ピピピピ、ピピピピ…。
 カチッと、目覚ましのスイッチを止めた。

 ふわぁ〜あ、もう朝か…。
 大きくあくびしながら、布団の中で手足を伸ばす。
 4月19日、土曜日。
 今日も一日が始まる。


 行ってきまーす。


 桜の木にも緑の葉っぱが目立ってきた。
 散り落ちた花びらが校門前の道にピンク色のじゅう
たんを敷き詰めている。
「…なんだか散り始めると、寂しくなっちゃうな」
 あかりが、ぽそっと、そんなことを言ったとき。

「おはようございま〜す」

「おはようございま〜す」

「おはようございま〜す」

 校門の向こうから、なんだか妙に明るい女のコの声
が聞こえてきた。
「?」
 オレとあかりは、なんだろう、と顔を見合わせて、
校門に近づいた。


「おはようございま〜す」
 校門をくぐった途端、明るい笑顔で挨拶してくれた
のはマルチだった。
 手にはほうきを持っていて、玄関前を掃除しながら、
そこを通る生徒ひとりひとりに挨拶している。
「おはようございま〜す」
 ほとんどの生徒が見向きもせず通り過ぎて行く中、
オレは立ち止まって、笑顔で声を掛けた。
「よっ、マルチ」

「あっ、浩之さん。どうも、おはようございます」
「なんだ、こんな朝っぱらから掃除してんのか?」
「はいっ」
 マルチはにっこり微笑んだ。
「今日でもうお別れですから、ここでお掃除しながら、
みなさんに挨拶しようかと思って…」
「そうか、今日でお別れか。…寂しくなるな」
「いろいろ楽しかったですー」


「あのロボット、すごくいい子だったよね」
「ああ」
「最近のロボットって、なんだかどんどん人間っぽく
なるよね。もしもあの大きな耳がなかったら、絶対に
人間と区別できないな」
「区別する必要なんか…あんのかな?」
「え?」
「いや、なんでもない」
 そうか、マルチ、今日でお別れか…。


 マルチによく会った

マルチの卒業式

 あまり会わなかった

マルチを見送る