バックナンバー・こんな事語ってました

お酒について語らせて
確かに言ってたこんな事


UPDATE.1998.7/14


第12回 日本酒について

ちょっとそこのお嬢さん

日本酒。非常に多義に分類されていることはみなさんご存じでしょう。  吟醸・大吟醸・純米・生・冷酒・古酒・醸造・本醸造・生一本・・・これでもほんの一部ですね。 例えばワインについてそこら辺の人に聞いても、ボルドー・ブルゴーニュ・ソーテルヌ・サンテミリオン・ ライン・マデラ・・・なんて出てこないでしょう?好きな人を除いては。たいした事ではないんですけど、 それはやっぱり日本人だからでしょう。こじつけかなぁ(笑)

日本人で、カテゴリーは絞らない酒のコラムを語る このページで、主原料を米とする日本酒の存在は無視できません(もちろん無視するつもりも無かった わけですが おなじみ)。当然無視するつもりもなく 未だ日本酒をよく知らない人にも飲ませて みたい!そんなわけで今回は日本酒です。別にNumberは洋酒専門という わけでもないんですよ。ということで、またまた一風変わった、けれども 至極当然(私にとっては)なライオット!今回も世論に問いたい、美味しくお酒を飲む為に。


ブームから習慣に定着 貴女もいかが?


 今の世の中の「人々と日本酒のつき合い」を考えてみてください。 冠婚葬祭、寄り合いの時に用いる酒。その他の御神酒として献上される酒。 日本人とはいえ、日本酒を飲まれない方もいらっしゃるでしょう。しかしこういった習慣から、日本酒 との縁というのはどこかであるものです。

例えばそこのお嬢さん。お嬢さんはもう22歳。今年の春に大学を卒業して、就職も厳しいこの時代、 それでも入社して仕事にも慣れてきました。会社の帰りに上司や先輩からお酒の誘いを受けることも しばしば。そこで覚えたお酒の味。学生の頃に友人と飲んだあのお酒と、例えば種類や銘柄は同じでも 全く違う味であったりしませんか?そう、社会に出て知った、仕事が終わった あとの一杯。そしてこの一杯が楽しみとして より多種多様に広がってきましたよね。この間飲んだ 大吟醸というお酒。課長がよく飲んでるお銚子のお酒から受けた雰囲気、それさえ覆してしまう飲み易さ。 冷やして飲んだらとても心地よかった、端麗なんたらいう冷酒。昔はお酒といえば日本酒、日本酒といえば お父さんが飲んでるお酒 ではありませんでしたか?「酔っぱらった時のお父さんはちょっとだらしなくて あんまり好きじゃなかったなぁ」なんて思い出しませんか?

まあ、現実に仕事の帰りにお酒を飲む女性でも、日本酒は飲んだりしない、よく解らないという人もいるで しょう。それでも日本酒との接点ってあるものじゃないでしょうか?このコラムを読み終える時に、 「今度ちょっと飲んでみようかな」そう思ってくれたら嬉しいのですが・・・ 貴女もおひとつ、いかが?


酒蔵の競演


ところでご存じのように、日本酒には色々な種類があります。醸造酒としてはアルコールの強い日本酒は、 それ自体が誇るべき持ち味なのですが、アルコールにあまり強くない方、特に女性には縁遠いもので した。それが吟醸酒の登場で アルコール感よりもほのかな甘みや香りを楽しむことができ、吟醸 ブームという言葉まで使われた程です。女性が嗜むようになって日本酒に対するイメージが変わって きました。「オヤジの酒」的なイメージから 「米から作るワイン」へと。今や日本酒は男女の 区別無いこの国の酒になったのです。ブームはそのすばらしさを知るきっかけ として大いに貢献しました。美味いものは美味い。ブームは今や習慣となっていますね。
当然酒作りだって商いです。イイモノは作りたい、しかし単に贅沢な酒は お金がかかるものです。でもこのブームをきっかけに多少高くても惜しまずに飲む人たちがふえました。 アルコール換算にするとかなり高価な日本酒ですが、それでも買う人がいる。買い手がいれば作り手も 増えるわけで、全国のごく小規模な酒蔵さんたちがその国、その蔵独自の酒を作っていきました。 いわゆる地酒というものです(地ビールもかくあって欲しいですネ)。バブルがあって、グルメブームが あって、たった10年という短期間で、日本酒業界は信じられない文化を作り上げたとおもいます。 他のお酒がコマーシャルや商業戦略による一時的な売り上げ高騰、そして衰退を繰り返すなかで、 もう習慣と化しているんですから。絶対に蔵人や業界の方達に感謝しなければと思います。


さて本題。私がいいたいこと!


