ミステリのページだよ☆

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本のタイトル作者出版社・その他備考点数
塗仏の宴京極 夏彦講談社(新書判)70点
邪馬台国はどこですか?鯨 統一郎創元推理文庫90点
政官財 三本の矢榊 東行早川書房45点
言いなりになった女スコット・バーンサイド&アラン・ケアンズハヤカワ文庫NV50点
塗仏の宴 宴の始末京極 夏彦講談社(新書判)50点
幻惑密室西澤 保彦講談社(新書判)80点
黄金色の祈り西澤 保彦文藝春秋70点
六枚のとんかつ蘇部 健一講談社(新書判)70点
暗闇坂の人喰い木島田 荘司講談社文庫90点
百鬼夜行京極 夏彦講談社(新書判)75点



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『塗仏の宴』
 出た。ようやく、出た(涙)。  感想……おい。憑物が落ちんぞ(笑)。  京極堂物は、読者にはまず解けないパズルだと思う。だから、前後編にするのはひどい気がする。話を因果関係から分解し、物語の経過する時間軸から解放しておいて、局部的なミニパズルを小出しに完成させつつ、全体の流れを繋ぐ大事なパーツは最後までとっておく、という文の構成で巻を分割されても、欲求不満がたまるだけである。はやく後編を出版してくれ〜!
 ただし、巻を追うごとにつれ、話がだんだん強引になってきた気がしないでもない。特に、「女郎蜘蛛」の時は登場人物の連鎖が強引過ぎたように思える。基本的小物を使いこなすでもなく使い捨てるでもなく、中途半端に登場させて中途半端な役割を与え、ポイ捨てしてしまうあたりが、ちょっと残念かもしれない。
 今回の榎木津氏だが……まあ、よしとしましょうか。しかし、相手の反応を読んでからその虚を突く攻撃を繰り出すなどという行動が、彼の能力で果たして可能かどうかは疑わしい。いや、若い頃は飲んでは喧嘩していたようだし、本能的にできるか。だが、それはもはやエスパーの領域であるように思えるのだが(ああ、どこまでもノックスにたてつく探偵だなぁ)。
 関口の扱いについてだが……いいのだろうか。彼は、壊すことよりも、壊れないように人格を保持する方のが難しいキャラクターだと思うのだが……このへんで、関口も「退場」してしまうのだろうか……(泣)。とりあえず、京極堂さえ生きていれば、話はまだ書けるし(泣)。
 今回は、以前に較べてメイン以外の妖怪がわんさと動いていておもしろい。「宴」とうたっているし、今回のメインテーマは百鬼夜行だろうか?
 とにかく、鬼太郎のシナリオ書いて声優やってる暇があるなら後編早く出して欲しい。
(注)蛇足ながら、ノックスとは推理小説の「十戒」を定めた人です。その中で、「探偵は超能力その他によって事件を解決してはならない」とあります。それをやってしまうと、読者に対してアンフェアになってしまうからです。







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『邪馬台国ってどこですか?』
 これは、歴史物のカテゴリに入るのだろうか……ちょっと悩むところにある。
 とあるバーで白熱する歴史与太話。要約すればそれだけなのだが、これが面白い。今年半年間で読んだ本の中で、一番楽しんで読めた本かもしれない。歴史の真相に迫りつつもあくまで軽く、さながらビール片手にペナントレースの行方を観戦するがごとき安易さで楽しめる。このバーのカクテルのレパートリーが5つしかないのに、料理の多彩なことも笑える。話の合間合間に、まるでチェーンの居酒屋並みに登場するつまみの羅列を見ていると、飲みにいきたい衝動にかられてしまう。
 惜しい、と言えば、いつも美人助教授が宮田六郎なる正体不明の青年に一方的にやり込められる、というパターンを最初から作ってしまったことだろうか。結果、前述の美人助教授は、宮田に対する対抗者(しかも、結局彼女のなすことがすべて宮田の説の補強理由)にすぎなくなっている。
 しかし……「角川文庫読むより怖いわ」とか無茶苦茶な暴言が飛び交う雰囲気が実に楽しい。
  内容については異議ありが1件ほど。「勝海舟は催眠術師だった」については大いに異論がある。これについては、彼のカリスマの一言で同様の効果を得られるからだ(詳しくは本文を参照ください。邪馬台国岩手説なんて、もう一見の価値ありです)。まあ、「人に魅せられる」という状況の過程がすでに催眠術、と言えないわけではないが。











