A Winter Book






 「そう言えば、最近わたしもよく聞くよ、その音。」
 少年の話に、ユキノは小首をかしげて答えました。



 暖炉の柔らかな灯に外の夜気から護られながら、体を温める香草のお茶をのみながら。

 眠くなるまで、二人でとりとめもない話を続けるひととき。


 それは、秋の終わりと共にユキノという少女が少年の家に来るようになってから、
冬の間、夜毎に訪れる少年の日常の時間となっていました。


 やがて春が迎えに来て、ユキノが北へと帰って行くまで。



 そんないつもの冬の夜更けに、たまたま少年はユキノに、月の夜に聞こえる調べのことを
話したのでした。


 「ほんとう?やっぱり、月の出てる夜に?」

 少年は驚いて聞き直しました。何しろ少年の中では、浅い眠りの中で何度も見る夢か、
それとも空耳かだろうと思いこんでいたのですから。


 「うん……わたし、寒くて時々目がさめるでしょ?その時にたまに聞えてくるの。
  雪の降っていない夜。……多分、月が出ている時だと思う。」

 ちょっと上を見上げて記憶を辿りながら、ユキノは答えました。


 「そっか、ユキノにも聞えるんだ……。いったい何の音なんだろう?」
 窓枠に降りて溶ける雪を見つめながら、そっともれる少年のつぶやき。

 暖炉の炭が、ぱちりとはぜる音。


 「じゃあ、今度聞えたら探してみない?」
 そんな少年を見て、ユキノはちょっと悪戯っぽく笑いながらこう言ったのでした。










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