ここまでは日本酒と私たちの現状を語っただけに過ぎません。そして普通は 長々と 「吟醸酒は精米歩合が・・・」などと書いていくのでしょうが、そんなことは各々本を読むなり 検索するなりしてください。私のコラムではよくあることです。ただしご質問はお受けいたします。 知ってる限りがんばります。解らないことは一緒に考えましょう (^^;
そして本題「日本酒フリークにもの申す」であります(えらそうですけど)。 昨年(97)あるニュースグループで、某有名銘柄の日本酒を名指しして、「味が落ちた」とか、 「それは人気があるから桶買いしていて品質が低下したんだ」だとか、そういう投稿が目に余ることが ありました。ご存じの方もいらっしゃるでしょう。私は閉口していました。中には「このグループは ○○という酒をこき下ろす所なんですね」とうんざりした気持ちで投稿する人もいました。 これはほんの一例なんですが、事の真意は別にしても、酒作りの人たちの事をまるで知ろうとも せずに無責任な発言が多々あったことに悲しくなりました。杜氏さんや蔵主さんたちの世界を、 私程度の知識で拙いですが 記していきます。それでも凄い世界なんですよ。


日本酒 この世に生を受けた命


日本酒というのは麹の違いで味・香り・酒質そのものが大きく変わるんです。でもこれ は酒蔵の企業秘密で、我々が知ることは難しい。だから酒米だけで酒は語れないん ですが、とにかくおいしい日本酒の話しというと、米ばかりに集中しがち。勿論大切で楽しいことですから 少し触れましょう。麹の話しと密接ですから。

酒造好適米というのは軟質で、でんぷん質の結合がゆるいこと。だから吸水が大きくて弾力に富んだ 蒸し米となる。そうすると麹菌の繁殖がよくて、麹菌がだした酵素の作用をうけやすくて糖化が進み やすくなる。つまり結果としてアルコールが多くとれるんです。
それとは別に、精米することで得られるメリットを書いておきましょう。玄米の表 層・胚芽には蛋白・脂肪・無機質などが多いんですが、これを取り除くためです。こ れらは酒の香味や色をわるくするし、とくに無機質が多いと麹の醗酵が過度になり すぎて豊かな風味(私は勝手におちついた・いいかおりと解釈してますが・・・) がそだたないそうです。普通90%くらいの精米歩合で脂肪と灰は除去できて、70%くらいまでで 蛋白質が除去されます。吟醸酒は蛋白を取り除くことで酸味などの芳しくない成分の生成を 押さえるんです。そのかわり穀物の持っている力強さは 失われると、個人的にはおもってます。
ちょっとくどい話ですが、麹菌はふたつの 酵素をつくります。ひとつはアミラーゼ。でんぷんを分解して、糖分に変える(こ こからアルコールができる)。
もうひとつがプロテアーゼ。蛋白質を分解してアミノ酸をつくる。これがよくないから 精米歩合を高くするんです。でも麹の働きをコントロールすることでおさえることもできるわけです。 そこで麹の選択をするわけですね。いい種麹とは、麹菌以外の雑菌がほとんどないこと。 異臭がないこと。 繁殖がつよくていい香りをだすこと。 つまり、アミラーゼの生成が多くて、プロテアーゼの生成が少ないこと。これら全 部の性質を兼ね備えた麹なんてありませんから、普通三種類くらいまぜてもちいる そうです。


ミクロの世界でしょ?