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『三本の矢』
 本当は、発売翌日にここに載せるつもりでした。話自体はわくわくしながら(不謹慎)読みましたし、新聞各紙の評論通り、霞ヶ関の様子が事細かに描写されていて圧巻です。ただし、これを現役官僚が執筆している辺りが、どうしても納得いかない。文章の節々に官僚の驕りと侮りがにじみ出ていて、非常によろしくない作品です。ただし、一応金融機関の職員のはしくれとして、「政治的に中立」というこのページの趣旨にちょっとそぐわない言動を慎むため、あえて今までこの本には触れようとしなかったのですが……発売以来ずっと書店の人気コーナーに平積みになっている現状を見ると、もういい加減私ごときが吠えたところで問題ないでしょうという気になったので結局私個人の書評を書きます。
 まず、この話には決定的な致命傷があります。大蔵省の活躍と内紛に焦点を絞りすぎて、日銀の動向がまるで描かれていないこと(数行、日銀は天下り先のような表現がないわけではありません)。設定では、静岡の長銀で取り付け騒ぎが起きる、ということになっています。ですが、その話が世界中に知れ渡ったとたん、絶対に円が暴落します。ところで、日銀はかなり特殊な「銀行」です。個人法人に直接融資をするのではなく、金融機関に融資、ないしは法令により金融機関から一定割合の預金を強制的に預かることによって活動しています。また、為替が変動相場制に移行してから、円ショックの度に日銀は市場に介入してきました。巨額の費用を投入して、相場の激変を緩和してきたのです。で、この本に描かれるような状況に陥ったとき、日銀がまるで介入なし、ということはほぼ考えられません(この説明に誤りがあれば、訂正お願いします)。
 そして、話の黒幕の一枚目(なんか変な表現ですけど、私にはこう表現するより他にない)の妙に熱い使命感も、何か解せないです。今までさんざ悪事を働いてきて、水戸黄門に見つかったとたん「この悪党!」と怒鳴りながら越後屋を斬って済ませようとする悪代官の正義感(ああ、長い比喩)のように感じるのは私だけでしょうか? 業績不良の中小金融機関を潰す(役人の今までの指導は、水に流してうやむやにする)。世間は納得するでしょう。ですが、そういう金融機関に資金を依存していた製造業、建築業などの中小企業も、資金調達が困難になって倒産するでしょう。ショック療法は確かに劇的に効果を得られるでしょう。ですが、結果、日本経済の四肢の指は壊死してもげ落ちます。そのリスクを、本当に考慮した上で話を進めてるんですか、犯人グループ?
 そして何と言っても、ラストの後味の悪さが気になります。金融革命失敗、ビッグ・バンは無期凍結――そして失意のうちに去る犯人、主人公。どうでもいいが、官僚機構の描写のリアルさと緻密さを考えれば、国民感情にあわせて金融革命失敗を悔やむような雰囲気に描いているものの、作者及び役人の望んでいるものはやはりこの結末ではないかという疑念がわきおこります。
 結論を言えば、この本、よくできているがゆえによい評価を与えるわけにはいかない本ではないかと思います。



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『言いなりになった女 ――夫の連続レイプ殺人を助けた妻――』
 この本は、つまらんの一言で片づけることができます。京極夏彦がはやいとこ新刊を出してくれないと、飢餓感のあまりこういう本にばっかかぶりつくようになる(泣)。
 サブタイトルのとおりの内容です。この事件をどう位置づけるか、でこの本の感想はえらく違ってくるのではないでしょうか。TVでお馴染みの某Y・T先生あたりなら、喜び勇んで自らの理論の証明に使用なさるのではないでしょうか。
 だが、この本は女性差別とか未成年虐待とか犯罪病理学とか、そんなものだけでは留まらないえらい問題を抱えています。日本では、類似した本は出版できないでしょう。例えば、宮崎事件をこの本の調子で書いたりしたら、ほぼ間違いなく「遺族の気持ちを考えろ」とクレームが飛ぶでしょう。赤裸々すぎる。はっきり言って、「この本はレイプシーンを克明に描写することによって、読者の男性のレイプ願望および覗き趣味を満足させることを意図として執筆された」と前述の先生が言ったとしても、私は否定できない。この本を読んでも、誰ひとり救われはしないでしょう。最近、この手の「サイコパス物」が増えてきて、どうも引っかかるものを感じます。素人によるサイコパス診断は、新たなる差別の誕生につながると思うからです。それは、事件が起きてから容疑者を特定するまでの手段にすぎないものを、素人は平気で日常生活で使用するだろうからです。しかも、診断の過程では容疑者および被害者のプライバシーも暴露され、かつ残虐シーンも克明に記録される。……結局それは新手のリアルスプラッタに過ぎず、むしろ野放しにすれば危険なものだと思うのですがねえ。











