ミチル、と呼びかけて顔をあげると、彼女はいつの間にか、ぽん、ぽんと円い明かり
を燈す月読草の花達の中心に立っていました。
地上に浮かぶおつきさまのスポットライトを浴びた彼女の姿は、まるでまっすぐにそ
の茎を伸ばして、見えないおつきさまからのパルスを受け取るちいさな花のように、り
りしくて綺麗でした。
「ねえ、ちーちゃん。わたし、うたうたいになりたいんだ。」
無数のやわらかな黄色い光をその黒い瞳に映して、彼女にしては珍しく、すこしはに
かんで、ミチルは私にうちあけました。
いつものミチルらしい、のびやかで力強い声で。
「見えなくても、わたしのこと、ずっとその星間ラジオで聴き続けて。いつかきっと、
本当のラジオの電波に乗せて、わたしのうた、ちーちゃんに届けるから。」
まるで、見えなくてもおつきさまが輝いてることを確信している、花のように。
「……わかった。私、待ってる。ずっとミチルのパルスを聴き続けて、待ってる。」
やっと私は、弱々しくも微笑むことができて、ぽつりと応えました。
まだ、ミチルや月読草のように強くなれるかは、わからないけれど。
「約束、だよ。」
そんな私に、つややかな黒髪を揺らしながら微笑んでから、すうと息を吸って。
ミチルは、月読草のスポットライトを浴びて、澄みきった高い声でうたをうたいまし
た。
まるで、遥かな高みにあるおつきさまへと、返信を送るように。
いつか、もう一度おつきさまに届いて、出逢えるように。
心はまわる お月さま
だから 見えなくなっても 心配しないでいい
時がめぐれば また輝きがかえるよ
きのう やさしく笑っていた
彼の三日月のトゲが きみを傷つける きょう
夜のいたずらだよ 背中を向けないで
ROUND ROUND 長い時が
ROUND ROUND かかるかも知れない
だけど 見えなくても 満月の道は
あの頃のように ここにいつもあるのさ
どんなかたちをしていても
月はいつも後ろに 影をだいてる
さあ 時の腕にもたれ おやすみ もう少し
ROUND ROUND 無理をせずに
ROUND ROUND だけど逃げないで
あしたは 顔を上げて
本当のきみが 隠れてる月のかたちを きっと見つける
ROUND ROUND 長い時が
ROUND ROUND かかるかも知れない
だけど 見えなくても 満月の道は
あの頃のように ここにいつもあるのさ
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