2001年奄美の旅2(2001.12.22 - 12.24)



12月23日(日)曇り時々晴れところによってにわか雨

朝、宿の無料サービスコーナーに用意されたパンとコーヒーで朝食。チェックアウトまではまだ時間があるので、朝の散歩にでかけました。
港のすぐそばには漁協のセリ場があって、休日の今日は「朝市」なるものが開かれています。のぞいてみると、いくつかのお店が出ていて、場内のスピーカーからは奄美民謡が流れていました。
お客さんには地元の人も、わたしのような観光客もいて、お店では大島紬を使った小物や、果物やお菓子、野菜や植木など、いろいろなものが売られていました。大島紬を使った小物は土産物屋よりだんぜん安い。さっそくお買い物。ラッキー。

石敢當

奄美にもあった石敢當。


朝市の風景


宿に戻って荷物をまとめ、宿代を払って、すぐそばのバスターミナルまで歩きました。本日の最初の目的地は「大島紬村」。バスで昨日来た58号線を再び戻っていきます。

「大島紬村」に着く頃には、なんとかもっていた空模様が崩れ、雨がざーざー降ってきました。実は今回、せっかくだからほんまもんの大島紬を着てみよう、と「試着体験コース」を申し込んでおいたのですが、参ったなぁ、この雨。
受付に荷物をあずかってもらって、案内のおねえさんに連れられて、まず、紬の作業工程を見学します。大島紬独特のあの渋い色合いのベースとなるのが、「テーチ木(車輪梅)」と「泥」。テーチ木の皮を煮出した汁と泥に繰り返し繰り返し何回も漬けることによって、糸は黒っぽく染まり、独特の風合いが出てくるのだとか。

泥染め 雨の中、わたしひとりのために泥染め実演中。
ご苦労さまでした。

大島紬の模様は、まずベースの色で染めない部分を糸でくくる……のではなく、その部分をあらかじめむしろのように織ってしまいます。そして染めあがったら部分的に糸をほどき、その部分に入れたい色をひとつひとつ手でさしていきます(田中一村は生活費を稼ぐため、この仕事をしていたらしい)。この作業を縦糸と横糸の両方についておこない、いざ布を織るときは、縦糸と横糸のそれぞれ一点が布の模様の1ドットになるわけで、それが十文字にピタリと合わなければなりません。だから、模様の解像度が高くなるほど(ドットが細かくなるほど)、模様の繰り返しパターンが少ないほど手間もかかるわけで、そりゃあ一反ン十万もするでしょうよ、と納得せずにはいられません。

そのかわり、できあがった布は軽くて暖かく、なおかつ裏の模様も表と同様に鮮明なので、場合によっては、長年着ていてなんとなく表面がくたびれてきたな、と感じたら、ほどいて裏返して仕立て直す、というワザも使えるのだそうです。考えてみたら、日本の着物って、あるていどの体型変化に対しては融通がきくし、親子孫三代くらいは使えるし、いろいろな形でリサイクルがきくし……すごくエコロジカルなものですよね。今年はわたしもちょっと「和の知恵」を見直して、着物に挑戦してみようかなぁ。

なお、大島紬でも模様を染め出すのは横糸のみ、というものもあって、こっちは縦横のものよりは、多少お値段も安くなるとか。ちょっとは「目きき」になった気分。

テレビ番組の撮影中。
なんと東海テレビのロケ隊でした。
ロケ中

この「大島紬村」は奄美の自然を生かした庭園の中に見学棟が点在する、という形になっているので、なかなか歩いてても気持ちのいい空間です。
さて、お待ちかねの「試着タイム」。足袋から和装用下着からぜんぶ用意されているので、Tシャツ短パン姿で行ってもちゃんと「きもの美人」に変身できます。試着ルームに入ると、そこには「龍郷柄」の着物が用意されていました。
龍郷柄 「はい、じゃ足袋を履いて下着をつけてください」
という指示に従って、下着までつけて立てば、あとは職員さんが手慣れた様子でさっさと着せつけてくれます。

「龍郷柄」とは、「秋名柄」と並ぶ大島紬の古典的な文様で、ソテツの木を上から見た様子や、ハブの体の模様をもとにデザインされたものなのだそうです。正直言って、モダンな模様やすっきりした花柄を見慣れていたわたしにとって、第一印象は、ダサいとまではいかなくとも、なんか古くさくてぱっとしない柄だなあ、というものでした。
ところがいざ自分で着てみると、「いや、なかなかいい柄じゃん」と思えてくるから不思議。幾何学的な白と黒の模様に、ソテツの実のような赤がちりばめられ、エンジ色の八掛けとともにポイントカラーとなって全体をひきしめ、なおかつ華やぎをもたらして……まあ、ひとことでいえば「カワイイ」んですよ、これが。

着付けが終わる頃には、雨も上がって、日が照ってきました。雨に濡れた木々の葉や草花が、強い日差しに照らされてきらきら光っています。紬村の人にすすめられるまま、用意されていたぞうりを履いて、庭に下りてみました。

紬村 高倉の前にたたずむ紬美人(笑)

