小説
2002. 1/ 8




春を待つ季節-前編-〜Side Stories From ClassMate2 #3〜


12/14(土)
 朝、看護婦さんが言っていた。今日は寒いから、あまり窓を開けないように、と。
だが、日課を変更するつもりはなかった。開けるな、と言われたわけではないのだから。
よろよろと、ベッドから下りてサンダルを履く。素足には、ひんやりと冷たい。
最近、ずっと変わらない天気。見上げ続ける青空は、今日も綺麗に晴れわたる。
少し古めかしい窓枠。血の気のない細い指が鍵を開け、窓を開けた。
今、外の木々を撫でていた北風は、真っ白い壁を伝い、小さな病室に舞い込んでくる。
まとめもしないで、垂らしてある髪。なびき、乱れるのを嫌がって、右手で押さえた。
入院中、伸ばしっぱなしの柔らかい栗毛。もしかしたら、唯一のとりえかもしれない。
ここは病室。そして、病人。華奢な身体、なんて言葉は綺麗すぎる気がしている。
窓枠を握る両手。冷たい感覚。冷たい両手。ごつごつと、女の子らしくない。
同居人の小鳥が、神経質そうに鳴き出した。部屋の空気は外気と同化してしまった。
実際、頬をさする冷たさが気持ちよかったのは、それほど長くはなかった。
だから、なにも言わないで、感情もないまま、そっと窓を閉めた。
北風と、乾いた空と、冷たすぎる手の平が似合うような、そんな季節…三年目。

12/15(日)
 今日もまた、ひとりきり。慣れ親しんだ、当たり前の状況。
二階の個室。あるのは寂しげな雨音だけ。白い病室に、心はない。
今の桜子に何ができるわけでもなく、ただ病室の窓から外を眺めるだけだった。
それですら、午後のほんのわずかな時間だけ。おとなしく寝ていないといけない病気。
大きな木の前の部屋。窓から少し離れたベッドの上。
上半身を起こして見える景色にも限界がある。
ここから見えるのは、少し寂しい葉。病院に出入りする人。道行く車。
午後の空にはお日様もなく、もっさりとしている灰色の雲で覆われてしまっている。
冬の雨降りは冷たくて、傘の隙間から白い息がときどき見える。
木に落ちて、葉で散らばる雨粒。そのたびに、水の音が耳に入る。小さな、息のよう。
…あれ?
たまに動く景色の中、目立つ傘。海老色の、大きめのサイズ。紳士向けかな?
病院の前で立ち止まり、傘の下、顔を上げた。少し濡れた八十八学園の制服。
…うづきちゃん…
友達。お芝居のように髪が揺れて、にっ、と笑った。スカートがひらひらした。
だから、ほほ笑んだ。久しぶりの笑顔。けれど、目尻と口もとが少しさみしげだった。

 「もーぉっ、なんでこんなに寒いのよぉ」
桜子の部屋に入るなり、うづきは叫んでしまった。まだ身体が震えているようだ。
それを見て、桜子は吹き出してしまった。うづきらしさに笑ってしまったのだ。
そしてまた、うづきも表情をくずした。この笑顔、可愛くて桜子は好きだった。
「うづきちゃん、久しぶりね」
「元気だった? またじとーっとしてたんじゃないでしょうねぇ」
「…うん。大丈夫」
「そう。それならよかった。急に寒くなったから、心配してたんだ」
じとー、って…そんなふうにはしてなかったけど。ちょっと苦笑いの桜子。
うづきは手にしていたカバンを壁ぎわにぽんと放ると、服についた水滴を軽くはらう。
湿った髪が肩にかかるのを嫌がって、右手で髪をぱさっとはらった。
セミロングより伸ばした、ちょっと茶色がかった髪の色も、うづきには馴染んでいる。
ふたりは小さい頃からの大の仲良し。幼稚園から中学校までずっといっしょだった。
高校だって、ふたりとも八十八学園に通う予定だったのに…桜子は入院してしまった。
けれど、ずっとずっとお見舞いに来てくれた。桜子の一番大切な、大好きな友達。
「ハンガー借りていい?」
「うん。そこの使って」
ベッドの上から赤いハンガーを指差すと、うづきはボレロを脱ぎながらそれを手にとった。
軽く手で雨粒を払い落として、濡れた制服をハンガーにかけた。
そして、窓際に置いてある鳥かごの方へ向かう。
「ターボは元気なの?」
うづきはのぞき込むように顔を近づける。中の小鳥のまぶたは重そうに下がっている。
明らかにお昼寝中。小さい身体を大きく上下させて、そんな仕種がなんともかわいい。
「うづきちゃんに会えないから、さみしそうにしてるけどね」
「うーん。恋人をほったらかしにしておくのはよくないか」
かごから目を離す。苦笑いして、ベッドに沿うように半周するうづき。
そんな友達を目で追いながら、桜子はにこにこしている。
なんだかんだ言っても、やっぱり面会は嬉しいもの。ましてや大の親友だから。
うづきがベッドの横の丸いすに座る。
だが、足もとが気になる様子。じっと靴を見る。
「どうしたの?」
「こんなにひどいとは思わなかった。脱いでもいいでしょ?」
うづきの足もとはびしょびしょだ。うんざりした表情でソックスまで脱いでしまった。
桜子の差し出したタオルで服を拭き、足を拭った。そして、いすの上であぐらをかく。
だから桜子は吹き出した。うづきは苦笑いする。
「笑い事じゃないよぉ。本当にびしょびしょなんだから」
「ごめんね。なんだか…うづきちゃんらしくて」
それが正直な心。一瞬見つめあって、ふたりで笑ってしまった。
いすの下に置いた靴、その上のソックス。床をじんわりと濡らしていた。

