ジュージューと焼き音をたてていただ
く鍋はボリュームのある食事をしたい若
い人向きの鍋です。
下拵え 1 えびは皮をむき、身を開い
ておきます。
2 マトンは食べよい大きさに切ります。
3 ねぎは3a長さ、太いものは二つに
切り、生椎茸は二つ切り、白菜、ほうれ
ん草は茹でて、ほうれん草を芯に巻き2
a程に切っておきます。
4 人参は拍子木に切ります。
5 うずら玉子は茹でて皮をむきます。
6 りんごをおろしてその中に生姜汁大
さじ1杯、パセリみじん切りにんにく粉、
唐辛子粉、酒、みりん、ごま油各大さじ1
杯、醤油大さじ3杯を加え、たれとします。
頂き方 1 材料を焼きながら、たれを
つけていただきます。 〈豊田昭子〉

    
    豊田先生、このまま火に掛けるのでしょうか?<尽波>

(婦人生活社編「婦人生活」18巻2号40ページ、昭和39年2月、婦人生活社=館内限定デジ本、)


(3)
   ■ジンギスカン鍋

(材料4人分)
マトン300g 江戸葱3本 たまねぎ2
コ 牛レバー200g 生しいたけ4枚
油 唐辛子粉 胡椒 ニンニク
(作り方)
 (1)マトン、レバーはうすくそぎ切りに
して、つけ汁の中にしばらくつけておき
ます。たまねぎはわ切り、江戸ねぎは4
cm位のぶつ切り、しいたけは大きくそぎ
切りにします。
 (2)ジンギスカン鍋はよく熱して油をひ
き、中心には脂身をのせ、つけ汁からと
りだした肉、レバーは上部におき、まわ
りには野菜類をならべて焼きます。
★つけ汁は、しょうゆ1、酢1/2、ブイ
ヨン1、これにおろし生姜又は好みで、
ニンニク、おろしたまねぎ、青葱のみじ
ん切りを加えます。また、素塩、ガーリ
ックソルト、あるいは、ブイヨン4+酢
1しょうゆ1.5に合わせたものにたまね
ぎ、ニンニクのみじん切り、ごま油を加
えたものをつけます。
(辻勲著「西洋料理 家庭料理全書」121ページ、昭和40年11月、婦人画報社=館内限定デジ本、)

 資料その24は昭和41年のレシピです。同(1)の雑誌「家庭の料理」7号は本多幸子によるレシピは漬け込み時間は不明、春菊も食べると書いていないのでAαSとしました。同8号の遠藤清子の(2)はたれは肉に振り掛け、焼いた肉に付けて食べるとしているのでBαSに分類します。
 「和洋中華家庭料理全書」にジンギスカン焼が2件あるのは、四條流庖丁道家元、上野名月園主という肩書きの長谷川武徳が「鍋料理のいろいろ」を書いており、編集した日本女子教育会が書いたレシピとは別にジンギスカンも取り上げているからです。1冊の料理書に同じ人によるレシピが2つ載っている本は珍しい。
 成吉思汗焼はAβですが、片仮名のジンギスカン焼の方は、油と醤油プラス葱類ジュースによる湿り気を持たせる程度の漬け込みとして、野菜も焼くのでBαSとします。

資料その24

(1)
   マトンのくせは
   おねぎで
   消して

 羊肉(マトン)のジンギスカン焼き

◇材料(5人前)
羊の肉のうす切り…300グラム たまねぎ…200グラム
にんじん…200グラム  にんにく…1かけ
みりん…大さじ2杯   しょうゆ…大さじ2杯
ねぎ…2本   しゅんぎく…1/2わ
紅しようが…少々

◇作り方
●たまねぎ・にんじん・にんにくはおろし金でおろします。
●みりんとしょうゆを合わせた中に、すりおろした野菜を入れ、マトンをつけこ
みます。
●ねぎはうすい小口切りにし、肉にからませて強めのとおい直火で焼きます。
●しゅんぎくは生のまま葉さきを皿に敷き、肉を盛りつけ、せん切りの紅しょうがをあしらいます。

(集文館編「家庭の料理」1巻7号52ページ、昭和41年5月、集文館=原本、)


(2)
   ジンギスカン

◇材料(4人前)
マトン…400グラム ねぎ…3本 ピーマン…4個 生しいたけ…8枚 きょう菜…1/2わ 豚脂 たれ[しょうゆ…大さじ6杯 酒…大さじ4杯 砂糖…大さじ1杯 レモン汁…大さじ1杯 おろしりんご 唐がらし おろしにんにく おろししょうが] 薬味[あさつき だいこんおろし みかんまたはゆずの皮 レモン皮のみじん切り 七味唐がらし]
◇作り方
●たれの調味料・香辛料を合わせ、マトンに少しふりかけておきます。
●ねぎはつつ切り・ピーマンは4つ割り生しいたけはかさに切れめを入れ・きょう菜は4センチ長さに切ります。
●豚脂をなべにまわして野菜と肉を焼きたれ・薬味をつけていただきます。
               (遠藤きよ子)
(集文館編「家庭の料理」1巻8号85ページ、昭和41年6月、集文館=原本、)


(3)
   成吉思汗焼

    【一人前】      熱 量 二五二カロリー
    価格 五七円     蛋白質 一四・〇グラム
 【材料】(五人前)本来は羊肉ですが、牛肉でも豚肉でも
よく五人前で三七五c(一〇〇匁)、醤油、酢、葱、生姜。
 【作り方】肉は二口か三口で食べられる位の大きさに切りま
す。そして庖丁の先で面とまわりに数カ所切目を入れて、強い
炭火で網焼きしながら、同量の醤油、酒、酢をまぜ合しこれに
葱と生姜のみじん切りを加えた汁をつけながら頂きます。
(日本女子教育会編「和洋中華家庭料理全書」81ページ、長谷川武徳「鍋料理のいろいろ」より、昭和41年12月、日本女子教育会=原本、)


(4)
   ジンギスカン焼

    【一人前】   熱量  二五二カロリー
    価格 八一円  蛋白質 二六・九グラム

  すき焼よりも味があっさりしていて、肉や野菜の持味を生
 かしたものとしてジンギスカン焼は喜ばれます。来客の場合
 にもお惣菜にも簡単で、鍋をかこんでみんなで楽しく味わえ
 ます。
 【材料】(五人前)豚肉三七五c(一〇〇匁)、牛肉一八八
c(五〇匁)、長ねぎみじん切り大匙二杯、白ごま大匙一杯、油
大匙一杯半、醤油大匙一杯、玉ねぎ二個、長ねぎ四〜五本、ほ
うれん草一把、生椎茸五個、薬昧としてにんにく、唐がらし、
玉ねぎ、さんしょう粉。
 【作り方】肉は家庭向には何でもよいのですが、牛肉はバサ
バサになりますから、醤油に浸けておきます。豚肉は少し脂肪
のあるところでもけっこうです。鶏肉なら若どりなら申し分あ
りません。鴨などを用いるとお狩場焼のように食べられます。
 牛肉、豚肉ともに薄切りにします。長ねぎはぶつ切り、ほう
れん草はゆでて長さ四〜五aに切り、玉ねぎは二つに切って厚
さ一aのくし形に切ります。
 【食べ方】ジンギスカン鍋をよく熱してまわりに肉の脂身を
のせ、さらにサラダ油か大豆油を少し流して肉を並べ、まわり
のふちに野菜をならべます。焼はじめたら弱火にして返しなが
ら焼きます。好みのやく味を入れたたれをつけながら、野菜も
適当に焼いて頂きますが、肉の焼汁がしみて格別おいしく頂け
ます。
(日本女子教育会編「和洋中華家庭料理全書」347ページ、昭和41年12月、日本女子教育会=原本、)

 資料その25は昭和43年だけど(1)はレシピではなく、馬上盃という店に関連した話です。東京・新宿にあったジンギスカン店の馬上盃「<略>中村屋の裏には馬上盃がある。戦後ここら一帯はハモニカ横町といわれ、あちこちの飲み屋に文士がたむろしていた。ここはそのころからある店で、民芸風のジンギスカン料理屋である。いわゆる闇市派のふんいきの残っている店で懐かしい。(25)」と書かれた店の野菜にね、玉蜀黍が入っている写真が珍しいので取り上げました。野菜の皿の写真の上は店内で若い男性2人が焼きながら食べている写真です。「ぐるなび」などで検索しても出てこないので、とっくに廃業したのですね。
 作家の宮尾登美子は昭和41年、夫雅夫と共に高知から上京、成岡という男の案内で「新宿に出て『馬上盃』でジンギスカンのご馳走になる。それからタクシーで彼の家へ。(26)」と1月21日の日記に書いています。また宮尾日記の1月6日分に仲間と「一時間ほど飲み『とんちゃん』へ行く。(27)」と書いている。「とんちゃん」は平成15年の道新の「探偵団がたどるジンギスカン物語」も取り上げた高知の有名店ね。両者の違いが書けたと思うのですが、宮尾日記には一言もありません。
 それから当時参議院議員だった中山千夏の昭和56年4月24日の日記に「<略>Y兄が学生時代によく通ったという〈馬上盃〉なるジンギスカン焼に入ろうとしたら、すぐ前に映画館。思えば我ら、二カ月以上、映画を見とらん、と発作的にとび込み、売店のサンドイッチをかじりつつ『殺しのドレス』を観る。どうってことない映画だったけど、ともかく映画観たあ、遊んだあ、という気にはなった。8時45分、映画館を出ると、有難や〈馬上盃〉はまだ開いていた。<略>(28)」と出てきます。
 同(2)の序に著者辻勲は「「下層階級を中心に発達したものがそのうまさの故に上層部にも波及していった食べものこそ鍋料理で」「近代の食生活の新しい傾向といえそうです。(29)」と書いています。
 とすると、ジンギスカンの場合、糧友会や農林省などの羊肉食普及活動によって波及したんだからね、ちょっと違う。鍋料理の本に石狩鍋はあってもジンギスカン鍋があるとは限らないという点でも鍋料理でも異端鍋ですよ。分類はBαSにします。

資料その25

(1)
   ジンギスカン  馬上盃

 ジンギスカン料理では古くからの店だ。鉄板
の上で、マトン、野菜を焼いてたれをつけて食
べる。(近ごろの鉄板焼きというのが、このた
ぐいである。)軽い味なので、腹にたまらず食べ
られる。
 パンチ鍋というのも受けている。サラダオイ
ルを煮立てて、串にさした肉や野菜を揚げ、ポ
ンズのタレで食べる。いくらでもおかわりをし
てくれる。
 ジンギスカン料理は、冬のものであるという
が夏場も結構消夏向きでいける。
 「馬上盃」の名は、王翰の「州詞」の中か
らとってつけた名だという。(山本)
       ■ジンギスカン五〇〇円
        パンチ鍋五〇〇円
       ■新宿区角筈 中村屋ビル
        電(352)五一一一
【写真説明】ジンギスカンにはビールがよく合う
      ジンギスカン料理一式
  
(添田知道編「東京の味」76ページ、昭和43年1月、保育社=館内限定デジ本、)


(2)
   ジンギスカン鍋――マトンを豪快に味わう世界の鍋料理

材料4人分
マトン薄切り………………………400g
玉ねぎ……………………………………2個
なんきん……………………………1/4個
春菊………………………………………1束
ピーマン…………………………………8個
白ねぎ……………………………………4本
さつまいも…………………………1/2個

タレの分量
しょう油…………………………1 )
焼酎………………………………1 >の割合
みりん………………………1/3 )
化学調味料………………………………少々

薬味
にんにく…………………………すりおろし
にら(わけぎ)…………………みじん切り
しょうが…………………………すりおろし
ピーマン…………………………みじん切り
みそだれ…………………………………少々
山椒塩(塩と粉山椒をまぜる)………少々

