三線  安波節 (あはぶし)

(三線をクリックしてみてください。メロディが聞こえてくるかも……)
さて、まず最初に紹介するのは、「安波節」です。

 この曲、たとえば「てんさぐの花」や「谷茶前(たんちゃめ)」ほどポピュラーではありませんが、知っている人は知っている。三線を習い始めた人のほとんどが、まず最初に出会う曲なのです。というのも、割合にメロディーが単純であり、三線で弾くメロディ(とりあえず「手」と呼びます)と、唄うメロディ(「唄」と呼びます)がほとんど一致するから。三線は「弾きながら唄う」のが原則だし、フォークギターなどの場合は「手」の方はほとんどコード(和音)を弾いているのに対し、三線はそれ自体で独立したメロディを弾きますから、これがなかなか難しい。「手」のほうに集中すると「唄」が怪しくなるし、「唄」に気を取られると「手」がぐちゃぐちゃになるし……でもその微妙なずれが三線の醍醐味なのだそうです。わたしに三線を教えてくださった先生は、「手と唄が同じなら、幼稚園の歌と同じ」と言っていました。

 安波節は、もともと沖縄本島の北部、安波という集落で祭りの時にうたわれていた唄です。安波集落は、沖縄本島でも特に自然の豊かな山原(やんばる)地域にあり、つい最近まで茅葺きの家が残っていました(残念ながら今はもうありません)。沖縄というとすぐ赤い瓦を白いしっくいで固めた独特の屋根を思い浮かべますが、昔は瓦は高価なものでしたから、大部分の民家が実は茅葺きだったはず。だから安波集落の風景は、沖縄の昔ながらの農村風景だと言うことができます。

 メロディーをここで紹介するのはちょっと難しいので、歌詞だけ紹介しておきます。まず発音から。

 かりゆしーぬー あーしーびー ハリうーちはりーてぃーからーや
 ゆぬあきぃーてぃー てぃーだーの ハリあーがるまーでぃーまでぃーん
 あはぬーまーはーんーたーや ハリちーむすぃーがーりーどぅくーる
 うくぬーまーちぃーしーちゃーや ハリにぃーなしーどぅーくーどぅくーる

 「いったいこれは何語なんだ!」と言われそうですね。もう少しわかりやすく漢字混じりで表記してみましょう。

 嘉例吉の遊び (ハリ)打ちはれてからや 夜の明けて太陽の上がるまで(まで)も
 安波のまはんたや (ハリ)肝すがれ所 宇久の松下や ねなしどこ(どこ)ろ
 (カッコ内は唄の調子をととのえるためにうたう部分)

 わかりやすくなったでしょ? え? まだわからん?
 わかりやすい現代日本語に直すと、こんな意味になります。

 おめでたいこの遊びで、心もうちとけたからには、夜が明けてお日さまがのぼるまで遊びましょう。
 安波の海を見下ろす崖に立つと心もすがすがしくなる。宇久の松の下に立つと気持ちがゆったりする。

 沖縄では「遊び」といえばそれは浜辺や村の広場でするアウトドア・パーティー。天気がよくて月のきれいな晩、一日の仕事を終えてからみんなで集まり、それこそ夜がしらじら明けるまで、みんなで唄ったり踊ったりして遊んだのです。 この唄は、まあ言ってみれば「よーし、これから朝まで遊んじゃうぞー」という景気づけの唄。もっとも後のほうに出てくる歌詞には、「朝まで遊んだなら、いっそのことお昼まで遊んじゃえ」なんてのもあります(オイオイ)。

 今ではこの「毛遊び(もーあしび)」と呼ばれる風景も見られなくなりましたが、沖縄の人の心の底にはまだその原風景が残っているらしく、今でも「ビーチパーティー」と呼ばれる浜辺のバーベキューパーティーは盛んですし、街でも飲み屋は盛り上がる時間が遅い(本番は午前0時過ぎてからだとも言われる)。「よーし、これから朝まで遊んじゃうぞー」の精神は不滅なのです。


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