 「食べないの? おいしいよ」
「うん。熱いから、もうちょっと冷ましてから」
弾む声の桜子が両手で包むようにしているのは、うづきのお見舞いのピザまん。
持て余すように、少し黄色がかった生地をぼおっと見つめている。
「熱すぎるくらいがちょうどいいんだけど…ま、いっか」
こちらがぱくついているのは肉まんらしい。はふはふと、いかにも熱そうにして食べる。
断面図のように、半分になった所から湯気が立ち昇る。
「でも…うれしいな。こんな寒い日にわざわざ来てくれて」
桜子の目は楽しそうにうづきを見ている。
その視線に気がついたのか、口の中の物を飲み込んでから、なんとなく恥ずかしそうに話し出した。
「学校の帰り道だもん。わざわざなんて大げさよ」
とは言え、電車通学のうづきである。八十八駅を通り越して病院まで来てくれてるのだ。
おまけにお見舞いまで持ってきてくれる。それも…こんな雨の日に。
いすの上、うづきは最後の一口をぺろりと食べる。指先をぺろりとなめて、さも満足そうな顔をした。
そして、ようやく桜子の様子が違っている事に気がついた。
嬉しくて泣き出してしまいそうな桜子の雰囲気。そして、そんな表情。
「だーかーら、そういう顔するのやめなさいって」
「…うん」
「別にいやいや来ているわけじゃないんだから。せっかくだもん、笑っててよ」
「うづきちゃん…」
「なーによっ」
あぐらの上のスカートを押さえる。少し前かがみになって、うづきが苦笑いをした。
桜子も二度三度と目をこすってから、頬を緩めてなんとか自然の笑顔が出せた。
「ありがとう」
「…うんっ」
うづきが恥ずかしそうに、うなじのあたりをかいた。
桜子は手の中のお見舞いを一口食べた。
とっても温かくて、美味しかった。

 進路は短大。ただ推薦はとれなかったらしい。勉強が大変で遊ぶ暇がないとか。
大手塾の冬季講習を受講する事になったけど、学校よりも厳しそうだとか。
だから早く桜子に退院してもらって、あれやこれやと遊びに行きたいだとか。
それとバイト先の二つ年上の人がタイプらしくて、一生懸命アプローチするとか。
うづきなりに今を楽しんで悩んで、いろいろな話をした。それが目的なのかと思った。
けど、うづきの今日の一番の目的は。
「桜子に会いにきたんだよ」
「…いいよ、無理しなくても」
くすくすっと笑う。だから、うづきが不満そうに口を開いた。
「あー、冗談なんかじゃないんだよ。本当にそうなんだから…笑わないでよ」
真顔でそう言い切った友達が、桜子にはいとおしくてたまらなかった。

