フランドン・プロジェクト。
新生児の男女比が1:9(両性具有者の比率3を含む)という状態が
およそ半世紀に渡り続く中で、ヒトという生物種の存続の危機を回避する
手段として提案された人口制御計画の総称である。
その第一目的は受精の機会を最大限活用し、出産率を向上させる事で
男女比を正常な状態に戻す事である。
しかし出産率の増加は同時に人口の増加、ひいては食料危機を引き起こす。
そこでフランドン・プロジェクトには、出生比率の多い女児を食料生産手段と
して流用する、という案があらかじめ盛り込まれていた。
但し現在はまだ実験段階に留まっており、本格的な食料供給源として
ヒトを使用するのは遠い将来の事となるだろう。
私の転勤先は一般には「農学校」として知られる僻地の寄宿校だった。
但しこの学校、フランドン・プロジェクトが第2段階に移行してから
設立された事からも分かるように、実際には各地に設けられている「牧場」
の一つである。
「牧場」の真の設立理由。それは家畜の代用となるヒトの雌を生産する
ための基礎研究施設、及びパイロットプラントであった。
ここに技術補佐兼研究生として(表向きは教育実習生として)配属された
私には検体が早速与えられた。
シャーリー・スクウィーラー(14・雌)
身長:152cm
体重:39kg
出産回数:0(性交経験無し)
所見:健康状態は良好。
先天性の疾患も無いが、
鑑定の結果受精成功率は
基準値の35%と低く、
生産用としては失格。
等級:C−
(予想最低落札価格:500CU)
所見や等級はまだしも身長・体重比が気になる。
資料に添付されたスナップを見る限りでははっきりしないが、どうも
随分と痩せっぽちな奴を押し付けられたようだ。
私が調教師と知って試されているのか、それとも単に実験結果が
見えやすいようにわざと痩せたのを検体に使うつもりか。
どちらにしろ時間はたっぷりとある。
私は書類をバインダーに放り込み、検体としての準備が整ったシャーリーに
会うため、教育棟地下の養育場に向かった。