さて、沖縄の三線と言えば、本当なら最初に取り上げなきゃならない大事な曲があります。それがこの「かぎやで風」。まともに歌えるまで3年かかった(涙)という、いわくつきの曲です。
あ、いや、途中でいろいろあって練習さぼったからっていうせいもあるんだけど……(汗)
今日の誇らしゃや なほにぎやなたてる
蕾で居る花の 露きやたごと
意味:
今日のうれしさは、何にたとえられようか。
まるでつぼんでいた花が、露に出会って花ひらいたようだ。
たったこれだけの短い歌詞ですが、これが3分以上の超大作(?)になるのです。琉球古典はたいていこの唄のように「八・八・八・六」の琉歌が歌詞になっているのですが、それをそのまま歌っただけでは、百人一首の読み上げみたいなことになってしまいます。ですから、まず、歌詞を何度も繰り返したり、合いの手を入れたりします。
きゆぬふくらしゃや なうにぢゃなたてぃるその上、その味わいを最大限に引き出すために、とにかく長くのばす。
つぃぶでぃうるはなぬ つぃゆちゃたぐとぅ ヨーンナ
ハリ つぃぶでぃうるはなぬ つぃぶでぃうるはなぬ つぃゆちゃたぐとぅ ヨーンナ
「きゆーぬーーふーーーーーくーーーらーしゃーーーーーーやぁーーーー」
だから、はじめて聴いた人は、まず何言ってるのかわからない。唄うほうだって大変です。初心者はまず、どこで音上げるんだか下げるんだかわからない、どこで息継ぎしたらいいんだかわからなくて、途中で頭が酸欠状態になってくる……
とはいえ、沖縄では結婚式を初めとする各種祝い事ではかならずといっていいほど演奏される曲だから、覚えないわけにもいかない、まったく初心者泣かせの曲なのです。
さて、この曲の歌詞の由来については、沖縄の年配の人なら結構知っている、有名なエピソードがあります。
昔、琉球の王様が、重い病にかかりました。余命いくばくもないと悟った王様は、枕元に家臣たちを呼んで、どうか世継ぎの王子をもりたて、国の安泰につくしてほしいと遺言しました。
ところがこの王子には問題がありました。口をきかないのです。王様の死後、国頭親方(くにがみうぇーかた)と城間親方(ぐすくまうぇーかた)は「口のきけない者を王にはできない」と、王子の腹違いの弟を王にたてようと画策をはじめます。
先王の遺言を守って王子の側についたのは、大新城親方(うふあらぐすくうぇーかた)ただひとり。多勢に無勢、窮地に立たされた大新城親方は、王子にむかって、「ひとことなにかおっしゃってください。このままでは、わたしは腹掻き切って先王にお詫びするほかありません」と言うと、刀を腹に……
すると、
「待て大新城!」
と一声。今までひとことも口をきかなかった王子が、初めて声を出したのです。
(だったらもっと早く口をきいてやれよな、と言いたいところですが、ま、そこはそれ、ドラマのお約束みたいなもんですから)
飛び上がって喜んだ大新城親方が、踊りながら即興で詠んだのがこの歌だということです。
[参考]
「わかりやすい歌三線の世界」勝連繁雄著 ゆい出版