 「疲れちゃった?」
心配そうな表情でのぞき込まれては、桜子は素直にうなづくしかなかった。
雨のせいもあって、気がつかないうちに夕方になっていた。もう少ししたら夕食だ。
うづきとちょっとおしゃべりしただけだと思っていたのに…楽しい時間は短かすぎる。
「…うん。ごめんね」
無口になって、少しうつむいている桜子。申し訳なさそうに、短くそう言った。
上半身だけ起こしているけど、今はそれだってなんだかつらい。
おしゃべりするだけでも疲れる身体。病気のせいだと言っても…自分が嫌になる。
「いいの。無理言って押しかけてるの、私の方なんだから」
そろそろ帰る時、とうづきは判断した。長居して、気を使わせるわけにもいかなかった。
「さて、そろそろ私、帰るわ」
「…まだ、大丈夫だけど…」
「無理しないの。桜子と何年つきあってると思ってるのよ。顔見ればわかるわ」
正直、人恋しかった。まだうづきにいてほしかった。けど…これじゃあ無理だから。
うづきはいすの下に置いたソックスをはいた。
だが、乾いているはずもなくて、その嫌な感触に思わず顔をしかめてしまった。
その様子に、桜子は力ない笑顔を作る。
「…乾いてないんだ」
「ま、これならどのみち帰りもびしょびしょだもんね」
やけっぱちのように、うづきの楽しそうな声。桜子を見て、やっぱり楽しそうに笑う。
それに革靴を履くと、もう濡れていようが乾いていようが関係ないような感じだ。
いすから立ち上がり、ハンガーの制服を手にとった。袖を通して、くるんと回った。
「ちゃんと温かくして寝るんだよ。今夜、雪降るかもしれないって言うから…寒いぞ」
「…うづきちゃんもね」
「うん」
桜子の言葉にちょっと苦笑いしながら、床に寝ているかばんを手にした。
取っ手のところについている、かをる君とかじさんキーホルダーがちゃらんと跳ねた。
もう一度、桜子のベッド脇まで近寄ると、毛布の上にある桜子の手に手を重ねた。
「冬休みになると講習あるからあんまり来られないかも知れないけど…」
「…うん。でも今日はありがとう。楽しかった」
「また来るからね、桜子」
久しぶりの人のぬくもりが心地好かった。うづきの顔を見上げて、ほほ笑んでしまう。
桜子の手の甲、撫でるように動くうづきの指。名残惜しそうに、ゆっくり離れた。
「それじゃあ、またねっ!」
少しの間、雨音だけが部屋を支配していたが、それを振り払うように、うづきは大きな声を出した。
ドアの前で振り返ると、ばいばい、と手をひらひらとさせた。
「じゃあね、うづきちゃん」
桜子は小さく右手を振った。
さみしげな表情をしたのは、うづきが部屋から出ていってからだった。

12/21(土)
 桜子は外を見ていた。上半身を起こして、少し遠い窓越しに、前の道を見ていた。
今日が八十八学園の終業式だと、うづきが言っていた事を思い出した。
お昼にもなっていないのに、あの制服の女の子の集団が帰っていくのはそういう理由。
ゆっくりと歩いていく女の子たち。赤と黄のスカートが揺れるから、桜子の心も揺れる。
…いいなぁ。八十八学園の制服着られて…
八十八学園が第一志望だとうづきに話した時、からかうようによく言われたっけ。
「桜子は、あの制服着たいから八十八学園なんでしょ」
入学が決まって制服を作りに行った時。仕上がって受け取りに行った時。ハンガーに真新しい制服をかけた時。
あの時のときめきは今だって忘れていない。
だから、ここからあのチェックの柄を見るたびにあこがれたし、うらやましく思った。
そして、自分も着ていたはずなのに…そう思うと、くやしくて、悲しかった。
うづきが着ていたって嫉妬してしまう。何度も何度もやめようって思っても、だ。
…いやだな、こういうの…
だんだんと、女の子たちは視界から消えていく。
病院の一室からの、嫉妬心と自己嫌悪の混ざった視線なんてまったく気がつかないのだろう。
楽しげに話していたのは、これから始まる二週間の事だろうか。
明日から冬休みなのだから。何かを期待できる楽しいお休み。笑顔が多かったのも、それなら納得がいく。
けど、桜子には何の変化もない二週間。
昨日や今日と同じような日が続くだけの、つまらない、退屈な日々の連なりでしかない。
うづきが時々話してくれる学校の事。勉強や友達や行事や恋愛の事…悔しい、と思う。
もし病気にならなければ、入院さえしなければ、自分だって体験できた事なのだから。
…デートとかだって、したかったのに…
ちょっと唇を尖らせて、誰にともなくすねてみる。
今、前の道を行くのは、あの制服のカップル。手をつないでどこに行くのか、もちろん桜子の知るところではない。
…サンタさんでも…むりだもんね、そんなお願い。
クリスマスが近づいていることくらい、桜子にだってわかっている。
小児科の入院している子供たち。小さなツリーにあれこれ華やかな飾り付け。
桜子はその輪の中には入れなかった。看護婦に誘われても…ひとりを選んだ。
素直にはなれない。ツリーを見ると悲しくなるから。サンタさんは来てくれない。
いつまでも夢を見られるほど、病室は素敵な空間ではない。でも、だけど…
…ホワイトクリスマスにデート、なんてできたらいいのにな。
サンタさんが恋を持ってきてくれれば…ほんの少しでも夢を見せてくれるのなら…
だが、今年もまたこの病室で過ごすのだろう。ターボとふたりきりで外を眺めるのだろう。
どこからともなく聞こえてくる、クリスマスソングに瞳をくもらせながら。
…神様、お願いします。どうか…しばしの幸せを下さい。
くせになっているお祈り。どうか…お願いします。