 ★作り方
@ マトンは薄切りを求め、材料のたれを
合わせ、準備した薬昧を加えた中に30分程
漬けて味をなじます。
A 玉ねぎは皮をむき、5ミリ厚さの輪切
り、ピーマンは縦2つに割り、種をとり除
く。
白ねぎは3センチ位のぶつ切り、なんきん
は洗って種をとり、薄切り、さつまいもは
皮つきのまま、1センチ厚さの輪切りにし、
春菊は洗って4センチ位の長さに切る。
以上の材料以外に、生椎茸やにら、魚貝類
またはレバーなどを用意するのもよい。
B 鍋を充分に熱し、マトンの脂身、また
はラードを全体にぬり、鍋の上部で肉類、
下の方に野菜を並べて焼き、焼きたてに、
材料を漬けておいたつけ汁を煮つめたた
れ、またはみそだれ、山椒塩などをつけて
食べる。
 ★メモ
※本来は、野外で羊肉を焼きながら食べる
蒙古料理で烤羊肉≠ニ呼ばれる。一般に
は、13世紀頃活躍した蒙古帝国の創始者ジ
ンギスカンが戦場で、鉄かぶとの上で羊の
肉を焼いで食べたから、この名前が起った
と、まことしやかに言い伝えられている。
 ★おいしく作るコツ
※材料はマトンが本命だが、牛肉、豚肉、
あいがも、鶏肉、鯨、貝類などを主材料に
して、季節の野菜、例えばとうもろこし、
なす、もやしなど数種類とり合わせるとよ
い。この場合は、漬汁につけずそのまま焼
いてたれをつけてたべる。
※たれも材料に合うものを色々と工夫をこ
らして、我家の味をたのしむとよい。
※みそだれ=みそ、みりん、焼酎、または
酒、化学調味料、にんにく、土生姜、にら
ピーマンを好みに合わす。
※油はこげつかないように適宜補い、肉は
焼きすぎないように注意。
(辻勲著「鍋料理194種」92ページ、昭和43年12月、婦人画報社=館内限定デジ本、)

 昭和44年は3件ありました。資料その26(1)は昆布か鰹節かを煮た「だし汁」を使うからブイヨンと同じとみてDβと判定しました。
 (2)は著者と同姓の長谷敏司の「監修のことば」によると「永年にわたり八芳園において私の補助役として苦楽をともにしていただいた長谷誠彦君が」「後世まで本来の日本料理の真髄を伝承する意味で(30)」本書を出したとあるので、マトンも日本料理の材料として認められたということですね。
 2種のタレはどっちも酒と醤油を入れるけれど、Aは合計1カップ半なのに対してBは2杯4分の1と多いので、少ない方のAを肉に掛けるとみてBαSと解釈しました。
 (3)は辻勲著となっているが「本校学術部の城本君、その他の諸姉の資料収集、その解釈、取捨選択」などで「この本のあらかたがてきたといって過言ではない。(31)」とあります。それで前年の「鍋料理194種」を意識した編集らしく、別に北海道産の食材解説があり「肉料理はなんといってもジンギスカン鍋につきる。マトンの薄切りを鍋で焼きながら流出した肉汁を野菜に含ませながら焼き、にんにくをきかせたタレをつけながら食べるのである。このジンギスカン鍋のタレは、本場の味をびん詰めにして市販されている。無論、このタレは手軽にできるものであるから自家製でも結構間に合うものだ。(32)」と書いているんだが、Bβのレシピはニンニク抜きのタレなのはわからんなあ。ふっふっふ。
(4)は昭和45年は多田鉄之助監修の「郷土料理全科」からです。使ったのは昭和47年の第2刷ですが、初版は45年2月なので、こっちに入れました。多田は家の光協会が全国の郷土料理の研究家を総動員して本を出すというので監修を引き受けたが「由来や起源については、なかには諸説もあり、取捨に迷うものもある。それを解明するのが理想であろうが、今回は完全にそれを果たしていない。(33)」と正直に認めている本です。Bβと分類しました。

資料その26

(1)
   ジンギスカン鍋

  <4人分>
羊肉・牛肉・豚肉いずれでも
よい………………………………400グラム
じゃが芋…………………………300グラム
にんじん…………………………80グラム
玉ねぎ……………………………200グラム
ピーマン…………………………2個
生椎茸……………………………4〜8枚
りんご(紅玉)…………………1個
サラダ油…………………………1/3カップ
〈4人分〉
タレ分量
しょう油…………………………1/3カップ
酒…………………………………大さじ3杯
だし汁…………………………… 〃
りんご すりおろし……………大さじ2杯
玉ねぎ すりおろし……………大さじ2杯
にんにく すりおろし…………少々
しょうが すりおろし…………少々

 玉ねぎ、にんにく、生しょうが、りんご
等の香りのある野菜や果物をすりおろして
調味料にまぜ合わせたタレに、いろいろの
野菜や肉をオイルで焼きながら、つけてたべ
るジンギンカン鍋は、若い人達にたいへん好
評です。
 作り方
@ じゃが芋は皮をむき、六、七ミリの厚さ
の輸切りにし、くずれないようにゆでてお
きます。
A にんじんも五ミリ位の輪切りとしゆで
ておきます。
B 玉ねぎも輪切り、ピーマンはタネをと
り、四つ割りか六つ割りにしておきます。
C りんごは皮つきのまま、たて二つに割
って芯をとり、五ミリの小口切りにし塩水
につけ、ザルにとります。
D 分量のタレを合わせておきます。
E ジンギスカン鍋、なければ鉄板を卓上
に出し、油をひき、焼きながらタレをつけ
て頂きます。タレは濃厚ですから、たっぷ
りつけないで、ちょっとつけて頂く方がお
いしく頂けます。
F 季節によって、なすやいんげんなど、
適当に野菜をえらんで下さい。
(カザン編「食生活」63巻2号63ページ、本谷滋子「季節料理――暖かい鍋料理を」より、昭和44年2月、カザン=館内限定デジ本、)


(2)
   マトン料理のコツ
@冷凍したものをとかす場合、風にあてないようふきんか紙をかぶせておくこと。風にあてるとにおいが強くなる。
A白い脂肪の多いほどにおいが強いので、食べられない人は脂肪の少いものでなじんでゆく。
Bマトンは老化を防ぎ、皮膚を美しくするラノリン油が豊富。調理にはリノール酸のふくまれているサラダ油をつかえば、コレステロールの心配はないといわれている。
C調味料にはショウガ、ニンニク、ネギ、カレー粉などがよく合い、においを消しまた風味をそえる。
D生肉のうちに酒を少々ふりかけるか、調理中に少し入れると味がよくなる。
E煮るよりも焼く、また焼いてから煮る、いためてから醤油や味噌で味をつけるとおいしい。
Fさめないうちに食べると、においが少ないので、さめにくい料理ということもマトン料理のコツ。

   ジンギスカン焼き
〔材料〕 マトン薄切り五〇〇c、ネギ四本、シュンギク二束、生シイタケ十二個、ピーマン三個、サツマイモ一個、ネギみじん切り大さじ五杯、ショウガみじん切り大さじ二杯、タレA(ケチャップ、醤油、酒またはみりん各カップ1/2) タレB(醤油カップ一杯、酒カップ1/2、みりんカップ1/4、酢カップ1/2、ガーリック少々)。
〔作り方〕 ネギ四〜五aのぶつ切り、シュンギクは二つぐらいに切り、シイタケは軸を取る。ピーマンは四つ割り、サツマイモは五_厚さぐらいに切る。なべに油をよくひぎ、マトン、野菜を焼きながら好みのタレ、薬味をつけて食べる。マトンはあらかじめ酒、醤油、ネギのみじん切り、ショウガ汁など 少々かけておくとさらによい。
(長谷誠彦著「日本料理宝典」194ページ、昭和44年6月、れすとらん出版=原本、)


(3)
   ジンギスカン鍋    北海道

 北海道の野外料理として有名な羊肉料
理。羊肉は独特のニオイがあるので、あら
かじめタレに2〜3時間つけてから焼く方
法と、タレをつけながら焼く方法があり、
じゃがいも、ねぎ、ピーマン、なす、かぼ
ちゃなどの野菜と一緒に焼きながら食べま
す。野天に独特の焼きなべを据え、羊肉と
野菜を焼いて食べるおいしさはなんともい
えません。もう一つ、この料理の秘訣はタ
レにあります。タレをじょうずにつくって
おけば羊肉独特のニオイもなくなってしま
います。しょうゆ1カップに酢1/2カップ、
酒1/4カップ、みりん大さじ3、ごま油大さ
じ2をあわせ、ねぎの小切りやおろし生
姜、おろしにんにくなどを入れます。
(辻勲著「郷土料理」162ページ、昭和44年11月、婦人画報社=原本、)


(4)
 北海道
   ジンギスカン鍋

 材料――5人前
マトン……………500g
生シイタケ……………5枚
ナス……………………3個
ニンジン……………50g
タマネギ………………2個
カボチャ…………200g
ピーマン………………2個
ジヤガイモ……………3個
もやし……………300g
 ┌酒大さじ……………2
 │しょうゆ………さじ3
 │酢大さじ……………2
 │塩…………………少々
た│砂糖小さじ…………1
 │ニンニク…………1片
れ│根ショウガ………少々
 │七色トウガラシ…少々
 │リンゴとナシの
 │ すりおろし………少々
 │シロゴマ…………少々
 └化学調味料………少々

 北海道
   ジンギスカン鍋
 
マトンと野菜を特製の鉄鍋で
焼きながら、特有のたれをつ
けて食べる。
由来  蒙古の野戦料理から生まれた
    といわれ、北海道は酪農の発
達とともにメンヨウの飼育も盛んにな
り、札幌の「横綱」という店で昭和一一
年にはじめて、ジンギスカン鍋の試食
会が行なわれた。マトンと野菜を、か
ぶとの形をした特製の鉄鍋で焼き、特
有のたれをつけて食べたのが始まりで
ある。

作り方 @ 羊肉は薄切りを用意し八
    〜一〇cmの長さに切る。シイ
タケ、ナス、ニンジン、タマネギは半月
に切り、カボチャは櫛型、ピーマン、ジ
ャガイモは薄切り。もやしはよく水洗
いし、ごみを取って水をきっておく。
A たれは酒としょうゆ、酢、塩、砂
糖をよく混ぜ合わせて、ニンニク、根
ショウガ、リンゴ、ナシなどをすりお
ろして加え、シロゴマと化学調味料を
入れてよく混ぜ合わせる。
B鍋を火にかけ、ヒツジの油をよく
まわし、マトンと野菜類を焼きながら、
Aのたれをつけて食べる。
 食べ方 野外料理で、季節の野菜とマトンがあれ
ば、すぐでき、肉はつけ汁につけて焼
く方法と、焼いてからつける方法とが
あるが、マトン独特のにおいを消すこ
つはこのたれにある。このたれは各家
庭、店によって異なり、それぞれの特
色をだして味を競う。
食べられる所
「月寒学院」札幌市東月寒(86)八二三六
「宮の森ガーデン」札幌市宮の森(61)三三四一
「百景園」札幌市平岸(81)五一九一
「波光園」札幌市山元(56)七七〇三
(家の光協会出版部編「郷土料理百科」13ページ、昭和45年2月、家の光協会=原本、)

 資料その27は昭和47年から49年までの4件です。同(1)の「婦人生活」のジンギスカン鍋は4人分、東京の物価らしいが、1人100円で済む経済鍋料理とうたっています。分類はBαSです。
 同(2)はタレを肉に掛けるからBαSだ。同(3)の筆者井上は昭和43年に「西洋料理 基礎と応用」を出し、その後朝日放送編「料理手帖」に書いたものをまとめた本だそうです。井上が自著にジンギスカンを書いたのは「洋食教本」に次いで2度目です。資料その21のレシピもタレに味噌を使ってます。分類はそれと同じくDβです。
(4)の「日本の郷土料理」の初版は昭和49年なので、ここに入れました。この本の奥付に著者、編集人がなく、監修者として沢本まつ子、南部あき子両氏の名前があります。でも近茶流宗家柳原雄氏による「日本の郷土料理『柊会版』の新版へよせて」によると、柊会は全国各地で「定評ある料理学校を経営されている立派な先生方がたの研究集団」(34)であり、その柊会の会長が沢本まつ子氏とあり、それで国会図書館は「全国料理研究会柊会編」に特定したらしいので、私もそれに倣いました。
 素っ気ないレシピに代わり別ページに「北海道」紹介があり、羊肉は「酪農の発達とともに緬羊の飼育も盛んになり、蒙古の野戦料理から生まれた野外料理、羊肉のジンギス汗が人気を呼んでおります。羊肉にたれをつけながら焼く方法と、二〜三時間前に肉をたれにつけておいて焼く方法があります。いずれにしても、羊肉の脂はたたみの目にまでしみ込むほどです。野天で、特製の鉄鍋で焼きながら食べます。広漠たる大地、サイロやポプラのある風景のなかでのジンギス汗鍋は格別です。その他、羊肉は洋風、中華風にいろいろな料理に使われております。(35)」と説明しています。
 「郷土料理のいわれ」は例の蒙古発祥説ですが「たれは羊肉の臭を消し、家々の主婦によって秘法があり、その味は腕自慢のものです。(36)」とあるが、もうは買ってくるものになっていたんじゃないかな。マヨネーズはケッチャップ同様に扱います。分類は糧友会型でBβですね。

