螺旋の樹の物語 Next trains depart for

One/カナリヤ


                                              
 家の中は、ただ一つを除いて、そのままにしておいた。

 テーブルの上に、いつ帰ってきてもすぐ飲める様に揃えておいた、ポット、カップ、
乾燥した野草の一式を除いて。


 その野草の飲み物を最後に一杯分いれて、自分で味わう。

 ほのかな香りとほっとする味に包まれながら、ふとあの二人のことを想う。

 自分が必死に師匠にしがみついていた時、静かに手を握っていた二人のことを。


「……きっと、だいじょうぶ、だよね。」



  雲は往く 空の果て
  遥かな記憶をさまよう

  あの日に誘うよ
  あの日に誘うよ



 家の扉をそっと閉めて、今は閉じたままの金属の小箱を片手に抱える。

「今度は、苦労しないで済むように、私が先に歌を集めといてあげるからねっ。」

 胸の内に響く、大切な歌声にむけてそっと呟く。

「……だから、師匠、はやく帰ってきてね。」


 そして、高らかに歌いながら、小人の娘は走り始める。
 沢山の歌を聴いて、小人の娘だけの歌を奏でながら。


 この世界にずっとひかれた、娘自身のレールの上を旅するために。



  失くしたものを探しに行くよ
  錆びた時計の針に触れても

  指の隙間に確かめた 穏やかな日々
  夢に咲く花のように淡くはかなく

  遥かな記憶を
  あの日に誘うよ
  あの日に誘うよ
  あの日に誘うよ



 オルゴオルのぜんまいの最後の一巻きが、娘の手の中で、カチリ、と音を奏でた。





挿入詞:『One』/遊佐未森 より
作詞:工藤順子 作曲:外間隆史

挿入詞:『カナリヤ』/遊佐未森 より
作詞・作曲:外間隆史


…… To Next Station......





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