12/22(日)
 ぽかんと窓の外を見ていた。
疲れているからもう横になっているけど、さっきの枝はなんとか見える。
もっとも、この部屋の明かりだけが頼りだから、ぼんやりと薄暗い。
こんな季節だけに、日が暮れるのは早い。外はもう、街路灯の明かりが目立つくらい。
部屋の空気がどこか冷たかった。ちょっと前まで窓を開け放っていたからだ。
…りゅうのすけ、君…だったよね。
独り言をつぶやけないほど疲れてはいたけれど、検査の後のようなだるさとは違う。
心地よい疲れ、とでも言うのだろうか。面会の後のそれともなんとなく違っていた。
桜子は真っ白な天井に顔を戻すと、眠るように目を閉じた。
何とかあの男の子の顔を思い出す。木の幹と枝の間、器用にちょこんと座っている姿。
おしゃべりで、面白そうで、髪を伸ばした姿がちょっとかっこいい人。そして。
…とっても、変な人。
ぷぷっ、と口元に手を当てて、吹き出すように笑ってしまう。
ここから外を見ていた桜子と、病院前の道を歩いていた彼。
それだけならどおって事なかったのに。たまたま目があっちゃっただけなのに…
「気になる事があったら、ほおっておけない性格なんだ」
なんて言いながら、桜子をナンパしようとした。
それだけだって変な事なのに、病院の窓越し、しかも二階の病室まで木によじ登ってやって来たのだからたまらない。
桜子は毛布を鼻まで上げると、もう一度笑い出す。ほっぺたがちょっと痛い。
りゅうのすけは時々吹く風に身体をぶるるっと震わせたり、大きなくしゃみをしてみたり、
バランスを崩して危うく落ちそうになったり。
そこまでして桜子の事を聞き出そうとする姿が、おかしいようなうれしいような。
普通に考えればただの危ない人なのだろうけど…不思議とそうとは思えなかった。
まだ、名前しか知らないけれど。どういう人かぜんぜん知らないけれど。
…明日来てくれれば、少しはわかるかもね。
本気だったか、軽い気持ちだったのか、桜子にはわからない。けど、約束してくれた。
また明日遊びに来てくれる、と。
その一言を何度も何度も反すうしては、祈るような気持ちにさせられる。
退屈な入院に訪れた、ちょっと変な出来事。桜子には大きな事件。
久しぶりにどきどきさせられる。
…でも…本当に来てくれるのかな。私の所になんて…来てくれるのかな?
入院中の、面白くも可愛くもない女の子に会いになんて…来てくれないよね…
桜子はちょっと枕をずらして、頭を起こせるようにする。
視線の先に、小さな鳥かごと真っ白な小鳥がいる。
止まり木の上で、小鳥もまた桜子をじっと見ている。
「ねぇ、ターボ。彼…明日も来てくれるかな」
ぴー、と桜子の友達は鳴いた。自然と、優しい笑みがもれた。

12/23(祝)
 なんとなく落ち着かない。早めの昼食のあと、思わず自分の顔を鏡で見てしまった。
ほんのりと染まっている頬。意味もなく耳に触れてみれば、なんとも熱い感じがする。
熱があるわけでもなく、体調が悪いわけでもない。となれば、理由はひとつ。
…来てなんて、くれないよ。
頭で思う事。けど、心がそれを嫌がる。顔を思い出し、声を再生して、彼を期待する。
だから、カーテンをきちんとまとめ直してみたり、花瓶の花を生けなおしてみたり、
小綺麗な部屋を片づけてみたり、ターボの鳥かごを置く位置を考えてみたりしていた。
そして。昨日のように、ベッドの上から外の景色を見る。
空は青かった。浮いている雲は白かった。雨は降らないだろう。
でも、それよりも。
両手をもじもじとさせる。今はただ、待つ事しかできない。それだって…わからないのに。
考えてみれば、軽そうな男の子。帰り際のあいさつ程度の言葉だったのかもしれない。
約束だなんて思っているの、たぶん自分だけなんだろう、と寂しくなる。
…なのに、期待してるんだ。来てくれる事。
昨日、外を見ている時間を彼に教えた。来てくれるとしたら、おそらくその時間内。
壁の時計を見る。まだまだそんな時間にはならないのに…この窓から彼を探す。
病院の入り口、前の道。もちろん、いないものはいない。
だから、ため息がでるけれど。
…こんなに楽しみにしているんだよ。来てくれなかったら…
どうしよう、なんて考えながら、桜子は窓の外を見ていた。ずっと、見ていた。