資料その27

(1)
   ジンギスカン鍋

マトン(薄切り)     400c
ピーマン           4個
生しいたけ          8個
玉ねぎ            1個
ねぎ           21/2本
春菊           1/2把
つけ汁(にんにく1かけ、しょうが親指大、
ねぎ1/2本、りんご1個、しょうゆ1/2カップ、酒
大さじ3、みりん大さじ3)サラダ油

●下ごしらえ
つけ汁 にんにくとしょうがはすりお
ろし、ねぎはみじん切りにして、しょ
うゆ、酒、みりんをまぜ合わせ、りん
ごをすりおろして汁をしぼり加えます
マトン つけ汁大さじ4をまぶしてしば
らくおき、臭みを抜きます。
ヒーマン 縦四つ切りにして種とへた
をとります。
生しいたけ 軸を切りとります。
玉ねぎ 1a厚さの輪切りにし、はず
れないようにようじを刺します。
ねぎ、春菊 ざく切りにします。
 ●焼き方・食べ方
材料を大皿に盛り合わせ、ジンギスカ
ン鍋またはフライパンにサラタ油をひ
いて熱し、用意した材料を次々焼きな
がら、つけ汁をつけていただきます。
(婦人生活社編「婦人生活」26巻2号96ページ、河野貞子、森下加代子、村上昭子「温かい鍋料理」より、昭和47年2月、婦人生活社=館内限定近デジ本、)


(2)
<卓上料理>ジンギスカン焼き

材料(4人分)
マトン………………600〜800g
豚の背脂……………100g
玉ねぎ………………2個
生しいたけ…………100g
にら…………………1わ

タレ 刻みねぎ大さじ2
   りんごのすりおろしたもの、酒、しょうゆ
   ………………各大さじ8

薬味 おろしにんにく、しょうが汁、粉とうがらし
   ………………各小さじ1

▼作り方 @ タレ用のねぎをみじん切りにする。りんごはすりお
ろして、分量の酒としょうゆを混ぜ合わせる。
A やや深めの皿にマトンを入れ、@のタレをカップ1/2ほどその上
からかけて、マトンに下味をつけておき、残りのタレは四等分して
小鉢に入れ食卓に出す。
B 玉ねぎは1cm厚さぐらいの輪切り
にしておく。
C 生しいたけは下向きにして、傘の
上を指ではじいてホコりを落とし、塩
水で洗ってから軸を切り、大きければ
二つ切りにする。
D にらは洗って10cm長さぐらいに切
りそろえる。
E 薬味用のにんにくをすりおろし、
しょうがはすりおろして絞り汁をとり、
粉とうがらしとともに食卓に出す。
F 豚の背脂は10p角ぐらいに切って
おく。
G ジンギスカン鍋を充分に熱し、F
の脂でよくこすって鍋に油をなじませ
てから、強火のままAのマトンと、B
〜Dの野菜を少しずつのせて焼く。
H 食卓のタレの中にEの薬味を好みに混ぜ、焼いた肉と野菜をつ
けながら食べる。焦げつきやすいので、たえず豚の脂で鍋をこすり
ながら焼いてゆくこと。
応用 野菜は、ほうれんそう、じゃが芋、ピーマンなど好みのもの
を焼いてよく、またマトンのかわりに、牛肉、豚肉を使ってもおい
しく食べられます。
鍋 ジンギスカン鍋は穴のあいている鉄製のもので、マトンの脂が
下に落ちるようにできていますが、ないときは、すき焼き鍋か鉄板
を利用したり、金網で焼いてもよいでしょう。

  <メモ>
 ジンギスカン焼きと
いうのは、本来、野外
で羊肉を焼きながらい
ただく蒙古料理で、ジ
ンギスカンが作ったと
いわれています。
 羊肉は子羊がラム、
成長した羊がマトンと
呼ばれ、最近ではオー
ストラリアやニュージ
ーランドから輸入され
ています。
 値段は100g60円ぐら
いと、牛肉に比べてグ
ンとお安いのですが、
特有のにおいがあるの
で脂の部分をとってか
ら使うのがコツです。
 買うときは、色が明
るくさえているものが
柔らかくておいしいも
のですから、黒ずんだ
ものや、脂が多いもの
は避けます。
(主婦と生活社編「主婦と生活」27巻14号、第1付録「鍋料理と材料別おかず」36ページ、昭和47年11月、主婦と生活社=館内限定デジ本、)


(3)
   ジンギスカン焼き
 
 ジンギスカン焼きは、回教徒の料理で、本
来、野外で馬ふんか油煙の出ない木を燃や
し、長いハシで羊肉、野菜塁をめいめいが焼
きながら、好みのタレをつけ、立ち食いする
蒙古料理で、本名は烤羊肉(カオヤンロー)です。前述のミッ
クスト・グリルをアレンジしたのか、烤羊肉
がオリジナルか不明ですが、営業用にも家庭
料理にもなる楽しい料理です。
 仕度はバーベキュー料理(152ぺージ参照)
と同じですが、ジンギスカン焼きは、素焼き
にしてから、好みのタレで食べるのですから
タレは思い思いのものを工夫すれば、興趣満
点でしょう。材料もこだわらず、すき焼きに
ちなんで、即席で火のとおるものなら、何ん
でもよろしいのです。
材料(4人分)
 羊もも肉か子羊肉350g、ピーマン4個、
 玉ねぎ250g、生しいたけ12コ、サラダ油
調味料(タレと*味)
 みりん、しょうゆ、酢、白みそ、赤みそ、
 だし汁、トマト・ケチャップ、マヨネー
 ズ・ソース、ウスター・ソース、ごま油・
 塩、こしょう、七味とうがらし、刻みセロ
 り、刻みパセリ、おろししょうが
下ごしらえ
@ みりんとしょうゆを、1と1.5の割合で煮
 立てます。
A 白みそと赤みそを6と4の割合に混ぜ合
 わせ、だし汁でドロッとした濃度にうすめ、
 煮立てて味を確かめます。
B @とAのタレと、トマト・ケチャップ、
 マヨネーズやウスター・ソース、その他の
 調味料、薬味を好みにとり合わせ、焼き鍋
 の回りに並べます。
C ピーマンは縦2つに切リ、タネをとり除
 きます。
D 玉ねぎの中くらいのを、6mmくらいの厚
 切リにし、バラけるようなら、ようじをつ
 きさします。
E 生しいたけは水洗いして、石づきを切り
 とります。
F 羊肉はひと口に食べられる大きさで、厚
 みは4〜5mmに薄く切ります。
 下ごしらえした材料は、1品ずつを器に
 盛りつけ、ひとまとめにして脇台に用意し
 ます。

焼き方・すすめ方
@ 半球状に盛り上がったジンギスカン鍋
 か、すき鍋、または厚手の鉄板を、よくお
 った炭火かガスの火にのせて焼きます。
A 調味料のタレや薬味を、好みにめいめい
 の小皿にとり分け、手近におきます。
B @の鍋が焼けたら、油を焦げつかない程
 度に塗りつけるか、鉄板なら流し入れ、煙
 がたつほど熱くなったら、めいめいが好み
 のものを焼いていろいろのタレをつけ、熟
 いところを召し上がります。
☆ 食べ方は自由です。卜ーストパンの上に
 のせたり、ロールパンに肉や野菜をはさん
 でホット・ドックにしても、また、ご飯の
 おかずにもむきます。
  材料は肉1品でなく、ミックスト・グリ
 ルと同じで、海のもの、季節の野菜などが
 使えます。
(井上幸作著「西洋料理 基礎と応用2」86ページ、昭和48年9月、柴田書店=館内限定デジ本、)


(4)
 ジンギスカン鍋

▼材料(4人分)
羊肉  400〜600g
たまねぎ      2個
なす        2個
かぼちゃ    150g
じゃがいも     2個
ピーマン      2個
とうもろこし    1本
もやし     200g
たれの材料
 酒      大さじ2
 しょうゆ   大さじ3
 酢      大さじ2
 塩        少々
 砂糖     小さじ1
にんにく      1片
根しょうが    20g
七味とうがらし   少々
りんご     1/2個
梨       1/2個
白ごま     大さじ1
化学調味料     少々

▼作り方
1 羊肉はうす切りを用意し、八〜一〇セン
チぐらいに切る。
2 たまねぎは半月切り、なすは斜め切り、
かぼちゃ、ピーマンはくし型に切り、じゃが
いもはうす切り、とうもろこしはゆでて四等
分に切り、もやしはひげと黒い皮をとってお
く。
3 たれは酒としょうゆ、酢、塩、砂糖をよ
くまぜ合わせて、にんにく、根しょうが、り
んご、梨などをすりおろして加え、切りごま
と化学調味料を入れてよくまぜ合わせる。
4 鍋を火にかけ、羊肉の脂をよくまわし、
羊肉と野菜を焼きながら、Bのたれをつけて
いただく。
 ・野菜は季節のものを用いたほうがおいしく、肉
  をつけ汁につけて焼いてもよい。
(全国料理研究会柊会編「日本の郷土料理」20ページ、昭和49年7月、ドメス出版=原本、)

  

参考文献
上記(21)の出典は入沢文明編「たべもの東西南北」57ページ、昭和29年1月、日本交通公社=原本、 (22)は王馬煕純著「中国料理」145ページ、昭和33年6月、柴田書店=館内限定デジ本、 (23)は昭和34年1月24日付北海道新聞朝刊4面=マイクロフィルム、 (24)は荒井久子著「マトン料理350種」29ページ、昭和38年11月、婦人画報社=館内限定デジ本、 (25)は松田信夫編「The東京」20ページ、昭和50年4月、読売新聞社、同、 (26)は宮尾登美子著「宮尾登美子全集」15巻15ページ、平成6年1月、朝日新聞社=原本、 (27)は同10ページ、同、 (28)は中山千夏著「世の中メチャメチャや 議員ノートA1981年度(上)」103ページ、昭和57年3月、話の特集=原本、 (29)は辻勲著「鍋料理194種」ページ番号なし、昭和43年12月、婦人画報社=館内限定デジ本、 (30)は長谷誠彦著「日本料理宝典」6ページ、昭和44年6月、れすとらん出版=原本、 (31)は辻勲著「郷土料理」4ページ、昭和44年11月、婦人画報社、同、 (32)は同69ページ、同、 (33)は家の光協会出版部編「郷土料理百科」13ページ、昭和45年2月、家の光協会、同、 (34)は全国料理研究会柊会編「日本の郷土料理」ページ番号なし、昭和49年7月、ドメス出版、同、 (35)は同18ページ、同、 (36)は同19ページ、同

