A Winter Book






 とうとう、少年は丘の頂きに駆け登りました。

 一面、真白い雪で覆われた頂きの中心には、幾百の冬を越えて佇む、一本の旧い大樹。


 その大樹の枝に抱かれるようにして、小さな銀色の弦楽器を手にして。

 娘は、あの調べを奏でていました。


 ぽろん、ぽろん。

 周りの闇よりもずっと深い黒と輝きをたたえた、長い髪。
 白く、流れる夜風のように薄く纏った衣。

 何かを聴きとるように瞳を閉じたまま、その衣よりもなお真白い、細い指で弦を弾いている娘。


 ぽとん、ぽとん。

 娘のその弦の調べと輪唱するように、遠い、何処かから返ってくるもう一つの調べ。



 「その音……。」
 暫く何もできずに、ただ樹に座って音を奏でる娘を見ていた少年の、ようやく音を持った言葉。

 少年の声に、娘はちょっと驚いた様に瞳をひらいて、やがて少し微笑んで答えました。


 「想いを、大地へと還しているのです。」










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