ミステリのページ・3

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本のタイトル作者出版社・その他備考点数
狩りのとき(上/下)S・ハンター扶桑社ミステリー文庫80点
ONOGORO鯨 統一郎ハルキ文庫40点
襲撃今野 敏徳間文庫80点
なつこ、孤島に囚われ。西澤 保彦祥伝社文庫55点
やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体(NEW!)清水 義範祥伝社文庫85点



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『狩りのとき』
 いまさらながらスティーブン・ハンターにはまってみる。銃規制が声高に叫ばれている今、非常にアナクロな話である。おまけに、話はほとんど「西部劇」だ。だが、話がわかりやすいのがいい。あと、過去と現在を行きつ戻りつという文体が、個人的に好みだ。
 とりあえず、新潮文庫の「極大射程」からシリーズを通し読みしたが、いちばんこの「狩りのとき」が面白かった。
 ただ、この訳者の訳し方はものすごく厭だ。一例を挙げれば「チーム」を「ティーム」と表記するのはやめてもらいたい。いくら発音に忠実だろうと、チームはもはや日本語に定着した言葉だ。もしそれが厭なら「相棒」でも「仲間」でも、他の日本語にすればよい。
 また、「ボブ・ザ・ネイラー」という主人公の渾名も、「釘打ちボブ」にルビを振るとかしてほしい。「皆殺しボブ」でも「鉄槌」でも「スズメバチ」でも「ヤマアラシ」でも、とにかく訳する人間は、ある程度の裁量権くらいはもっているはずである。英語をそのままカタカナにしたがゆえにかえって雰囲気を損なうのはよろしくない。似たような表現の引っかかりが他にもいくらかあり、そこがものすごく嫌味に思える。翻訳物というのは難しいのだろうが、そこを何とかして乗り越えて欲しかった。話が面白いだけに残念である。








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『ONOGORO』
 読めないわけではない。途中はそれなりに面白い。だが、期待している作家が仕上げただけに、怒りのほうが大きい。
 『隕石誘拐』のときのどうしようもなく無駄に濡れ場に走る癖……は、まあ許す。なんとなく、古代にそれがふさわしく思える。野蛮で無思慮で自己中心的な性欲から、次第に与え合う愛に高まってゆくあたりが(実は説明が変化するだけで、内容にそう大した違いは見られないのだが)それらしく思えるからだ。
 で? なんでこんなくだらんオチをつけなくてはならないのだ。カド○ワ読むような低脳野郎には適当にふざけたオチで充分とでも舐めてるのか? おまけに、陳腐を通り越して愚劣にすら思える結末も、汎用性と局地性をごっちゃにしたうえで無意味にくっつけたような、たわごとを聞かされたようなテイストさえ感じる。話に整合性を持たせるために突飛な小道具を持ち出す反則。はっきりいってこの作品は、あの似非軍事小説の延長線上に他ならない。
 ネタバレ覚悟で言うが、小説『アリオン』とほぼオチがかぶっている。そして、『アリオン』から深みを徹底的に取り除くとこれになる。
 とどめに一言。太鼓持ちのような解説は、さらに容認ならない。








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『襲撃』
 ……やはり今野 敏はいいなぁ、と思いつつもさすがに毎回同じプロットでちょっと食傷気味だなぁとは感じる(笑)。一言で言えば「悪い奴らは全滅」なのだが(笑)、その単純さに世間の最新風俗習慣をからめて新鮮味を保っている。逆にいえば、少し時間が過ぎると読むのがつらくなるのは少々否めない(笑)。それは冗談として、一本背中に太い骨が通っているという安心感・重厚感が、この作家の魅力だと思う。怯え、傷つきながらも敵に立ち向かう勇気――アメリカ人受けしそうな話ではある。
 ……ところで著者略歴の物凄い短さと写真、どの出版社から出ている本でも同じような気がする。何年前から替えていないのだ?(笑)







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『なつこ、孤島に囚われ。』
 ……一瞬、タイトルが回文かアナグラムか何かになっているのではと、考えてしまった(笑)。『黄金色の祈り』『猟死の時』『夢幻巡礼』『依存』とカルテットで西澤暗黒理力に叩きのめされていた読者としては、昔の明るい作風が戻ってきてほっとした。まあ、謎にいつもながらのものすごいどんでんがえしがあるけど、そこはそこで魅力なのでOK。この時点では70点の採点を与えていた。
 だ〜が。しかしである。ここから都合25点の私なりの減点があるのである。
 まず、5点。エロ……がばりばり出てくるのはさほど気にはならない(書店でレジの女の子がかわいかったりするとその限りではない)。だが、これは作中人物に「男根主義者ども」と斬って捨てさせているにも関わらず、何か作品を流れるレズビアン観点(そんなものがあるのか知らないが(笑))が、あからさまに男のそれに思えるのである。ぶっちゃけた話、「××が2つ出てくるから読者サービス倍増だ」という意図でのレズビアン、AVの中での「」つきの意味での「レズ」が描かれているようにしか思えないのである。それは、男性としての私がいわゆるやおい本を見たときの違和感、よりも遥かに大きな異物感に感じられたのである。いや、作品をきっちりと読め、主人公はバイセクシュアルだと書いてあるだろうと仰る向きに言っておくが、それは重々承知である。だがしかし、何故かレズかホモしか描かれない。何故にヘテロは出てこない。……対照のしようもないので私には未消化である。
 で、10点。ラストが推理小説としては終わって欲しくない形式であること。……探偵が謎を解いて欲しかったなぁ。誰でもいいから。いや、シュロックホームズとかドーヴァー警部とかそんな名前は出さないでください。
 さらに10点。友人知人の実在人物は使用して欲しくなかったなぁということ。最近流行しているのだろうか? 作家仲間を作品に出演させるのが。作者の登場人物の造形力やデッサン力を疑ってしまう。モデルにするならともかくそのままでは……。俳優が役を演じるということは、自分でありつつ配役の個性を加算する(あるいはその逆)ということなのだろうが、こういった小説に作家が登場しても、ストーリー上もキャラクター造型としても、何ら加算されているようには思えない。また、同人誌臭い内輪の雰囲気が、作品としての小説にそぐわないような気がする。いや、徹底した私小説だというのならそれならそれでもいいのだが、何か空を飛ぶべき鳥の足に、地上との鎖を残したようで、儚い。
 まあ、ほとんど難癖のような減点理由ではある。




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『やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体』
 最近、祥伝社文庫にはまっているかもしれない。もっとも、400円という値段は手頃なのだが、昼休み30分で読みきってしまう薄さは頂けないかもしれない。
 内容は90点。非の打ち所もありまへん。タイトルセンスが清水先生にしては安直なのでマイナス5点。ほとんどチンピラのイチャモンである(苦笑)。
 この作品のすごいところは、前の章と後ろの章でテーマが違うところである。前半パートはトリック崩し、後半はアリバイ崩し。久々に純粋に推理が楽しめる推理小説である。プラス、清水作品は全て名古屋小説なのである。この名古屋っぷりはいい。全篇を、ゴミ問題とからめたのも面白い。本当に本を愛することのできる人に薦めたい一冊である。




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