キングダム・オブ・ヘブン ディレクターズ・カット [DVD] キングダム・オブ・ヘブン (製作年度: 2005年)
レビュー日:2009.6.14
更新日:2009.10.18
評価:★★★★★
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解説(Yahoo映画より):
『グラディエーター』のリドリー・スコット監督最新作。主演は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのオーランド・ブルーム。共演は『ドリーマーズ』のエヴァ・グリーン、『レッド・ドラゴン』のエドワード・ノートン。細部までリアルに描かれた大規模な戦闘シーンは必見。空前のスケールで描かれたスペクタクル・アクション。


ディレクターズ・カットをこそ見るべき

フランスの田舎で鍛冶屋やってた主人公の前に「お前の父親だ」と名乗る十字軍騎士が現れ、あっという間に跡継ぎになってエルサレムに行って篭城戦の指揮を取ってサラセン軍を率いるサラディンと対決する羽目に……と、展開が唐突過ぎてついていけない。

十字軍側もサラセン側にも、現実を見据えて共存の道を探る指導者(ボードワン4世・サラディン)と狂信的な聖職者がいて、その間でさまざまな思惑が入り乱れるさまがよく描かれているし、戦闘シーンなどリアルに描かれて(リアルすぎてちょっとグロだけど)見ごたえがあるだけにもったいない……と思ってたら、 50分近い未公開シーンの入った「ディレクターズ・カット」があると知って再度鑑賞。

いやびっくりしました。全然別の話になってる(笑)。確かにDVDでも前後編に別れるくらいの大作で、これを劇場公開するとなると「レッドクリフ」ほど日本人になじみのある題材ではないので、興行的にも難しかったかもしれませんが……こっちを見れば、片田舎の鍛冶屋がどうしてあんなに短期間で剣技が上達するんだ、とか、なんで篭城戦の指揮をとるほどの知識があるんだ、という疑問も解消。ボードワン4世の死後のエルサレム王国の混迷も、もうすこし納得できる形になっています。
(劇場公開版じゃシビラがあんまりアホ過ぎる……)

バリアンがシビラと結婚してエルサレム王国を継ぐという道を選ばなかったことについて、大局より個人的良心を優先させた、という意見が多いようですが、わたしは違うと思います。
ボードワン4世、シビラ、ティベリウス、そしてギイ・ド・リュジニャンといった人々とバリアンが決定的に違う点、それはエルサレムに対して「聖地」という余分な思い入れがない、ということです。聖職者たちが説くように、そこに行きさえすればすべての罪が許されるような場所でもないし、ボードワン4世やシビラのように、父祖が勝ち取った地でもない。そこが誰のものであるか、ということになれば、むしろ昔から住んでいたサラセン人のほうに権利があるのかもしれない、とバリアンは思っていたのではないか。そこに無理に居座るがために、ともすれば暴走する同胞を粛清しなければならないことにもなる。

シビラと結婚して王位につき、不満分子であるギイ達を処分してしまえば、確かにもう少しエルサレム王国の寿命を伸ばすことはできたかもしれないけど、結局それは根本的解決にはならない。「エルサレム王国」イコール「天の王国」という考えにそもそも無理があるのだから……

ボードワン4世やシビラに対して好意は感じていても、彼らの価値観に同意はできない、それがバリアンの出した答えだと思います。

じゃあなぜあっさりサラディンに降伏してエルサレムを明け渡さなかったんだ、と突っ込まれるとちょっと苦しいですが……それじゃお話にならないから、ということで(笑)。

まぁ、双方ともに一戦交えなければ決着がつかない情勢に追い込まれていたってことと、エルサレム側の徹底抗戦がなければ、最後にキリスト教徒の安全な退去を保証する、という条件を勝ち取れなかったということで納得しましょう。


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