 資料その28(1)は昭和52年の毎日新聞からですが、このレシピは次の昭和53年の読売と朝日両紙のレシピと関係大ありなのです。次の資料その29でわかるように、53年だげで読売は3回、朝日も2回掲載しています。この3紙は日夜抜きつ抜かれつ競争していたんだから、毎日も1回は載せているだろうと53年の縮刷版を調べたら、ベーコンを混ぜる「マトンのカレー風味焼き」だけで、ジンギスカンはなかった。
 見落としもあり得るのに、なぜ毎日新聞の縮刷版で探したかというとだね、朝日は聞蔵U、読売はヨミダス歴史館という記事データベースがあり、キーワード1発で創刊以来のレシピを確実に出してくれるのに、毎日の毎索はキーワードだけでは古い記事は探せない。早く見付けるには嫌でも縮刷版の目次に頼るしか手がないからです。
 53年に続く54年分にもないので、仕方なく52年12月から遡ってみたら3月8日にラムステーキ、マトンカレー、マトンしぐれ煮、ジンギスカン焼と一挙4種の羊肉料理が載っていたのです。前文の末尾に「今日使ったのは100cで、マトン百二十円、ラム二百円でした。材料はいずれも四人分。(37)」とあります。別にたれを作らないとして分類はBαLですね。
 念のため、もう1年前、51年3月分を見たらね、3月28日付朝刊11ページに「マトンのシャリアピンステーキ」が載っていた。シャリアピン・ステーキは昭和11年、バス歌手シャリアピンが来日したとき、軟らかい肉を食べたいというので帝国ホテルのコックが考え出したビーフステーキです。レシピを見ると、牛肉の代わりに羊肉を使うだけで、薄切りの肉を叩いて軟らかくしたうえ、焼く前に肉を軟らかくする酵素を含む玉葱をおろして肉の上に乗せて暫く置くのも同じでした。
 それでね、毎日さんは3月に肉料理のレシピを載せる伝統があるんじゃなかろうかと、もう1年前の昭和50年3月分を見たら、なんと5回連載の肉料理シリーズがあり、3月14日は本当のシャリアピン・ステーキだったのには笑っちゃった、本当にさ。
 同(2)はコピー機のガラスが割れるんじゃないかと思ったぐらい重いヘビー級豪華本です。田村自身「序にかえて/自分の勲章」でこう書いています。
 「項目は六百数十種に及び、料理は二千五百種もオールカラーで載っている。こんな大料理事典は日本にかつてない。おそらく今後も出版されないだろう。その理由は簡単である。なぜなら"企業採算に合わない"からである。私はその採算をあえて度外視して、十年間書き続け、料理をつくり撮影してきた。
 これはあくまでも、料理研究家として、自分の歩いた道を後世に残し、その金字塔を打ち立てたいという、ささやかな一念からであった。ずいぶん長い歳月をかけた。それだけに書き終って脱稿したときは、感涙した。嬉しかった。」自分の「柩の中に入れてもらって抱きかかえてゆきたい。
(38)」と。Gyosai's Encyclopedia of Cookeryは泣かせる本なのです。
 羊肉料理は西洋8種、中国4種に写真7枚付きで載ってます。「あぶり焼き」の下の「中」の字は中国料理を示しています。主婦の毎日の献立決めの悩みを簡単に解決してあげようと「材料を買ったら、その材料のページを開けば、その故事来歴から、和、洋、中の料理がすぐわかる」のは確かだが、なにしろ1万8000円の本ですからねえ。A4のいい紙で751ページの本は本当に重いよ。汁を肉に掛けるから分類はBαS。
 同(3)の志の島は多田鉄之助から教えられたといい、ジンギスカンという名前は満洲在住邦人命名説を書いています。多田は元時事新報記者で時事の先輩で元北京特派員だった鷲澤与四二に会ったこともあったでしょうが、昭和29年出した「うまいもの」という本には「北京に住む日本人が、なんとか名前をつけようという結果ジンギスカン料理がよかろうというので命名したので、ほんとうからいったならばジンギスカンとはおよそ縁のないものなのである。(39)」と書いています。
 私はこれはかなり正しいと認めるのですが、その多田の話が志の島をどう聞いたのか、満洲に住んでいた日本人が考え出した料理となるのですから訳がわかりません。作り方はDβです。
(37 多田鉄之助著「うまいもの」106ページ、昭和29年3月、現代思潮社=原本、)
 (4)も表紙に「ENCYCOPEDIA FOR HOME MADE COOKING」とある1360ページの分厚い本です。執筆者村上は47ページにある「ご指導いただいた方々」36人のリストにある料理研究家の村上鶴子ですね。ここでは出していませんが、漬け込み汁量の計算法は総括で話しますが、肉に掛けるだけだからDαSですね。

資料その28


(1)
[安くおいしくケッチング料理教室](32) 水上英恵
羊肉を臭み消して上手に
   香りの強い野菜、香辛料を使い、熱いうちに
  
  ジンギスカン焼
  
 この料理はジンギスカンが作
ったとも、ジンギスカンの陣中
帽に似たナベを使うからとも、
ジンギスカンの兵士たちの料理
だった―など諸説あるようです。
野外で焼きながら食べるバ
ーベキューの蒙古版といったと
ころで、中国風には「烤羊肉」
(カオヤンロウ)といいます。
(烤は直火焼きの意)。
 ここでは家庭向きに、普通の
鉄板で焼けるものをご紹介しま
しょう。
 マトン薄切り肉400cは長
さ5aぐらいに切ります。しょ
うゆ大さじ6、砂糖、酒各大さ
じ2、ゴマ油大さじ1、おろし
ニンニク、ショウガ汁各小さじ
1、おろしリンゴ大さじ4を混
ぜ合わせ、マトンを30分以上つ
けます。
 取り合わせる野菜は、ささが
きゴボウ(水でアク抜きをす
る)、せん切りにしたニンジ
ン、玉ネギ、ネギ、セロリ、ピ
ーマン、シイタケ、モヤシ、ニ
ラや春菊のざく切りなど。この中
からできるだけ多種混ぜ合わ
せて、1人150cくらい用意
します。
 焼き方は、まず鉄板にサラダ
油をうすくひいて野菜をざっと
いためて広げます。その上に下
味のついた肉を広げます。肉の
つけ汁が野菜にしみるので、ひ
っくり返して肉が白っぽくなる
まで焼きます。
 味が足りなければ、肉のつけ
汁と同じタレを別に作り、これ
に受けていただきます。野菜が
おいしくなりますから、たっぷ
り用意するとよいでしょう。
     (材料費約八百円)
【写真説明】蒙古風バーベキュー《ジンギスカン焼》
(昭和52年3月8日付毎日新聞朝刊15面=毎日新聞社編「毎日新聞刷版」327号223ページ、昭和52年4月、毎日新聞社=原本、)


(2)
 羊肉のあぶり焼き《中》
 烤羊肉(カオヤンロウ)
 薄切りの羊肉と野菜を鍋を囲んで焼きながら
 舌鼓みをうつ、一家だんらんの楽しい食事に

材料 4人分 羊肉薄切り400g 春菊1/2把 玉ね
   ぎ1個 ピーマン4個 しいたけ4枚 に
   んじん小1本 にんにく2粒 根しょうが
   2片 サラダ油 調味料
手順 1 器に羊肉を取りやすいように並
べ、しょうがとにんにくをおろして、サラ
ダ油1/3カップと混ぜ、肉の上からかける。
2 春菊は洗って、堅い部分を除き、ピー
マンは二つ割り、玉ねぎは輪切り、しいた
けも二つ切り、にんじんは飾り切りし、野
菜も、取りやすいように大皿に並べる。
3 ジンギスカン鍋か、フライパンで肉と
野菜を焼きながら、たれをつけて食べる。
 たれは、酒としょうゆ各大さじ5杯、酢
大さじ2杯、砂糖小さじ2杯を合わせてつ
くり、にら、ねぎ、しょうがなどの薬味を
入れる。このほか、酢じょうゆ、ごまだれ
など好みのたれを用意し、焼き立てにすす
めるのもいい。
応用 この料理がいわゆるジンジスカン鍋。
羊肉の臭みを取るような調理法になってい
るが、牛肉、豚肉に応用してもおいしい。
(田村魚菜・千鶴子著「魚菜『料理大事典』」351ページ、昭和52年7月、学校法人魚菜学園出版局=原本、)


(3)

ジンギスカン鍋
   (カラー六五ページ参照)
 その名をきいただけでエキゾチックな香
りがします。今日での本場は北海道で、ラ
ム肉を使っています。名前から考えますと
蒙古から伝わったように思えますが、この
料理は、大正のころ満州で、しかも日本人
の手でつくられたものです。変わった鍋を
手に入れた人達が、これで焼肉風のものを
つくり、皆で考えたうえてこの名をつけた
ということです。このことは食味評論家の
多田鉄之助先生からうかがいました。
 今のジンギスカンに使われる鍋は形がよ
くなく、肉を焼くという機能性に合ってい
ないようです。本当に合う鍋は、鍋の網の
目が粗くなくてはいけません。強火にかけ
て肉をのせて焼いたとき、肉のもっている
脂を出してしまわなければいけないのです。
それがこの鍋の第一の目的で、脂がぬける
からこそおいしくもなり、食べたあといや
みも口に残らないわけです。したがって焼
けた肉ににんにく入りのつけ汁をつけて食
べるだけではなく、肉を始めからたれの中
につけ込んておいたものを使ってもおいし
くいただけます。
 盛りつける時は、野趣味たっぷりに、そ
してダイナミックにします。本当は野菜を
入れたくないのですが、最近の若い方は野
菜を好みますし、また色どりとしてもいい
ものです。ラム肉の代わりに豚の三枚肉を
ごく薄く切って使ったり、背ロースなどを
使ってもよいでしょう。
材料   四人分
ラム肉………………1kg  大豆もやし…………300g
玉ねぎ…………………2個  ピーマン…………………5個
日本かぼちゃ……1/4個  茄子………………………4個
人参…………………7cm  牛脂………………………少々
つけ汁
 ┌みりん…1と1/3カップ  酒……1と1/2カップ
 │醤油……1と1/3カップ  赤唐辛子……………4本
 │りんごのおろし汁……………………………1/2カップ
 │生姜、にんにく…………………………………各ふたかけ
 │玉ねぎ、長ねぎ………………………………………各少々
 └ウスターソース…………………………………大さじ2杯
作り方
@ ラム肉は、形よくスライスしたものを
用意します。
A もやしは水洗いをして豆と根をとり、
玉ねぎは縦ふたつに切り、一a幅に切りま
す。ピーマンは縦ふたつに切り、種をとり
ます。
B 日本かぼちゃは皮を粗むきにして五_
厚さに切り、茄子はへたをとって縦三つに
切り、人参は皮をむいて縦ふたつに切って
から薄切りにします。
C 鍋にみりんと酒を合わせて煮立て、火
をつけてアルコールを煮きり、他の調味料
と材料を加えて煮つめてから布巾でこしま
す。最後に、にんにくのすったものを加え
ます。
D ジンギスカン鍋を火にかけ、たっぷり
の牛脂で表面をふき、まずラム肉をのせ、次
に他の野菜を入れ、火が通ったらつけ汁を
添えておすすめします。
(志の島忠著「鍋料理」153ページ、昭和52年11月、婦人画報社=原本、)


(4)
■ジンギスカン鍋

羊肉の代表的な鍋料理。焼きながら熱い
ところを、たれと好みの薬味でいただく
おいしさは格別。
●つくり方 @たれは、分量のしょ
うゆと酒をひと煮たちさせてさま
し、りんごの絞り汁と刻みねぎを加
えてつくる。
A肉にたれの1/3量をかけ、残りはつ
けじょうゆにする。
Bじゃがいもは丸ゆで、または天火
で堅めに焼き、皮をむいて1a厚さ
の輪切り。たまねぎは皮をむき、じ
ゃがいもに合わせて輪切りにする。
Cピーマンは二つに割って種子を取
り、大きめに切る。なましいたけは
軸だけ取る。
D卓上こんろにジンギスカン鍋を熱
し、油を布に浸してひき、Aの下味
をつけた肉と、BCの野菜を適量ず
つのせ、焼けたものから別皿のたれ
と薬味をつけていただく。
●コツ 焼きすぎると堅くなるので
注意する。
●応用 ジンギスカン鍋がないとき
は、鉄板かフライパンを用いる。さ
っぱりとした味で食べたいときは、
同割のレモンじょうゆと、大根おろ
しの薬味でいただく。  (村上)

材料(2人まえ)
たれ(しょうゆ大さじ6、酒大さじ
3、りんご小1個、刻みねぎ大さじ
3)
マトン背肉(薄切り)……300c
じゃがいも……………………中2個
たまねぎ………………………中1個
ピーマン…………………………2個
なましいたけ……………………6個
薬味(大根おろし、とうがらし粉、
おろししょうが、さらしねぎ)
植物油
(主婦と生活社編「完本 料理大事典」186ページ、昭和52年12月、主婦と生活社=原本、)

