三線 瀧落菅撹 (たちうとぅしすがかち)

 三線はギターと違って、押さえる指の位置を示す印がありません。ですからたいてい初めのうちは、自分の三線に押さえる場所の目印をつけます。これは人によって、たとえばシールを貼ったり、テープを細く切って貼ったりといろいろです。でもまあ、これがベタベタ貼ってあるということは、「わたしはまだ初心者でーす」と公言しているようなものなので、多少見栄があったりすると、なんとか目立たぬよう印をつけたい……というのが人情。

 わたしのとった方法は、「修正液で印をつける」でした。

 これだとポツンと点があるだけなので目立たない。何度か弾いているうちに取れてしまうので、そのたびにつけなおさなければならないのが難点だけど、2〜3度つけ直すうちに指が位置を覚えてしまうので、じきに必要がなくなります。今ではもう、わたしの三線には印がついていません。

 でも、指がほとんどの勘所を覚えてしまった後になって、改めてつけた印が一個あります。三線の棹の真ん中から十数センチ下。ここは、工工四では「イ乙」(「にんべんに乙」という一文字なのだけど、残念ながらコンピュータにはそういう文字はない)と呼ばれている位置で、「瀧落菅撹」、通称「滝落し」という曲を弾くためにどうしても必要なポジションなのです。

 三線はあくまで伴奏楽器なので、そのテクニックを全面に押し出す独奏曲はほとんどありません。例外と言っていいのがこの「瀧落菅撹」ですが、実はこの曲も、もともとは三線の曲ではなくて、江戸時代の初め頃に本土から伝わってきたお琴の曲を三線用に直したものなのだそうです。ですから先ほどの「イ乙」をはじめとして、「イ尺」「イ四」「イ上」「イ工」「イ五」という見慣れない音(つまり、ふだんの曲では使わない音)がぞろぞろでてきます。ちなみに、「イ乙」は、本調子の三線の調弦を「ド、ファ、ド」とすると、2オクターブ上の「レ」にあたります。

 この曲はわりとポピュラーな曲なので、前から弾いてみたいと思ってはいたのですが、最初知り合いから工工四を入手したときは、まるで歯がたちませんでした。それもそのはず、高いほうの「にんべんつきの音」はふだん弦を押さえている位置とはぜんぜんかけ離れた位置ですから、ポジションの覚え方やそこまでの左手のもっていき方など、先生に教えてもらわないとどうにもなりません。わかってしまえばそんなに難しいことではないのですが、わたしもたとえば「その方法をメールで教えてくれ」と言われても、ちょっと説明できない。

 まあ、あえて言うなら、この曲の主題となるテーマが急にオクターブ上がる部分があるのですが、その少し前にふだんなら小指で押さえる一番高い音の弦の「七」の位置を人差し指で押さえること、その後出てくる一番低音の弦の「イ乙」の位置を小指で押さえ、その音を基準にしてその後出てくる「イ尺」「イ四」「イ上」「イ工」「イ五」といった音の位置を覚えることがコツです。どうです? 聞いてもわからないでしょ?

 この「イ乙」の位置を、目印をつけなくてもぴたりと押さえられるようになればカッコイイんですけどねぇ……
 上級者への道はまだまだ遠い。(^_^;)
 

[参考]
「アイランド・イリュージョン」CDライナーノート


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