 トイレとお風呂は共用だから、使う時には自分から動かなくてはいけない。
おとなしく寝ていないといけない、なんて言ったところで、こればかりはしかたない。
扉をゆっくりと開けて、まるで悪い事をしたかのように、そろりそろりと出ていく。
恥ずかしげに、うつむき気味に廊下に出れば、幸い誰がいるわけでもない。
もう面会の時間は終わっているし、夕食の食器も片付いている。小さくほっと一息つく。
長い病院生活でも、こればっかりは慣れない。桜子とて、ごく普通の女の子なのだから。
ほてった頬を感じながら、自分の部屋までの長くもなく短くもない道のりを、ゆっくりと歩く。
彼の事ばかり、思い出しながら。
昨日と同じ時間に、昨日と同じように器用に木に登って、枝に座るりゅうのすけ。
大人にも見え、子供のような雰囲気の彼は、桜子と同い年らしい。
そして、桜子が入院しなければ通っていた、八十八学園の生徒だとも言っていた。
つまり、同級生なのだ。
ほんのちょっとした事。聞けば話してくれるような事。
だけど、そんな些細な事がわかっただけでも桜子には嬉しかった。
約束を守って来てくれた事も嬉しかった。それに。
…長い髪、好きなんだって。
思わず立ち止まる。
左肩に垂れた、複雑に編んだ髪にそっと手をやり、撫でる。
そして目を細めて、下を向いて、本当に幸せそうな笑みをこぼす。
彼が帰ってから、その言葉を何度も何度も思い出してはそんな事を繰り返していた。
自分の一部でも、好き、って言ってくれたから、それだけで心が幸せいっぱいになる。
今までになかった事。
コンプレックスばかりだったから、うそでも嬉しくてしかたない。
ましてや…相手は男の子。彼の一言で、桜子の心はこんなにも弾んでしまった。
「何かいい事でもあったの、桜子ちゃん」
「きゃっ!」
突然背中から声がかかった。とっさの事に驚いてしまう。体がぴくっと反応した。
前かがみに、まるで腰が抜けたように、しゃがみ込んでしまったのだ。
「さ、桜子ちゃん…驚かせちゃった?」
驚いたのは声をかけた方もいっしょ。桜子の前にしゃがむと、心配そうな表情で顔をのぞき込む。
桜子がゆっくりと顔を上げれば、そこには担当の看護婦さんだった。
「いえ…」
「大丈夫? 立てる?」
自分だけの世界から引き戻されたからなのか、桜子は不満そうで、瞳が冷たい。
看護婦さんが先に立ち上がって、右手だけ差し出した。それに素直に助けてもらう。
左手にはいっぱいの書類を抱えた白衣の天使。
はにかんだ表情は驚かしてしまった照れ隠しなのだろうか。
ただ、言い訳は照れ隠しではないようだ。いかにも楽しそうな声。
「ごめんね。驚かすつもりはなかったの。ただ、なにか嬉しそうだったから」
「そんな…別になにも…」
「そのわりには、地に足がついていない、って感じね」
嬉しそうな理由を言いたくなるような、くすぐりの笑顔を見せて、桜子の言葉を待つ。
真横に並ぶと、桜子の背が低いせいか、なんとなく見下ろすような感じになる。
だが、話し出そうともしないで、ゆっくりとゆっくりと前に進みだす桜子。
真正面を見据えたままなのは、隣を同じ速さで歩く看護婦さんに、表情を悟られたくないため。
しばらく歩き、その間の沈黙の後、ようやく一言。
「そうですか」
「そうよ。なんていうかな。そうねぇ…そう、好きな人の事考えているような感じね」
「そんな…」
看護婦さんの言葉に驚いて、見上げて、ほほ笑みにまた驚いて、思わずうつむく。
当たらずとて遠からず。あんまり突っ込まないでほしい。それでなくても話したい。
りゅうのすけ君、というおかしな男の子の事。自分をかまってくれる彼の事。
けど、病室の窓越しからなんて言えるわけがない。ましてや看護婦さんになんて…
…だいたい、好きだなんて、私…そんな事思ってなんて…
黙ってしまった桜子に、先輩からの助言のように言葉を発した。
「ね、知ってる? 病は気から、って言葉。そういう事だっていいお薬になるのよ。
心を満たしてくれるもの。大切にね、応援しているから」
…もし病院の外の木に登って会いに来るような男の子でも、応援してくれるの?
そんな事を思い、彼の事を考えたら耳まで真っ赤になった。顔なんて上げれなくなった。
うらやましそうに、看護婦さんがふふっと笑った。