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『塗仏の宴 宴の始末』
 出た。ようやく、出た(涙)。(再)
 やりそうな気がしていたので、このページに書いておけばよかったなぁ。「悪の京極」登場! しかも、対照的な暖色系の服装。
 そして、肥大化する話。まるで、「ドラゴンボール」を見るかのように、次々と収拾もつかないほどに拡散してゆくストーリー。『ファウンデーションの序曲』文庫版のあとがきで、田中芳樹が「どうして海外SFはつまるところ人類の意識の統一なんてものに走るんだろうか。何だって俺が巨人ファンやナスビ好きの人間と共通の意識を持たなくてはいけないのか」と怒っていたが、それを借りれば「何だって日本の作家はテーマを広げれば、行き着くところエコロジー=地球の危機,もしくは家族の解体=日本社会の危機にブチあたるんだろうか」という疑問を感じた。何で、娯楽に徹してくれないのか? 何で、小説=フィクションで危機感を訴えかけられ、説教されなくてはならないのか? テーマ、というのは決して表に語られてはいけないと思う。結局、陳腐な言いぐさだけれども、発表された作品は読者のものだ。その中にどんなテーマを見つけようが、それは読者の勝手だ。箸の順番を声高に主張する料理など、やかましくて食欲をそぐだろう。トールキンの『指輪物語』のすごいところは、作品に込められたメッセージについて問われても、作者がそれに対して頑なに回答を拒否したことだと思う。一流の作品は、語らずとも万人に万感の思いを抱かせる。そういえば、映画『スターシップ・トルーパーズ』を見に行った後で、私はあれは反戦ものだと感じたのに対し、某氏は「権利は戦って勝ち取らなければいけないよ」というメッセージを感じたそうだ。いくら表立ったメッセージを添えた所で、ある人と別の人とではまるで反対の感想を抱くことがある。だから、表だったメッセージは、かえって話のスケールを矮小化させるだけにすぎないと思う。




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『幻惑密室』『実況中死』『念力密室!』
 ……そこにはあどけない微笑をたたえた少女がいた。だが、もはやケダモノと化した俺は抑え切れなかった。内なる欲望に身を任せ、俺はむさぼった。一枚、一枚、無造作に、それをめくる手に残るのは絹の肌触り……。
 うう、近年活字への渇望(ほとんど飢餓状態)がとみに俺を苦しめています。特に、蔵書を結局何一つ処分せぬまま下宿先に引っ越した私としては、こちらの住まいも建築基準法に違反するまでに蔵書の塔を築くということには、さすがに抵抗があります。でも、本は読みたい……そのストレス状態で手にした逸品がこれ。本をレイプするようにがつがつ(笑)読みました。
 ミステリとしては、まあちょこっと反則の感は否めない。ノリも軽く、全体的に「ほのぼのと殺人事件を解決する男女3人」といった感じですね。でも、パズルはしっかりしている。読みごたえはそんなでもないけど、まあ、フルコースだけだと食傷するし、手に取って損はないと思いますよ。








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『黄金色の祈り』
 最近は西澤保彦に影響されて新本格のミステリ作家の本をあさってみたけど……全滅(T-T)。異論のある方も多いと思われるが、私には森博嗣の小説は読めない。あのテンポと、何かやたら正義の(あくまで「正義」ね。善ではないのだ)ブルジョアみたいな萌絵のキャラクタがあわない。貧乏人の僻みで金持ちが嫌いというのも多々あるが、……う〜ん。清涼院流水も厚いだけでなあ。やたら「超推理」という修飾語の大安売りで、実際その推理が展開されるシーンはごくまれというあたり、水で薄めた日本酒を飲まされたみたいで腹立たしい。ホームズは、ルコックやガブリボウをけなしたあと、大言壮語を新聞に発表した後に、その大風呂敷に見合うだけの推理を披露してくれたがゆえに名作なのである。あとは……推して知るべし。藤木凛はすこしよかったかな。
 というわけで、ようやく我らが西澤先生の新作の話に移る。結論を言うとねえ……ん〜と、『複製症候群』ベースの『ナイフが町に降ってくる』カクテル(苦笑)。相変わらず話は多彩で、面白いんだけどなんか新しくない。オチも読める……(泣)。
 今日買ってきて、9時に読み始めて11時に読み終わった。語り口はむしろへビィなのだが、話がすっきり構成されているので読みやすい。さくさく読める。ある種感動的なほどきれいな話のつくりなのだ……がゆえに、オチも見えるのだ。なんと言うか、冒頭まったりはじまったら、絶対この人の作品はアンハッピーエンドになる(笑)。
 今思ったのだが、この人の作品はガンプラなのだ(我々の世代の男であれを作ったことのないやつも少ないだろう)。量産型あり、指揮官用の出力3倍マシンあり、白兵戦用や陸戦用や水陸両用、宇宙用、果ては超能力者専用のマシンまである、あれである。むちゃくちゃ多彩で、かつどこかに納得性を秘めたデザイン。だが、構造はみんな一緒なのである。構造というか……まず上腕を組み立ててそれから下腕を作り、最後に肩をつけて胴体にくっつける、という作業はすべてに共通しているのだ。なんか、すべての作品を読み終えて、そんな印象を持っている。
 へビィな気分に浸りたい人にはお薦め。ちょっとラストが救われなさすぎる。あいかわらず、人間に対する批評は辛辣すぎるし。この基準を満たすやつとはお友達になりたくないなあ。実は、私は能解警部が大嫌い(!)だったりするのだ。タカチは破滅的なので許すとして。




