A Winter Book






 凍てつくほど澄みわたる夜天の群青は、絹の様に薄く覆う雲に溶けて、微かににじんでいました。

 通り過ぎる夜風につられて流れるその薄雲を、ぼんやりとした頂きの月が照らして、地上に幻燈の
様な影を落としています。


 「ユキノ、本当に大丈夫?」

 その夜風にさらされた、少女の白い肩と背中があまりにも寒そうで、少年は思わずたずねました。

 「平気よ、このくらい。それよりはやく音を追いかけなきゃ。」

 答えて、ユキノはふっと瞳を閉じました。



 一瞬、夜風に混じって、樹の葉が揺れる様な、柔らかい布が擦れる様な音。

 少女が再び瞳をあけた時、そのか細い肩からは、大きな翼が生えていました。

 夜に月の光に誘われてひっそりと咲く花の様に、積もった雪よりも白くて、静かな翼。



 「お待たせ。急ごう!」

 その翼でふわりと空気に浮く、雪待鳥の少女の小さな体。



 雪待鳥達は、もともとは少年のいるこの街よりも遥か北の彼方の森に住んでいます。
 寒さに弱い彼らは、故郷に冬が訪れて雪が舞い始めると、南の街へと旅してくるのです。

 暖かい灯の元で、再び森が色づく春を待つために。


 その冬の初雪とともに舞い降りてくる民、だから雪待鳥と呼ばれているのです。

 そしてここ数年、ユキノは雪の訪れとともに、北の国からその翼で少年の住む街にやってきて、
 少年と二人で永い冬を過ごしているのでした。










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