園内で何枚か写真をとってから、名残惜しく感じられるきものを脱いで洋服に着替え、紬村を後にしました。来た道を少し歩いて戻ると、そこにはドライブイン風の一軒家、「ひさ倉」があります。昨日に引き続いて2軒目の「鶏飯」でランチ。
ごはんに具にあつあつスープ、というラインナップは変わりません。こちらにはサービスで卵が一個ついていました。「鳥しん」があっさり味、「ひさ倉」がコクのある味、という感じです。噂によれば、「鳥しん」の鶏飯は、さんざん飲んだ後に食べると実においしいのだとか。なんか納得。

ひさ倉 鶏飯のひさ倉

さて、午後の予定は……
黒糖焼酎の製造プロセスが見学できる「浜千鳥館」まで歩いていこうか、とも考えたけれど、荷物を背負ってときおり降りしきる雨の中を歩いているうちに挫折。ちょうど来合わせたバスに飛び乗って、空港の少し手前にある「奄美パーク」まで移動してしまいました。

ここで、今日泊まる予定の「ペンションブルーエンゼル」に電話をしました。ペンションのおばちゃまは、「こちらに来ても何もないから、どうせなら、そこを見てからいらっしゃい」とのこと。お言葉に甘えて、ここを見終わったら迎えに来ていただくことにします。
「奄美パーク」はまだできたばかりの新しい観光スポット。奄美空港が現在の場所(海岸の人工島)に移転した跡地を利用して作られたもので、奄美諸島の生活や文化を紹介する「奄美の郷」と、田中一村の記念館がここの目玉です。
展示コーナーを見てから、いよいよ田中一村記念館へ。人工池の上に建てられた、奄美の「高倉」を模した展示棟の中に、田中一村の若い頃(というより子どもの頃)から晩年までのさまざまな作品が展示されています。
以前伊勢丹の展覧会で見たときも感じたのだけど、本当に「絵の才能」というものはあるもんだなぁというのと、そんな才能をもった人でも本当の「自分のスタイル」を発見するまでには、こんなに紆余曲折を経て苦闘の末やっとたどり着くもんなんだなぁ、とつくづく実感。それだけに、最後にたどり着いた境地がいかんなく表現された「奄美の杜」シリーズの絵は、ほんとうに神業としか思えないほどのできばえになっています。
ちょっと残念だったのは、いちばん印象に残っていた「アダンの木」や「クワズイモとソテツ」の絵が展示されていなかったこと。ここは数ヶ月に一度展示替えがあるそうなので、こりゃもう一度来いってことかなぁ、と思ったりして……


「奄美の郷」に再現された奄美の民家。
このおじさん、いつ行ってもこのかっこうですわってます。実は等身大の人形。
ちょっとブキミ、という声もあるけど、この民家にあがりこんで、おじさんとツーショットで写真撮ってもらうのも面白いかも。

奄美パーク内の展望台
階段しかないので、頑張って自力であがってください。
高所恐怖症の人にはちょっとツライかもしれません。
景色はすばらしいです。

奄美パーク見物が終わったところで、再びブルーエンゼルのおばちゃまに電話をかけ、迎えに来ていただきました。本当ならお迎えは空港までなんだけど、今日の客はわたしひとりなので特例。というより、こんなシーズンオフに「見るものといったら海と空しかない」ペンションに来るお客さんのほうが珍しいらしい。今年は「バースデイ割」のおかげか、シーズンオフになってもぽつりぽりとお客さんが来るそうで、わたしの前日もカップルが一組泊まりに来たという話とか、折悪しく奄美大島沖で勃発した「不審船騒ぎ」の余波で、自分のペンションにも警察から不審な人物が来なかったか問合せがあったこととか、おばちゃまに話をききながら、天気もよくなったからちょっと寄って行きましょう、とペンション近くの景勝地「あやまる岬」までドライブ。

岬からの眺めをたんのうした後、「ペンションブルーエンゼル」へ到着。ここはもともと、関西出身のおばちゃまのご主人が奄美にほれ込んでしまい、眺めのよい土地を買って別荘を建てたのがはじまりだとか……ご主人亡き後、おばちゃまはここで元盲導犬のウィン君と一緒に住みながらペンションをやっているのだそうです。

居間でくつろぐウィン君。 ウィン君

このペンションの一番の自慢は、すばらしい眺め。玄関を入るとそこはひろびろとしたダイニングになっていて、その正面には大きな窓があって、まるで一幅の絵のように、美しい海と空が切り取られています。あまりお天気がよくなくて、本当はもっとすごいのよ、とおばちゃまは残念がっていましたが、それでも玄関を入ったとたん、おおーっと声をあげてしまうすばらしいものです。

土盛海岸

奄美の海と空
(ペンション「ブルーエンゼル」から見た風景)

部屋に荷物を入れたら、おばちゃまがダイニングでお茶を用意してくれました。暮れなずんでいく奄美の海と空を真正面にして、黒糖かりんとうをつまみながらお茶を一服、BGMはスカルラッティのパストラーレ……いや、こんな瞬間をわたしがひとりじめしちゃっていいんだろうか、申し訳ない……でも最高。
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