12/24(火)
 ふぁぁー、と大きなあくびを手で隠す。しょぼしょぼしている目を何度かこする。
いつもなら、微熱のようにだるいのだけれども…不思議と身体の調子はよさそう。
伸びをしながら見る窓。真っ白いカーテンを、純白の雪のように光らせている朝日。
普段なら、寝る時ですらカーテンなんてしないのだが、看護婦さんが閉めたようだ。
おそらく、夜の冷え込みが厳しくて、気をきかせてくれたのだろう。
今日もどうやら晴天らしい。だけど、それ以上頭は使わない。まどろみが好きだから。
両手は、ももにかかっている毛布の上で重ねて。
視線がターボの動きを追っている。
何か気になるのだろうか。きょろきょろと、忙しく首を動かす小鳥。見つめる桜子。
「おはよう、ターボ」
しばらくして、思い出したように桜子が声をかけた。あくび混じりの、のんきな声で。
だから、ターボは反応した。桜子に正面を向けると、ぴー、と元気な鳴き声を聞かせる。
そして桜子の顔をじっと見つめた。首を傾けているのが、質問しているみたい。
「ねぇ、ターボ。昨日ね、変な夢を見たんだ」
鳴き声にほほ笑み、今度はうつむいた。恥ずかしそうに両手をもじもじとさせる。
「りゅうのすけ君と…雪の中でデートするの。どうしてそんな夢を見たのかな」
真っ赤になってターボを見つめても、つぶらな瞳で見つめかえされるだけ。
まだ、二回しか会っていない人。素性もなにも知らない、怪しくておかしい人なのに…
いきなりふたりきり。しかも雪の中でデートだなんて、彼が知ったらどう思うのだろう。
それ以前に…なんでりゅうのすけが夢に出てくるのか、それがたまらなく不思議だった。
…それだけ、インパクトのある人なんだよね、きっと。
桜子は口元を隠して、くすくすと笑った。
木を登り終えた時の彼の顔をふと思い出した。
落ち着いてから、桜子はふらふらと立ち上がった。冷たいサンダルをゆっくりとはいた。
そして、お日様の光を遮るカーテンをスライドさせる。
目の前が、一瞬真っ白くなった。
柔らかい朝日。暖かくて、気持ちいい光。部屋中を包み込み、桜子を抱きしめる。
外は、青い空が広がっていた。
だから、桜子はたまらなくなって窓を開けた。
冷たい空気が肌に触れる。目を細め、北風の愛撫を優しく感じ、心地好さを覚えた。
この天気では降りそうにない。みんなが雪を望む日、だけれども…
「今日も待ってるからね、りゅうのすけ君」
枝を見つめ、つぶやいた。まだ二回しか会った事のない人の顔を思い浮かべながら。

 一階の待合室。小さなクリスマスツリー。入院している子供たちの、夢の集まり。
回りの常夜灯と真上の非常灯にライトアップされてはいるが、どこか物悲しい。
見上げるほど大きくはないけれど、てっぺんの星までは手を伸ばしても届かないツリー。
ちょうど肩の高さににある、雪の代わりの脱脂綿。そんなところはいかにも病院らしい。
折り紙で作った飾りは、まるで七夕のそれのようで、桜子はちょっと笑ってしまった。
…私って…あまのじゃくなのかな…
ついさっきまで、ささやかなパーティが行われていたが、今ここにいるのは桜子だけ。
毎年恒例のクリスマス会。
今年も桜子は参加しなかった。ターボとすごす事を選んだ。
なのに、こうして消灯時間をすぎてから、未練たらしくツリーだけを見に来る。
人の集まりは好きではない。人込みとか、雑踏とか…そういうパーティもそうだ。
なのに、こうしてこの木を見に来る。信じていないサンタを信じてここに来る。
しばらく飾りを眺めていたが、足が疲れていたから、後ろの長椅子に腰を下ろした。
ビニールのカバーが、しんとした待合室にぎゅっぎゅっ、と鳴り響く。
「メリークリスマス、だって…」
午後。約束を守って、また来てくれた彼。そして、あいさつ代わりの一言がそれ。
その一言にうつむいてしまった桜子だったから、彼もそれ以上は触れなかったけど。
深い意味があるわけではないのだろう。普通の人には楽しいクリスマスイブなのだ。
なのに…わざわざ木に上り、わずかな時間だけおしゃべりして、彼は帰っていった。
今日、いっしょに過ごしてくれるお友達なんて、たくさんいそうなのに…どうして?
ましてや女の子にもてそうな彼。病院の女の子をかまっている暇なんてなさそうなのに。
やっぱり、同情なのだろうか。それでもいい。
だからこそ、今夜どう過ごすのか気になるし…あんな夢を見たのだと思う。
本当は…今夜も来てほしかった。ちょっとでもいいから、いっしょに過ごしてほしかった。
彼となら、楽しく過ごせそうだから。
ツリーを見つめたまま桜子は思い出し、大きく息をはいた。頬がなぜか緩んだ。
「恋人なんていないよ」
不満そうにそう言ったりゅうのすけ。
けど、桜子は素直にほっとしたし…嬉しかった。
それ以上はお願いできなかったけれど、今こうしてひとりぼっちだけれども。
目の前のツリーをぼんやりと眺めながら、彼の事を思う。
今、本当に何をしてるのかな?
こういうお祭りの日を、ひとりで過ごすようなタイプじゃなさそうだし…
やっぱり、友達と外で大騒ぎするのだろうか。誰かの家のパーティに出席するのかな。
彼の事だから、きっと盛り上げ役なんだろう。とっても楽しそうな感じがする。
今度、そんなりゅうのすけを見てみたい。ふと、そう思う。
元気に…なれたら。
「サンタさん。りゅうのすけ君とデートとか…だめですか?」
見上げたツリーのてっぺんは金色の星。
切実な瞳に、ほんのわずかに輝いたようだった。

