三線 干瀬節(ふぃしぶし)

琉球古典の唄で一番好きなのはどれか、となるとかなり難しいのですが、この「干瀬節」は少なくとも「お気に入り」の唄にあげられます。
昔、師匠に兄弟子が稽古をつけてもらっているのを聞いていて、「古典っていいなぁ」と初めて実感した唄でもありますし……いや、それまでは正直言って「長いし退屈」というイメージから抜け切れなかったものですから……

この「干瀬節」という唄、そんなに長くないのですが、節回しが細かくて、なかなか思ったとおり情感を込めて歌うのは難しい。
で、こんな情景を想像しながら歌っています。

冬の夜(沖縄の冬は本土の冬のように厳しい寒さではないけれど、それだけに人恋しさはそくそくとつのるような気が)、ひとり家にいる女。そこへ自分の想い人が訪ねてくる。家族はどうしたんだ、とか、どの程度の仲なんだ、というのはこの際置いといて、好きな男が「今晩泊めて」と言ってきたなら、そりゃもう、誰が「いや」なんていうものですか。勝負あるのみ! ……あ、いや、ここまで言っちゃうと、ちょっと唄のイメージと違ってくるかなぁ。

里とめばのよで いやでいゆめお宿
冬の夜のよすが 互に語やべら
(さとぅとぅみばぬゆでぃ いやでぃいゆみうやどぅ)
(ふゆぬゆぬゆしが たげにかたやびら)
意味:
愛しいお方と思えば どうしてお宿をだめというでしょうか
冬の夜のよもすがら 互いに語り合いましょう

この唄にはいろいろな歌詞があるのですが、タイトルの「干瀬節」は、どうやら次の歌詞から来ているようです。

干瀬に居る鳥や 満潮うらみゆい
わみや暁の 鳥どうらむ
(ふぃしにうるとぅいや みちしううらみゆい)
(わんやあかちちぬ とぅいどぅうらむ)
意味:
干瀬にいる鳥にとっては、満潮が恨めしい
わたしにとっては あなたと別れなければならない暁を知らせる鳥が恨めしい

しかし、歌詞としては次のもののほうが有名です。これは、「綛掛の踊り」という舞踊の前半に使われているもので、美しい紅型の打掛を片肌脱ぎにした女性が、機織のための「かせ」に糸を巻く所作をしながら踊ります。

七読と廿読 綛掛きて置きゅて
里があけず羽 御衣よすらね
(ななゆみとうはてん かしかきてうちゅてぃ)
(さとぅがあけじばに んしゅゆしらに)
意味:
一番密で上等なかせをかけて
愛しい人に蜻蛉の羽のような美しい着物を作ってあげたい

どの歌詞にも、なんともいえない「女の情感」がこもっているようで、いいなあ、と思います。もちろん、「里とめば……」が一番好きなんですけど、ね。

[参考]
「わかりやすい歌三線の世界」勝連繁雄著 ゆい出版


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