この「牧場」が位置しているのはかなり緯度が高い地域であり、
ここに来た頃には花が咲いていた草原もすっかり雪景色になっていた。
「さ・・・む、いぃ・・・」
シャーリーが歯をがちがち鳴らしながら呟く。
「それだけ脂肪があれば寒くないだろうが。」
と返してみたが、なるほど南から来た私には少しばかり堪える。
こうなったら早い所始めて日が傾く前に終わらせるとしよう。
キースイッチを入れ、アクセルを軽く握るとモーター音と共に
スノーモービルが動き始める。
がすぐに引っ張られるような抵抗がかかり、
「あぅ、ちょ、ちょっと、待ってぇ・・・」
情けないシャーリーの声が後ろから響き、不器用に雪を踏んで走る
足音がそれに続く。
筋肉を付けるには運動するしかない。しかし肥育を続けている間は
ほとんど運動らしい運動をしていなかったシャーリーの場合、まず
基礎体力を付けさせる事が第一の課題となる。
もちろん精神安定剤でやる気など起こるはずがないから、こうして
腕を縄で引き無理矢理にでも雪中マラソンをさせる、となる訳だ。
しかし引っ張られても文句を言わずに走っているんだから大した家畜ぶりだ。
薬の効果、と言えばそれまでだが。
「はへぇ、ひぃ、はぁへぇ、ひぃ・・・」
走り始めて1分も過ぎないうちにシャーリーはすぐに息切れし始めた。
速すぎたか、と思い速度計を見る。時速15キロ。軽いジョギング並みだ。
「ま、待って・・・はひぃ、く、ら、さいぃ・・・」
よたよたと走るシャーリーが声を上げる。
「ひぃ、へぇ、もっと・・・遅く、してへぇ・・」
「何言ってる、これ以上遅くできるか。」
今だってアクセルの加減が難しい。
「ほら頑張れ、まだ3分も走ってないぞ。」
なるべく平らな所を選んで走る事10分。
「はあひいはあひいはあひいはあひい・・・」
シャーリーは完全に参っていた。
まあいい有酸素運動も出来たようだし、今日はここまでにしよう。
スノーモービルを止めると、シャーリーはその場に崩れ落ちる。
「よーしよし、良く頑張ったじゃないか。上出来だぞ。」
「はあひいはあひいはあひいはあひい・・・」
まあしばらくは返事も出来ないだろうからこのまま放っておくとするか。