12/25(水)
 朝の景色が少し変わった。
南の住宅街からやってくる、いろいろな制服の同い年の人たちがめっきり減っていた。
つまり、冬休み、ということだ。彼が来てくれるのだって、そのおかげなのだ。
今ひとり、赤と黄のチェックのスカートを弾ませて病院前の道を行く。
小さなスポーツバックを肩にかけた、小柄の、ショートカットの女の子。部活だろうか。
ランニングに近いスピードで、桜子の視界からすぐに消え去ってしまった。
…いいなぁ、楽しそうで。
何度考えた事だろう。人を羨み、自分を妬む。病気、病院、病室…ほとんど寝たきり。
自分に自信がない。彼に見られている時もそう。もじもじと素肌を隠す。
白すぎて、細すぎて、冷たすぎる指。ごつごつした手の平。あまり見せたくはない。
どう思われているのか、なんて事を考える。
そして…思いつくのは悪い事柄ばかり。
褒められたのは長い髪だけ。もしかしたら、それだってお世事かもしれなかった。
女の子っぽくない。かわいくない。面白くもない。普通じゃない…ただいるだけ。
ちょっとでも心にすきがあると、そんな事ばかり考えてしまう。
…でも、少しでも…普通の女の子みたいになりたい。彼に…好かれたい。
最近はそう思えるようになった。だから。
「最近、ごはん残さないようになったのね。先生も喜んでたわよ」
そう言って、看護婦さんが笑ってくれる。
なんだか恥ずかしくて、桜子は頬を赤らめた。
「ちゃんと食べて、ちゃんと寝てればすぐによくなるわ」
何度も聞かされた台詞。
慰めにもならないが、今の桜子には本当にどうでもよかった。
そんな事よりも、ひとつだけ聞きたい事があったから。
桜子はベッドの上で上半身を起こして、最後の準備をしている看護婦さんを目で追った。
朝の日課、検診の準備。
脈を調べ、体温を計る。異常がないか尋ねて調べる。
「あの…」
桜子は渡された体温計をわきの下に埋めながら声を出した。かじかみそうな、小さな声。
最後はいつも体温を調べる。
担当の看護婦さんは、記録用紙に今までの結果を書いている途中だった。
すっと筆を止め、桜子の言葉を待った。
「なーに、桜子ちゃん」
「あの…最近、太ったように見えますか?」
「太った、っていうよりも…健康的になってきたわよ」
天使の笑顔。少し考えた言葉。
だが、それを選んだ隙間にうそはない。素直な意見だ。
しかし、桜子はうそだと思ったのか、なんだか不満そうな表情をしている。
心外なのは看護婦さん。もっとも、桜子の性格も知っているから理由だって言う。
「本当よ。前よりも明るくなったし…元気になったって、自分で思わない?」
腰をかがめ、桜子の視線での会話。いままでより、積極的な桜子に驚いているように。
「…わからない」
小さく首を振ったのは、本当にわからなかったから。
口元の手が、ももの上に戻った。
…だったら、もっとお話したいのに、もっと顔を見ていたいのに…なにも変わってない。
実感がないから、桜子も戸惑う。
うつむき加減に、さみしく輝く瞳。すぼめた両手。
だから、看護婦さんはしゃがみこんだ。
桜子の頭の位置より、もっと下から見上げて。
「私にはね、桜子ちゃんが元気になってきてる、ってわかるの」
「…どうして?」
視線が重なる。桜子は半信半疑の表情。
白衣の天使、くすっと笑い、柔らかい。
「笑顔が多くなった。とっても可愛い笑顔、見せているじゃない」
ほほ笑んだままそんな事を言ってのける。
真剣なまなざしで、真剣に答えてくれている。
だから、うつむいている意味も少し変わって、元気になった理由が表情に出る。
「女の子っぽくなってきてるもの。元気になってきた証拠よ」
…見透かされているのかな。
天使の一言一言が、桜子の心をくすぐりつづける。
どこかむずがゆく、思わず顔を崩してしまう。うれしさは隠せない。
そんな様子を嬉しそうに見ていた看護婦さん。
だから、ちょっとさぐりをいれる。
今までと違う雰囲気。受け持ちの患者さんの様子がおかしければ気にもなるもの。
「やっぱり…気になる人でもできたのかな?」
「ち、違いますっ! そんな人なんて…」
驚いたように、にらむように視線を交わす。
だが、どもってしまっては迫力半減。
困ったようにターボを見て、看護婦さんとは正反対、窓の方を向いてしまった。
「そう。思い違いならごめんね。それじゃ、体温計貸して」
謝るような口調でそう言った。そして、看護婦さんはすっと立ち上がる。
とりあえず、思い違いではないのだろう。
相手は気になるけれど、桜子の個人的な事。あまり深くまで追及するつもりもなかった。
そのうち、顔を見せるだろうし。
「はいっ!」
そんな雰囲気を感じたからか、むっとして体温計を突き出すと、また窓の外を見る。
苦笑いの看護婦さん。数値を読み取り、記録用紙に書き込んだ。
そして、言った。
「この調子ならね、すぐに退院できるようになるわ。今日も異常なかったし」
看護婦さんの、記録用紙を抱き込んだポーズ。どうやらくせになっているらしい。
また恥ずかしそうにしている桜子の耳もとへ唇を近づけて、小さくささやいた。
「とりあえず、がんばってね」
「あ…ありがとうございます」
「それじゃあ、お大事に」
ウインクひとつ、看護婦さんは笑顔を残して部屋を出ていった。
ゆっくり閉じる扉。のんびり顔を動かして、窓の外。
北風があの枝の葉を揺らしていた。
…今日は…どんなお話してくれるのかな。
元気になってきていたのは、桜子しか知らない薬のおかげのようだ。

