やんばるエコツアーレポート(1999.1.30 - 2.1)



2月1日(月)曇りのち晴れ

沖縄の冬の朝は遅い。

ちょっと早起きした……つもりが、窓の外はまだまっ暗なのを見た時、改めて沖縄が西のほうに位置していることを実感しました。

朝食後バスに乗り出発。程なく、有銘湾に注ぐ慶佐次川下流にひろがる、同じ東村の慶佐次集落に到着。「慶佐次」はずっと「けさじ」と読むのだと思っていたのですが、そうではなく「げさし」と読むのだと知りました。河口にかかる橋の手前にある公園で、まず、今回のカヌーツアーの面倒を見てくださる「ホールアース自然学校」の方々から、慶佐次河口にひろがるマングローブについて説明を受けました。空が少し曇っているせいもあって、まだあまり明るくない空の下に、マングローブの緑がひっそりと広がっています。西表島の浦内川や仲間川のスケールには遠く及びませんが、集落のすぐそばのマングローブというのも、なかなか不思議な光景です。

慶佐次川河口

それから、橋の下流、カヌー乗り場となっている川岸に降りて、ライフジャケットをつけ、乗るカヌーを決めて、パドルを持ち、カヌーの漕ぎ方の講習を受けました。インストラクターのリーダーHさんは、ほとんどが初心者というわたしたちの緊張を解きほぐすつもりか、ときどき寒いオヤジギャグを交えつつ、カヌーのあやつり方、万一「沈」してしまった場合(つまり、カヌーが転覆してしまった場合)の対処の仕方などを教えてくださいました。

わたしはKさんとふたり乗りのカヌーを選び、後部座席に陣取りました。カヌーを押し出し、川にふわりと浮かんだとたん、ふっと、忘れていた水に対する恐怖心がよみがえったのです。カヌーに乗るということは、泳いだり潜ったりする場合を除いて、おそらく水にいちばん近い場所に位置するということです。そしてそれは、ささいなきっかけで、ポンっと水の中に放り出される可能性があるということで、自分から水に入った場合と違って、その放り出された場所の水深は予測がつきません。

ライフジャケットをしっかり着用していれば、「タイタニック」のディカブリオみたいなことにはならないからね〜、とHさんは言ったけれど(結末を見ていない人、ゴメンナサイ)、あんまり慰めにも励ましにもならない言葉です。まあ、どんなスポーツでも、本当に危ないのは最初のこういう恐怖心が薄れてきたころなのだ、という言葉はあるけれど……などとあれこれ考えていたら、インストラクタのひとりから「おーい、パドルの向きが反対だぞー」という言葉が……おっとっと、いけないいけない。
(^_^ゞ

前に座ったKさんと、1,2,1,2と号令をかけながら、交互に水をかいていきましたが、お互いはじめてなので、なかなか息が合いません。やがて一行は川をさかのぼり、マングローブの中にできた水路へと入っていきました。ぐっと狭くなった両側には、マングローブのタコ足のような支柱根が、からみあうようにびっしりと生えています。二人乗りのカヌーって、意外に舵取りが難しい。気をつけてはいたのですが、未熟者の悲しさ、何度か水路の両側に突っ込んでしまいました。エコツアーのモニターに来て自然破壊してたら意味ないよなあ。マングローブさん、前に乗ってたKさん、本当に済みませんでした。
m(_ _)m

みんなが操作に慣れてきた頃を見計らって、Hさんが、「さあー、海に出ますよー」と声をかけてきました。川を下り、河口から外海に出たとたん、カヌーは波を受けて揺れ始めました。今まで流れらしいものも感じない池のような水面だったので、時には手を止めてあたりを観察する余裕もあったのですが、「海に出たら漕ぐ手を止めるな、カヌーが停止している時に横波をくらったら確実にひっくり返る」と聞いていたので、一息入れる余裕もありません。

先頭集団はどんどん沖のほうに出ていき、あっというまにみんなの間隔がひろがりました。時には波のうねりのせいで、前をゆく人の姿も見えなくなります。はたから見れば、そんなに岸から離れてもいないだろうし、波も大した高さではないのでしょうが、わたしからすれば、なんだか荒海のまっただ中に放り出されたような気分です。ふと下を見ると、ついさっきまでの河口の濁った水面が、目の覚めるような青く澄んだ海面に変わっています。でもその美しさを楽しむ余裕なんかなく、
「ひええっ、こんなに深くなってる〜」
と思うばかり。おまけにふと左手に目をやると、そこには岩場があって、荒波が打ち寄せています。心なしかカヌーの船体もそっちに流されているような……

わたしとKさんは、もう必死になってカヌーの舳先を沖へと向け、漕ぎまくりました。

「いつまで漕ぎゃいいんだよいったい〜」
と泣きが入りそうになった頃、前方にようやく目的地のウッパマが見えてきました。無我夢中で漕いでいるうちに、ようやく浜に到着。きのう泊まった宿の前の海岸もそんなにきれいな水ではなかったし、川の水は赤土のせいか底も見えないほど濁っていたのに、ここの浜の水はびっくりするほど澄んでいます。天気もよくなり、まっ青な空、まっ青な海という、まるで観光用キャッチフレーズそのままの景色。その景色を楽しみながら、わたしたちはHさんが浜辺に携帯コンロを持ち出していれてくださった、生のレモングラスを使ったハーブティーをごちそうになりました。

