ミステリのページ・2

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本のタイトル作者出版社・その他備考点数
ST 警視庁科学特捜班今野 敏講談社(新書判)90点
突破 BREAK西村 健講談社(新書判)80点
ハサミ男殊能 将之講談社(新書判)80点
巷間百物語京極 夏彦角川書店90点
夢幻巡礼西澤 保彦講談社(新書判)80点
リオ今野 敏幻冬舎文庫100点
百器徒然袋――雨京極 夏彦講談社(新書判)85点
美濃牛殊能 将之講談社(新書判)90点
ビンゴ西村 健講談社(新書判)80点
神南署安積班今野 敏勁文社(新書判)95点
依存西澤 保彦幻冬舎70点



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『ST 警視庁科学特捜班』
 推理小説なのかなあ。どちらかというとこの人の小説は「冒険小説」だろうなあ。犯人は物語の中盤でわかります。
 ただし、冒険小説というかサスペンスとしての面白さはいささかも損なわれてはいません。ストーリーの進行が、非常に落ちついたスピードで進むのもいいです。
 主人公は一応青山なのかなあ? でも、視点はむしろ群像としてのST、あるいは警察にありますね。87分署シリーズを彷彿とさせつつも刑事ドラマにありがちな根性論や予断・勘に走っていない。これを原作に、ドラマ化したら面白かろうなぁ。シリーズにすると腐るから、2時間スペシャルかなにかで。











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『突破 BREAK』
 社会の底辺に置かれた者のペーソス溢れるコメディ……というのに私は本当に弱いのだけれども、これもまさにそういう作品。推理ではないかもしれない。主人公の探偵が動き回っているうちに、常に弱者の味方であるがゆえに彼らから情報がどんどん入ってきて事件を解決する。名探偵ではない。むしろ、ドーヴァー警部の後継者のような体型、頭脳、おまけにとんでもない頑固者という……(笑)。
 ラストシーンが壮絶に心地よい。タイトル通りそのまんまの展開に、思わず電車の中で笑ってしまった。大人版「GTO」というか、疲れきった現代のおじさんたちにお薦めの1冊。











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『ハサミ男』
 面白い。どぎついまでのブラックユーモアが全編に冴え渡っていて、ビターな読後感がたまらない。もっとも、こういう猟奇物が嫌いな人にはまったくあわないでしょう。
 途中の、ハサミ男事件に対するマスコミの反応に対するハサミ男の反応(笑)が秀逸。ワイドショーの、無責任醜悪かつ興味本位過ぎる反応と、ハサミ男の醒めた態度が非常にミスマッチで良いのだ。なんかこれ以上書くと、ネタバレさせちゃいそうなのでこわくて書けない。


















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『巷間百物語』
 久々に京極妖怪小説の原点に立ち返ったような作品。おもしろいじゃないか京極夏彦。
 つくづく、「怪」を読まなくてよかったなあと思う(笑)。「怪」の、ごった煮のような作りより、こっちのがよほどすっきりまとまっている。妖怪という古臭い素材を用いていながら、作品へのスタンスは常に都会的に洗練されている。今も昔も、不思議なものなどないのだ。
 なんか、主人公の又市が、どうも……本来なら京極堂なのだろうが、尾国に見える(笑)。それにしても、このシリーズはずばぬけたキャラがいない。みんな似たり寄ったりだったりするのである。京極堂物とは一線を画するという筆者のスタンスの違いだろうか。
 例によって話が後半に進めば進むほど、無理なストーリー展開が目立つようになる。でもまあ、この程度なら許容範囲である。個人的には「舞首」が一番楽しかった。


















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『夢幻巡礼』
 ……つら〜い。つらすぎる〜。話はなんか今までの西澤保彦集大成といったかんじで、いつか見たトリックのようなものがちらほら(笑)していたが、それよりも……『猟死の果て』『黄金色の祈り』とヘビーなブローをかまされた上にさらにとどめの一撃(^^;;。重量級のレスラーのラリアットを食らった上にパイルドライバーまで決められた感じである。
 今までの「嗣子ちゃんシリーズ」のつもりで軽く読んではいけない! これだけは明言しておく。今までは、話の前振りで粘着質な陰鬱ストーリー展開があっても、嗣子ちゃんがからっと天気を快晴にしてくれたものだが……この話には嗣子ちゃんは出てこない(まるっきり、とは言わないが)。酸化してざらついた半固形物を含む濃縮血液のようなストーリーが、一貫して続くのである! 読者諸氏、勇気を持ってページをめくるように。それにしても……西澤先生〜。そろそろ読者の「憑き物」を落としてくださいよ〜。次にタックのつらい話が来たら、俺はもうだめになるかもしれない(笑)。


















