岩泉狐狸妖怪伝

第三話 河童

 酒屋敷(さがやしぎ)のマサジじいさんが、まだ若かったころの話。

 ある新月の晩のこと。岩泉の知り合いに用があったマサジさんが鼠入川沿いの街道に出ようとしたところ、突然、正面から何者かが集団で砂を浴びせかけてきた。辺りが暗かったのと砂が目に入ったのとで確認はできなかったが、とても一人や二人の所業ではない。
 こりゃたまらん、と左へ行くと、今度はそちらから砂をかけられた。右に走っても同じことだった。
 結局どちらの方向へも進むことができず、マサジさんは後ずさりして家に戻らなければならなかった。

 岩泉まで行ったはずの夫が、あまりにも早く、しかも砂まみれで帰ったので、妻が訝しんで尋ねた。
「などしたの?岩泉さ行ぐんじゃながったのぉ?」
マサジさんの言うには、
「それがなぁ、町(まぢ)さ行ぐべえと思ったども、川(かあ)の手前(てめえ)で邪魔が入って、全然前に進めねぐなったんで、こりゃあ、淵(ふぢ)の河童(かあっぱ)のいだずらだべえど思って、今夜はどうせ行ぐに行げねえべえなぁど思ったんで帰って来たぁがぁ」


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最終更新日:2000年 8月16日(v1.01)