そこには僅かな時間も気を抜けない、状況の変化にも対応しなければいけないという過酷な 緊張と責任があることは 素人の私でも容易に想像ができます。 そんな世界の上でつくられてくる日本酒をつかまえて、やれ○○はまずいだの、お いしくなくなったなどといえるものではありません。それだけの舌と技量・知識を もちあわせてる人もなかなかいないだろうし、だいたい相手は酒ですから、酔わな いつきあいなんて失礼にさえ思いますもん(^^)。まあこれは半分冗談としても・・・ 温かい目で見ていきましょうよ。業界の人はもちろんですが、それ以上に「この世に生を受けた  目の前の一本の瓶」に ね。


こんな事がありました。


こういった話しは以前KIMさんともしていました。そんなある日、 コレはちょっとした事件(犯罪)だったので知ってる人もいるとおもいますが、 その有名な酒 ○○ の偽物が都内を中心に大量に販売されていたとTVのニュースでやってました。
飲んで 本当におかしいと判断した人もいたでしょう。しかし言うに事欠いて、やれ 桶買いだからとか モトが違うからとか言った人たちを、KIMさんと二人 笑わずにはいられませんでした。 ちなみに、もし味が違うということがあるとしたら何故?という疑問に対して私は、「個人の保管・ 保存状態が悪いと・・・」という事しか言えませんね。つまり、そのお酒が仮に悪かったとしても、 それが生産、提供する側に責任があるとは限らないということです。買ってきてから日向に置いていたり、 封を開けてから時間が経てば当然風味もかわりますから。
平たく言えば「どんな世界にも温かい目を持って 接しよう」という事を言いたいのです。テーマがたまたま日本酒なんですが、我々素人が知ったような 事を言っては酒を飲む現実に辟易とする事があります。酒を飲む。吟味する。仲間と語り合う。至極当然 の行為で、当然 良い・悪いといった感想や評論がでてくるでしょう。ただそこで、はなから疑ってかかる ようでは悲しすぎる。期待を込めてお酒と対峙することが大切。つまり、「お前は拙い酒を求めて、はなか ら否定する為に飲んでるんじゃねえだろ?」ということです。酒を飲むという行為自体かっこいい 訳じゃなし、だからカッコつけることもないじゃないですか?人間楽しいことが好きなら、楽しいことを 求めれば良い。酒だって、「より多くのうまい酒に巡り会うために」飲んでるんでしょ?違うかなぁ。


私だって 間違ってました

かく言う私も、大して色々飲んでる訳でもないのに 「求めてる酒がないなあ」 とかほざいている時期がありました。私の好みのお酒は カテゴリーなら純米酒吟醸。ただし、精米歩合 にこだわるよりは原材料にこだわりたいという口です。だから純米酒というだけで十分かな。味わいで 言えば、甘い芳香が高くて・芳醇な味わい、それでいて飲みごたえのある酒です。こうなると醸造用の 酒精を添加しているものが多くなりますね。本醸造とか。確かにこれはすばらしい方法なのかもしれません が、こだわりは純米。お米と水と麹から作られたお酒なんです。そうするとなかなか飲みごたえのある 純米酒というのは見つけられませんね。純米に限らず、香り高くて芳醇で、スッと切れるものなかなか 見つけられませんでした。それでほざいていた時期があったのですが・・・。
「あれから」時間が過ぎて、今の私があるわけです。偉そうに語っているわたしが(苦笑)。何が私に あったのでしょうか?「あれから」って何?それでは「あれから」について語りましょう。

あれからの少し前

ことのはじめは日常生活にあります。前述の「間違った解釈でこの世に生を受けた 酒」っていうのは結構身の回り、市場に出回っていたりするもんです。
ある時お酒のいただきものをしました。うれしいです。私のことをよく理解していらっしゃる(^^) 岡山県の大吟醸酒でした。しかしこれが「間違った・・・」だったんです。

改めて書くので今までに書いたこともでてくると思いますが、米の精米を強くすれば蛋白質からくる 酸味がやわらぎ、とてもあまく豊 かなかおりと味を持ちます。濃厚な酒もうまれますね。(いいぞいいぞ・・・)しか しその一方でスッと一本通ったなにかがほしい。そう、辛口ってやつに共通のあれ ですよね。今回飲みごたえと表現しているものも、同等にとらえてもらってかまいません。 でも難しいものなのか そういう純米吟醸はなかなかありません。お好み の味は大抵醸造用アルコールを添加することで叶えられるんです。そうした良い酒 はたくさんありますよね。そこで岡山の酒ですが・・・