 資料その29は昭和53年分。レシピを分類すると(1)と(2)はDαS、(3)はゴマ煎りで火を使うけどタレ全体はないのでBβ、(4)はBαS、(5)は種羊場型タレではあるが、野菜の有無がわからないのでCβとします。(4)は成吉思荘の沖石料理長によるジンギスカンだけにしたのですが、長くなってます。
 読売に3件もあるのはジンギスカン大好き担当者がいたからではなくて、何人かの料理研究家にレシピ執筆を依頼しており、半年離れたし、タレが違うからそろそろよかろうと掲載したら「羊肉は安いけれど、くさいとも聞き、なんとなく手が出ません。手軽な家庭での料理法を敏えて(40)」という読者の希望にこたえた「作ってみませんか」が出て、ジンギスカンが続いた形になったんでしょう。朝日にしても戦後22年たって初めてのジンギスカンのレシピなんですからね、やはり偶然ダブったのでしょう。
 それから(1)は平成27年に読売新聞生活部が出した「読売新聞家庭面の100年レシピ」に「北国のソウルフード」としても載ってます。これには「北海道の牧羊の歴史とともに」という記事と、雪印メグミルクスキー部監督の原田雅彦さんの談話「ジャンプで金メダルを取った長野五輪ではジンギスカンで祝ってもらい最高でした。上川町出身で、子供の頃から親しんできたのは肉を漬け込んで焼くジンギスカン。最後にうどんを入れてタレが染み込んだところで食べる。パンチが利いてなんともおいしい。就職して札幌で食べたのは、焼いてからタレをつけるタイプで、ショックでした。今はどちらも食べます。海水浴や花見のときも、炭で肉を焼いて食べます。名寄市の大会でふるまわれたことも。羊肉はヘルシーでおいしく食べると力がわきます」が付いています。今はどちらも―とバランスをとるあたり名ジャンパーならではだよね。はっはっは。
 2つのレシピの違いは「100年レシピ」では@肉はラム、マトンだけで代わりの豚肉はないA材料としての大根おろしはなく「ダイコンおろし(分量外)を薬味にしてもよい。」B箸休めの「キョウナとニンジンの混ぜづけや、ハスの甘酢づけ」を削り「*キョウナは、ジンギスカンの一般的な材料ではないのでなくてもよい。リンゴのすりおろしなどが入ったたれは、ほどよい甘みで羊肉とよく合う。」と、それぞれ書き換えられています。

資料その29

(1)
[きょうの料理]
ジンギスカンなべ

 果汁の入ったつけ汁がさっ
ぱりしておいしく、肉は羊肉
  に眼らず応用出来ます。

 【材料=四人分】羊肉(ラ
ム、マトン)または豚肉薄切
り四百c、長ネギ三−四本、
ピーマン三個、生シイタケ八
枚、ニンジン一本、キャベツ
四分の一個、タマネギ一個、
キョウナ適量、豚脂身五十
c、バター。つけ汁(しょう
ゆ大さじ六杯、酒大さじ三
杯、砂糖大さじ一杯、ニンニ
ク一片、ショウガ一片、おろ
しタマネギ大さじ二杯、赤ト
ウガラシ粉少々)。レモン汁
二分の一個分、おろしリンゴ
大さじ三杯、ダイコンおろし。
 【作り方】@肉は食べやす
い大きさに切るAネギは一a
厚さの斜め切り、ピーマンは
種を除いてたて四つ割り、生
シイタケは石づきを除いてぬ
れぶきんでふき、大きいもの
は半分にそぎ切り。ニンジン
は五_厚さに斜め切りして固
ゆでする。キャベツは四−五
a角にざく切り、タマネギは
簿いくし型切り、キョウナは
四a長さに切るB大きいさら
に肉と野菜をきれいに盛り合
わせて用意するCつけ汁を作
る。カッコ内の調味料を小な
べに合わせ、ニンニク、ショ
ウガはおろし、おろしタマネ
ギ、赤トウガラシ粉を好みの
量加えて火にかけ、弱火で一
分ほど煮立てて下ろす。
 Dこれにリンゴのおろした
もの、レモン汁を加え、肉に
少しとり分けてかけておくE
鉄板がない時はフライパンで
もよい。火にかけてあたため
た豚脂身を入れてよく溶か
して脂を出し、ネギを入れて
ころがし、香りが出たら肉を
焼く。焼きすぎると固くなる
ので注意。野菜も好みにの
せ、時々バターをのせて油を
補うとよい。つけ汁をつけな
がらいただく。ダイコンおろ
しは薬味として入れるとさつ
ぱりする。
   ◇   ◇
 キョウナとニンジンの混ぜ
づけや、ハスの甘酢づけを、
はし休めに添える。
      (遠藤きよ子)
(昭和53年1月15日付読売新聞朝刊15面=ヨミダス歴史館U、読売新聞生活部編「読売新聞家庭面の100年レシピ」86ページ、平成27年4月、「北国のソウルフード」より、読売新聞生活部=原本、)


(2)
[おそうざいのヒント]
  日曜メニュー

 羊肉のおいしい食べかたの一
つ。タレを工夫してわが家の味を
楽しんで下さい。
 まずタレを作ります。しょうゆ
カップ一杯、酒カップ半杯、みり
ん大さじ四杯を煮立てて冷まし、
リンゴの絞り汁一個分、きざみネ
ギ半本分、おろしショウガ小さじ
二、おろレニンニク小さじ一、コシ
ョウ少々をよくまぜあわせます。
 ラムの薄切り六百cにタレをカ
ップ四分の一杯ほどからめて十五
分おき、下味をつけます。タマネ
ギ二個を一a厚さの輪切りか半月
に切り、ピーマン四個をたてに四
つ切りにしてタネをとり、生シイ
タケ八個は石づきをとります。サ
ツマイモ(またはジャガイモ)一
個は五_厚さの輸切り、ネギ二本
は四a長さのぶつ切り、シュンギ
ク一束も四a長さに切り、それぞ
れの材料を大さらや盆ざるなどに
色どりよく盛りつけます。その他
モヤシ、キャベツなど季節の野菜
をそろえます。
 薬昧を用意します。ダイコンお
ろし、おろしショウガやニンニ
ク、きざみネギ、七味トウガラシ
など好みのものを。タレも容器に
入れてスプーンをそえます。
 ジンギスカンなべか焼き網をよ
く熱して、ラードやサラダ油を塗
ってから、材料を焼きます。焼き
たてをタレに好みの薬味を入れて
つけながらいただきます。肉は焼
きすぎないこと。羊肉は、冷める
と羊特有のくさみが出るので熱い
うちに食べることです。
 羊肉はラムとマトンに区別され
ており、ラムは生後満一年以内の
子羊の肉のことで、マトンは成羊
の肉です。ラムのほうが肉質がや
わらかく、くさみも少ないので食
べなれてない人には適していま
す。輸入牛肉を使ってもおいしい
でしょう。     (四人前)
(昭和53年3月19日付朝日新聞朝刊17面=聞蔵U、)


(3)
[きょうの料理]
ジンギスカン(鉄板焼き)

 戸外の食卓で煙と脂を出し
ながら、ジュウジュウ焼きな
がら食べる味は格別、羊肉を
おいしく食べるタレと薬味
で。
 【材料=四人分】羊肉の薄
切り四百c、シイタケ八枚、
タマネギ二個、長ネギ二本、ピ
ーマン四個、ニラ二束、シュ
ンギク、ホウレンソウなど一
束。タレ(白ゴマ大さじ五
杯、赤みそ大さじ二杯、砂糖
大さじ三杯、みりん大さじ三
杯、しょうゆ一カップ、酢大
ざじ四杯、赤トウガラシ、ニ
ンニク、ショウガ、ネギのみ
じん切り適量)脂身または
ラード
 【作リ方】@生シイタケは
石づきをとり、タマネギは五
_の半月切り、長ネギは四a
長さに切り、ピーマンはタテ
二つ割りにし、ニラは水洗い
して水気を切り、シュンギク、
ホウレンソウも同様、全部の
材料を大ザラに盛り、羊肉も
別ザラに盛り食卓に出します
A白ゴマを香ばしくいってす
りバチにいれ油が出るまでよ
くすり、赤みそ、砂糖、みり
んとしょうゆ、酢を加えてす
りのばし、赤トウガラシ、ニン
ニク、ショウガ、ネギのみじ
ん切り小さじ二杯ずつ加えて
作りますBジンギスカンなべ
を熱し、脂身をとかして、羊
肉、野菜を焼きながら、ゴマ
みそダレをつけながらいただ
きます。羊肉は、牛肉の脂っ
ぼさに比べると、ずっとさっ
ぱりとして淡泊な味。香味
のある薬味とタレで、羊肉の
クセも気にならず、かえって
羊肉特有の甘さとにおいが、
おいしいと好きになる人も多
いのです。羊肉の選び方と
して新鮮なロースの部分がお
いしい。また市販のよく売れ
る店で求めること。赤身の部
分の薄切りが食べやすい。脂
身と筋を庖丁でとりのぞくこ
と。さっぱりとしたタレと
して、しょうゆを主体とし
て、リンゴの果汁またはレモ
ン、夏ミカンなどのかんきつ
類の果汁やブドウの果汁など
に、ワインを加え、スパイス
(香辛料)を混ぜたタレも風
味がある。ジンギスカンなべ
の代わりに室内で煙を出さず
に焼くこともできる器具(電
気製品)もありますが、いず
れも強火で、手早く焼きなが
ら食べるのがコツ。
   ◇   ◇
 副菜として生野菜サラダと
スープを。
      (萩原マリエ)
(昭和53年8月3日付読売新聞朝刊13面=ヨミダス歴史館、)

(4)
「作ってみませんか」   羊肉料理

 読者から<略>

  常備菜にチャーシュー

      東京・杉並の「成吉思荘」料理長
           沖石克朗さん

 羊肉を食べるといったら、西洋ならまずラムの料理だが、日本ではジンギスカン。メン羊の多い北海道では、旅行者がラーメン、トウキビと共に一度は食べる名物料理になっている。ジンギスカンというから蒙古料理と思いきや、牧畜を営むモンゴル族の人たちは、丸ごと塩ゆでにして食べるのが普通で、ジンギスカン料理は中国のコウヤンロウ(烤羊肉)をもとに、日本人がつくり出した食べ方。同じ焼き肉でも、独特のカブトをかたどったナベを考案するなど、演出が細かい。さて、そのジンギスカン料理の専門店として昭和十年開店という、東京・杉並の成吉思荘、当時、農林省はメン羊をふやす計画をたてており、肉の利用のPRに熱心だった。いわばその国策に添っての開店だったとか。

  ジンギスカン

 沖石克朗さんは、その何代目かの料理長。「羊肉の脂分はたくさん食べても、もたれないんだね。店でも若いお客さんなど、三百 cぐらいペロリ。値段の 点でも栄養からみても、もっと羊肉を家庭で食べていいんじゃないですか。スタミナつけて猛暑に負けるなですよ」。
 ということで、さっそく看板のジンギスカンから。肉はマトンの薄切りを、ざっと一年未満の若肉をラム(中でもとくに若いのをミルクラムなどという)、それ以上をマトンと呼ぴ分けているが、焼き肉には、柔らかいラムよりも脂肪の多いマトンの方が口に合う。タレにはいろいろあるが、沖石さんはリンゴ汁をべースにして作る。「好みだが、マトンにはリンゴが合う」と。リンゴジュース四、しょうゆ二、酒二、ワイン(赤)一、みりん一の割合であわせ、化学調味料を少々。タレの一部は、あらかじめ肉にふりかけておく。
 タレの用意ができたら、あとは肉と野菜を焼くだけ。ナス、ピーマン、モヤシ、タマネギ……野菜 は大ぶりに切って、焼くなべは、スキヤキなべ、鉄板焼き用の板な ど厚手の鉄製なら何でもよい。カブト型の専用なべのよい所は、油が流れて、なべ底にたまらない点。だから普通のなべなら、たまった油を脱脂綿でふきとればよい。庭で炭火でもおこして焼いた ら、いっそうふん囲気を楽しめるだろう。タレには薬味(ネギ、ユ ズ、ショウガ、パセリなどのみじん切り)をたっぷり入れ、あとは焼きたてをつけて食べるだけ。「羊肉はくさいといわれる。豚には豚のにおい、羊には羊のにおいで、独特の風味なのだが……。まあ、冷めた時に油がにおうのだから、熱いうちに食べること。それと薬味だね」と沖石さんは話す。<略>
(昭和53年8月12日付読売新聞朝刊13面=マイクロフィルム、)


