聞いた見た食った

第1回 つづき


ハゲタカ(上)
(講談社文庫)

ハゲタカ2(上)
(講談社文庫)
個人的に、小説の表紙デザインは
あまりかんばしくない、と思う。

 急ごしらえのプロジェクトルームに漂う埃っぽい空気とか、 サンデートイズがどういう性格の玩具メーカーなのかをほうふつとさせる「製品」の数々とか。 高校生だったあの娘が今やテレビキャスターという変遷を、違和感なく感じるメイクとか。 トリックはそこらじゅうに仕掛けられている。それも、一貫した世界観があってこそだ。
 この世界観こそが、真山仁原作 「ハゲタカ」「バイアウト(「ハゲタカU」に改題された)」 から引き継がれた、もしかしたら唯一の要素かもしれない。いまやよく知られたことではあるが、 ドラマ「ハゲタカ」は登場人物も登場企業もストーリーも原作とかなり違う。 それでも、ドラマが先にしろ原作が先にしろ、両作品に触れた人が「違うっ」と叫ぶことは あまりないのではないか。少なくともわたしはあまり違和感が無かった。大げさに言えば、 世界観の一致があるからこそ、ドラマ「ハゲタカ」は原作「ハゲタカ」を名乗れる。

 放送を終わった後も、わたしは度々「ハゲタカ」の世界に引き戻された。「ハゲタカ」は メディアミックスの成功例としても大きな存在ではないだろうか。予告編の作り方からして 半端ではなく、相当に力の入った番組であることが伝わってきた。 ホームページではリアルタイムで用語集などの情報が提供され、 視聴者からのメールが掲載され、ドラマ上のテレビ記者のデスクまで再現されている。 DVDが発売され、サウンドトラックも急遽発売が決まり、 一方で、ある意味内容を異にする原作が、ドラマだけでは満たされない好奇心を埋めてくれる。 で、ちゃんと着メロも用意されて、いまだにわたしの目覚まし音に設定されている。


ハゲタカ サントラ

 それはそうと、サウンドトラック(作曲:佐藤直紀) を聞いてみると、おそらく作曲作業は 原作をもとにされたのだろうという感じがする。というのも、一曲一曲のタイトルや、 結果としてドラマでは使われなかった曲の曲調から、原作とドラマではストーリー云々以上に 違う性格があることに気づかされたからだ。採用されなかった曲には都会的な疾走感のあるものが多い。 原作も経済小説でありながら、実は野性味と疾走感に満ちている。 ドラマでは疾走感はそぎ落とされ、その替わりに回顧シーンが多く人間味を強調している。
 毎回ドラマ冒頭で流れる「ハゲタカのテーマ」に関して言えば、映像が入り効果音が入って 非常に臨場感のあるオープニングになっていた。 曲だけを聴くと、都会の喧騒感を電子音の打ち込みで表現しつつも、原作で半ば神格化されている 猛禽類の雄大な視野のようなものが想起される。テレビを通して聞いたそれとは、印象が全く違う。 (実は着メロだけ聞いた段階で、譜面を起こしてピアノ譜を作ってみよう、という気になったのだが、 もとの曲の雄大さを聴いて諦めてしまった。)原曲の勇壮さは副旋律にかぶせられたホルン (多分ホルンだと思う)のたまものだろうか。今も繰り返し繰り返しテーマだけ聞いているのだが、 複雑な構造の曲ではない。それだけに音色の象徴性を感じる。商業音楽のひとつの手法だろうか。

 結局のところ、ドラマ「ハゲタカ」は視聴者だけではなく世界の専門家も引き付けたらしく、 数々の賞を受賞した。イタリア賞受賞を記念して、この12月22日から24日にアンコール放送が決まっている。 一見どころか何回でも見る価値のある作品だと思う。それから、願わくばホームページが 今のままで残ってくれることを。DVDだけの特典は「大木流経営論」をはじめ幾つかあるのだが、 HPならではの情報も実は多い。(大木昇三郎は架空の経営者であるからして本当に経営論が 展開されている訳ではない、念のため。)

 蛇足ではあるが、エンディングテーマにはエミリー・ブロンテの詩が使われている。 ホームページで引用されている和訳には(専門家ではないからはっきりと言いかねるが)、 なにか「?」という、妙な感じがすることを付け加えておく。

NHK土曜ドラマ「ハゲタカ」 公式ページ:http://www.nhk.or.jp/hagetaka/

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