「ああ、ちょうど良かったよ。今出来上がった所だ。」
薄闇の奥から所長の声がすると、弱い蛍光燈の光に
シャーリーの裸体が浮かび上がる。
なるほど。「検体にする」というのはこういう事か。
「うちでは肥育実験をする検体は髪を切る事にしている。」
所長の説明で気付いたが、スナップで見た長い髪はばっさりと
切られている。少し虎刈りのような気もするが、まあ検体に
贅沢を言う権利はないからどうでもいい。
「何か理由でもあるんですか?」
私が尋ねると、
「いや別に。ただ清潔ではあるな。」
所長は平然と返した。何て事はない、単に検体を従順にさせるために
無理矢理切っただけか。よくある手だ。
耳にはトランスポンダ付きのタグがはめてある。家畜用に使われる
のと同じタイプで、個体情報をスキャナーで読み出せる奴だ。
目を引いたのは鉄製の鼻輪だった。小さい物だが、これだけで
妙にこいつが「ヒトの雌」という家畜である事を感じさせる。
「強制的に身体を改変する事によって発生する卑小感を利用し、
その感覚を覚え込ませる事が奴隷としての従順性を高める」・・・
調教概論で習ったような気がする。
「さあシャーリー、お前で実験する研究生に挨拶しろ。」
所長が促すと、シャーリーはのろのろと四つん這いになり、
目を伏せたまま消え入りそうな声で
「・・・この度検体として選ばれましたシャーリーです・・・」
とだけ呟き、あとは鳴咽をこらえるだけである。
普通奴隷がこんな態度を取れば即懲罰物だが、家畜には行儀なぞ
要らない、というような体の所長は
「どの検体でも最初はこんな感じだ。気にするな。」
とこれまた平然と言うだけであった。