(5)
  [野外で料理を]
    ジンギスカン
     タレは一週間前に

 野外料理の横綱≠ヘ文句なく
ジンギスカン料理である。
 肉があって火があれはともかく
形は整う。どこの家庭でも一度く
らいはまねごとをしてるはず。そ
れだけに味付け、方法は千差万
別。さまざまなやり方、味があっ
てこそ楽しいが、何事にもやはり
碁本が大切。そこで、極め付き、
わが国で初めて羊の肉を本格的に
食べさせた、という札幌郊外の
「ツキサップじんぎすかんクラ
ブ」を訪ね、ここで長年、味付け
に取り組んでいる千田恵吉專務
(六〇)にコツ≠聞いた。
 広い草原で涼風を浴びつつ焼き
たての羊の肉を食う。「ジンギス
カン料理」とはよくぞ名付けた
り。はるかモンゴルの草原に思い
をはせながらきりっと冷えたビー
ルとともに……。いや、これは勇
み足。

 場所   山、野原、河原。コ
     ンロなど持たず、石で
囲ってコンロ代わりにすればよ
い。燃料は、できれは木炭。枯れ
枝を集め、燃え切って煙が出なく
なってからナベを置くのもいい。
それもダメなら市販の簡易プロパ
ンガスコンロ。

 ナベ   煙の出ないという鉄
     カブトような穴のあい
いてないのっぺらぼうのものもあ
るが、野外なら煙も気にならない
から火のよく通るすき間のあるナ
ペがいい。
 ついでに、焼き肉用ナベの手入
れ法。まず、決して洗剤などで洗
わないこと。ナベについている油
がすっかり落ちて、次に使うとき
肉がくっついてしまう。使用後は
ワイヤブラシか金タワシでこす
り、油を敷いてしまう。

 肉   野外では羊がいい。少
    々のにおいも苦にならな
い。市販のマトンの中で、色が濃い
ものは老いぼれ羊でうまくない。
ピンク色の鮮やかなものを選ぶ。
 牛肉もいいが、豚肉は油が強く
てタレをはじく。

 タレ   タレは焼き肉の生
     命=Bその場で調合した
ようなタレは避けたい。せめて、
一週間以上前から用意してほし
い。市販のものが無難かもしれな
い。市販のものにショウガ、ニン
ニクのおろし汁とカレー粉を少々
加える。カレー粉には十七、八種
の香辛料がはいっているから味は
ぐんとひき立つ。
 千田さんが味付けしたツキサ
ップ風タレ≠フつくり方。
 しょうゆを一・六倍にうすめ、
これにカレー粉、砂糖、化学調味
料を加え火にかける。おろしぎわ
にニンニク、ショウガを入れる。
なぜおろしぎわか、というと味を
"半殺し"にするため。これをび
んにとり、何日かごとに振って味
をなじませる。ちなみに、千田さ
んのクラブでは半年ぐらい前から
仕込んで置くそうだ。

 焼き方   一般家庭では十人
      に八人は焼き過ぎて
まずくしている。「自分のものは
自分で焼く」が焼き過ぎ防止の鉄
則。だから肉はたくさんのサラに
分けて置いて少しずづ焼く。
 ナベにはりつけるように置き、
肉片の縁の方が白く変色したら裏
がえす。ジュッといったところで
とって食べるのがうまい。
 片側だけ焼いて二つに折って食
べるのもいい。
 タレの中に浸しておくと、肉が
冷えてしまって硬くなる。自分で
食べる分だけをとってすぐ食べる
のがコツ。いずれにせよ、強火で
手早く焼くことだ。
 使い終わったタレにお湯をさし
て飲む。羊肉からダシがたっぷり
出ていて芳香な味がする。ナベの
縁で小さくにぎったおにぎりを焼
いて焼き肉のタレを付けて食べる
のもツキサップ風=B
 日ごろ、魚を焼く煙やにおいに
すら気をつかつている都会暮らし
の人たちには、この夏休み中に一
度、近くの川でも山でも出掛けで
周囲を気にせず野蛮人≠ノなっ
て食べたらいかがだろうか。
(昭和53年8月19日付朝日新聞朝刊15面=聞蔵U、)

 レシピではないけど、いまの皇太子殿下にジンギスカンを召し上がって頂いた話が上富良野町郷土をさぐる会が発行した「郷土をさぐる」10号に載っています。加藤清さんが書いた「ジンギスカン料理の普及」がそれで、昭和54年8月、大雪登山にお出でになったとき、旭岳の頂上で予定にはないジンギスカンのご賞味願ったところ「折角のご好意だから一口だけ頂くことにしよう」と召し上がられた。(41)詳しく知りたい人は郷土を探る会のホームページを読みなさい。
 道新もこの山頂ジンギスカンについて「浩宮さま/大雪縦走/雄大さにご満足/途中でジンギスカン賞味」という見出しで「<略>朝日岳から下って間宮岳に登った殿下は、羊肉のいいにおいにびっくりされた表情。東川町の職員が三人ががりで羊肉五`やなべなど約四十五`の材料を運び上げて殿下の夕食用にと用意したもので、殿下は「野外で食べたことは一度あるが、二千bもの高いところで食べたのは初めて、とてもおいしかった」と、びっくりされた。<略>(42)」と伝えました。
 さて、昭和54年は「全国ふるさとの味」、55年は「暮しの手帖」からです。資料その30(1)のジン鍋はBβ型ですね。「その土地の人々に愛され。、今後も親しまれてゆくであろうと思われるふるさとの料理」を選んだとあるから、Bβ型が今後も残ると料理研究家土井勝が認めたんだが、その見方が正しかったのかどうか。タレの検証で明らかになるでしょう。
 北海道では土井が函館朝市で取材し、8時に食堂に入りイカ刺しを注文した。「皿の上の山盛りのいかの糸造づくりは箸を滑った。白いもちもちした裸身は口の中いっぱいに潮の香を運んでくれた。(43)」(文・斉藤陸郎/写真・小川勝久)とあるが、私の記憶でも昭和40年代の函館ではイカソウメンという料理はなかったね。
 同(2)の「牧場のおひる」の肉を漬け汁に入れ手で揉むというのは初めてですね。野菜は肉のわきで焼き塩か醤油で味を付けるとあるので分類としてはBαSとします。
 私は月寒のある方のお宅でのジンパでコンニャクを出されたことがありますが、最初なんだかわかりませんでしたね。

資料その30

(1)

ジンギスカン鍋

野外で羊肉を焼きながら食べる蒙古料理にヒ
ントを得たもので、モンゴル大草原と広大な
北海道の風土のイメージが結びつき、今では
代表的な郷土料理になっています。
[材料・4人分]羊肉400〜600g  玉ねぎ2個
なす2個  かぼちゃ150g  グリンアスパラガ
ス4本  じゃが芋2個  ピーマン2個  とう
もろこし1本  もやし200g たれ=しょうゆ
大さじ3・酒、酢各大さじ2・砂糖小さじ1
・塩少々・にんにく1かけ・土生姜20g・り
んご、なし各1/2個・白ごま大さじ1・七味唐
辛子少々
[作りかた]@羊肉は薄切りを用意し、8〜
10cm長さに切る。
A玉ねぎは半月切り、なすとアスパラは斜め
切り、かぼちゃとピーマンはくし形切り、じ
ゃが芋は薄切り、とうもろこしはゆでて4等
分に切り、もやしはきれいに洗う。
Bたれはしょうゆ、酒、酢、砂糖、塩をよく
混ぜ、にんにく、土生姜、りんご、なしをす
りおろして加え、切りごまと七味唐辛子を入
れてよく混ぜる。
C鍋を火にかけ、羊肉の脂をひき、材料を焼
きながらたれをつけて食べる。
[メモ]羊肉はたれにつけておいてから焼い
てもよい。
(土井勝監修「全国ふるさとの味」43ページ、昭和54年10月、講談社=原本、)


(2)

・牧場のおひる

<略> 裏山の林のみどりと、やわらかな
牧草のみどりと、濃淡二色のグリー
ンに包まれた、北海道の日高海岸に
ある牧場です。
 「さあ、おひるにしましょう、早
くいらっしゃい」
 と柵のむこうで、お家の方が手招
きしていらっしゃいます。庭先の木
かげにジンギスカンの用意ができて
います。
 「陽が高くて暑いときですから火
は焚かないで」と、ホットプレート
でお肉を焼きあげます。
 すすめられて口に運びますと、マ
トンの厚切りの肉が意外にやわらか
く、甘ずっぱい複雑な味が口の中に
ひろがります。おしょう油昧ですが
なにか西洋ふうの味もして、羊の肉
とは思えないおいしさです。
 「コンニャクもどうぞ」
 薄く切ったコンニャクにもタレの
味がよくあって、あの舌ざわりが、
お肉のあいの手にはまた格別です。
ジージーッと焼いて、つぎからつぎ
にいただいてしまいました。
 ジンギスカンのあとは、近くの海
岸でとれたばかりの、オレンジ色の
生ウニと、今朝早くもいで漬けられ
た、るり色の茄子でご飯をいただい
て、ほんとうにすばらしいご馳走で
した。
 あまりお肉とタレの味がおいしく
てうかがってみました。
 「特別のことはありませんけれど
うちでは、羊肉にタレをまぜてから
手でもみます。肉をつかむようにし
てタレをもみこみ、よくもんでから
焼きます。
 そうしますと、タレにつけてから
すぐに焼けますし、タレにいれた玉
ねぎの作用で、肉がやわらかくなる
のです」
 おいしいはずです。
 「ラムでもマトンでも、あまり薄
く切ったのは焼肉にむかないので、
5ミリか、せめて3ミリぐらいの厚
さに切ったのを、二、三人分として
五百グラム用意しますの。
 タレは、玉ねぎ半コを三分の二す
りおろして、あとの三分の一はミジ
ン切りにします。
 デリシャスのような甘みのあるリ
ンゴを一コ。ニンニクふたつ、根し
ょうが一つをすりおろします。そこ
へおしょう油カップ半杯と、日本酒
かぶどう酒力ップ四分の一杯を入れ
て、唐辛子粉をふりこみます。
 ボールに肉をとり、タレをかけた
らよくもんで味をつけます。
 つけ合せのコンニャクは、たたい
てから薄いタンザクに切って、おな
べで空いりしてから、肉のタレをか
けて、やはりもんでおきます。
 野菜はニラ、もやし、ピーマン、
生椎茸、それにゆでたトウモロコシ
やじゃがいもですが、野菜はタレに
つけません、肉のよこで焼いて、塩
かおしょう油をつけます」
 北海道旅行での、一番いいおみや
げをいただいて、よろこんで帰りま
した。
 このあいだ牛肉の赤身のところを
同じようにしてみましたが、すばら
しいおいしさでした。
(暮しの手帖社編「暮しの手帖」69号144ページ、「すてきなあなたに」より、昭和55年8月、暮しの手帖社=原本、)

 昭和56年は2件、57年は1件ありました。「伝えてゆきたい家庭の郷土料理」は「はじめに」に「全国友の会創立五十周年記念の一つとして」とあるので検索したら、ホームページに「全国友の会は1930年 羽仁もと子 の思想に賛同した女性たちによって生まれた団体です。」とありました。それだけに「各地の会員の長い経験をもとに、さらに実験を重ね。検討を加え」たBβのレシピです。「晴れ渡った大空の下、草原のむしろの上で」、わかるなあ、実感がこもってます。
 もう1件は朝日新聞に見付けた作家の佐々木譲が書いたらしいレシピです。ウィキペティアに佐々木は1950年生まれとあり、昭和56年は19881年だから年齢の31は計算が合います。職歴にも広告関係があるから、本人に違いない。資料その34は紙面通りの組み方ではありません。ジャムはケチャップと同じ扱いにしてAβですね。
 同(3)は20年余り信州の郷土料理を調べた高野悦子信州大名誉教授が書いた本の信州ジンギスカンでAαLですね。何人分と書いていません。