12/26(木)
 生活が規則正しいせいか、何をするにも時間どおり。
夕食の食器を返して、顔を洗って歯を磨いて、いつもはそのまま戻るだけ。
けど、今日はほんの少しだけ遠出をして、人気のない、同じ階の待合室へ。
南向きのちょっと大きな部屋は、今は緑色の非常灯がぼんやりしている。
縦三列に並んだ黒い長椅子。どこか古めかしくて懐かしい匂いのするテレビは、今はついていない。
申し訳程度の喫煙コーナー。小さいわりには重そうな灰皿がぽつんと立っている。
でも、桜子は興味を示さなかった。見たいのは、そんなものではない。
ゆっくりと、暗やみに近づいていく。大きな窓ガラスに、自分の姿が映る。
薄暗い待合室に、まるで幽霊のような薄さで。
小さくて、病的に細くて、ぜんぜん女の子らしくない身体。今日は特に顔色も悪い。
好きでない。自分を好きだなんて絶対に言えない。だから…人にも好かれない。
晴れない心に、雲ひとつない夜空。
真っ暗で、明かりがなければ溶けていけるのに…
黒いショールを左手で押さえ、右手は冷たい窓ガラス。生きている証。指先の感覚。
色白の、ちょっとでも力を入れられたら折れてしまいそうなほど細い指。
自分が普通でない事を実感させられる、たくさんの事柄のひとつ。
女の子らしくないひとつ。
右手を見て、今度は空を見上げた。
白とも青ともわからない色を発する星。その上に手の平をかざし、力なく握る。遠い遠い星。
なんとかつかめたら…いいのにな…
「りゅうのすけ君…」
つぶやいたのは、遠すぎる人の名前。
もしかしたら、あの星よりも遠い遠い位置にいる人かもしれない。
木の枝の上と、病室のベッド。その間には天の川。どうしても渡れない、広くて深い川。
涙がじわりとにじんでくる。今日の彼、思い出しては切なくなる。
ちょっとした事を尋ねた時の彼の返事。その言葉。
「同情なんかで来てるんじゃないよ!」
まだはっきりと覚えている。彼の真剣な、怒った顔。
いつもの優しさなんてうそのような声。あの声は…きっと本気だった。
あんな表情を見せる人だなんて知らなかった。
いつも来てくれたのは同情なんかじゃない。
それはすごく嬉しかったけど…まるで喧嘩別れのようで、それが辛かった。
謝って、すぐに許してくれたけど。また明日、来てくれるって約束してくれたけど。
大きく息をはく。
ガラスが白く曇り、すぐさま闇に消えていく。
…この気持ちも消えていけばいいのに…
桜子は窓ガラスから離れると、後ろの長椅子に腰掛けた。
ちょこんと、椅子の大きさに似合わないほど小さな身体。
心も小さくて、大きな不安で潰れてしまいそう。
八十八学園の三年生。なぜか木登りが上手な人。器用な人。お話が上手な人。
だから、すごく面白い人。きちんと約束を守る人。そして…とても優しい人。
だが、それ以外の事を…普段着の彼を、桜子は何も知らない事に気がついた。
待合室のはじっこにある緑色の公衆電話。
けれど、彼の家の電話番号なんて知らない。
彼の家がどこにあるのかなんて当然わからない。
来てくれなければ会えない人。
「りゅうのすけ君…来てくれるよね」
同情でないのなら、本当に私に会いに来てくれるのなら…約束、守ってくれるよね。
椅子から見上げた夜空。一番明るい星に祈りを込めて、両手の指を重ね合わせた。
今はただ、彼の言葉を信じて、祈る事くらいしかできないから。
…信じてるから、ね。

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