三線 遊びションガネー (あしびしょんがねー)

 さて、ここまで見てきて、「なんだかラブソング系の歌がないなあ」と思われたかもしれません。もちろん、沖縄には、男と女の間の感情をうたった歌もたくさんあります。次に紹介するのは、そんな歌のひとつ、「遊びションガネー」。

   面影のだいんす 立たなおき呉れば  (うむかじぬでんし たたなうちくりば)
   サーサ ションガネー スリ ションガネー
   忘れゆる暇も あゆらやすが ヨーンナ (わしりゆるひまん あゆらやしが)
   サーサ ションガネー スリ ションガネー

   遊び面影や まれまれど立ちゅる  (あしびうむかじや まりまりどたちゅる)
   サーサ ションガネー スリ ションガネー
   里が面影や 朝も夕さも ヨーンナ (さとぅがうむかじや あさんゆさん)
   サーサ ションガネー スリ ションガネー

意味:
 面影さえ立たないでくれたら、忘れることもできるだろうに。
 気楽に遊んだ人の面影は、めったに思い出すことはないけれど、あの人の面影は、朝も夜も消えることはない。

この「ションカネー」とか「ションカネ」と呼ばれる歌、ほかにも「多良間シュンカニ」とか「与那国ションカネ」とか、いくつかあります。「ションガネ」という言葉が「しょうがない」に通じるためか(語源がそうであるかどうかは定かではない)、別れの悲しみ、とか、会えないつらさを歌ったものが多いようです。うーん、わたし個人としては、こういう系統の歌、苦手なんだけど……

この歌は、今まで紹介してきた歌よりも一段と「沖縄っぽい」と感じる人が多いようです。というのは、「ド、ミ、ファ、ソ、シ、ド」という「典型的琉球音階」が使われているからのようです。いくつか沖縄の曲を聴いてみると、かならずしもそういう曲ばかりとは限らないのですが、なぜかこの音階が耳に残ってしまうのは、印象が強烈だからなのでしょうか。

三線を弾く人にとっては、この曲はまたきわだった特徴を持っています。「打音(ウチウトゥ)」が効果的に使われている、「中位(ちゅうい)」の曲だということです。
通常三線は左手で弦を押さえて音の高さを変え、右手の人差し指にはめたバチで弦をはじいて音を出します。この打音は、左手で弦を打つようにして押さえるだけ。そうすると、ちょっと遠くで響いているような、独特のかすかな音がします。今までに紹介した曲、たとえば「上り口説」 でもこの打音というテクニックは使われていますが、この「遊びションガネー」では、たとえば唄持ち(ウタムチ)と呼ばれるイントロ部分では、

 ドファソミーファー ソファソミーファー

というメロディの、青字の部分が打音です。

中位というのは、左手の指の位置を一音分右にずらして押さえる方法。三線の開放弦は「ド、ファ、ド」ですから、この奏法はその一音上の「レ」と「ソ」の出てこないメロディ、つまり先ほど説明した「典型的琉球音階」の曲を弾く時によく使われるテクニックです。たとえば、沖縄というとよく紹介される琉球舞踊で、紅型の着物を着て花笠をかぶった女性が、両手に2枚ずつの竹の板を持ち、それを打ち鳴らしながら踊る「四つ竹」という曲がありますが、これも中位で弾かれる曲です。ただし、そういう曲が必ず中位で弾かれるというわけではありません。例外もあります。

今までとは違う位置で弦を押さえることになるので、初心者にとっては、音の高さの調整がちょっと難しい曲です。それにこの曲、歌詞に「里」と出てきますが、沖縄の歌では、「里」は恋人(それも男性)のことをさします(女性のことは「無蔵(んぞ)」と呼ぶ)。つまり、女性が主人公の歌なのです。なのになぜか、人生の酸いも甘いもかみわけた年輩の男性(おじさま)が、渋〜い声で唄ったほうがサマになったりする……ううむ。

[参考]
「わかりやすい歌三線の世界」勝連繁雄著 ゆい出版


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