「冬の夜には、春を待ちながら交わされた、幾つもの言葉が舞い降りてきます。」 弦楽器を弾く手はそのままに、半端な形の月を見上げながら、娘は少年に教えました。 「言葉が、舞い降りてくる……?」 ぼんやりと、娘の言葉を繰り返すように問いかえす少年。 「ええ。音を失って結晶になって……。」 微かなうなずきと一緒に、娘の黒髪がさらりと揺れました。 「降り積もった言葉に込められた想いは、生まれた大地へと還さねばなりません。」 ぽろん。 娘の指が、銀色の弦をつまびく音。 ぽとん。 何処かで、大地へと還ってゆく、想いひとしずく。 それっきり、少年も娘も何も言わず、ただ二つの調べだけが丘に流れていました。 |