資料その31

(1)
   ジンギスカン鍋

酪農の盛んな北海道では、乳牛とともに
群れる羊の姿も見のがせません。
この羊肉を使ったジンギスカン鍋は、昭
和の初め頃から北海道の郷土料理になっ
たようです。
羊肉のうす切りと一しょに、いろいろな
野菜を沢山盛りあわせ、丸くこんもり盛
り上った特殊な鍋でジュージューと焼き
好みの風味をつけた、たれをつけながら
いただくのです。
晴れ渡った大空の下、草原のむしろの上
で、この焼肉をいただく楽しみは格別の
もので、若い人たちに好まれる料理です。
中華鍋、すきやき鍋、鉄板やき、などで
も出来ます。
羊の肉には臭みがあると
いって、嫌うかたがありま
すが、これは脂の部分に臭
みがあるためで、焼いた肉
が、その脂を吸収しなけれ
ば、さほど感じません。
その点このジンギスカン鍋
はよく出来ていて、上部が円く傾斜しているの
で、焼いて流れ出る脂は下の溝にたまってゆき
ます。そのために肉の臭みは殆ど感じません。
玉葱や、ピーマンなどの香りの強い野菜類は、
下にたまったこの脂で焼くとおいしくなるとい
うわけです。
 羊肉と野菜を焼きながら、たれをつけて食べ
ます。
 煙が出るので、室内でいただくよりも、野外
で野趣いっぱいの気分で、たのしく味わいたい
料理です。


ジンギスカン鍋   5人分

羊肉…………………800g〜1kg
ピーマン(種をとって八つ割)…3個
玉葱…………………………………2個
 (7〜8mmの輪切り)
じゃが芋……………………………3個
 (5mmの輪切り固如で)
茄子…………………………………2個
 (7〜8mmの輸切りかたて切り)
ほうれん草……………………200g
 (生のまま3〜4cmに切る)
もやし…………………………1〜2袋
材料はこの他キャベツ,ししとう,
などもよく,分量も自由に好きなも
のをおえらびくだきい。

たれ
醤油………………………カップ3/4杯
酒…………………………カップ1/4杯
夏みかん汁………………カップ1/4杯
砂糖大匙………………………………2杯
胡椒……………………………………少々

┌りんご(紅玉)…………………小1個
│玉葱(おろしておく)……………1個
│にんにく…………………………大1片
└生姜………………………………10g

以上の材料をすりおろして,調味料
とまぜあわせます。一日おいた方が
味がまろやかになります。
作っておき冷蔵庫に入れておけば二
週間ぐらいはもちます。
(全国友の会編「伝えてゆきたい家庭の郷土料理」第1集48ページ、昭和56年6月、婦人之友社=原本、)


(2)

ジンギスカン鍋(北海道)
     港区・佐々木譲(31)コピーライター

 札幌にいたころ、野外料理といえばジンギスカン鍋(なべ)と決まっていた。キャンプやピクニックで作るのもこの鍋。青空の下でビールなどをあおりながら、北国の味覚を楽しむのは格別です。マトン特有のにおいも脂も、雄大な自然の中では全く気になりません。むしろあの煙さえも野趣として楽しめました。
 〈材料〉スライスしたラム、
キャベツ、ピーマン、ネギ、シ
イタケなど、人数に応じて適当
に用意。次にタレ用として、ダ
イコン少々、玉ネギ1/4、リンゴ
1/2と、酒またはワイン、みり
ん、ハチミツ、ジャム、ニンニ
ク、砂糖、化学調味料を。
 〈作り方〉ダイコン、玉ネ
ギ、リンゴをおろし、しょうゆ
1/3カップと酒、みりんを少量入
れてよく混ぜます、この中に砂
糖、ハチミツ、ジャムを加えて
とき、さらにおろしニンニクを
好みでプラスするとタレが出来
ます。あとは鉄鍋で焼
いた材料をタレにつけ
て食べます。が、タレ
は少し甘みの強い方が
おいしくいただけます。
 ジンギスカン鍋はいたって簡
単な料理です。こつも上手、下
手もありません。それに何より
も失敗のないことが野外料理と
して人気を集めた理由でしょ
う。札幌では、よく友人たちと
自慢の特製タレを持ち寄って鍋
を囲んだものです。こちらに移
ってからも、当時を思い出して
ときどきこのスタミナ料理を友
人たちと楽しんでいます。
(昭和56年7月2日付朝日新聞夕刊9面=聞蔵U、)


(3)

ジンギスカン

 羊の肉料理としてよく知られています
が、上水内郡信州新田の名物料理として
も有名です。この町には戦前から羊がた
くさん飼育されていて、年に一度は羊市
を開くことで全国的に知られています。
戦後は羊の毛だけでなくて、肉に目をつ
けた当時の町長さんが、二十六年に"新
町なべ"と名付けてジンギスカンなべを
始めたのが新町名物になった由来です。
家庭料理用のおいしい垂れの作り方だけ
紹介しましよう。

マトン           一`c
しょうゆ      カップ3/4杯
砂糖          大さじ四杯
ニンニク          一五c
ミカン           五〇c
玉ネギ、大根、リンゴ
            各一〇〇c
こしよう      小さじ1/2杯
カレー粉      小さじ1/2杯
七味とうがらし        少量

@マトンは繊維に直角に薄く切る。
A野莱、果物、ニンニク、ショウガはす
べてすりおろして調味料とよく合わせ
る。
Bマトンをこの垂れの中に二時間ほど漬
けて置いて焼く。
(高野悦子著「信州の郷土料理」65ページ、昭和57年11月、信濃毎日新聞社=原本、)

 次は2年飛んで59年に出たさっぽろ文庫の「札幌食物誌」からです。「羊肉を鉄かぶとで焼いて食べたという伝説にその名が由来する(44)」とあるが、こりゃ長慶天皇に兜で焼いて差し上げたという南部煎餅の始まりという伝説そっくり。北京にいた日本人たちがね、ふざけて付けた名前がそういう俗説を生み出したのであって、いずれ340年前の「羊煮て兵を労ふ霜夜かな」という俳句を取り上げて、その辺を考察しますよ。はっはっは。
 この本の執筆者17人に北星学園短大教授の山本順子、札幌国際ホテル顧問の山本正夫、月刊北海道「旅と味」編集人の山本洋子と3人山本がいるので、だれが書いたかわからんが、タレだけのレシピだからいいか。野菜はわからないからAβに分けます。

資料その32

和風 羊肉料理
ジンギスカン鍋

 鍋物といえば、ジンギスカン鍋を落とすわけにはいかない。これは
鍋と名がついているが、どちらかといえば、焼肉料理に属する。鍋も
鉄製の逆さ鍋型の網焼き器であることはご存知のとおり。その普、蒙
古の英雄、成吉思汗が野戦料理に羊肉を鉄かぶとで焼いて食べたとい
う伝説にその名が由来するが、中国では「焼羊肉(カオヤンロー)」として料理のメニ
ューにのっているのが本家である。従って和食でなく中華料理の部に
入れるべきかもしれない。ジンギスカン鍋は今では完全に北海道名物
になってしまったが、広く一般に食されるようになったのは戦後のこ
とで、意外と歴史は浅い。その爆発的普及の理由は、食生活の変化志
向と廉価な輸入羊肉が第一にあげられる。もともと綿羊の飼育が盛ん
だった北海道では、本来的な意味での郷土料理としては後れをとった
わけである。羊肉独特のくさみを消すため、タレ(ソース)はどの店
でもいろいろ苦心し、味もそれぞれ自慢を競うのだが、ほかの料理の
つけタレと同じく、人の好き好きである。私には、酒、味醂、酢、
醤油、ウースターソース、アップルワイン、玉葱、長葱、セロリ、リ
ンゴ、ニンニク、ショウガ、一味(唐辛子)を合わせて作ったものが
一番口にあう。肉は食べるだけを鍋にのせ、色が変わったところで食
べるのが一番である。                 (山本)
(札幌市教育委員会文化資料室編「札幌食物誌」144ページ、昭和59年12月、北海道新聞社=原本、)

 昭和60年代は、何処に入れようかと迷った野村万千代の解説も入れて6件とし、資料その33にまとめました。同(1)の「北海道の鍋料理」ですが「この本の材料は4人前の標準的な量です。」とあり、1カップは200t、大さじ1は15t、小さじは5t、いずれもすりきり(45)と定義しています。総括で触れますが、私もタレの計量はこの分量を使いました。
 同(2)は愛知女子短大教授の三浦正人が昭和60年4月から中日新聞に663回連載した「ふるさとの味365」からで、ジンギスカン鍋は95回目でした。メールで何人分かと出版社に尋ねたら担当者が退職してわからないということでした。「普通は市販のタレを使うことが多いようです」とはっきり書いてくれた人は三浦が初めてですよね。そうなると自家製タレで食べるのは少数派ということなるが、それが糧友会型なのか疑問なしとはしませんが、まあいでしょう。
 同(3)は「本や雑誌にジンギスカン料理はこう書かれた」に入れるにしては物足りない。蝦油の代わりにアミの塩辛をというところを評価して、ここにしました。野村は青山学院大女子短大家政科の教授でした。
 同(4)は皿に盛った焼いた肉にキュウリの薄切りを添えた写真が付いています。分類は(1)と(2)はBβ、(3)は肉だけ焼くとみてAαS、(4)は肉だけの実質Aなんだが、葱と香菜が少し入るのでBαSですね。
 (4)は志の島忠の大型本からです。志の島は解説の中で「郷土料理のむづかしさ」として「郷土料理をひとことで土地を背景として生まれ育った鍋≠ニするなら、葱鮪鍋、鮟鱇鍋、泥鰌鍋、蛤鍋、軍鶏鍋、湯豆腐ちりなべなどは、すべて江戸鍋であり、東京の郷土鍋です。(46)」と「郷土の限定の難しさ」を指摘しています。
 そして五目鍋としゃぶしゃぶの郷土は中国だが「成吉思汗鍋は日本人の全くの創作鍋です。大正の頃、旧満州に派遣されていた新聞記者たちが有りものの道具と材料で作ったもので、のちに北海道のラム(小羊肉)で再現したというのが経緯で、つけ汁は韓国の焼肉のたれそのものです。(47)」と書いています。
 私の講義を聞いてきた皆さんは、志の島のこの創作鍋説は違うと、すぐわかるはずだ。この創作鍋説こそ、志の島の全くの立派な創作説だよ。「鍋それぞれに、異なった成り立ちを見出すことができるのですから、逆に、郷土鍋という名は冠せるに難しく、着せるにやさしいものといわなければなりません。(48)」と志の島自身、さっそく異なった成り立ちを見出してみせてくれたわけですなあ。はっはっは。
 それはさておき、珍しいことだが、道具それぞれに振り仮名付きで名前を書いている。ルビでは読みにくいから後ろに付けました。あっ、分類としてはDβだね。
南部鉄成吉思汗鍋(なんぶてつジンギスカンなべ)
水爐(みずろ)
菊文長柄散蓮華(きくもんながえちりれんげ)
色絵更紗文抹茶々碗(いろえさらさもんまっちゃちゃわん)
青磁菊形小鉢(せいじきくがたこばち)
朱塗分両細取箸(しゅぬりわけりょうぼそとりばし)
玉子手尺皿(たまごてしゃくざら)

