「マルチ、来い来い」
「?」
 マルチは素直に近付いてきた。
「バスが来るまで、まだ少しあるだろ?」
「はい」
「よしっ、もう一度、撫でてやるよ」
「えっ?」
「ホレ」
 なでなでなでなで…。
 オレはマルチの頭を撫でる。

「…ひ、浩之さん」
 なでなでなでなで…。
「…………」
 …少しでもバスが遅れりゃいいのに。
 そう思った。
 …そうすりゃ、少しでも長く、こうしてマルチの頭
を撫でてやれるのに。
 なでなでなでなで…。
「…………」


 

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