債権法改正 要綱仮案 情報整理

第38 寄託

3 寄託物についての第三者の権利主張(民法第660条関係)
(2) 寄託物についての第三者による権利主張

 寄託物についての第三者による権利主張について、次のような規律を設けるものとする。
ア 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が(1)の通知をした場合又は(1)ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべきことを命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
イ 受寄者は、アの規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。

中間試案

4 寄託物についての第三者の権利主張(民法第660条関係)
  民法第660条の規律を次のように改めるものとする。
 (2) 受寄者は,寄託物について権利を主張する第三者に対して,寄託者が主張することのできる権利を援用することができるものとする。
 (3) 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても,受寄者は,寄託者の指図がない限り,寄託者に対し寄託物を返還しなければならないものとする。ただし,受寄者が上記(1)の通知をし,又はその通知を要しない場合において,その第三者が受寄者に対して寄託物の引渡しを強制することができるときは,その第三者に寄託物を引き渡すことによって,寄託物を寄託者に返還することができないことについての責任を負わないものとする。
 (4) 受寄者は,上記(3)により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には,寄託物について権利を主張する第三者に対し,寄託物の引渡しを拒絶したことによる責任を負わないものとする。

(注)上記(3)及び(4)については,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

(概要)

 本文(2)は,第三者が受寄者に対して寄託物の引渡請求等の権利の主張をする場合において,その引渡しを拒絶し得る抗弁権(同時履行の抗弁権,留置権等)を寄託者が有するときは,受寄者において当該抗弁権を主張することを認めるものである。これを認めなければ,寄託者が直接占有する場合と寄託によって間接占有する場合とで結論が異なることになり,寄託者が不利益を被ることを理由とするものである。
 本文(3)は,寄託物について第三者が権利主張する場合であっても,受寄者はその第三者に寄託物を引き渡してはならず,寄託物を寄託者に対して返還しなければならないという原則とともに,寄託物について権利を主張する第三者の存在を民法第660条に従い通知した場合において,その第三者が確定判決を得たときや,それに基づく強制執行をするときのように,受寄者に対して寄託物の引渡しを強制することができるときに,その例外として,寄託者以外の第三者に寄託物を引き渡すことができ,これによって寄託者に対して返還義務の不履行の責任を負わない場合があることを定めるものである。従来,規律が不明確であるとされてきた点について,規律の明確化を図るものである。
 本文(4)は,本文(3)により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には,受寄者はその第三者に対して引渡しを拒絶することができ,その拒絶によって第三者に対する責任を負わないとすることを提案している。本文(3)の場合に,権利を主張してきた第三者が真の権利者であったときは,受寄者は第三者に対して損害賠償責任を負い,これを寄託者に対して求償することによって処理することになり得るが,寄託者と第三者との間の寄託物をめぐる紛争に受寄者が巻き込まれないようにするのが妥当であるから,受寄者が返還を拒んだことにより第三者に生じた損害については,第三者が寄託者に対して直接請求することによって解決することを意図するものである。
 以上に対して,民法第660条の通知義務違反によって寄託者に対する寄託物の返還義務が常に免責されないことになるという結論の合理性を疑問視する立場から,本文(3)及び(4)の規定を設けない考え方があり,これを(注)で取り上げている。

赫メモ

 要綱仮案(2)アの規律の趣旨は、中間試案(3)に関する中間試案概要のとおりである。ただし、第三者が強制執行をするときについては、寄託者に対する寄託物の返還債務が履行不能となり、これについて受寄者に帰責事由がないことは明らかであってあえて規定する必要はないと考えられたことから、要綱仮案では規定を設けなかった(部会資料73A、17頁)。
 要綱仮案(2)イの規律の趣旨は、中間試案(4)に関する中間試案概要のとおりである。
 中間試案(2)の規律については、部会の審議において、受寄者に抗弁を援用する義務を課すことにつながるのではないかという懸念が示されたこと等から、当該規律を設けることが見送られた。
 

現行法


斉藤芳朗弁護士判例早分かり

 (A=受寄者,B=寄託者)
【受寄者の責めに帰すべき事由によって寄託物返還義務が履行不能になった場合,寄託者が寄託物の所有権を有しなかったとしても,原則として,寄託物の価額賠償責任を負担する,という一般論を述べた判例】最高裁昭和42年11月17日・判時509号63頁
 事案ははっきりしないが,CがBの所に自動車αを持ち込み,Bがこの自動車を担保に融資して,BがAにαを寄託していたところ,αが盗難車であることが分かり,Aが真の所有者にαを返還した,というもののようである。
 受寄者の寄託者に対する寄託物返還義務が受寄者の責に帰すべき事由によって履行不能となった場合には,受寄者は,寄託者が寄託物の所有権を有すると否とを問わず寄託物の価格相当する金額を寄託者に対し賠償すべき。しかし,寄託者が寄託物の所有者でなく,寄託物はその真の所有者の手中に帰ったなどの原判決確定の事実関係においては,受寄者の責に帰すべき事由により寄託者に対する寄託物返還義務が履行不能になったとしても,寄託者は,寄託物の価格相当の損害を蒙ったものということはできないから,寄託者は,受寄者に対しαの返還に代るてん補賠償をなす権利を有しない。