三線 いちゅび小 (いちゅびぐゎー)

(三線をクリックしてみてください。メロディが聞こえてくるかも……)
 何曲か練習し、そろそろ指も慣れてきた頃になると、登場するのが「早弾き(はやびき)」の曲です。

 三線の楽譜である「工工四(くんくんし)」は、縦書きのマス目になっていて、1マスに1個漢字が入っている、という形をしています(「今月の三線」メニューの左端を見て下さい)。1マスが1拍にあたり、漢字が三線のそれぞれの弦と押さえる位置を表します。三線の弦は低い方から順番に男弦(ウーヂル)、中弦(ナカヂル)、女弦(ミーヂル)となっており、このそれぞれの弦のどこも押さえない開放弦の音を、それぞれ合(あい)、四(よん)、工(こう)と言います。基本の調子である「本調子」に調弦した時には「ド、ファ、ド」となるので、これを西洋音階に当てはめてみると、ドレミファソラシドは、それぞれ合、乙(おつ)、老(ろう)、四、上(じょう)、中(ちゅう)、尺(しゃく)、工となるわけです。

 ただし、西洋のギターと違って、三線の調弦には絶対音がありません。その日の調子や唄に合わせて音の高さが変わりますから、早い話が相対的な音の高ささえ合っていればいい。誰かほかの人と一緒に弾く時以外は、きちんと「何ヘルツの音」なんて決める必要はないのです。

 さて、この工工四のマス目1個が1拍、というのが基本なのですが、この拍の取り方に2パターンがあります。
 ひとつは、「タン、タン、タン、タン」と等間隔にリズムを刻んでいくパターン。
 もうひとつは、2拍目が1拍目より短い……つまり、「チャンカチャンカチャンカチャンカ……」というリズムパターン。いわゆる「早弾き」です。
 たいていは、この2番目のパターンの場合の工工四は、ひとマスにひと文字ではなく、マス目とマス目の間にも、音を表す漢字が入っている、という書き方がしてある(その場合、マスの真ん中にある音が長くて、間にある音が短い)ので判別がつきます。漢字の密度が倍になって、初心者にとってはクラッとめまいを起こす瞬間です(笑)。
(「1マスに1個しか音が書いていないけど、これは早弾き」という場合もあります。そのあたりの判別は……工工四をくれた人にきいてください。スミマセン。)
 そう、これこそがあの、「唐船(とうしん)どーい」や「谷茶前(たんちゃめー)」に代表される、典型的沖縄ニギヤカシ音楽の基本リズムなのです。このリズムが弾けなければ宴会が盛り上げられない、ので、まず最初は比較的弾きやすい「いちゅび小」あたりから入ります。

 小 (ぐゎー)というのは沖縄でよく使われる接尾語で、親しみをこめる感覚があります。「いちごちゃん」という感じでしょうか。そういえば、映画「ナビィの恋」で恵達おじいを好演して人気急上昇の沖縄民謡界の大御所、登川誠仁さんも、沖縄の人たちからは「セイグヮー」と呼ばれて親しまれています。

 いちゅびぐゎーに 惚(ふ)りてぃ
 座喜味村(ざちみむら) 通(かゆ)てぃ
 通てぃ 通い欲(ぶ)しゃ
 喜名(ちな)ぬ番所(ばんじょ)
 サー ウムヤガチョン カナシガチョン

 いちゅびぐゎーや 名付(なじぃ)
 加那志思里(かなしうみさとぅ)
 思事(うむぐとぅ)ぬあてぃどぅ
 朝夕通て
 サー ウムヤガチョン カナシガチョン

 通るがな 通て
 自由ならんあれば
 神仏(かみふとぅき)てしん
 当てぃやならん
 サー ウムヤガチョン カナシガチョン


 かわいい苺にひかれて
 座喜味村に通って
 通って通いたいのは
 喜名の番所


 苺摘みなんて口実。
 本当は愛しいあの人に
 思うことがあるから、
 朝な夕なに通っているの


 通って通いつめても
 思う通りにならないならば
 神さまも仏さまも
 当てにならないじゃないの
 

 「里」というのは以前「遊びションガネー」でも説明したように、恋人(男性)を意味する言葉ですから、この唄は女性が主人公ということになりますが、実際にはイチゴのイメージが女の子にダブるせいか、男性が主人公と考えられ、歌詞も「思里」から「思無蔵(うみんぞ)」に変えられて唄われることも多いようです。
 メロディが軽快でリズムもよく、沖縄の盆踊り「エイサー」にもよく使われる曲です。
 

[参考]
「日本民謡大観(沖縄・奄美)沖縄諸島篇」日本放送協会編


INDEX  Next