今月取り上げる唄は、ちょっと今までの唄とは系統が違います。「鷲ぬ鳥節」は、八重山古典民謡の代表的な曲なのです。
本土の人間には全部同じようにきこえる沖縄の音楽ですが、実は沖縄本島とその周辺、宮古島とその周辺、石垣島とその周辺というように、3つの地域にわかれています。このうち石垣島とその周辺で唄われている民謡は、「八重山民謡」と総称されています。
沖縄本島では、祝宴のオープニングは「かぎやで風」、フィナーレは「唐船ドーイ」によるカチャーシーと相場が決まっています。しかし、八重山地方では、オープニングはこの「鷲ぬ鳥節」または「赤馬節」、フィナーレは「六調」によるモーヤー、とまったく違っているのです。(宮古地方ではオープニングは「とーがにアヤグ」、フィナーレは「漲水のクイチャー」らしい……のですが、宮古の宴会に出たことがないので未確認)
綾羽(あやぱに)ば 生(ま)らしょうり
ぶぃる羽(ぱに)ば 産(すぃ)だしょうり
バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ
正月(しょんがつぃ)ぬ すぃとぅむでぃ
元日(ぐゎんにつぃ)ぬ 朝ぱな
バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ
東(あがる)かい 飛(とぅ)ぶぃつぃけ
太陽(てぃだ)ばかめ 舞いつぃけ
バスィヌトゥルィヤウ ニガユナバスィ
意味:
綾なす羽の鷲の子を 産みまして
美しく艶やかな羽の鷲の子を 孵しまして
鷲の鳥よ 願った鷲
正月の 早朝に
元日の 朝まだきに
鷲の鳥よ 願った鷲
東のほうへ 飛んで行き
太陽を戴いて 舞って行き
鷲の鳥よ 願った鷲
この「鷲ぬ鳥節」の歌詞だけ見ていると、なんとなく中途半端な感じがしますが、それはもっと長い歌だった「鷲ゆんた」を節歌として作り直し、後半のおめでたい歌詞を取り出して祝いの歌としたからなのです。元歌にある前半部分を補うと、この歌の意味は、「山奥の大きなアコーの木の枝に巣を作った鷲が産んだ卵から、美しい羽を持ったヒナがかえって、正月の朝早く、東の空、太陽に向かって飛び立った」となります。
あと、この歌は典型的な八重山民謡なので、歌詞も八重山方言です。八重山独特の発音だから、ひらがなでは表現できない音……その典型的なのが「バスィ」とか「トゥルィ」とか「ションガツィ」というような「ウィ」という音。これ、実は中舌母音といって、「ウ」でも「イ」でもない、その中間みたいな音なのです。専門的な解説によれば、「イ[i]の口構えで両唇を左右へ強く引き、舌根の緊張と中舌面の多少の盛り上がりを伴いつつ、舌面全体がややもち上がって調音される音声」……おいおい、本当かよ〜。
とりあえずわたしは、八重山出身の民謡歌手、大工哲弘さんのCDを聴きつつ、こんなんかな、あんなんかな……と試行錯誤しながら発音しています。不思議なことに、どことなく東北なまりに似ているような気もするんですよね、この発音。
参考]
「日本民謡大観(沖縄・奄美)八重山諸島篇」日本放送協会編
「八重山古典民謡工工四 上巻」大浜安伴編
「南海の歌と民俗」仲宗根幸市著 ひるぎ社