エドモンの光と影

 エドモン・パンダボアヌ、言わずとしれたペリーヌの父親です。インドへ苧を買い付けにやられ、そこでマリと結婚し、父親から絶縁され、マリとの間にペリーヌが生まれ、暫くは幸せに暮していたものの、事業に失敗し、フランスの父のもとへ帰る途中、ボスニアで病に倒れ、若くして命を落としました。

 エドモンという人物ははっきりとした人物像がよく判らないキャラです。アニメはエドモンが死んだところから始まっていて、ペリーヌやビルフラン、フランソワーズなどの回想の中にしか出て来ないキャラでした。
 ペリーヌやマリの回想の中のエドモンは優しい父親であり夫であったという姿だけが映し出されており、またビルフランは立派な息子、フランソワーズもお優しい方でした、と語っています。唯、この人たちはエドモンの身内であったり、極めて近しい関係の人々でしたので、恐らくは多分に身びいきが入っているためにこういうよい評判ばかりが聞こえてくる結果になっているのではないかとも思われます。
 では実際にはどういう人物だったのか? いろいろなエドモンに関するエピソードをかき集めて、私なりに考えてみました。

 まず、原作の方で、
『エドモンはひどい贅沢と甚だしい散財をしたため、うわべは父の工場の苧を買いに、しかし実際は懲らしめとしてインドへやられた』
という記述が見えます。ここで書かれている“ひどい贅沢と甚だしい散財”というものがどのようなものであったかははっきりと判りませんが、この記述を見るとエドモンという人物が、実際にビルフランが夢想していた程立派な男だったのかどうか、疑問を抱かざるを得ないような記述のようにも思えます。
 勿論、懲らしめの為とは言ってもより一層立派な男になって欲しいというビルフランの愛の鞭的なところもあったかも知れませんし、工場を我が物にしたいと思っている人物の策謀だったのではないか? とも匂わされていて、実際はそれ程ひどい放蕩ではなかったのかも知れません。
 ビルフランは一代でマロクールの大工場を築き上げた人で、非常に厳格で、自分に厳しくまた他人にも厳しい人でした。そういうビルフランでしたから、彼の目には“ひどい贅沢と甚だしい散財”と映っていたことでも、世間一般の基準からするとさほどのことでもなかった、或はエドモン自身にはそれなりの考えがあっての行動であり、その辺の行き違いで父親に対して反発するような気持ちが生まれてしまったということも十分考えられます。
 ビルフラン自身にしてもエドモンなら後継者として立派にやってくれると考えて、帰りを心待ちにしていたところを見ると、エドモンに対する罰は厳しすぎたと心の底では考えていたのかも知れません。
 唯、“懲らしめの為にインドにやられた”となると、もしかするとさほどのことではなかったにしても、常識的に見てあまり好ましくない行動をやってしまった、という事実はあったのではないかと思えます。

 エドモンに後継者としての夢を託していたビルフランでしたが、しかしエドモンの事業に関する手腕については未知数なところがあるように思います。
 前述の“ひどい贅沢と甚だしい散財”という点も気になりますし、そもそもエドモンが家族を連れてマロクールへ向かうきっかけとなったのも、インドでの事業の失敗が原因です。
 またインドで事業に失敗したからと言って、大喧嘩をして勘当状態に近い父親を頼って帰ってくるというのも、少々情けないような気もします。
 テオドールなどと比べるとマシだったとしてもビルフランが考えている程、信頼に値する手腕を持っていたのかどうか? となると疑問符がつくような気がします。

 恐らく長い間会わない内にビルフランの心の中では自分の息子エドモンのイメージが美化されていき、より立派な人間であるというようにイメージが育ち、エドモンさえ帰ってくればうまく行くのだと、思いが膨らんで行ったのではないか? とも私には思えるのですが、どうなのでしょう……。
 しかもビルフランの身近で後継者候補と目されていたのが、タルエルやテオドールのような人物でしたし、それもあって、余計にエドモンに期待する気持ちが強まっていったのでしょう。
 そして逆にエドモンを思う気持ちが強ければ強いほど、その息子を自分から奪っていったインドの女に対する憎しみの念も更に深く根強いものになり、エドモンの欠点もいっしょくたにして“全てあの女が悪いのだ”と、思考がエスカレートしていったのかも知れません。

 もう一つエドモンを語る上で欠かすことが出来ないのがマリとの結婚です。エドモンは父親との絶縁も覚悟の上で、マリとの愛を貫き、インドで結婚しました。この点だけとってみれば、エドモンは相手がインド人だから、とかの偏見には囚われない、立派な青年だったとも受け取れます。
 唯、マリは原作によると27〜28歳くらいと書かれていまして、これがとっても問題なんですよね……。
 一方、娘のペリーヌは13歳。ということはマリは物語の時点で28歳だったとしても、逆算すると15歳の時にペリーヌを生んだことになります。一方のエドモンはビルフラン邸に20歳の時に描かせた絵が飾ってあったことを考えるとインドに行った時には少なくとも20歳は越えていたと思われます。。
 人間の妊娠期間は10月10日くらいだとよく言われますが、それを考えるとエドモンはたった14歳の女の子に手を出した、ということになってしまいます。もし現在の日本で14歳の女の子に手を出したりしたら、はっきり言って犯罪です。(^_^;)
 ビルフランのような頑固親父でなくても、また相手がインド人云々に拘わらず、息子がこんな幼い娘と結婚するなんて言い出したら、反対されても当然ではないでしょうか?
 勿論、当時のインドではそのくらいの年齢で結婚しても当然だったのかも知れません。以前読んだ『女盗賊プーラン』という本の中では、著者のプーラン・デヴィと言う人は11歳で嫁に行かされたという記述があり、現代でもインドではそういう結婚が行われているそうです。(法律では勿論、禁止されているんですが、慣行としてそういうことも行われている、ということだそうです。)
 時代やその土地の風習、社会風俗などを無視して現代の価値観だけで、14歳の少女と結婚したということを非難するのは間違いかも知れません。愛があれば年なんて関係ない、という考え方もあるかも知れません。14歳の少女に魅力を感じることがあってもおかしくはありませんし、恋愛は自由でしょう。
 しかし恋愛だけならともかく、そんなまだ少女と言ってもいい年頃の娘と結婚して子供まで作ってしまった、という点に関しては私としてはやはり行きすぎだったのではないかという気がしてしまいます。

 まあ、そんな訳でいろいろ考えてみるとエドモンという人物、必ずしもビルフランやフランソワーズ、それにペリーヌが言っていたような立派な人物であったと、額面通りには受け取れないかも知れない、みたいに私には思えてしまうのでした。
 唯、マリとともにペリーヌをあれだけ素敵な少女に育て上げた父親であったことは確かですし、ペリーヌもよいお父さんとして慕っていたようで、マリもエドモンを頼りにしていたことなど考えあわせると家庭人としては申し分のない人だったということも言えるかも知れません。
 マリにとっては自分を憎んでいると判っているエドモンの父のところへ行く、ということは大変抵抗を感じることではなかったかと思います。しかしエドモンの提案に従ってフランスへと旅立ちました。それだけ夫を信頼し頼りにしていたということが想像出来ます。
 アニメの中ではまるで完全無欠な人物であるかのような印象を与えかねないような描写がされていたエドモンでしたが、実際のところは恐らくいろいろと欠点もあったのだと思います。
 唯、マリやペリーヌにとっては優しく頼りになる、愛すべき夫であり父親であったというのもまた確かなことなんでしょうね。


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