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『六枚のとんかつ』
 なんつーか……下品な本(笑)。推理というよりパズルに徹しているところがすごい。少なくとも、清涼院流水よりは面白いのではなかろうか。登場人物が煩瑣に出てはこないのと、やはり文章力がこの人のほうが上なせいもあろう。あまりにも下品な内容とくだらないオチとを愉しむ余裕があれば、この作者のすっきりした文体は好きになれるのではないか。
 それにしてもねえ……途中から探偵役が消滅して、ワトソン二人になってしまうところがすごい。あれ? 主人公はやっぱりホームズ役なのかなぁ?(笑)すごく場当たり的な役割分担が好きだ。なんか、趣向を変えてという配慮があるのかないのか、いずれにせよそうは到底解釈できないすごみが(笑)ある。総合評価は70点としたが……まあ、個人的には90点くらいつけたいなぁ(笑)。




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『暗闇坂の人喰い木』
 本当は有名な「占星術殺人事件」について書こうかと思ったのだけど、個人的にはこちらのほうが好きなのでこっちを選んだ。今まで島田荘司は食わず嫌いだったのだが、半分だけ失敗だったと悟った(理由は後述)。トリックが巧妙になればなるほど、動機および実現性が希薄になり、推理小説のリアリティが喪われる。文章力でそれを補うという荒業で大抵の小説家は回避しているわけだが、限度というものがある。「占星術」は各方面から絶賛の嵐だが、批評家のみなさんそういう違和感は感じなかったのだろうか(いや、「占星術」は確かに面白かった。それは認める。保証してもよい)? 名探偵が気に食わない、読者への挑戦うんぬんよりも。さらに、「解体諸因」および「六枚のとんかつ」を読んでいる段階で、私にはこのトリックを面白く解くという資格が失われているわけであるが……(これは私のミスだ)。
 まず、私にとってこの「暗闇坂」は身近な舞台の事件である。伊勢崎町! 戸部! なんかこういう地名を聞くだけで、うれしくなる。(ただし、伊勢崎町から長者町を通って大岡川を渡り、京急日ノ出町に出るという説明のルートが納得いかん。)繁華街の裏手が風俗街、映画館の裏が風俗街という恐るべき伊勢崎町の実態は、さすがに描写されていない(笑)。で、謎は……なんとなくホームズの「ノーウッドの建築技師」を思い出す。御手洗潔というキャラクターが、ホームズを彷彿とさせるくらいアレなキャラクターなのだ(笑)。江戸川乱歩の怪奇風味に金田一耕助の猟奇殺人事件、それにホームズ風の探偵とくればある意味ゴージャスな小説かもしれない。しかも、いきなり海外に飛んだりするし。
 だが……残念なことに、この人の作品はものすごくおもしろいか、えらくつまらないかの二つに一つなのである。おまけに、変なトンデモ科学が随所に見られる。名探偵御手洗潔も、犯罪には天性の推理力を発揮するが、科学にはからきし弱いのだろうか。「文明はコリオリの力で西に進む」などと、頼むからんなこと力説しないでくれ御手洗。東京遷都一つ取っても破綻する、そんな理論……。まあ、分厚い長編を読むぶんにははずれのない作家である。
#付記 「アトポス」の冒頭にはびびった。一瞬、桐生操の「きれいなお城の怖い話」でも買ってしまったのかと思った(笑)。でも、あちらよりも数段スリルにあふれていて、文章力の違いを見せつけられる……この作家……。



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『百鬼夜行』
 久々の京極夏彦。さよならは言ったはずだがなぜか読んでしまう京極夏彦。
 前作があまりにもひどすぎたので、今回はとても面白く感じられた。但し、こういうサイドストーリーのオムニバスは、あまり好きではない。むしろ、この手の小説は、本編中に挿入されるか、同人誌としてファンが製作するかすべきだと思うのである。なんか作者が人気に甘えているようで、この執筆態度は少しだけ嫌だ。扉ごとの、京極先生の挿絵は非常にブキミでナイスである。



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