飲んでみました

まずグラスを口元に運ぶと甘いかおり。ついで濃厚なうまみとかおりが、 最初の挨拶のようにこちらにむけられたのです。ところが。こちらが受け入れて玄関を開けて、 かの酒の後ろ姿を見た瞬間!(つまりゴクンとやったとき)
あの笑顔・挨拶はなんだったのだろう・・・彼の後ろ姿はとてもシニカルでクール な衣をまとっているようでした。つまり後味で端麗さをだそうとしたんでしょうね 。スーパードライのこくがあるのにきれがあるってやつですね。ところがそのつな がりが・・・スタートとフィニッシュの間がなんとも・・・
例えると、とても見晴ら しのいい高台にたってると、後ろから足蹴にされて下まで急降下といった感じなん です。 吟醸酒で「濃厚とスッ」を兼ね備える。それは無理なんじゃないか?せっ かく吟を冠してるんだから濃厚にふればいいじゃないか。純米ならなおさらだ。そ んな風に思った一件でした。

そしてあれから

ある年の6月、茨城県の酒蔵にいってきたんです。観光のついでに。袋田の滝で有名 な大子町の珂北酒造で作ってるレインボーっていう酒は意味のある一品でした。当時で も吟醸酒が定着していろいろ作られていました。嬉しいことです。反面ブームにあ やかろうと原材料・精米歩合をあげて作った(言葉はわるいですが)「それだけ」 の酒があるのも事実。 じつは袋田にいく数ヶ月まえに前述の、岡山の大吟醸 をいただいたんです。そして2ヶ月。酒蔵で試飲させてもらったうちの一献にそれはありました。

飲んでみました

グラスを口元に運ぶと、スタートは高台。私の好きな高い・高い、香り・薫り・芳。 そして(あの時はここから突き落とされたんだ)そこから 一気に 落ちて・・・・ゆくのかー?
たしかに気がついたときに は地上に立っていました。でもそれは後ろから蹴りを入れられたわけではなく急だ けど滑らかな滑り台に乗った感じだったのです。「濃厚とスッ」ってあるんだなっ て思ったものです。私の「あれから」です。

酒修行の場

結論はいそいではいけない。答えはひとつじゃないんですね。 お酒って。 
現在どこに行ってもいい地酒がありますよね。みんな丹精こめてつく ってらっしゃる。すばらしいっ! でも水を差すような話ですがいい酒米があって 、いい水があって、いい杜氏さんがいれば、言い換えればお金をかければいい酒は できるのがこの国です。純米大吟醸¥4000(720ml)といえばだいたい信 用しちゃいます。そう、私は日本人。何かにつけて高い値段に安心と満足を得てしまう(涙)
茨城も有名な酒は多いですが、有名な酒米はありません。私の住んでる 千葉県もおなじです。ただし、富津市で一本〆があったり、独自に生産しているものがあります。 また、他國の米を持ち込んで栽培し、それに名前を付け替えたりする事もできるのです。交配させれば 尚のこと。ここでは 自他共に認められるという意味で少ないといっておりますのでご了承ください。
話は逸れましたが、古くは灘の酒に適わないというほど西の酒が旨かったのは、 宮水があったから。でも今は全国で旨い酒がのめる。酒修行の場はいたるところに あるというお話です。そんなこんなで 「温かい目で見よう」「でも間違って生まれた酒はある」という 相反する考えが共存しているわけです。だって酒飲みですから、節操ないですもん(^^)  


おひとつ い・か・が

ということで お嬢さん。貴女は日本酒を「中年おやじの酒」くらいに 思ってたかもしれませんが、さっきの話から 「お父さんの飲んでたお酒」だったって事を思い出しました ?そんで どうしてそれを心地よい事だと自分が思わなかったかも 思い出せましたか?

そうそう、 お父さんってば酔っぱらうとすぐ「お酌しろ」って絡んできて、お酒臭い息を吹きかけてくるから でしょう?まだ小学生の頃だったかなぁ。
でもね、父親はやっぱり娘が大好きなんですよ。すっかり 大人になった貴女に、今更お父さんも面と向かって言えないし、そんな自分の気持ちさえ忘れてるんだけど、 娘にお酌してもらうのは嬉しいんですよ。今だったらあの頃からお父さんが日本酒を飲んでたのが 解る気がするでしょう?だって一生懸命杜氏さん達が作ったものなんですから。今夜は退社したら 早めに帰って、お風呂に入って浴衣に着替えて、お銚子もって注いであげたら?

「おとうさん おひとつい・か・が?」

あとがきにかえて

この作品は「ABU12年の夜」さんのアドバイスが無かったら書けなかったでしょう。 私は書き終えて大変満足しております。感謝(^^)

お酒について語らせてに戻る