資料その33

(1)
   ジンギスカン鍋

 □作り方
@タマネギは皮をむいて厚さ5cmの輪切り
 にします。
Aジャガイモは皮をむき、厚さ5cmの薄切
 りにし、10分ほど水につけてアク抜きし
 てから、ざるに上げ水切りします。
Bナスはヘタをとって縦に薄く切り、10分
 ほど酢水(水一gに酢大さじ一の割合)に
 つけてから、ふきんで水気をふいておき
 ます。
Cピーマンは縦4等分に切り、種をとり、
 ニンジンは皮をむいて薄切りにします。
Dキャベツは1枚ずつ洗って大きめのざく
 切り、カボチャは適当な大きさに切って
 から薄切りにします。
Eモヤシは洗ってザルに上げ、水切りして
 おきます。
Fトウキビは塩少々(163ぺージ参照)入れ
 た熱湯でゆで、長さ3cmに切り、生シイ
 タケは石づきを除いて、十文字の飾り切
 りを入れます。
Bタマネギ、ニンジン、ニンニク、生ショ
 ウガ、皮と芯を除いたリンゴをそれぞれ
 すりおろして、たれの分量の調味料を加
 えて、こして、たれを作ります。
H鍋を充分熱くして油(ラム脂身)を敷き、
 準備した野菜と肉を焼き、たれをつけな
 がらいただきます。
ポイント
○たれにリンゴのすりおろしたものを加え
 ると甘味が出ておいしく出來上がりま
 す。
○肉は焼きすぎると固くなりますのでふん
 わり焼いていただくのが最高です。
応用
○好みによって肉に塩、コショウして焼い
 てもよいでしょう。
○野菜はほかに、タケノコ、長ネギ、ハク
 サイ、アスパラ、また、シラタキなどを
 焼いてもよいでしょう。
○羊肉はラムの方が柔らかく、くせもなく
 て食べやすいので好まれていますが、マ
 トンを使っても独特の風味を楽しめま
 す。

 □材料
ラム薄切り肉……500g
ラム脂身……………30g
タマネギ……………2個
ジャガイモ…………2個
 {ナス……………2個
 {酢水……………適量
ピーマン……………2個
ニンジン……………小1/2本
キャベツ…………200g
力ボチャ…………150g
モヤシ……………100g
 {トウキビ………1本
 {塩………………少々
生シイタケ…………8枚

たれ………………しょうゆ大さじ1、
 みりん大さじ1、酒・酢各大さ
 じ3、砂糖小さじ2、ハチミツ
 大さじ1、タマネギ小1/2個、ニ
 ンジン40g、ニンニク1かけ、
 生ショウガ20g、リンゴ1個
 □薬味
白ゴマ・七味唐ガラシ・刻みゴマ
(岩城道子、藤倉孝幸著「北海道の鍋料理」134ページ、昭和62年12月、北海タイムス社=原本、)


(2)
ジンギスカンなべ   (北海道)

野外になべを持ち出し、ジュージューと音をたてさせながら食べる「ジンギスカンなべ」は、モンゴルの大草原と、北海道の自然が結びついた郷土の味です。生ビールとよく合います。
 「ジンギスカンなべ」が家庭にまで広がったのは戦後のこと。肉をじかに焼き、タレを つけて食べる方法と、肉に味つけしてから焼くものと二通りがあります。
 普通は市販のタレを使うことが多いようですが、手作りならしょうゆ一カップ、酒半カップ、酢大さじ四、砂糖、ケチャップとみりん各大さじ一から二にネギ、ショウガ、ニンニク、赤トウガラシ少しずつとリンゴ半個分をジューサーかミキサーにかけて作ります。
 大きな皿に、うす切りの肉と野菜を盛り合わせます。
 剣道のお面のようなジンギスカンなべに油をぬり、材料を焼きながらタレをつけて食 べます。
 羊の肉特有のにおいを消すにはタレに酸味を加えることと、焼きたての熱いところを 食べることがポイントです。

ラム又はマトン六
百から八百c、
玉ねぎ、ピーマン、
モヤシ、ナス、ジャ
ガイモ、トウモロ
コシなど、タレ
(三浦正人著「ふるさとの味365 こんなにヘルシーにおいしい料理が楽しめる」106ページ、昭和63年5月、朝日出版社=原本、)


(3)

 カオヤンロウ[烤羊肉」  ジンギスカン料
理ともいう。羊肉を薄く大きく切り、漬け汁
(おろしにんにく・しょうが、酒、しょうゆ
蝦油などを混ぜたもの)に約二〇分間漬けて
おく。これを金網にのせて、軽く両面を焼きな
がら熱いところを、好みの薬味を用いて食べ
る。この料理は、蒙古の覇者ジンギス・力ン
が、雪原の戦に軍勢を鼓舞するために、野外舛
羊肉を焙り焼きにして食べさせたという伝説に
ちなんで、日本でジンギスカン料理とよぱれて
いる。近年はこの料理のために特殊な鉄板や鍋
が市販されており、家庭の庭先などで容易に食
べられるようになった。材料も羊肉に限らず牛
肉、イカ、生シイタケ、ピーマンなど、他の肉
類や季節の野菜を適宜に取り入れている。薬味
類も好みで添加し、近代的な趣向も加えられて
いる。蝦油を用いると羊肉の臭みが消される。
かわりにアミの塩辛を少々用いてもよい。これ
は野外料理であって、屋内の卓料理ではない。
本来は羊肉であるが、牛肉の場合も同じ取扱い
でよい。豚肉は寄生虫の懸念があるのでこの料
理には不適当であるが、使用するときは十分加
熱しなければならない。〈野村万千代〉
(相賀徹夫編「日本大百科全書」4巻789ページ、昭和60年6月、小学館=原本、)

(4)
   北京

羊肉のバーベキュー
Roast Lamb

  烤羊肉
  kao yang rou

 羊肉を常食とする回教徒の料理で
ある。

〈材料〉8人分
羊肉…………………………300g
ネギ………………………………少量
香菜………………………………少量
羊肉の下味調味料
 ショウガ汁………………大さじ2
 老酒………………………大さじ2
 醤油………………………大さじ3
 砂糖………………………大さじ1
 水…………………………大さじ2
 化学調味料……………………少量
 ニンニク………………………1片
ゴマ油……………………………少量

〈作り方〉
@羊肉に下味をつける。
A鍋に油を熟し、@を焼き、ネギを
加えてゴマ油をふり入れ、香菜を散
らして仕上げる。
〈調理のポイント〉
 羊肉特有の臭みを出さないよう調
理は強火で手早く行う。
            (小原宗男)
(原田治企画監修「中国料理百科事典」5巻213ページ、昭和63年7月、同明出版=原本、注=編集委員は周富徳ら20人)


(5)
    成吉思汗(ジンギスカン)鍋   ●作り方三六九頁
      

英雄とは関りなく、満州在留の日本人
考案の鍋です。中国の烤羊肉(カオヤンロウ)と似て羊
肉を焼くため、戦後、北海道名物となり
ました。地元産の野菜類も名脇役です。<写真の左上の記事>

成吉思汗(ジンギスカン)
               ●四八頁参照
■材料〈四人分〉
 仔羊肉(ラム)………………………600g
 玉ねぎ……………1個  茄子…………6個
 菊座の日本南瓜………………………1/4個
 人参………………適宜  椎茸…………8枚
 大豆もやし…100g  ピーマン……6個
 牛脂………………適宜
*つけだれ(醤油、味醂、酒=各11/3カッ
 プ リンゴのすりおろし1/2カップ
 生姜、ニンニク=各2片 玉ねぎ、
 ねぎ=各少々 ウスターソース大匙
 2 赤唐辛子4本)
 大根おろし…適宜
■作り方
【下ごしらえ】
@仔羊肉は半身をロール状に巻いた塊を
 求め、薄切りにします。
A玉ねぎは5〜6o厚さの半月切りに、
 茄子はへたの部分を落とし、縦三つに
 切っておきます。
B南瓜は適当な大きさに切って種とわた
を取り、皮をところどころはつり(・・・)むき
にしたのち薄い櫛形に切ります。
C人参は縦に薄い短冊に切り、椎茸は石
づきを取り、笠の汚れを拭きます。
D大豆もやしは豆とひげ根を取り、さっ
と湯がいて水気を拭いておき、ピーマ
ンは縦半分に切り、種とわたを取り除
いておきます。
Eたれを作ります。生姜とニンニクはす
りおろし、玉ねぎとねぎはみじん切り
に、赤唐辛子は種を取って小口切りに
したのち、リンゴのすりおろしもとも
に、そのほかすべての調味料を合わせ
て鍋に入れ、ひと煮立ちさせて布漉し
しておきます。
F薬味用の大根おろしを用意します。
【盛りつけと供し方】
 盛り皿の奥から手前に、茄子、玉ねぎ、
ピーマン、南瓜、人参、大豆もやし、椎茸を
形よく盛り込み、仔羊の肉を一枚ずつ広
げ、少しずつずらして重ね盛りにします。
成吉思汗用の鍋を焜炉にかけ、充分に熱
くなったら牛脂をこすって全面に脂をな
じませ、まず羊肉から焼き、続いて野菜
をのせて焼き、焼きたてをたれにつけて
賞味していただきます。お好みで大根お
ろしをおすすめします。
■調理覚え書
●羊肉は仔羊肉(ラム)と成羊肉(マトン)
の二種があります。ラムは肉質が柔らか
く、風味もあって万人向きとされ、マト
ンは羊肉らしい旨みがあり、特有の匂い
も強いのが特徴です。
●兜形の成吉思汗鍋は火廻りがよく、余
分な脂を下の溝に落とす仕掛けで、肉類
をさっぱりと焼き上げます。
●茄子や南瓜は、この焼き鍋の場合は水
にさらしません。できる限り水気を避け
ることが、おいしく焼き上げるコツです。
●成吉思汗鍋は、満州に出征した日本人
が考案、命名したものといわれています。
中国にはこれに似た"烤羊肉(カオヤンロー)"という料理
があり、羊肉や野菜をあらかじめたれに
浸け込んでおき、炭火の上にのせた鉄板
や網で焼くもので、成吉思汗鍋のヒント
になったものと思われます。成吉思汗鍋
は、鉄兜を鍋の代用にして肉を焼いたの
がはじまりとされ、戦後に今の形の専用
鍋が普及するまでは、中華鍋を伏せて穴
をあけたものを使ったりしていました。
焼いた羊肉を、リンゴや玉ねぎなどのす
りおろしを加えた複雑な味のたれで食べ
るところなど、日本人らしい発想です。
今では羊肉の多い北海道の名物料理とな
っていますが、当地ではじゃが薯、とう
もろこし、玉ねぎなど地の野菜がとりど
りに取り合わせられるのも特徴です。
(志の島忠著「鍋の料理と前肴」369ページ、昭和63年11月、旭屋出版=原本、)

 とても平成30年まで行けそうないので、本日は昭和だけでお終いにします。次回は平成のレシピと全体の総括をやりますが、エクセルの操作練習で作ってみたグラフがあるから、残るレシピの分量のスライドを見せましょう。件数は昭和の半分なさそうだとすぐわかりますね。ノコギリの歯みたいだが、これだけでもデータ入力に結構な時間を費やしたよ。以上で終わります。




  

参考文献
上記(37)の出典は昭和52年3月8日付毎日新聞朝刊15面=毎日新聞社編「毎日新聞刷版」327号223ページ、昭和52年4月、毎日新聞社=原本、 (38)は田村魚菜・千鶴子著「魚菜『料理大事典』」351ページ、昭和52年7月、学校法人魚菜学園出版局、同、 (39)は多田鉄之助著「うまいもの」106ページ、昭和29年3月、現代思潮社、同、 (40)は昭和53年8月12日付読売新聞朝刊13面=マイクロフィルム、 (41)は上富良野町郷土を探る会編「郷土を探る」92ページ、平成4年2月、上富良野町郷土を探る会= https://www.town.kami
furano.hokkaido.jp/hp/ saguru/1013katou.htm (42)は昭和54年8月8日付け北海道新聞朝刊18面、「北海道新聞縮刷版 1979年8月 No.149」242ページ=原本、 (43)は土井勝監修「全国ふるさとの味」43ページ、昭和54年10月、講談社、同、 (44)は札幌市教育委員会文化資料室編「札幌食物誌」144ページ、昭和59年12月、北海道新聞社、同、 (45)は岩城道子、藤倉孝幸著「北海道の鍋料理」8ページ、昭和62年12月、北海タイムス社、同、 (46)は志の島忠著「鍋の料理と前肴」16ページ、昭和63年11月、旭屋出版=原本、 (47)と(48)は同17ページ、同

 
(文献によるジンギスカン関係の史実考証という研究の性質上、著作権侵害にならないよう引用などの明示を心掛けて全ページを制作しておりますが、お気づきの点がありましたら jinpagaku@gmail.com 尽波満洲男へご一報下さるようお願いします)