三線 固み節(かたみぶし)

 わたしが本格的に沖縄の音楽に出会ったのは、「パイナップル・ツアーズ」という映画がきっかけでした。
「沖縄のどこかにある島」を舞台に繰り広げられるオムニバス三部作のこの映画に、「三線のうまい島のにいちゃん」として出演していたのが、石垣島の白保出身のミュージシャン新良幸人。それまで沖縄の音楽といえば、「てんさぐの花」とか「安里屋ユンタ」とか、あの♪ナンチャマシマシ〜、ディアングヮソイソイ、というはやしが印象的な「谷茶前」とか、「ハイサイおじさん」とかぐらいしか知らなかったわたしにとって、新良幸人の三線はちょっと衝撃的でした。

 「えーっ、蛇皮線って、こんな音が出るもんなの〜?(当時は「さんしん」という言葉さえロクに知らなかった)

 すっかり驚いてしまったわたしは、その映画のキャンペーンの一環として行われる徹夜ライブに新良幸人が出ると知って出かけていき、そのビートのきいた演奏と素晴らしい唄をナマで聴いて一発でノックアウト。以来すっかりファンになってしまった、というわけです。
 その新良幸人と、元りんけんバンド(この「りんけんバンド」の音楽にも、「パイナップルツアーズ」ではじめて出会いました)の上地正昭が中心となって結成されたバンド「パーシャクラブ」が初めて出したCDの冒頭の曲がこの「固み節」。これも最初に聞いたときは、そのめちゃくちゃにノリの良い掛け声混じりのイントロが、とってもかっこよくて斬新でした。

 「この曲が自分でも弾けたらいいな〜」という憧れが、三線を始める強烈な原動力になったことは間違いありません。

さてぃむ目出度や此ぬ御代に  (さてぃむめでたやくぬみよに)
サー祝いぬ限りにらん  (サーゆわいぬかぎりにらん)
※遊び楽しむエースリ 我んやかたみ呉いら (あしびたのしむエースリ わんやかたみくいら)
 千年までぃん  (ちとぅしまでぃん)

無蔵と我んとぅや元よりぬ  (んぞとわんとぅやむとぅよりぬ)
サー契りぬ深さあたん  (サーちぎりぬふかさあたん)
(※ 繰り返し)

一番願わば福禄寿  (いちばんにがわばふくるくじゅ)
サーすぬ他無蔵と連りてぃ  (サーすぬふかんぞとちりてぃ)
(※ 繰り返し)

百歳なるまで肝一つ  (ひゃくせなるまでちむひとぅつ)
サー変わるな元ぬ心  (サーかわるなむとぅのくくる)
(※ 繰り返し)

 さて、この歌詞からして祝賀気分いっぱいの唄、実はこんなラブロマンスがきっかけで生まれました。
 昔、首里から来た船が八重山の貢納物をのせて帰る途中、時化に会って遭難し、久志真村に漂着しました。村人は船員を助け、手厚く介抱しましたが、船員の中のひとりと村の娘との間に恋がめばえました。その船員は久志真村への移住を決意、めでたく夫婦が誕生したというわけ。その話を聞いた八重山の黒島英住という人が作ったのが、この唄だということです。

 この曲を演奏する際には、実はちょっとした問題があります。「我んやかたみ呉いら」の節回しが、少なくとも2バージョン存在するんです。
  1. 「わ〜ん〜や〜か〜た〜み〜く〜い〜ら」
    (シ〜ド〜ドシソ〜シド〜ソ〜ファ〜レ〜ド)
  2. 「わんや〜〜〜〜か〜た〜み〜く〜い〜ら」
    (シ〜ド〜〜〜〜ソ〜シ〜ド〜ソ〜ファレド)
と、リズムも音程も違います。八重山ではバージョン1が、沖縄本島ではバージョン2が唄われているようです。でも、どっちが正しい、ということはないのです。それが民謡というもの……とはいっても、たとえばふたりで一緒に唄おうとして、それぞれが別バージョンを覚えていたりすると、ちょっと厄介。

 まあ、たいていはうまい人が臨機応変に相手に合わせてしまうのですが、お互い初心者だったりすると……仕方ないから、交互に唄ったりして(笑)。やんばるエコツアー の時のわたしとKさんの場合がそうでした、実は。
 

[参考]
 大工哲弘「誇−八重山の祝のうた−」CDライナーノート


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