8月8日(金)

 いやいや、そーも言ってられない。山下洋輔NYトリオの日本ツアーが 始まってしまったではないか! でも今日は、その前に聞いた別のやつの レポートね。(も、全然日記じゃない!)

●8/3(日) 黒雨 金大煥NIGHT at新宿ピットイン

 ギター・サックス各1+パーカッション。と言ったら、なかなか シンプルな組み合わせに聞こえますけどねえ。実体は次のような人たちなので....

 金大煥(prc)・渡辺香津美(g)・梅津和時(sax)

....シンプルなわけないです。

 金大煥は噂こそ耳にしてましたが、音を聞くのは初めて。開演前、 打楽器セットをつらつら眺めるに、あれーこの人、ドラムセットも 叩くんだ? ややびっくり。脇の方に銅鑼とでっかい民族楽器と思しき太鼓が こちらはスタンドの上に寝た状態で置いてあって、この辺はイメージ通り。 しかし、親ガメ子ガメ状に3枚重ねたシンバルがにょっきり生えた 今風のドラムセットに、なんか違和感が。
 と思ったらこのドラムセット、 人前に初お目見えなのだそうです。2年前日本で購入して今まで練習を積んで、 今回初めて使ったとか。ちなみにキム・デファン氏、65才になるというんで (全然見えません。せいぜい50代前半)、ますますびっくり。 あ、これは後の「梅津・渡辺、金大煥を語る」のコーナーでの話題でした。 先走っちゃいました。

 定石通り、パーカスのソロでスタート。
 銅鑼を両腕で挟むように構え、右手に短めのスティック、左手には3本の 形の違うマレット。あのマレットはどーも手作りのように見えました。 その両手が叩き擦り出す銅鑼の音の多彩なこと! 左のマレット(先がゴム のやつがあるらしい)は叩くよりも擦る動作が多く、3本を使い分けて 様々な音色を生み出します(ガラス板を指で擦る要領です)。それに 右手のこまかなリズムが加わって、銅鑼一個で立派に音楽になってしまう。 音色の妙技という感じです。
 やがて、そこに太鼓の音が加わっていきます。ドスのきいた複雑なリズム。 あ、これが韓国由来のリズムだな、と直感しました。

 銅鑼ってクラシックでは、大地に足を踏ん張って、せえっのっ、 ぼわーぁぁぁぁん 、でお終いですよねえ。勿体ない。

 梅津さんが出てきました。二言三言かわしてすぐに始まっちゃいます。 曲紹介無し。あたりまえで、実はこの夜は始めっから終わりまでずーっと フリー・インプロビゼーション。即興好きにはこたえられませんぜ。

 で、梅津さんです。金大煥とは10年来の付き合いだと言っていましたが、 曲間のおしゃべりの時も尊敬の念がにじみ出た結構生真面目な態度で、 いざ演奏となると全く妥協のない音を出していたように思います。
 自分のバンドは言うに及ばず、人のグループにゲスト参加している時でも (この間のCLUB LEOがそうだったように) ムードメーカーというか、サービス精神旺盛なエンターテイナーというか、 普段、梅津さんはそういうところが目立つ人です。
 そのドクトル梅津がこの夜は、いつものバンドリーダーやプロデューサー役 としての顔を忘れてただの演奏家でした。ひたすら全身を耳にして 金大煥の音に向き合っていました。ひゃー、梅津さんの生の音だあー、と (何度も何度も梅津さんの生音を聞いているくせに)感動を新たにした夜でした。

 続いて香津美さん登場。いよいよ3人で演奏か? と思いきや キムさんはいったんお休みで、梅津・渡辺のデュオなのでした。これも 滅多にない聞きものです。粋なはからいだ。
 gが何となく始めてsaxが加わって....、その先はちとシューティング ゲーム的であったというか、二人して相手の音に反応しながら 次から次へと新しい音を展開するので、聞いているこっちは、 地球上のどこでもない国をあちらこちら連れ歩かれた気分です。
 このデュオ、プロパーでユニット組んだらさぞかし面白いことに.... ああいかんいかん。そういうこと言い出すとキリがない。 面白そうな組み合わせなんて無限にあるんだから。

 さて、今度こそ3人の演奏、です。この後は2部の最初にg・prcの デュオがあった以外、全部3人の演奏。
 どの曲で誰がどう、ってのはちょっと書けないのですが、 何しろともかく気持ちよかった (^^)。どう気持ちいいかというと、 ビールをお代わりしたくなるくらい (^^;)。

 香津美さん(韓国ではインテリの間で人気がある、と金大煥氏に言われて 苦笑いしていた....)は、ガット弦とスティール弦、2本のギターを使い分け ながら、やはり凄い勢いで弾きまくっていました。本当に、運指が綺麗で。 何度見てもほれぼれします。和音を出せる楽器がギターだけなので、 どーしてもハーモニーを作るという役割が大きかったようですけど。 (何しろ3人とも、誰かの為に見せ場を作ってやろうなんて意識、皆無。)
 あ、いや、梅津さんもやってたな。ソプラノとアルトの2本吹き。 久しぶりに見た。クラリとバスクラも使ってました。バスクラリネット、 梅津さんが吹くと野太い音ではなく、柔らかないい音がします。

 両手に3本ずつ6本、違う種類のスティックをもって叩く、 金大煥のドラムセットの音はまったく独特です。根本的に、はじめに 4ビート、もしくは8ビートありき、の叩き方じゃないんですね。 いわゆるドラムセットだからといって、いわゆるそーゆー音を想像する方が 悪いのであって、結局、金大煥氏にしてみれば楽器の種類が増えただけだった のでしょう。(いや、梅津さんがトークコーナーで「今になって新しいことを やらなくても、と言う方もいるでしょうが、本人はまだまだ変わる気でいる ようですので....」という発言をしてたのです。で、私なりに解釈してみた。)

 ふーむ、音を文章にするのは本当に難しい....。まして、あの場の混沌は。 私の頭の中にある情景としては、巨大恒星が爆発してガスもうもうの中に 超新星の光が、てな感じなのですけど、そんなこと言われてもわかんないよなー。

 とりあえず、金大煥のリズムのルーツを求めて、 朝鮮半島の音楽を追求すること。という課題を与えられて、帰って参りました。 あーあやれやれ。更なる泥沼でございます。


人に見せる日記 目次
ホームページ
製作者=水のなおみ
All Right Reserved by Naomi Mizuno.