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『リオ』
 かつての京極夏彦も西澤保彦も死んだ(爆笑)今、今野敏は私の生命線である。文章はしっかりしている、構成はしっかりしている、話題は筆者の興味と最新のトピックスを使用しつつ、中途半端な分析はしていない。なおかつ、あくまでエンタテイメントに徹しているというものすごい作家である。それでいて読後感の「ああ1冊読みきった!」という達成感は筆舌につくしがたい快感である。京極に始まる重厚長大型超巨編推理小説が流行する中、この芸術的なまでの華麗なブローはなんであろうか。
 美しい女子高生に惹かれて行く警察官。ストーリーだけ追うと身も蓋もない。ミステリとしてはトリックが極端に少なく、ミステリマニアにはかえってつらい本かもしれない。だが、逆に一介の主婦がゆきずり殺人を隠蔽するために編み上げた壮大なトリック、のほうが私は嫌いだ。さらにあからさまに後付けのお涙頂戴な動機があったりすると、もう読むに耐えられなくなる(笑)。パズルはパズルに徹するべきである(笑)。
 この小説でも、STシリーズ同様、警察組織は(非効率だが)効果的な組織として描かれる(まあ、おりしも某警察が袋叩きにあってる最中で、ある意味皮肉なことではあるが)。これは、近年のミステリにはない傾向である。個人、群像としての彼ら、そして編成された組織としての彼ら、あらゆる視点から描写される人間模様は、なまじっかの作家には描ききれないだろう。老練、とまで言ってよい芸風である。小説家を志す人間なら、手本とするべき傑作である。
 ともあれ、この本は絶対おすすめである。






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『百器徒然袋――雨』
 わはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!(爆)
 そんな本である(爆)。やはりあんたあとはパロディやっとれ! ってなかんじかな(笑)。しかし、次は大磯の事件なのか。実家から自転車で十数分の所の事件なのか。まあ、あそこには鴫立庵もあるし、興味がある方はぜひ訪れてみてください(笑)。


















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『美濃牛』
 誰が読んでも面白い小説はあるもので、これはとりあえずそう断言してしまってもよいのではないでしょうか。そう思える作品です。
 なんとなく探偵が、昔の御手洗をもう少しおとなしめにしたような感じがしますね。しかし、牛繋がりでここまで引用の嵐とストーリーの調和を保たれると、伏線大好きの私としては思わず畏怖してしまう。そんな感じです。
 ……うまく説明できないので、書店で購入して読破してください(笑)。











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『ビンゴ』
 今月の講談社ミステリはいまいち食指を動かされないので、いきおい目は過去へと逆走する。なんか最近、視線が後ろ向きになっている感が否めない(笑)。
 西村 健氏の処女作。最近のやつを読んでいたら、パワフル爆走小説作家かと勘違いしていました(笑)。いや、この「ビンゴ」は、非常に綺麗にまとまった四題噺です。しかも、次作「脱出」と密接に繋がっている辺りが楽しい。但し、物語の骨組みが、その「脱出」とほぼ同一という辺りがちょこっと減点要因。おいおいそれはいくらなんでも無茶だよというオチも、ものすごく楽しめる(笑)。
 ともかく、このバー「オダケン」では……飲みたくないな(笑)。








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『神南署安積班』
 初版が1998年ということで、もう一般書店では手に入らないかもしれない。
 しかし、今野 敏はいい。いつもそう思えるのだが、特に安積警部補シリーズはそう感じさせる。独特のストイックさが、贅肉をこそぎ落としたような緊張感を伴って、淡々たる文章に融け合っている。いつも言うのだが、文章を書くなら、彼の文章を手本にするべきだと思う。
 ベイサイド署がバブルのあおりを食って署ごと渋谷区神南に移転。宮仕えの物凄く哀しい不条理(笑)だが、安積警部補は今日も犯罪と戦っていた。――というわけでそれが内容(笑)。和風エド・マクベインのテイストは、ここに書く文章だけでは表現しきれないのです。御勘弁。
 このキレを読むと、もしかして今野 敏という作家は、短編こそが本領? と思ってしまう。








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『依存』
 なんとなく、題名を練る精神的余裕がなかったように見うけられる(笑)。
 とにかく、酷い話でなくてよかった。充分に暗い話ではあるが。タック・タカチ物の最新刊としては、まあ納得できる出来だ。
 西澤保彦という作家は、母親にそんなにもコンプレックスを抱いているのだろうか? そして、音楽にも。ちょこっと気になるが、まあ文中の言葉を借りればこれは彼の物語だ。私には関係ない。
 しかし、タカチの攻撃力は、年々低下しているように思えるのだが気のせいだろうか? まあ、ウサコがはじめての主役ということでうれしい。喜ばしい内容かどうかは別として。……まあ、話のわかる人は読んでください。
 そして、及第点ぎりぎりの評価は、ファンにしかついてゆけない世界となってしまった西澤ワールドについての批判点。尤も、これは新本格ミステリ全体に言えることなんだけど。








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