そもそもの始まりは山下さんが書いた本でした。
山下さんは、もちろん世界的なジャズピアニストですが、 エッセイ、小説、はたまた絵本の文章まで書いてしまう マルチな文章家でもいらっしゃいます。
さて、私が中学生の頃の話ですが、その山下さんの2番目のエッセイ集である 「ピアニストを笑え」が「新潮文庫の100選」に入っていたことが あります。学校で配られたリーフレットには、確か小沢征爾の 「僕の音楽武者修行」なんかが一緒に並んでいたと思います。
私はと言えば、5才から習い始めたピアノがようやく面白くなり始めたのがその頃。 ところが、周辺のきちんとお稽古をしてきた子たちは既にショパンの 「革命のエチュード」かなんか格好良く弾いているのに、こちとらやっと 「ソナタ第1巻」に手が届いたばかり。小学生で2回引っ越ししている間に、 勉強の方はそうでも無かったのに、ピアノはかなり後れてしまったんですね。
しかも、音楽をやる上で致命的な欠点に気づいてしまった。つまり、 私はピアノを弾くにしろ喋るにしろ、人前で自分の感情を露吐することが 出来ないんです。これは今でもそうなんですが。だから、譜面通りに棒読み ならぬ棒弾きはできても、それ以上の表現ができない。
ともあれ、進路なんてものも目の前にちらつき出して、思春期のミミズはかなり 絶望的になってましたね。そういうときにピアニストヲ’笑エ’と言われれば、 これは当然読みに走ります。
結局「ピアニストを笑え」は若きミミズの悩みに応えてくれる種の本じゃ 無かったんですけど、元気が出たのは事実です。それよりも何よりも、この世に ジャズというジャンルの音楽がある、という認識は、私の場合この本から 始まるわけです。私がジャズを聞くときの基本姿勢は、この辺りで既に決まって いたのかもしれません。