「もっと、ゆっくりしてゆけばいいのに。」 やがて、広場の音楽も止んで、月祭りの夜も終わりの時を迎えました。 「だって、私は『機械技師』だから。世界中の機械の歌を聴きにいかなくちゃ。」 そう言って、娘は少し首をかしげて、ふわりと笑いました。 でも、その笑顔が微かに何処か寂しそうに、女の子には思えてしまうのでした。 「あの子を見せてくれた、お礼に。」 そう言って、娘はそっと、小さな水色の金属のプレート手渡しました。 「これと同じ『機械』があるって聞いて、ここまで歩いてきたの。」 「わぁ……!」 プレートを開いてあふれた光を見て、女の子は歓声をあげました。 数多の光で描かれた、立体の絵。 その絵には、半円球の天井に星を光を燈す、双つの球をもった『機械』の姿が描かれ ていたのでした。 たくさんの、たくさんの星の輝きをその宇宙に織り込んで。 「きっと、この絵を描いた人も、自分だけの星空作るのが好きだったんでしょうね。」 そう言って、柔らかい微笑みを残して、祭りの名残の夜に歩いてゆく娘。 「待ってください。お忘れものですよっ。」 そんな娘を、慌てて女の子は呼び止めました。 「はい。これ、あなたのでしょ?私、織る数を間違えたことなんてないんだから。」 最後までお客さんが取りにこなかった、瑠璃色の星の織物を、そっと手渡して。 「私に……?」 「だって、今日、あなたに会えたから。」 不思議そうな顔の娘に、女の子は、そっと、さっきの質問の答えを教えるのでした。 「だから、明日はもう充分に幸せに決まってるんです。」 「ありがとう。」 今度は嬉しそうな笑顔で、女の子の小さな宇宙を、不思議な白いコートに纏って。 『機械技師』の娘は、さっきの歌を口ずさみながら、また何処かに歩いてゆきました。 「機械」達の歌を聴くために。 川面はケセラセラ まわるる 太陽 きっと きっと あさっても しあわせ それは、いつもとは違う、二度目の月祭りの日のこと。 だけど、いつもと同じ、幸せなある日のこと、でした。 Fin. 挿入詞:『Tears』/zabadak 作詞:杉林 恭雄 作曲:吉良 知彦 『星狩り』/zabadak 作詞:覚 和歌子 作曲:上野 洋子 |