数時間後、青年は旅の支度をして、背に古いギターを背負い、のんびり
と歩いて故郷へ向かっていた。

 ときたま吹く優しい風、ぽかぽかと照らす柔らかい光が心地よい。色と
りどりの草花、動きだしたせせらぎの流れ、蘇った若い森が旅路を彩る。                  


 木漏れ日のあたる小川の傍に座って、少し休んだ。遠くを、起きたばか
りの小さな動物たちが追い駆けっこをしている。   



 背からギターを取り、再び、あの曲を奏でてみる。空を舞う妖精たちが
合わせてなにやら歌い始める。それを聴くうちに、青年の中に一つのフレ
ーズが形を取り始めた。それは少しずつ広がり、一つの詩を紡いでゆく。     

(今なら、歌詞が出来上がるかもしれない。)    

 
 青年は、声にだして、静かに歌いだした。ずっとずっと未完成だった春
の歌を。               

                          
   福寿草を摘み取った 帰り道に          
   幽かに響いている 遠い声が           
   緑の萌え出す季節 静かなもの達集めて      
   漂う陽射しの香りを 吸い込み微睡む       
 
                         
   Walking Tour            
   稚さな幻が話しかける 
             
   Walking Tour            
   稚さな風媒花 蕾 揺らせ            
  
                        
   夕闇 訪れ急ぎ足で               
   希い事 数えてる待つ人へと           
   約束交わした季節 優しい眼差し集めて      
   漂う可憐な香りを 吸い込む密かに        
  
                        
   Walking Tour            
   絵本の頁から落ちた涙              

   Walking Tour            
   僅かな過ちに頬を染めて             

                  (『Walking Tour』/ ZABADAK)

                             Fin.




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