ウッパマビーチ

エコツアーの一行で「沈」した人はひとりもいませんでした。インストラクターの方々で「沈」した人が2名いましたが、これはわたしたちの面倒を見るために、小回りのきく操作性のいい上級者用カヌー(必然的に安定は悪い)に乗って、あちこちと漕ぎ回っていたからで、いたしかたのないことです。ひと息ついたらもときた道をまた漕いで帰るのかー、と思っていたら、帰りは車で帰りましょう、との声。やれやれ助かった、と思ったのもつかの間、乗ってきたカヌーを浜辺から道路まで引き上げる、という重労働が待っていました。何事も楽ばかりというわけにはいかないものです。とほほ。

そうそう、これからカヌーを体験しようとする人に。上下に分かれた雨合羽を着込むか、あるいは濡れても大丈夫なように着替えを用意すること。「沈」しなくても絶対濡れます(わたしはもうグショグショでした)。カヌーの上から写真を撮ろうと思っている人は、水中撮影もできるカメラか、使い捨てカメラをビニール袋に入れたものを持っていくのがよいでしょう。

慶佐次集落まで戻って、濡れた服を着替えた後、橋のたもとにある共同売店をのぞきました。店先には赤土や葉のついたままの取れたて大根や、パイナップルが並べてあります。実に新鮮でおいしそう。思わずパイナップルを買い込んだ人もいました。那覇からずっと一緒だったバスの運転手さんも、大根を5〜6本買い込んでいます。わたしは店の中で見つけた「げんまいドリンク」を買い込みましだ。このドリンク、お米を材料にした沖縄独特の飲み物で、那覇の公設市場などで売られている「みき」もその仲間です。どうもそんなにおいしい、とは思えないのですが、そこには今まで見たこともない「ヨモギ入り」と「紅芋入り」というのがあったし、日もちもするとわかったので、ええい、みやげだ、と買ってしまいました。

やんばる地方の物産  やんばる地方の物産。
 黒糖入り「げんまい」、よもぎ入り「げんまい」、そして「さんぴん茶(ジャスミンティー)
 いちばん左は月桃(サンニン)の風味をきかせたロールケーキです。

後日島旅好きの仲間が集まった飲み会の会場で、みんなで飲み比べてみたところ、
「この味はどっかで覚えがあるよ……そうだ、ういろうだ!」
との声。げんまいドリンクは液体ういろうだったのか……新発見だ(笑)。

慶佐次に別れをつげたわたしたちが次に着いたのは、山の中のタンカン畑。やんばる地方の緑深い山の中には、シークワーサーやポンカン、タンカンなどの柑橘類がよく育ちます。わたしたちが案内されたタンカン畑にも、たわわにオレンジ色の実がついていましたが、無農薬栽培ということもあってか、カラスがやたらと多い。

ここで食べていく分は食べ放題、ということで、おいしそうに熟れている実を捜しました。ところが、おっこれは、という実に限って、カラスもしっかり目をつけている。よくよく見ると、実に見事に中がくりぬかれています。くちばしでつついて穴をあけ、中のおいしいところだけ、ごっそりといただき、というわけ。なんだか人間のほうがカラスのお裾分けにあずかっている気分にさえなります。しかし、いくら食べ放題とはいっても、2つ3つ食べたら、もう満腹状態になってしまいました。後はおみやげ用に、いくつかもいで、渡された袋に入れました。もちろん、その分はあとから目方を量って、グラムいくらで精算します。

タンカンというのは、ポンカンとネーブルの交雑種だそうで、普通のミカンよりひとまわり大きく、皮もしっかりしています。甘みはけっこう強いです。ただ、店頭で売られているミカンや甘夏、伊予柑などと比べると、あれほど鮮やかなオレンジ色というわけではなく、いまいち外見がぱっとしないため、かなり損をしているタイプです(これはたまたまそこのタンカンが、自然にまかせた無農薬栽培で、あまりよけいな手をかけていないためかもしれませんが)。

山のテラス

その後、近くの「花ぱーく」に移動して、昼食。ここは那覇方面から見て東村の入口にあたる場所で、ちょっとした休憩施設もあります。3月になれば斜面はつつじの花で埋め尽くされるらしいのですが、残念ながらまだちょっと早い。それでも、斜面に作られたテラスで、うっちん茶など飲みながら、濃い緑の山々をわたる風に吹かれて、ラジオから流れてくる沖縄ローカル放送の民謡など聴いていると、実にくつろいだ気分になれます。

3日間の盛りだくさんのツアーのプログラムは、こうしてなごみモードのうちに終了していきました。


帰ってきたばかりの頃は、「シーカヤックなんてもうたくさん」と思っていたのですが、最近、「やっぱり一度西表島でも乗ってみたいなぁ」と考え始めています。

喉元すぎればなんとやら……ってことかな(笑)。



−END−


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